以下の文章は、TorrentFreakの「Adobe Thinks it Can Solve Netflix’s Password ‘Piracy’ Problem」という記事を翻訳したものである。
Netflixをはじめとするストリーミングサービスが利益の最大化を迫られていることを考えれば、「パスワード・パイラシー」の問題は今後数か月、数年にわたって繰り返し報道されることになるのだろう。そこに商機を見出したAdobeが新たなソリューションを提案している。このツールには飴と鞭があり、その戦略は顧客行動の徹底的な監視に支えられている。
オンラインファイル共有がメインストリームだったころ、エンターテイメント企業の経営陣は悔しさのあまり髪をかきむしっていた。
彼らは自社プロダクトを熟知し、手堅いビジネスを展開し、それぞれの市場の複雑さを可能な限り理解していた。彼らは「無料」に勝負を挑むのは不可能だとわかっていたのである。
だが今日、音楽コンテンツや映画などのコンテンツそのものだけでなく、コンテンツの表示方法、配信方法、消費の仕方、最終的な顧客の評価によって付加価値を生み出せることはご承知のとおりである。コンテンツそのものだけでは「無料」と競争するのは難しいが、消費体験ごと売りに出せば、競争は必ずしも不可能ではなくなったのである。
Netflix ―― 意識の変化
Netflixが「単なる」配信プラットフォームだった頃、同社は海賊版問題に実利的なアプローチをとっていた。だが、「誰もがプランを持っている、口元をぶん殴られるまではね」というマイク・タイソンの格言どおり、ぶん殴られるとプラン変更を余儀なくされるものである。Netflixが巨額の資金を投じて独自コンテンツを製作し始めると、その「独占コンテンツ」はハリウッド映画と同じ運命をたどり、海賊版チャートの上位を賑わせるようになった。人々は海賊版のプラットフォームを欲することはなかったが、海賊版のコンテンツはこよなく愛しているのである。
NetflixはMPA、さらは海賊版対策連合体のACEへの参加を決め、多かれ少なかれ、大手スタジオと同様に海賊版に反対する立場を鮮明にした。だが、Netflixが抱えていたのは海賊版の問題だけではない。Netflixには長らく正規ユーザとタダ乗りユーザが混在していて、このことが同社の成長にも影を落とし始めていた。
Netflixはかつて、「パスワード共有」を戦略的に黙認してきた。そうすることで友人や家族に正規ストリーミング体験の魅力を伝えることができたし、正規ユーザとの良好な関係を継続することにも役立った。
だが、その「パスワード共有」という言葉は完全に死に絶え、今では「パスワード・パイラシー」と呼ばれるようになった。
Netflixがこの言葉を公に使っているわけではないが、この現象を自社プラットフォームからなくしたいと考えていることは間違いない。顧客との関係を損なうことなく、それを実現するためにはどうすればよいのか。これぞ10億ドルを賭けた問題である。そんな中、Adobeがそのソリューションを売り出し始めた。
大きな問題に必要な包括的ソリューション
Adobeは「パスワード・パイラシー」ではなく、「クレデンシャル共有」という言葉で言い表しているものの、その意味するところは同じものである(訳注:ここでのクレデンシャルは、IDやパスワード等のユーザ認証に用いられる情報を指す)。Adobeは2020年の調査を引用して、米国では最大で4600万人が自分以外のクレデンシャルを使ってストリーミングサービスにアクセスし、その対価を支払ってはいない可能性があるという。
Adobeによると、クレデンシャル共有によって最も被害を受けているのはNetflixで、被害額は年間90億ドル(ライバルのディズニー+の3倍)に上るという。同社は、ビデオストリーミングが、いまや無料を期待される音楽ストリーミングと同じ運命を辿らないようにするためには、早急に対策を講じなければならないと訴える。だが、それは慎重に実行されねばならない。
正規ユーザを苛つかせるだけ従来のやり方
パスワード共有対策として、毎回のようにログイン情報を入力させる、デバイス制限を厳しくする(停止/再アクティブ化を含む)、同時接続台数制限などを厳格に実施する、多要素認証を導入するなどが用いられてきた。こうした対策はパスワード共有をしにくくはするが、同時に正規ユーザを苛つかせることにもなる。
アカウントへのアクションは、パスワード共有を「測定、管理、収益化」するデータ駆動型戦略にもとづいて、ユーザごとに実施すべきだというのがAdobeの考え方である。つまり、Netflixなどのプラットフォームは機械学習システムを導入して、アカウントの行動パターンを抽出し、アカウントごとに適切なアクションを実施したほうがいい、と。
いささか不穏な感じもするがそれはさておき、Adobeのアプローチは確かに洗練されている。同社のスライドを見ると、かつてファイル共有対策として提案されていた「段階的レスポンス」風でもある。
そこで問題になるのが、適切なアカウントに、適切なタイミングで、適切なアクションを起こすとして、Adobeはどれだけの顧客情報を必要とするのかということだ。
Account IQ – 洗練された機械学習
AdobeのAccount IQは、Adobe Senseiを基盤とするAdobe Experience Platformのインテリジェンスレイヤとして機能する。
理論的には、Adobeはあるストリーミングアカウントについて、そのユーザ以上に多くの情報を把握しているため、アカウント所有者を煩わせることなく、パスワード共有の抑制と収益化のための最も効率的なアクションを予測できる、ということらしい。
加入者のアカウントを詳細に監視することが前提になるのであれば、次のステップはありとあらゆる情報を収集することである。Adobeは使用中のデバイスの数、アカウント内のアクティブユーザの数、地理的位置(場所の特定や期間を含む)等のデータ収集を想定している。
これにより、旅行者、通勤者、親しい家族や友人、さらにはセカンドハウスの所在まで特定した利用パターンの分類とともに、「共有確率」が導き出されることになる。
お仕置きの時間だ
Netflixなどのプラットフォームが最も懸念しているのは、おそらく過剰なパスワード共有だろう。Adobeのプランでは、大規模なアカウント監視後に、ダッシュボード上に「過剰な共有」の警告が表示される。
それを端緒に、ストリーミングサービス側が最も責任のあるアカウントを特定し、行動を変容させるための「段階的レスポンス」の準備を開始する。つまり、まずは収益化できそうな人をマネタイズしてから、どうやっても支払おうとしない連中を特定して排除する。
あるいは、Adobeのように「フリーローダーを正規市場に引き戻す」と言ってもいいかもしれない。
最後に、Adobeはこのシステムを利用して、善良なユーザの特定も提案している。こうしたユーザには、都度認証、同時ストリームの制限、デバイス登録などの緩和という報酬を与えることができるという。優良ユーザには、50%の高額割引を提供しちゃったりしてもいいのかもしれない。
もちろん割引は冗談だが、それ以外の部分については書かれているとおりである。契約を遵守するユーザはアカウントを安心して利用でき、さらには特典までついてくる、一方で「パスワード・パイラシー」へと駆り立てるユーザにはお仕置きと必要な措置がとられる、ということなのだろう。
とはいえ、どうかリラックスして、楽しく映画を見ていてほしい。こうしたアグレッシブな監視は(ストリーミングプラットフォームが)もっと儲けるためのものであって、加入者は支払った額に見合ったサービスを受けるということに変わりはないのだから。
Adobe Thinks it Can Solve Netflix’s Password ‘Piracy’ Problem * TorrentFreak
Author: Andy Maxwell / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: September 13, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Helena Lopes