以下の文章は、TorrentFreakの「Anti-Piracy Efforts Are Unlikely to Beat Sci-Hub」という記事を翻訳したものである。
エルゼビアを始めとする学術出版社は、「海賊版サイト」のSci-Hubを、数十億ドル規模の業界にとって大きな脅威だとみなしている。しかし、この悪名高きサイトなくしては、多くの研究者が研究を続けられないという状況もある。著作権侵害対策によってSci-Hubに打ち勝つことは難しい。出版社はSci-Hubから教訓を得るべきなのだろう。
Sci-Hubはしばしば「科学版パイレート・ベイ」と呼ばれている。だが、そのような見方はSci-Hubを過小評価している。
Sci-Hubもパイレート・ベイも、著作権侵害を伴うコンテンツへのアクセスを促すという点では共通しているが、前者は科学の進歩を後押しする重要なツールともなっているのだ。
Sci-Hubを利用すれば、科学者たちは高額なペイウォールを回避し、仲間たちが書いた論文を読むことができる。こうした「海賊版」論文から得られた知識は、のちの研究を築く礎となっていく。
Sci-Hubの存在は法律では認められていないのかもしれないが、学術界では多数の人々に賞賛されている。特に、研究を切望しながらも、高額な雑誌を直接入手できない環境にある人たちからは。
この事実は、論文を書く「クリエイター」の多くが、Sci-Hubを公然と支持しているという興味深い状況につながっている。支持を表明することで、彼らは権利者である10億ドル企業のエルゼビアら主要出版社に直接的に対抗しているのだ。
エルゼビアはこれまで、Sci-Hubは悪の勢力だと裁判所に認識させようとしてきた。だが、多くの科学者がSci-Hubを有用なツールだと考えているのだ。このことは最近、「Journal of Health & Allied Sciences」に投稿されたパラサンナ・R・デシュパンド博士の「編集者への書簡」によっても再度例証された。
デシュパンド氏は、オプナ医科大学の臨床薬学部に勤務しているが、彼の最新の著作はすべてSci-Hubに捧げられている。彼は公開書簡(もちろんペイウォールなし)の中で、なぜSci-Hubのようなサイトが科学コミュニティに重要な存在であるのかを説明している。
デシュパンド氏は、Sci-Hubの優れている点は無料であることだと指摘する。これは特に、重要論文にアクセスする手段を持たない発展途上国の研究者にとって重要な点である。Sci-Hubは実際、こうした研究者たちにより良い研究を実施することを可能にしている。
「研究者は通常、学術論文にアクセスするためにいくらかの金額(平均的には1論文あたり30ドル以上)を出費しなくてはならない。しかし、研究者/学徒、特に発展途上国の研究者にとって、その額は決して『少ない』ものではない」とデシュパンド氏は指摘する。
コスト面以外にも、Sci-Hubの方が利便性が高いという声もある。多くの大学教授が同サイトを利用しており、最近の調査でもラテンアメリカ6カ国の全医学生の62.5%が同サイトで研究を行っていた。
デシュパンドによると、こうした議論は、少なくともより良いオルタナティブが見つかるまでは、Sci-Hubを支持しなくてはならないという結論を導くという。
「アップデートされていく知識を読むことは、生涯にわたる学びの重要な要素である。だが現在、Sci-Hubだけが唯一の答えである。したがって、Sci-Hubはさまざまな利点を有しており、それゆえ支持されるべきである」とデシュパンド氏は結論している。
もちろん、これは一研究者の意見に過ぎないが、ウェブには同様の意見がたくさん見つかる。ちょっとTwitterを検索しただけでも、研究者同士が互いにSci-Hubのリンクを共有し、なかには最新のSci-Hubミラーを表示する専用ウェブサイトを構築している研究者までいる。
もちろん、大手出版社はこの状況を良しとはしていない。Sci-Hubへの訴訟とは別に、Googleなどに対し、侵害論文にリンクするサイトを検索結果から排除するよう定期的に削除通知を送付している。
エルゼビアは先日、研究者・学者向けの引用・参考文献リスト管理ツール「Citationsy」への責任追及によってさらに踏み込んだ。同サービスは以前、無料の研究論文をダウンロードするための複数のオプションをまとめたブログ記事を公開していた。
そのブログ記事にはSci-Hubへのリンクも含まれていた。エルゼビアはこれを不服として、Citationsyに弁護士を送り、リンクの削除を求めたのだ。
Citationsyの創設者、ジェンク・オズバクルは当初、この問題への対応が不安であったという。ウェブサイトへのリンクは必ずしも著作権侵害に当たるわけではないが、数十億ドル規模の企業に戦いを挑むこと自体、勝ち目のない戦いだ。
最終的に、オズバクルはブログ記事からリンクを削除し、代わりにGoogle検索結果のリンクに差し替えた。しかし、彼はエルゼビアとその法律事務所のBird & Birdの要求に批判的であることに変わりはない。
オズバクルはTwitterに「もちろんCitationsy.comからSci-Hubへのリンクを削除しました。@ElsevierLabsはどうやら科学の発展よりも金儲けのほうが重要だとお考えのようだ。それから @twobirds おめでとう! 今や我々にできることは、紙を読む人を減らすことだけのようですね」と投稿した。
この「リンク」の問題は、のちにBoingBoingにも取り上げられた。その記事では、我々が以前にお伝えしたように、エルゼビア自身の刊行物のなかに多数のSci-Hubリンクが含まれていることが指摘されている。
すべての研究者がSci-Hubを支持しているわけではないにしても、こうした強硬なやり方は最善策ではないのだろう。
特にアカデミックコミュニティの研究者を標的にして、停止通告を駆使して圧力をかけたり、訴訟を起こしたり、削除通知を送ったりしても、長期的に見ればサステナブルではない。
エルゼビアを始めとする学術出版社は、Sci-Hubの圧倒的人気を、自らが提供しているものが間違っているというシグナルとして利用すべきだろう。エルゼビアは海賊行為を隠そうとするのではなく、それを教訓として現実を受け止めなくてはならない。
Anti-Piracy Efforts Are Unlikely to Beat Sci-Hub – TorrentFreak
Publication Date: August 18, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Benjamin Balázs / Hal Gatewood