以下の文章は、TorrentFreakの「WIPO Aims to Cut Revenue to Pirate Sites With Newly Launched Database」という記事を翻訳したものである。
世界知的所有権機関(WIPO)は、海賊版サイトの撲滅に向けたブロックリストの構築を進めている。BRIPとよばれるこのデータベースは、WIPO加盟国の承認を受けた貢献者からの報告を集約し、世界中の広告主が海賊版サイトをブロックするために活用される。
近年、さまざまな著作権団体が、いわゆる海賊版サイトへの資金流入を阻止するため、「金を追え(follow-the-money)アプローチを進めている。
このアプローチはすでにいくつかの成果を挙げている。英国では2014年に数百の広告代理店が海賊版サイトの排除を開始し、デンマークなどでも同様の取り組みが進められている。
著作権団体や広告主は前向きに取り組んでいるが、国際的な協調とまではいかなかった。そこで世界知的所有権機関(WIPO)は、このギャップを埋める新たなプロジェクトを開始した。
国連傘下のWIPOは、知的財産の保護を目的として50年以上前に設立された機関だ。当然、その目的にはオンライン海賊版との戦いも含まれている。WIPOが新たに作り上げた『知的所有権の尊重(Building Respect for Intellectual Property)』、略して『BRIP』データベースもその一環として進められている。
このプロジェクトの目的は至ってシンプルである。加盟国のステークホルダーが問題のあるサイトを報告し、そのリストを広告主と共有することで、腐ったミカンをブロックできるというものだ。その結果、海賊版サイトに流れる資金が減少し、利益を上げることが難しくなる。
海賊版サイトの国際的データベースの構築というアイデアは、2017年に初めてWIPOに持ち込まれ、水面下で開発が進められていった。来るWIPO執行諮問委員会会合の準備ペーパーによると、すでにオープンの準備は整っているという。
「BRIPデータベースは現在、WIPO加盟国の承認された貢献者と広告業界の承認されたユーザの受け入れ体制が整っている」とWIPOは記している。
「同データベースは、セキュアかつアクセス制御されたオンラインプラットフォームで構築されており、WIPO加盟の認定機関は、著作権侵害を意図的に助長するウェブサイトのリストをアップロードできる」
BRIPデータベースの狙いは、海賊版サイトの収益を減らすことにある。さらに、自社の製品やサービスの広告を著作権侵害サイトに掲載したくない大手ブランドにとっても有益だ。
「その目的は、違法なウェブサイト運営者への資金流入を減じ、ブランドの毀損を防ぎ、適法な広告が違法なウェブサイトを適法であるかのように誤認させ、消費者を混乱させるリスクを減じることにある」とWIPOは説明する。
加盟国はそれぞれ、著作権侵害の疑いのあるサイトをデータベースに追加できる提出者を指名できる。正式なサービス開始に先立ち、イタリア通信監督当局のAGCOMと韓国の著作権保護機関KCOPAはすでにテストを開始しているという。
他の国でも、業界団体や著作権法執行機関が参加する可能性が高い。たとえば英国では、すでに同様のリストを構築しているロンドン市警知的所有権犯罪ユニット(PIPCU)が参加することになるだろう。
WIPOによれば、こうした国際協力は、世界中のステークホルダーが互いの取り組みからさらなる成果を上げることを可能にするという。さらに、これまで言語の壁に阻まれて特定が難しかった他国の海賊版サイトのブロッキングにも役立つかもしれない。
もう1つの利点は、各加盟国が独自のブロックリストを構築する必要がないことにある。BRIPシステムを利用するだけで、すぐに取り組みを開始できるというわけだ。
だが、BRIPデータベースには難点もある。たとえば、ブロック対象となるサイトのリストは一般公開されないため、透明性はほとんど確保されていない。ブロックされるサイトすべてが明確に著作権を侵害しているわけではないとWIPO自身が留意しているように、この点は懸念されるところではある。
「BRIPデータベースの運用は、特定のサイトによる法律上の著作権侵害をWIPOが認定するというものではない。むしろ、このプラットフォームに掲載される国別リストは、『懸念されるサイト』を含むリストであることが留保される」とWIPOは記している。
「WIPOは、懸念されるサイトを『承認された貢献者によって、著作権および関連する権利を意図的に侵害ないし侵害を助長していると合理的に疑うに足るオンライン・ロケーション』と定義する」。
BRIPデータベースには、サイトがリストに掲載された理由に関する包括的な情報が含まれていないため、過剰なブロッキングを引き起こす可能性もある。
WIPOは、個別の著作権侵害に関する判断には関与しないと明言し、自らの役割をプラットフォームの技術的運用、貢献者とユーザの支援、BRIPデータベースのプロモーションと位置づけている。
「このプロジェクトは、司法その他の強制措置ではない、自主的な協調に寄る知的所有権の尊重を確立する術を模索する政策立案者の関心の高まりに応えたものである」とWIPOは記している。
「しかし、その成功は加盟国の機関および広告部門がどの程度採用するかにかかっている」
後者が重要なポイントだ。確かに上位の広告主や大手ブランドは海賊版サイトを回避したいと考えている。だが依然として海賊版サイトとのつながりを好む広告代理店も多い。
実際、広告業界には、海賊版サイトをターゲットを絞った企業がわんさかうごめいているのだ。
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BRIPデータベースに関する詳細はこちらから(pdf)。WIPOの好意に感謝する。
WIPO Aims to Cut Revenue to Pirate Sites With Newly Launched Database – TorrentFreak
Publication Date: July 07, 2019
Translation: heatwave_p2p
Header Image: Conquistador / CC BY-SA 3.0