以下の文章は、TorrentFreakの「France: 15% of Blocked Live Sports Pirates Go Legal, 46% Pirate Elsewhere」という記事を翻訳したものである。
フランスでの海賊版ライブストリーミングが半減したらしい。海賊版対策機関のArcomによると、違法ストリーミングの視聴者の40%が少なくとも1度以上のウェブサイトブロッキングを経験しているという。そのうち15%が合法的な手段を選択するようになったが、海賊ユーザたちを改心させるのは難しいようだ。およそ半数が別の海賊版サイトを利用し、12%がブロッキングを回避するためにVPNを導入したり、DNS設定を変更したりしている。
2022年1月1日に発足したばかりのARCOM(Audiovisual and Digital Communication Regulatory Authority)(訳注:放送監督機関のCSAと海賊版対策機関のHadopiが合併して設立された新規制機関)は、フランス国内の著作権侵害対策に取り組んでいる。
Arcomの主要な“武器”は、欧州ではおなじみとなったウェブサイトブロッキングだ。Arcomのロシュ・オリヴィエ・メーストル会長の9月の声明によると、2022年上半期に700以上のサイトがブロッキングされ、スポーツイベントの海賊版ライブストリーミングは50%も減少したという。
今週発表されたArcomにレポートは、サイトブロッキングが海賊版視聴者の数やその後の行動にどのように影響したかなど、詳細な情報を提供している。
ライブスポーツを楽しむネットユーザ
Arcomのデータによると、インターネットユーザの97%が(訳注:正規・非正規問わず)スポーツのライブ中継を見たことがあると回答し、毎月見ているユーザは73%にのぼる。ネットユーザの10人に8人(79%)が、無料放送のテレビ(63%)やサブスクリプションサービス(37%)など合法的なソースを利用している。
種目別ではサッカーが一番人気で、ネットユーザのほぼ4分の3が過去半年に視聴。テニス(62%)とロードレース(52%)がそれに続く。Arcomの使命は、いつでもどこでも、視聴者に合法的なチャネルを提供することにある。
5人に1人が違法ライブ配信を見た経験あり
フランスの15歳以上のネットユーザのうち、5人に1人(21%)がストリーミングプラットフォームでスポーツのライブ中継の違法配信を視聴したことがあると回答した。海賊版ストリーミングサイトに限定すると、その割合は13%に減少する。
この数字はもっと悪い可能性もあるが、それよりも気になるのは他の調査結果だ。
違法ストリーミングでスポーツ中継を視聴するユーザのほぼ4分の3(72%)が「毎週海賊版のスポーツ中継を見ている」と回答している。サイトブロッキングによって難しくなっているはずの海賊版のスポーツ中継の視聴が、習慣化し親しまれていることがうかがえる。もちろん、フランス当局が努力を怠っているわけではない。
先月、Arcomは2022年だけで700の海賊版サイトが新たにブロッキングされたことを公表した。Arcomの最新レポートによると、9つのスポーツ競技について41件の照会を受け、2022年9月末までに481件のドメインのブロッキングをISPに要請していた。
これに加え、裁判所の判決によりブロッキングの対象となったドメインもあり、今年1月~9月までに合計835の海賊版サイトがブロッキングされている。著作権者にとって衝撃的なのは、こうした大規模な取り組みを行ってなお、海賊版ストリーミングへの新規流入を阻む抑止メッセージはうまく機能していないということだ
現在、フランスの海賊版スポーツ配信の視聴者のうち、44%が「1年以内」に見始めたと回答している。まさにこの期間は、海賊版がいかに難しく、魅力的でないかを強力に訴えたキャンペーン期間中だった。
海賊版の視聴者にメッセージが伝わっていないというわけでもないらしい。Arcomのデータによると、ブロッキングのメッセージは、直接的にも間接的にも多くの海賊版の視聴者に伝わっている。
海賊版ユーザの4割がブロッキング経験あり
フランスでは何年も前から海賊版サイトのブロッキングを実施しているが、今回のキャンペーンはそれよりもさらに強力なものだった。Arcomによると、海賊版スポーツ配信の視聴者の4割が過去6ヶ月間にサイトブロッキングを経験したという。
また、自分自身がブロッキングされたわけではないが、知人がブロックされたことがあるという海賊ユーザを含めると、海賊版スポーツ配信を視聴するユーザの67%が直接または間接的にドメインブロッキングを知っていたことになる。Arcomによると、今年上半期で、海賊版ユーザは侵害サイトへのアクセスを平均7.3回ブロックされたという。
さて、ここで問題だ。海賊版ユーザがブロックされると、彼らは権利者に利益をもたらす合法的な選択肢を選ぶようになるのか、それとも別の海賊版サイトを探すだけなのか。
良いニュースと良くないニュース
海賊版対策の報告書にはさまざまなスタイルがあるが、大別すると以下の2つに分けられる。
1つ目は、海賊版がもたらす天変地異と迫りくる商業的黙示録を描写したもので、一般に、政府や政治家たちを動かすためのツールとして用いられている。だが、成功を義務づけられた巨大かつ高額な組織体であるArcomは、もう1つのスタイル、つまり可能な限り成功を強調する報告書をまとめている。
その一例として、スポーツのライブストリーミングサイトがArcomや裁判所によってブロッキングされたことを知った際の海賊版ユーザの反応をある。
Arcomのレポートによると「ブロッキングに直面したインターネットユーザの48%が、違法サイトを諦めることを何よりも優先した」という。
この楽観的な見方は、得られたデータに裏打ちされたものではあるのだろうが、実際には2つの要素を解釈したものである。1つ目は権利者にとって朗報かもしれない。
海賊版サイトのブロッキングに直面すると、インターネットユーザの15%は、ISPが表示する「遮断されました」ページやブランクページよりも、スポーツ中継を視聴できる合法的なプラットフォームのほうが良い選択肢だと判断していた。いささか楽観的な数字ではあるが、これが真実であれば、違法スポーツ配信の終焉を告げる数字ともなりうる。
だがもう1つの要素は、だいぶ疑わしく、およそ信じがたい。
今どきの海賊版ユーザは打たれ弱い?
Arcomの調査によると、サイトブロッキングに直面した海賊版スポーツ中継の視聴者の37%はそのまま海賊版サイトでの視聴を諦めたのだという。これは、フランスがまだ海賊ユーザたちに数百万件の警告を送付し、罰金や逮捕の脅しをかけていた時代に、権利者たちが夢に見ていた状況である。
当時は海賊版ユーザが37%も減少するなどということは起こらず、そのような結果が望めるとは誰も考えてはいなかった。BitTorrentでの共有がメインストリームだった時代で、海賊版ユーザは今よりずっと補足されやすかった。一方、今日のストリーミングサイトでの視聴はまったく逆で極めてリスクが小さいにも関わらず、なぜか数ヶ月のうちに眼を見張るような結果がもたらされている。
むしろ、アクセスがブロッキングされたら、ブロッキングされていない別の海賊版サイトを探すというシナリオのほうがもっともらしく見える。実際、このような選択をした海賊版ユーザは46%にのぼる。また、ブロックされたことで、VPNやDNS設定の見直しなどの回避策を講じるユーザも12%ほどいて、これも現実的な数字と言えるだろう。
Arcom「海賊版ストリーミングサイトの視聴者数は半減した」
Arcomは、サイトブロッキングが短期間のうちに驚くべき結果をもたらしたと結論している。
「2022年1月から6月にかけて、違法スポーツ配信サイトの利用者は半減(-49%)し、2021年上半期から2022年上半期にかけては47%減少した」と報告されている。
それが本当なら、この数字はフランスにとって誇るべき結果であり、海賊版対策史上の画期的な瞬間といえよう。そこで、このデータがどのように収集されたのか、また誰が収集したのかを調べてみた。
喜んで監視ソフトウェアをインストールする3万人の人々
Arcomの調査によると、フランスの人口を代表する3万人が、1941の海賊版スポーツ配信サイトにアクセスしていたことが明らかになっている。このデータは、仏企業のMediametrieが同社製品のTotal Internet Audienceの情報を提供したものだった。
TIAはパソコン、スマートフォン、タブレットの3つのスクリーンタイプで、参加者のブラウザの習慣と履歴、アプリの使用に関するデータを監視する。このデータは参加者が各自の端末に関し専用のソフトウェアをインストールし、監視について予め同意した上で収集されている。
失礼な物言いかもしれないが、自ら監視ソフトをインストールしておいて、その端末で違法ストリーミングを視聴するという人がいるのなら、もう少し物事を考えて行動してはいかがですか、と言いたくなる。別の端末を隠し持っているのでもない限り、海賊版ユーザが進んで入れたがるようなソフトウェアではないだろう。
とはいえ、この3万人はフランス人全体を代表しているわけなので、フランスのスポーツ観戦者の100%は、自分の違法行為に関するデータがデータベースに登録され、政府機関と共有されることを厭わないのだと結論することもできる。これ以上ないくらい、データから率直に導かれる結論だ(訳注:そもそもサンプルが仏インターネットユーザ全体を代表できていないことへの皮肉)。
成功を収めたArcom、さらなる高みを望む
違法スポーツ配信を49%も減少させたArcomだが、さらに良い結果を報告したいと考えているようだ。仲介事業者からDNSオペレータ、ホスティング事業者、VPNプロバイダまで、あらゆる関係者が海賊版との戦いに果たすべき役割を担っているのだから。
したがって、スポーツコンテンツの保護には、インターネットサービスプロバイダとスポーツの権利者との協定による協力関係の強化、技術的なブロッキング・ソリューションの改善、さらにドメインネームシステム(DNSプロバイダ)、仮想プライベートネットワーク(VPN)、ホスティングサービスなど、インターネットエコシステムのすべての技術的仲介者を海賊版との戦いに巻き込むことが求められている。
「違法スポーツサービスのブロッキングのインパクト」レポートはこちら(仏語・pdf)から。
France: 15% of Blocked Live Sports Pirates Go Legal, 46% Pirate Elsewhere * TorrentFreak
Author: Andy Maxwell / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: October 26, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Emilio Garcia