Electronic Frontier Foundation

近年、西側諸国の民主主義を害する虚偽情報(disinformation)工作や「フェイクニュース」に関するニュースが多数報道されている。米大統領挙でのロシアの選挙干渉や、Brexitフランス大統領選挙でのロシアの情報工作など、西側諸国は民主主義に対する継続的かつ喫緊の脅威として「フェイクニュース」に直面している。しかし、ラテンアメリカでは、「フェイクニュース」への懸念は今に始まったことではなく、20世紀から虚偽情報工作が蔓延している。ラテンアメリカにおけるメディアの独占体制、虚偽情報工作、偏向報道は、情報に基づく市民の対話を長らく蝕んできた。

表現の自由を制限する口実としての「フェイクニュース」

2018年には、メキシコ、ベネズエラ、ブラジル、コロンビア、コスタリカなどで、大統領選を含む大規模な選挙が行われる。各国政府は、オンライン通信に対する国家の統制を強化し、検閲とインターネットの監視を拡大するための法案を成立させるべく、「フェイクニュース」が未曾有の現象であるかのように喧伝し、その懸念を利用しようとしている。長年独占メディアが地域の規範を支配するラテンアメリカにおいて、その対抗勢力としてインターネット企業が重要な役割を果たすようになってきたという事実を詭弁によって覆い隠そうとしているに過ぎない。元国連特別報告者のフランク・ラ・ルー氏は、2017年のインターネットガバナンスフォーラム(IGF)において、「フェイクニュース」という言葉をラテンアメリカに輸入する危険性について、次のように述べている。

「フェイクニュース」という言葉は好ましくない。そこには落とし穴がある。確かに、私たちは虚偽情報工作直面している。だから、私たちは情報と虚偽情報について語るべきなのだ。

ラ・ルーは、フェイクニュースと本当のニュースとの線引が行われると、国民がニュースを読み、自ら考えることを放棄させられることにもなりかねないという。彼は「問題は、フェイクニュースが別の選択肢や反対派を沈黙させ、その声を消し去るための口実にされることだ」と主張する。この脅威に対応するため、EFFは昨年末、34のラテンアメリカのNGOと共に公開書簡を公表した。

中南米のトレンド

ブラジルが設置したフェイクニュース対策評議会には、これまで少数派や反対意見に弾圧を加えてきた軍や情報機関が参加している。ブラジル議会もまた、厳格な法案を通すために、フェイクニュースの「亡霊」を口実として利用している。最近でも、国民議会通信委員会に突如提出された草案者不明の提案が大きな議論を巻き起こした。その法案は、フェイクニュースの作成や共有を犯罪と定義し、政府が虚偽と判断した情報を伝播させた者に懲役刑を科すものであった。これはブラジル市民のインターネットの権利を守る枠組み「Marco Civil da Internet」を蝕むことになるだろう。さらに、報告のあった投稿を24時間以内に削除、ブロックできなかったり、ニュースの真偽を簡単に確認できるツールを提供しない企業は責任を負わされることになる。インターネット企業がコンテンツを削除できなければ、最大で前年収入の5%もの罰金を課されることになる。この提案は世論からの強い反発を受けて撤回されたものの、現在も同様の法案が議会に提出されている。

メキシコでも選挙の季節が迫っている。2018年7月の選挙は同国史上最大規模になる見込みで、新大統領のほかに、全連邦議会議員と9人の州知事が選出される。全国選挙管理局(National Electoral Institute=INE)は先日、フェイクニュース対策にむけてFacebook Irelandとの合意を結び、GoogleやTwitterとも同様の取り決めを交わすという。エル・ユニバーサル紙が入手した文書によるとこの合意には、市民参加を測定するFacebookツールの使用、INEが承認した投票結果のリアルタイムデータへのアクセス、管理局施設内のスペースの提供などが含まれており、Facebookは選挙当日にライブ映像の配信を行うという。いずれもプラットフォームが真偽の判断に関与するものではないが、十分な透明性が求められる。メキシコのNGO、Red en Defensa de los Derechos Digitalesのルイス・フェルナンド・ガルシア氏はEFFにこのように話している。

INEとFacebookの関係性については、完全な透明性が必要です。Facebookは、「フェイクニュース」対策という名目で、一部のメディアを差別的に扱ったり、別のメディアを厚遇するというような措置を講じてはなりません。

私たちは、自由に集い、想像し、組織し、共有し、交わり、議論し、学ぶ場として、インターネットを必要としている。もちろん、選挙の操作などあってはならない。そして、以前にもお伝えしたように、人びとは自らが使用するツールによって力づけられるべきであると同時に、他者によるテクノロジーの使用に受け身であってはならない。しかし、プラットフォームはたとえ要請があったとしても、ニュースを検証することには慎重であるべきだ。もし、プラットフォームがそうした役割を担うようになれば、彼らが政治的圧力にどのように対応するかという懸念が浮かび上がることになる。

「フェイクニュース」と同様に、ヘイトスピーチに関連した政策は、しばしば検閲を覆い隠すために利用される。たとえばホンジュラスでは、抑圧的なインターネットコンテンツ規制法案の口実として利用されている。ホンジュラスは、2017年の大統領選の不正を巡る混乱により、深刻な政治危機に陥っている。その混乱が続く2018年2月、ホンジュラス国民議会にインターネット上の表現を規制する法案が提出された。世論からの反発を受けたこの法案は、ヘイトスピーチや差別、侮辱からユーザを保護するという名目で、インターネット企業にコンテンツの削除を義務づけるものであった。企業が第三者のコンテンツを24時間以内に削除できなければ、罰金を科されるか、サービス自体をブロッキングされる。この検閲法案はさらに、フェイクニュース対策を主眼とする国家サイバーセキュリティ委員会の創設に関する議論を促すことにもなった。

「フェイクニュース」を抑止する試みは、ラテンアメリカ全域に広がっている。虚偽情報キャンペーンは、民主主義や言論の自由を破壊することはできない。EFFは、今年のラテンアメリカ選挙の進展に伴い、この問題を監視していくつもりだ。

“Fake News” Offers Latin American Consolidated Powers An Opportunity to Censor Opponents | Electronic Frontier Foundation

Author: KATITZA RODRIGUEZ AND VERIDIANA ALIMONTI (EFF)/ CC BY 3.0 US
Publication Date: April 2, 2018
Translation: heatwave_p2p
Header Image: Oren / CC BY-SA 2.0