以下の文章は、TorrentFreakの「At Last, An Anti-Piracy PSA That Doesn’t Use Scare Tactics」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

海賊版対策の公共広告(PSA)は手を変え品を変え、さまざまなものが作られてきたが、その多くはバカバカしい脅かしや極端な脚色を加えたことでほとんど効果を上げてはこなかった。しかし、EU知的財産庁と共同で制作された新たなPSAは、平均的なユーザの視点から問題を理解させようと取り組んでいるという点で実にユニークだ。実際、海賊版という言葉は一切言及されていない。

映画、TV番組、音楽、ソフトウェアなどのコンテンツをインターネットから違法にダウンロードさせないようにする、というのは難問だ。

少なくとも過去20年間、それを目的とした公共広告(PSA)が放映されてきたが、何の効果も上げていない。

読者の方であれば、2004年の「海賊版、それは犯罪(Piracy, It’s a Crime)」キャンペーンをご存知の方も多いとは思うが、この広告はあまりに大げさだったために、ついにはミームとなり(ミームという言葉が広まるより以前に)、挙句の果てにはIT Crowdでネタにまでされている

こうした悲惨な結果をもってすれば、PSAの製作者も恐怖戦術は通用しないことを理解するだろう――と思いきや、その後も毎年のように同様の広告が登場した。

多くの人が被害者のいない犯罪だと考えているものを抑止させるというのは実に難しい。たとえPSAが、海賊版によってクリエイターやエンターテイメント業界が被害を被っているという側面に焦点を当てたとしても、ほとんど理解されることはなかっただろう。

一方最近では、海賊版を利用したことでデバイスがウィルスに侵されてジャンクになるとか、「サイバー犯罪者」からネットワークに侵入されて銀行口座が空っぽになるとかいう誇張で、海賊版ユーザたちを改心させようと躍起になっている。だが、こうした古典的な恐怖戦術は、80年代に量産された性感染症ビデオと同様、大した効果は期待できないだろう。

なかには実際にマルウェアに感染するユーザもいるのだろうが、問題は、程度の差こそあれ、そうした体験をしたという人物を見聞きした海賊版ユーザはほとんどいないということだ。メッセージに説得力がなければ、人々はそのメッセージ自体を無視し、単なるプロパガンダだとみなすようになる。

もう1つの問題は、海賊版の影響が過度に脚色されているということである。これまでずっと「音楽や映画が作られなくなる」と訴えられてきたが、それが間違いであることは証明されている。疑うのであれば、今日存在している正規サービスを見て回ってみればいい。

さらに、平均的な海賊版ユーザは、海賊行為と「本当の」犯罪とは別物だと捉えており、この点は最近のFilm IrelandのPSAでも見落とされている。この広告は、映画業界の終焉を脅かしつつ、そこにドラマを詰め込んでいる。

上記のビデオは、カジュアルな海賊版ユーザに何らかの影響を与えるかもしれないが、YouTubeでの視聴回数が現時点で400回未満ということを考えれば、率直に言って、この種のPSAに興味を持つ人はほとんどいないことを示している。コメントもゼロであり、議論の価値すらないとみなされているのかもしれない。辛辣に言えば、退屈なのだ。

問題は、広告やキャンペーンの多くが、ユーザの視点煮立った著作権侵害の問題を認識していないことにある。ハードコアな海賊ユーザたちが、何かを見て自らの行いを「悔い改める」ことは期待できそうにないが、膨大な数のカジュアルな海賊版ユーザ(とその予備軍)であれば、少し考えて、思い直すかもしれない。

そうした人たちこそが、メディア消費の大部分を占めていることを考えれば、コンテンツ啓発団体のAgoratekaが、EU知的財産庁と共同で製作した新たな海賊版対策PSAは注目に値する。

彼らは恐怖戦術ではなく、腰を据えて、(海賊版のテクニックに長けているわけではない)平均的な人物が、視聴するコンテンツをインターネットで探す際に遭遇するであろうシチュエーションを考えたようだ。実際、最後まで海賊版という言葉を直接用いず、最終目標である合法サイトの利用に焦点を当てている。

このPSAを要約すると、一般的なインターネットユーザやカジュアルな海賊ユーザには2つの選択肢があるということを示している。長い時間を掛けて玉石混交の中からなんとかお目当てのコンテンツを探し出すこともできるし、正規サービスに直行して、すぐにコンテンツを楽しむこともできる、というわけだ。

ビデオには、マルウェアも、崩壊に向かう映画館も、死んだ俳優も、警察のガサ入れも映し出されてはいない。海賊版自体に触れられてすらいないのだ。

もちろん、このビデオを見て、「お気に入りの海賊版サイトならお目当てのコンテンツを数分で探し出せる」と豪語する人も少なくないだろう。それに異論はないが、そうした熟練の海賊版ユーザが一般市民の大半を占めているわけではない。

このビデオは、視聴者にシンプルな問いを投げかけようとしているのだろう。あなたは何に価値を置いていますか? 時間が最も貴重なのではないですか? 毎月数ユーロ、数ドル、数ポンドをオンラインに費やすことは有意義な買い物ではありませんか? 多くの人、特にお金に余裕のある人であれば、時間を最も重視することになるのだろう。

このメッセージは、手練の海賊版ユーザにさえ当てはまるかもしれない。

多くのレポートが、海賊版ユーザはNetflixなどのサービスを併用していることを示しており、正規サービスへのアクセスが容易になるほど、多くのユーザが海賊版ストリーミングサイトや法的に問題がありそうなプラットフォームにアクセスしなくなるようだ。Kodiの海賊版アドオンなども、一部の人には強力な武器であろうが、快適な旅を保証してくれるわけでもない。

ようするに、このPSAは決して万人に刺さるわけではないのだろうが、腹立たしくもなければ、中立的で、プロパガンダにも見えない。単に、正規サービスが海賊版に代わる簡単で迅速な選択肢がであり、Agoratekaポータルで探せることを示しているだけだ。

人々に車をダウンロードさせたくはないが、彼らを遠ざけたくもないというのであれば、素晴らしい出発点と言えるだろう。

At Last, An Anti-Piracy PSA That Doesn’t Use Scare Tactics – TorrentFreak

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: May 07, 2019
Translation: heatwave_p2p

補足しておくと、最後の「車をダウンロード」というのは、「Piracy, It’s a Crime」キャンペーンから生まれたミーム。このキャンペーンは、「あなたはきっと車を盗むことはないし、強盗することもない。だが、違法ダウンロードはしているんじゃないか? それは犯罪だ!」みたいなメッセージを強烈な勢いでまくし立てる広告なんだけど、それがおもしろがられて「いや、車をダウンロードできるんだったら、そうしてるけど?」というミームが生まれたと。

via Know Your Meme