以下の文章は、TorrentFreakの「Pirate Site Blocking Boosts Netflix Subscriptions, Research Suggests」という記事を翻訳したものである。
海賊版サイトブロッキングの有効性については、広く議論されている。近々公開予定の研究によると、ブロッキングは最適な条件下では効果的な海賊版対策ツールになりうるという。一度に多数のサイトがブロッキングされれば、海賊版サイトへの訪問者数は減少し、海賊ユーザは有料サブスクリプションサービスに加入する可能性が高まるのだという。
近年、ウェブサイトブロッキングは海賊版対策の1つとして世界で広く採用されている。
現在、数十カ国のISPが加入者の「海賊版」サイトへのアクセスを遮断するよう求められている。ブロッキングの対象となるサイトが日増しに増えていく一方で、その有効性に関する研究は非常に少ない。
著作権者の支援を受けて行われる『研究』の多くは、サイトブロッキングの対象となったドメインへのトラフィックが実際に減少していると結論づけている。さして驚きのない結論ではあるが、「ブロッキングされた」加入者がどこに行くのかという点についてはそれほど詳しく分析されてはいない。
海賊たちは諦めて海賊行為を止めるのだろうか。それともブロッキングを回避する手段を見つけ出すのだろうか。それとも、Netflixのような有料ストリーミングサービスに加入するのだろうか。サイトブロッキングに関する新たな研究によると、そのいずれも確かなようである。
『海賊版サイトブロッキングが消費者行動におよぼす影響(The Effect of Piracy Website Blocking on Consumer Behavior)』という論文の中で、カーネギーメロン大学のIDEAプログラムに参加する研究者らは、英国で実施されたさまざまなブロッキング命令の影響を詳しく調査した。
この査読論文の最新版は近日中にManagement Information Systems Quarterlyに掲載されることになっている。この論文は、我々が過去にお伝えした調査結果をベースにしている。
たとえば、2012年に英国ISPはパイレート・ベイだけをブロッキングしたが、ほとんど影響はなかったことが確認されている。海賊ユーザは単に別のサイトに乗り換えたり、パイレート・ベイのミラーサイトを利用するようになったり、あるいはVPNを利用してブロッキングを回避するなどして、その後も海賊版の利用を続けた。
だが、2013年に英国ISPが実施した19のサイトに対するブロッキングに関するフォローアップ研究では、異なる傾向が見いだされた。一度に多くのサイトがブロッキングされたことで、海賊版サイト(ここではサイバーロッカー)へのアクセスが減少していたのだ。
この点は、2014年にさらに多数のサイトがブロッキングされた際のデータでも確認され、ブロッキングの対象となっていない海賊版サイトへのアクセスまで減少していたことが明らかになっている。さらに興味深いことに、AmazonやNetflixなどの有料ストリーミングサービスへのアクセスも増加していたのだという。
論文では、ブロッキングが加入者の増加に与える影響を推定することで、前回の調査結果をさらに深堀りしている。前回調査では、海賊ユーザが既に正規サービスに加入していて、ブロッキング後にそのサービスを利用していた可能性を否定できなかった。
そこで研究者は、以前には利用していなかった合法サービスをブロッキング後に度々利用するようになった『海賊ユーザ』に着目し、海賊版を利用していない人々と比較した。その結果、ブロッキングによってストリーミングサービスの有料加入者数が増加したことが示された。
「2014年に53のサイトをブロッキングした結果、影響を受けたユーザは海賊版の利用を減らし、合法的なサブスクリプションサイトの利用を7〜12%増加させていた」と研究者は論文で述べている。
さらに「これらの結果を総合すると、サプライサイドの海賊版対策は、ユーザを違法な海賊版のチャネルから、合法で優良なチャネルへと変容させるのに有効である可能性がある」としている。
ただ、加入者数の増加率自体はそれほど大きいものではない。ブロッキングの影響を受けなかった対照群より1.1ポイント高いだけであった。とはいえ、実数にすれば、英国で約5万人もの新規加入者に相当する。
全体的に見ると、海賊版サイトへのアクセスブロッキングに対する反応はさまざまだ。別の海賊版サイトを利用する者もいれば、VPNに加入してブロッキングを回避する者もいる。そして合法的な選択肢に向かう者もいるということなのだろう。
また、この論文のもう1つの主要なポイントは、1つのサイトだけをブロッキングするよりも、複数のサイトを同時にブロッキングするほうが効果的であるという点だ。ブロッキングが広範囲に及ぶと海賊版コンテンツを探すのが難しくなり、その結果諦めてしまう人も多いということのようだ。
この点について研究者は「ヒドラ」のメタファーを用いて説明を試みている。これはかつてパイレート・ベイが好んで用いたメタファーだ。ギリシャ神話では、ヒドラは複数の頭を持ち、切っても切っても新しい首が生えてくるため、殺すのが難しい生き物として描かれている。
「1つのサイトだけをブロッキングしても、ヒドラの首を1つだけ切り落とすようなものである。その結果、海賊行為の抑制にはつながらず、より広範な海賊版サイトのネットワークが構築されることになる」という。
ヒドラを殺すには、その首を一度に切り落せばいい。海賊のエコシステムを考えればすべてのサイトを潰すことは不可能だとしても、できるだけ多くの首を切り落とすことは可能だ。特に、切り落とす首が他サイトの重要なソースとなっている場合には。
論文では「複数のサイトを同時にブロッキングすれば、ヒドラの複数の首を切り落とすことができる。サイト間のネットワークが大規模に破壊され、致命的な打撃となる可能性がある。本研究では、ユーザの行動が大きく抑制され、合法的なチャネルの利用を増加させ、違法なチャネルの利用を減少させることが示された」と結論している。
このウェブサイトブロッキングの研究は、カーネギーメロン大学のInitiative for Digital Entertainment Analytics(IDEA)の一環として実施された。このプログラムはMPAAから多額の寄付を受けているが、研究者はこの研究が独立して行われたことを強調している。
Pirate Site Blocking Boosts Netflix Subscriptions, Research Suggests – TorrentFreak
Publication Date: August 24, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Thibault Penin