以下の文章は、TorrentFreakの「Federal Court of Justice: Pirate Site Blocking Must Be a Tool of Last Resort」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

ドイツ連邦司法裁判所は、著作権者が海賊版サイトへのアクセスを制限するためのサイトブロッキング命令を求めることができる条件を明確にした。ドイツテレコムは、著作権者にはより合理的な選択肢があるとして、Sci-HubとLibgenへのDNSブロッキングの実施を拒否してきた。裁判所は、サイトブロッキングは最後の手段であるべきだと意見に同意した。

Sci-HubとLibgenは、科学論文、研究、知識へのデジタル障壁を取り払い、ユニバーサルなアクセスを可能にしたことで高い評価を得ている。

このミッションは、多数の学者・学生の双方から支持を集める一方、Sci-HubやLibgenが無償提供する数百万本の論文の権利を有する大手出版社にとっては、プレミアム・ビジネスモデルを大いに損ねる存在となっている。

出版社側は、これらプラットフォームをまごうことなき海賊版サイトとみなし、サイトブロッキングを含むありとあらゆる手段をアクセスを遮断しようとしてきた。

ドイツ、イギリス、アメリカの出版社は、ドイツで法廷闘争を繰り広げている。彼らは通信会社のドイツテレコムに対し、加入者のSci-HubやLibgenへのアクセスを阻むためにDNSブロッキングを実施すべきだと考えている。

地裁では出版社側に、高裁では通信事業者側に有利な判決がくだされたが、連邦裁判所(BGH)第一民事上院の判決は、サイトブロッキング措置を求めることができる条件を明確化している。

ミュンヘン地方裁判所

この事件は、ミュンヘン地方裁判所(LG München)で最初に審理され、エルゼビアやシュプリンガー・ネイチャーらが『ランセット』誌や『ネイチャー』誌などの出版物の独占権を主張した。彼らは、99.99%の確度で、Sci-HubとLibgenが提供するコンテンツの少なくとも96%が無断で一般に提供されていると主張した。

出版社側は、ドイツテレコムにDNSブロッキングを求める訴訟を起こす前に、米国ではSci-Hubに対し1500万ドルの賠償および差止命令の判決を獲得し、ロシアでも捜査を行われたと主張。これらの「勝利」によってもSci-Hubの閉鎖にはつながらなかったと訴えた。

また、Sci-Hubのホスティングプロバイダーを標的にしても効果はなかった。出版社によると、著作権に関するクレームは無視されるか、別のプロバイダに移行するだけに終わり、非協力的であることをウリにする「防弾」ホスティング企業も含まれているという。

他の選択肢がない異常、ドイツテレコムにDNSブロッキングを実施させることは合理的であり、また比較的安価(2000~4000ユーロ)であると出版社は主張した。

一方、ドイツテレコムは、第三者の侵害に責任を負うものではなく、また、既存の通信プロセスにおいてインターネットユーザの意図を評価したり、影響を与えることはできないと主張した。その上で、DNSブロッキングは侵害の抑制には適切ではないと指摘し、出版社側ガホティングプロバイダに対する法的措置など、より合理的な他の選択肢を尽くしてはいないと訴えた。

ミュンヘン地方裁判所は、出版社側の主張を支持し、ドイツテレコムにSci-Hubのドメイン(および第三者によるプロキシサイト)をブロッキングするよう命じた。

控訴審と連邦司法裁判所の判決

ドイツテレコムはミュンヘン地裁の判決を不服として控訴し、出版社が法に基づくブロッキングを要請する前に、他の利用可能な手段を尽くしていないと主張した。たとえば、出版社はEU加盟国であるスウェーデンのホスティングプロバイダに対する法的措置を行ってはいない。

ミュンヘン高等裁判所(OLG München)はドイツテレコムの主張を認め、下級審の判決を覆して本件を棄却した。また、ドイツ連邦裁判所(Bundesgerichtshof, BGH)による法的検証を経て昨日公表された判決でも、控訴審の判決の正しさが認められた。

サイトブロッキングは最後の手段である

連邦司法裁判所は、テレメディア法(TMG)に基づき、権利者は繰り返される著作権侵害を防ぐために、インターネットサービスプロバイダにブロッキング命令を要請できることを指摘。ここにはDNSブロッキングも含まれるが、その救済を受けるためには一定の条件を満たさなければならないとしている。

TMGでは、(ブロッキング命令は)権利者は侵害に対処する「他の選択肢がない」ことが前提条件となる。連邦裁判所は、ISP(ドイツテレコム)へのDNSブロッキング要請は、侵害に関わる当事者への措置が尽くされた場合のみ認められるとした。

本件では、出版社はドイツ国内でスウェーデンのホスティングプロバイダを提訴し、その顧客であるSci-HubとLibgenに関するすべての情報の開示を要求すべきだったということになる。著作権侵害の出所に近いところを狙うという選択肢を試みることさえせず、出版社はISPにDNSブロッキングを要請すべきではなかった、というわけだ。

「インターネットへの一般的なアクセスを提供するだけのアクセスプロバイダ(ドイツテレコム)は、(ウェブサイトの運営者等の)法益の侵害により近い自ら侵害を行った当事者や(ホスティングプロバイダ等の)サービスを提供することで侵害に貢献した当事者に対してのみ二次的に責任を負う」と判決にはある。

「原告は、ドイツ法廷においてスウェーデンのホスティングプロバイダへの情報開示命令を求めるべきである。この問題を控訴審に差し戻す理由はない。原告側は、自らの取った措置について広範な提出を行っている」

BGHの判決は、こちらから。この判決は、権利者が侵害を防ぐためにすでに合理亭に可能なあらゆる手段を講じていることを条件に、インターネットプロバイダが侵害サイトをブロッキングする義務を負うとした2015年のBGH判決を踏襲するものである。

Federal Court of Justice: Pirate Site Blocking Must Be a Tool of Last Resort * TorrentFreak

Author: Andy Maxwell / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: October 14, 2022
Translation: heatwave_p2p
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