本日、日米デジタル貿易協定が国会で承認された。この協定の内容、評価については、今朝方の記事にいろいろと綴ったのでそちらをご覧いただければと思うが、端的に言えば日本側に得るものは特になく、米国側ばかりがその恩恵にあやかる内容となっている。

とはいえ、歓迎できないものばかりというわけでもなく、とりわけプラットフォームの「セーフハーバー(免責規定)」の整備を求める条項は、現在優位な立場に立つ米テック企業に有益ではあるものの、デジタルプラットフォームの成長には必要不可欠なものであることを考えれば、日本に不利益ばかりとは言い切れない。

だが、米国から押しつけられたものではありつつも、一方ではその米国内でさえ、セーフハーバーの見直し(というよりも縮小)を求める声が高まっており、貿易協定に含めるのは国益を損なうという意見も出てきていて、その見通しはかなり不透明になってきている。

以下の記事は9月に翻訳したまま公開していなかったのだが、日米デジタル貿易協定が承認されたタイミングでもあるので公開しておきたい。

以下の文章は、TorrentFreakの「House Judiciary Committee Doesn’t Want ‘DMCA-Style’ Safe Harbor in Trade Agreements」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak
米下院司法委員会は、新たな貿易協定にDMCA方式のセーフハーバーが盛り込まれるに懸念をあらわにしている。現在、著作権局はDMCAの有効性評価を実施しており、まもなく変更を提案することになっている。新たな貿易協定――今回は米国・メキシコ・カナダ協定――に20年前の文言が盛り込まれることになると、非常に複雑な状況が生み出されそうだ。

1998年、クリントン大統領が署名したデジタルミレニアム著作権法(DMCA)は、デジタル時代に適応した著作権法の制定を目的としていた。

同法はインターネットサービスにセーフハーバーを導入し(DMCA512条)、削除通知を適切に処理し、侵害を繰り返すユーザに対処する限りにおいて、インターネットサービスは海賊版ユーザに対する責任を負わないとした。

今日、この「DMCA」の4文字は世界中で知られており、米国は貿易協定を通じてこれを輸出しようとしている。最近では、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に、DMCA方式の規定が盛り込まれている。

20年前あれば著作権者も歓迎していただろうが、現在の状況は以前とはまったく変わってしまった。特に音楽業界は、DMCAが時代遅れかつ機能不全に陥っており、有害ですらあると訴えている。つまり、業界団体はDMCAを「もっとマシな」ものに書き換えたいのだ。

USMCAの最初の草案が公表されると、RIAA(全米レコード協会)はその姿勢をはっきりと示した。RIAAのミッチ・グラジエ会長は、「現代の貿易協定は、パブリックプラットフォームの説明責任を強化することに政策上の優先事項とすべきである」と述べている。

この問題は、RIAAが上下院で熱心にロビイングを行うほどに重要だったようだ。今週、下院司法委員会でこの問題に対する懸念が取り上げられたのは、その成果と言えるかもしれない。

司法委員会は米国通商代表部(USTR)に宛てた書簡で、DMCA512条については広く議論されており、「一部」は議会に修正が求められていると指摘する。

同委員会は、米政府が過去数年に渡り詳細なレビューを実施し、その結果が近く公表されることになっているという。また、欧州連合の新著作権指令の影響を一部受ける可能性もあるとして、アップロードフィルタの導入とオンラインサービスプロバイダの責任強化が政策議論に盛り込まれることを匂わせている。

「米著作権局は、2015年から複数年に渡ってすすめてきた第512条に関する報告書を今年末頃に作成することになっている。さらに、欧州連合は先日、オンラインプラットフォームのセーフハーバー改革を含む著作権指令を公表した。これは米国国内の政策議論にも影響を及ぼすだろう」と書簡には書かれている。

司法委員会は自らの立場を明確にはしていないが、現時点ではUSMCAなどの貿易協定にセーフハーバー条項を加えることは賢明ではないと強調する。

「このような真剣な政策議論が行われているさなか、米国がこの条項を反映した規定を輸出することには問題があると考える」と下院司法委員会のジェロルド・ナドラー、ダグ・コリンズ両委員長が署名した書簡には記されている。

「そのため、第20条89で義務づけられる第512条スタイルのセーフハーバー制度の採用を当事国に要求する条項は、将来的な貿易協定に引き続き含めるべきではないと考える」

委員会はUSTRに対し、この問題を深刻に受け止め、文言の修正を検討するよう求めている。この立場は主に、RIAAをはじめとする主要著作権業界団体の意向が反映されている。

もしこの文言が本当に削除・変更されれば、インターネットサービスやデジタル権利団体は大きな痛手を負うだろう。

下院司法委員会がUSTRに送付した書簡の写しはこちらから(pdf)

House Judiciary Committee Doesn’t Want ‘DMCA-Style’ Safe Harbor in Trade Agreements – TorrentFreak

Author: Ernesto / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: September 21, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Louis Hansel