以下の文章は、TorrentFreakの「Extreme Weather Videographer Faces Copyright Infringement Hurricane」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

大手エンターテイメント企業は、著作権侵害の蔓延にしばしば不満を漏らしている。だが、独立系クリエイターも同様の問題に直面している。異常気象フォトグラファーのブランドン・クレメントは、FacebookやYouTubeなどで数十万回に渡って作品をパクられ、その総再生回数は数十億回に及んでいる。

WxChasingという名前を聞いたことがなくても、たいていの人は同社のビデオを1度以上は目にしたことがあるのだろう。

WxChasingという会社は、受賞歴のあるビデオグラファー、ブランドン・クレメントが一人で運営している。彼は母なる自然の極限状態を撮影することに情熱を傾けている。

クレメントは、大手メディア企業とのライセンス契約や、ナショナルジオグラフィック、Netflix、HBO、BBCなどの報道でも、その分野のトップクラスの実力者であることが認められている。こうした露出をきっかけに、ミシシッピ出身の彼は趣味を仕事にするまでになった。

メディアに映像を売るだけでなく、WxChasingはコンテンツをオンラインで無料公開している。YouTubeチャンネルの登録者数は2万9000人Facebookでは36万8000人のフォロワーを抱えている。

数十億回の不正視聴

多くのクリエイターがこの数字を羨ましく思うかもしれない。だが、本来ならもっと大きい数字だったかもしれない。WxChasingのビデオは、別のチャンネルに無断でコピーされ、それが視聴されていることがほとんどだ。そうした無断使用は、毎日のようにどこかで行われている。

オンラインに投稿されるビデオには、無断でコピーされたものが数多く存在していることは誰もが知るところである。だが、問題はその範囲と規模だ。もちろん、なかには意図せず侵害してしまったものあるのだろうが、システムを悪用して意図的に収益をかすめ取るビジネスも存在している。WxChasing1社だけで、数十億回分の再生数が第三者に奪われている。

その著作権侵害の規模は、独立系クリエイターに対するものとしてはとてつもない規模だった。我々はクレメントが日々繰り広げている著作権侵害との戦いを実際に見せてもらい、圧倒されることになった。ソーシャルメディア上の著作権侵害は、まるで気象現象のように絶え間なく変化を続けている。

「深刻な侵害の大半は、Facebook経由でやってきます」とクレメントは語る。同社はFBの最も高度な著作権管理ツールにアクセスできるという。

1イベント、4万4000コピー

FacebookのRights Managerのインターフェースには圧倒されてしまう。「マッチしたビデオ」と「異議」のリストが延々と続き、時々刻々と追加されていく。クレメントは、この仕事を手伝ってくれる人を探しているという。

ブランドは問題の深刻さを説明するために、同じストームチェイサーであるブライアン・エムフィンガーを例に挙げた。彼は今年はじめ、ピックアップトラックがトルネードにひっくり返され翻弄されるも、運良く元のポジションに戻り走り去る映像をテキサス州で撮影した。この映像は、おそらくエムフィンガーの生涯最高傑作となったと同時に、著作権侵害の嵐を巻き起こすことにもなった。

クレメントは友人を助けることにした。3月、彼はこのイベントの映像2本の権利を購入し、著作権管理システムに追加した。それ以来、Facebookは4万4000件の「マッチ」を報告している。

この2つの動画をパクった上位10のページでは、すでに1億回以上も再生され、「無許可」の再生回数全体の合計は数十億回にも及ぶ。それはたった1度の気象現象で、しかもFacebookだけでの話だ。

「大きい」問題

Facebookは削除専門チームを組織し、ユーザが著作権侵害を阻止できるようにしている。だがそこには、文字通り、大きい問題がある。Facebookはかなり手の込んだ著作権バックエンドを備えているが、著作権の競合があった場合、大規模なページが小規模なページを切り捨てられるようにしているのだ。

「2つのページがRights Manager上でビデオの権利を主張した場合、競合が発生します。その場合、実際の所有権とは無関係に、最も多くのフォロワーを持つページが『所有権を確認する』オプションを持つことになります」とクレメントは説明する。

「これに異議申し立てすることはできず、METAは7日間の待機期間後に、大きい方のページにビデオの管理権を与えるだけです」。

このアプローチは、実質的にクレメントら独立系クリエイターに自らの権利の放棄を強要する。上記の画像は、彼と仲間のストームチェイサーが撮影し、アップロードした2つのビデオである。Facebookによると、最初にビデオを公開したのは彼らだが、現在は「 Sky News Arabia」と「MBC」がこのビデオを所有していることになっている。

「このように、主張者のページのほうが大きいという理由で、私のコンテンツが盗まれ、管理権が譲渡されてしまうわけです。こうしたことが頻繁に起こるようになりました。こうした欠陥システムのせいで、何十本ものビデオの管理権を失いました」。

ライセンスされたビデオまで乗っ取るコピーキャット

コピーキャット(copycats: 模倣犯)はFacebookのエコシステム全体でコンテンツを収益化できるようになるばかりでなく、削除できる権利まで手にすることになる。それは問題をさらに深刻なものにする。つまり、WxChasingが他社にライセンスしたビデオであっても、著作権侵害クレームを送ることができてしまうのだ。

残念ながら、Facebookはこのような紛争を解決するための連絡先を用意していない。ユーザは単にヘルプセクションに誘導され、最終的に「侵害者」と紛争を解決するようアドバイスされるだけだ。だが、この「侵害者」から応答があることはほとんどない。

「誰が一番大きなページを持っているかを見るよりも、もっとよい解決方法があるはずです。なのに、誰が一番大きいかだけが判断基準なのです。大きくなればなるほど、より多くの権利を主張できる。正気の沙汰ではないですよ」とクレメントは不満を口にした。

大規模なページが意図せずコンテンツを乗っ取ってしまうケースもあるが、その一方で、このシステムを意図的に悪用しているとみられる連中も存在している。数百万ドルもの利益を得られるのだから、彼らは喜んで他人のコンテンツをマネタイズするのだろう。

金金金!

Facebookをはじめとするユーザ生成コンテンツ・プラットフォームのシステムが不完全だと批判するのは容易だ。だが、すべての関係者の権利と利益のバランスを取ろうとする彼らとて、厳しい状況に置かれているのである。

クレメントは、そうした状況を理解しつつも、プラットフォームの動機を疑問視する。時おり、彼はいくつかの「裁定」が大規模なページや多数の支持者を抱えるチャンネルに有利に働く傾向があることに気づかされるという。

たしかに、Facebookは度々、フェアユースを理由にコピーされたコンテンツを残す判断を下してきた。このフェアユースの主張は、大規模なページが帰属表示なしにビデオ全体を使用するケースでも適用されている。

「我々がすでに報じたのと同じニュースを報じるといって、(訳注:部分的な)引用ではなく、ビデオ全体を使用するページもあります。しかし、ビデオの冒頭で誰かの話し声が入っていると、Facebookはフェアユースだと言って削除してくれません」とクレメントは指摘する。

さらに別のケースでは、クレメントは1つのFacebookページに20数回にわたって著作権侵害のフラグを立てた。にもかからわず、そのページは現在もオンラインのままだ。

YouTube、Twitter…

こうした問題はFacebookだけに限らず、YouTubeのコンテンツIDでも同様の問題を抱えている。WxChasingは比較的小規模の会社なので、コンテンツIDにアクセスすることはできない。だが、コンテンツID経由で他の会社から彼のビデオにクレームが入ってくることがある。

CollabDRMは、WxChasingのコンテンツにクレームを入れてくる「権利者」の1つで、コンテンツIDシステムをビジネスモデル化しているようだ。

「CollabDRMは、YouTubeのContent IDシステムをすり抜けた無断アップロードを検出し、収益化する」と、同社のサイトにはある。

触れ込みどおりであれば、このシステムは正当な目的で使用できるのだろうが、YouTube上を見渡すとCollabDRMへの不満があちこちに溢れている。クレメントもこれに同意する。彼もCollabDRMから複数回にわたって不正なクレームを受けたという。

クレメントはこうした虚偽のクレームへの対応に加え、YouTubeで自分のビデオの不正コピーに削除要請を送ってもいる。かつては、3回の通知でチャンネルを通知でき、それなりにうまくいっていた。だが、これも次第に暗雲が立ち込めているようだ。

クレメントによると、ある日1つのチャンネルに投稿された6つの侵害ビデオの削除要請を送信したものの、目立った成果は挙げられなかったという。こうした侵害を繰り返す者の中には、100万人以上の登録者を集めるチャンネルもあり、決して些細な問題ではない。

コピー問題を封じ込めるのはかなり難しい。発生から対処までのスピードの問題もあるし、真っ当な大手パブリッシャが不注意に関与してしまうからでもある。

「先日の『ダラスの洪水』では、Twitterにショート版のビデオを投稿しました。このビデオは広く拡散されると思いました。YouTubeチャンネルに誘導したかったので、YouTubeに投稿したフル版へのリンクも貼り付けておきました」と彼は言う。

「すると、2つの別のページがそのビデオをパクってTwitterに投稿しました。ビデオはエンベッドが許可されていたのですが、ワシントン・ポスト、インディペンデント、BBCはパクリの方のビデオをエンベッドして引用したんです。結局、パクられたビデオは200万回再生され、私が投稿したビデオの再生数は1万8000回にとどまりました」

言うまでもなく、ライセンス料に頼るビジネスにとっては好ましい状況とはいえない。真っ当なクライアントが、別のメインストリームアウトレットからタダで素材を入手していることを知れば、その選択を考え直すかもしれない。

状況は悪化する一方

クレメントは削除の効果が次第に薄れていると感じている。彼はソーシャルメディア市場のシェア争いが関係しているのではないかと考えている。

「以前には効果があったのですが、TikTokがソーシャルメディア市場で大きなシェアを占めるようになってからは、もうどうしようもないという感じです。どれだけ侵害通知を送っても、何も起こらないのですから」とクレメントは言う。

「ソーシャルメディアプラットフォームはたいてい、自ら定めた侵害対策ポリシーを守ってはいません。明らかに、コンテンツこそが重要なのであって、海賊版から利益を得ているのです。もっと取り締まるべきです」

クレメントのコメントは、一クリエイターの不満や意見の表明であり、クリエイター全体の意見の総意ではないのかもしれない。だが、著作権侵害の問題が大企業だけの問題ではないことは確かだ。

クレメントは、通常の削除システムを駆使しても、もはや手詰まりに追い込まれている。自ら削除チームを組織すれば少しは楽になるのかもしれないが、それでもコピーキャットや著作権の乗っ取り犯への対処は容易ではない。

最後の手段として訴訟を起こすという選択肢もある。それも簡単な道のりではないが、クレメントは著作権弁護士ら専門家からの提案の前向きだ。

「小規模クリエイターにとって、何億、何十億という再生回数を失うのは、非常に大きな痛手です。1つの動画から再生回数を奪われるだけでなく、サブスクリプションやフォロワーの減少を引き起こします。その結果、同時に再生されていたかもしれないビデオの再生数、登録者数、サブスクリプションも減少します。そうした状況が続くと、小規模なコンテンツクリエイターは、破滅に追い込まれてしまいます」とクレメントは結んだ。

Extreme Weather Videographer Faces Copyright Infringement Hurricane * TorrentFreak

Author: Ernesto Van der Sar / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: October 16, 2022
Translation: heatwave_p2p
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