YouTubeのコンテンツIDシステムは、著作権者を保護することを目的としているが、時に公共の利益を損ねる存在でもある。ドイツの音楽自らの教育的ビデオへの著作権侵害の申立を受けた教授ウルリッヒ・カイザー博士は、ベートベンやワグナーら歴史的作曲家のパブリックドメインの演奏が、YouTubeのアップロードフィルタにおいて安全ではないことを明らかにする実験を行った。
YouTubeは著作権者を保護するため、許可なく投稿されるビデオに著作権侵害のフラグを立てたり、無効にしたりする高度な海賊版検出システムを実装している。
コンテンツIDとして知られているこのシステムは、たいていはうまく機能しているものの、完璧とは言えない。
アップロードされたコンテンツがパブリックドメインであるのか、あるいは『フェアユース』によって保護された利用であるのかを判断できるほどの能力を持ち合わせてはいないのだ。
自動化処理が間違いを起こすのは世の常ではあるが、それが明確なパターンを持つ場合には問題になる。特に、それが明らかに公共の利益に干渉する場合には。
この問題は、ドイツの音楽教授、ウルリッヒ・カイザー博士によって再び強調されることになった。Wikimediaの記事や、それを再編集したArs Technicaの記事のなかで、博士はYouTubeに投稿した自身の教育ビデオに著作権侵害のフラグを立てられた経緯について説明している。
「このビデオは、私のプロジェクトを説明したもので、事例となる音楽をBGMとして流しています。アップロードしてから3分と経たないうちに、コンテンツIDからこの動画に申立があったという通知を受け取りました」とカイザー博士は言う。
しかし、このビデオでの音楽の使用は著作権侵害にあたるものではなかった。17世紀にハインリヒ・ビーバーが作曲し、その音源も1962年に公表されたものであるため、ドイツ法に従えばパブリックドメインとなる。博士がクレームに異議を申し立てると、ビデオはすぐに復旧された。しかし、問題はそれで終わりではなかった。
コンテンツIDプロセスの信頼性に興味を持ったカイザー博士は、テストアカウントを作成し、この現象が偶発的なものなのかを調べることにした。
「元のアカウントとは別に『Labeltest』というアカウントを作り、著作権フリーの音楽の抜粋を共有してみました。するとすぐに、バルトークやシューベルト、プッチーニ、ワグナーといった著作権が存在しないはずの曲にコンテンツIDから通知が届きました」
「YouTubeは何度も何度も、私がはるか昔に亡くなった作曲家の著作権を侵害していると通知してきました。そのすべてがパブリックドメインであるにもかかわらずです」
カイザー博士は、これらすべてのクレームに、いずれの作曲家も古くに亡くなっており著作権侵害にはあたらないと反論した。著作者は遠い昔にこの世を去り、その音源もすべて1963年以前のもの――つまり、ドイツ法ではブリックドメインに該当するものであった。
一方、YouTubeのコンテンツIDはベートーベンの作品も検出したが、こちらは広告がつけられることも、削除されることもなかったという。
「とにかくたくさんの申立を受け取りましたが、ベートーベンの交響曲第5番に関する申立には、次のようなメッセージが添えられていました。『あなたのビデオから、著作権のあるコンテンツが検出されました。申立人はあなたのYouTubeビデオでのコンテンツの使用を許可しました。ただし、広告が表示される場合があります』」
最終的に、カイザー博士はパブリックドメインコンテンツに寄せられた大半のクレームを排除することに成功した。しかし、クレームが取り下げられたにもかかわらず、彼がつけたはずのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが適用できなくなったという。彼が当初目的としていた教育ビデオの共有が俄然難しくなってしまった。
カイザー教授は、コンテンツIDをはじめとするアップロードフィルターによって、文化的・教育的コンテンツの配布に深刻な影響がもたらされる可能性があると結論づけている。
「コンテンツIDのようなフィルターは、大量のユーザ生成コンテンツをホストするプラットフォームにとっては有用かもしれませんが、私の経験が示すように、インターネット上の教育的・文化的リソースの後退を招く重大な欠陥を抱えています」
カイザー博士は、欧州議会議員に対し、広範囲に及ぶアップロードフィルターを義務づける前に、このような悪影響を念頭に置くよう強く求めている。EUのアップロードフィルターに関する投票を数日後に控え、このメッセージは第13条の反対派には音楽を奏でているように聞こえるだろう。
YouTubeを批判するのは簡単だが、このケースでは、一部の出版社がパブリックドメインの作品に著作権を主張していることのほうが大きな問題であろう。もしかすると、いずれYouTubeは間違ったクレームに対するストライクシステムを用意するかもしれない。
Note September 4: 同様の問題がFacebookでも生じている。
Update: 元の記事からは、ビデオが削除されたのかは判断できない。混乱を避けるため、本稿公開後にタイトルを修正した。
Update2: ウルリッヒ・カイザーは、問題のビデオが(いまのところ)削除されていないことをTorrentFreakに確認した。一部、不正確な報道もあるが、ビデオにはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY)を適用できない以外の制限は課せられていない。
カイザー博士がここに記しているように、2つのビデオへの申立を排除できなかったという。
Publication Date: September 3, 2018
Translation: heatwave_p2p
Material of Meader Image: W.J. Baker