以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Happy Public Domain Day 2025 to all who celebrate」という記事を翻訳したものである。
1976年、議会は国の図書館に火を放った。そして1998年、彼らは再び火を放った。2024年の現在、炎は収まり、その灰燼から新しいパブリックドメインが芽吹いている。2025年のパブリックドメインデー、お祝いする人たちへ。
米国の歴史の大部分において、著作権を得るには申請が必要だった。議会図書館に作品のコピーを送付し、登録することで著作権を得ることができたのだ。この手続きを経て、作品に著作権表示をつけられるようになり、許可なくコピーできないことを知らせることができた。また、作品をコピー、改変する許可を得たい場合も、議会図書館で書類を確認するだけで済んだ。
1976年、議会は著作権登録の「形式要件」を廃止するため著作権法を改正した。今や、人間が創作したすべての作品は「固定された瞬間」に著作権が発生することになった――つまり、絵を描いたり、タイプしたり、書いたり、撮影したり、録音したりした瞬間である。幼児の保育園での指絵から地下鉄の車両に描かれたグラフィティまで、あらゆる創造的な行為が突然、財産となった。
しかし、誰の財産なのか? それを見つけ出すのは、作品をコピー、出版、上演、または保存しようとする人に委ねられることになった。登録制度がなくなったため、許可を得るには許可を与えることができる人を探し出す、手間のかかる作業から始めなければならなくなった。議会は巨大な財産権の拡大を制定すると同時に、誰が何を所有しているかを明らかにする所有権登録を廃止したのである。それでも足りないかのように、議会は遡及的に既存の作品の著作権期間に20年を追加した。作者が不明で所在を特定できない作品にまで。
その後20年間、クリエイティブワーカー、アーキビスト、教育者、ファンたちは、この不明確な財産権の体制に苦しんだ。数十年にわたる問題が十分に記録された後、議会は再び行動を起こした。それは事態をさらに悪化させた。
1998年、議会はソニー・ボノ著作権法(いわゆるミッキーマウス保護法、または著作権保護期間延長法)を可決した。1998年の法律は著作権期間にさらに20年を追加したが、それは現在著作権が存続している作品だけではなかった。ディズニーの要求により、議会は実際に作品をパブリックドメインから引き戻し――アンソロジー化され、翻案され、再発行された作品を――2つの20年間、再び著作権下に置いたのだ。著作権は「著者の死後70年」という100年以上の期間に延長された。その後20年間、何も新たにパブリックドメインに入ることはなかった。
パブリックドメインのための戦いの仲間の多くは、2018年にも同じことが起こると確信していた。2010年、電子書籍の発明者であり、Project Gutenbergの創設者であるマイケル・S・ハートと私は、メールで友好的に議論を交わした。彼は2018年に議会が再びパブリックドメインに火を放すことを確信していたが、私は、1998年の法律に対する世論の反発を考えれば、次はないんじゃないかと考えていた。彼は私に「甘い」と言ってきたが、同時に「そうなることを願っている」とも言っていた。
マイケルはついにその日を見届けることはなかったが、2019年、パブリックドメインは再び開かれた。それは信じられないほどの日だった。
デューク大学パブリックドメイン研究センターのジェニファー・ジェンキンスとジェームズ・ボイルほど、我々のか弱く、美しく、豊かなパブリックドメインの運命を見事に記録した者はいない。2010年から2019年にかけて、ボイルとジェンキンスは1998年の法律のせいでパブリックドメインに入らなかった作品を記録し続け、我々の文化的共有財から何が奪われたのかを明らかにしてくれた。残念なことに、その多くの作品が著作権期間の終了を待たずして消滅してしまった。たとえば、サイレント映画の大半は永遠に失われてしまった。
そして2019年、ついにジェンキンスとボイルは本当にパブリックドメインに入る作品を記録できるようになった。そのほとんどは1923年のものだった(著作権は複雑怪奇なので、2019年にパブリックドメイン入りしたものすべてが1923年のものというわけではない)。
https://web.law.duke.edu/cspd/publicdomainday/2019
それ以来毎年、彼らは新たな豊作を祝ってきた。昨年、我々はミッキー・マウスを手に入れた!
https://pluralistic.net/2023/12/15/mouse-liberation-front/#free-mickey
さらに多くの作品、たとえばウルフ、ヘミングウェイ、ドイル、クリスティ、プルースト、ヘッセ、ミルン、デュボイス、フロスト、チャップリン、エッシャーらの作品も加わった。
https://pluralistic.net/2023/12/20/em-oh-you-ess-ee/#sexytimes
2024年はパブリックドメインにとって素晴らしい年だったが――2025年版のパブリックドメインデーにあるように、2025年はさらに素晴らしい。
https://web.law.duke.edu/cspd/publicdomainday/2025
では来年はどのような作品がパブリックドメイン入りするのか? まず、今年の作品がさらに続くことになる。当然ではあるが、ヘミングウェイの最初の本が今年パブリックドメインに入ったなら、来年は次に書いた本が入る(そして彼の悲劇的な死に追いつくまで毎年続く)。
巨匠たちの大ヒット作が追加されていく。たとえば、ウルフの『灯台へ』やヘミングウェイの『武器よさらば』。ジェンキンスとボイルがとくに注目しているのはフォークナーの『響きと怒り』で、そのタイトルはシェイクスピアのパブリックドメイン作品から採られたものだ。彼らが書いているように、フォークナーは後世と文化の本質について雄弁に語った。
「人類」は不滅である。それは生き物の中で唯一尽きることのない声を持っているからではなく、思いやりと犠牲と忍耐の魂、精神を持っているからだ…詩人の声は単に人間の記録である必要はない。それは人間が耐え、勝利するのを助ける支柱、柱の一つとなりうるのだ。
今年のパブリックドメインデーの目玉は、蒸気船ウィリー、つまり原初のミッキー・マウスがパブリックドメインに入ることだった。今年は12本の新しいミッキーの短編が加わる。ミッキーの初のトーキー作品も含まれる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mickey_Mouse_(film_series)#1929
これら12本の短編は、ディズニー スタジオのクリエイティブが爆発していた時代のものだ。初期のミッキーの短編は、新たな著作物とパブリックドメインのハイブリッドだった。それぞれに、当時おなじみのパブリックドメインの曲をベースに、ミッキーはその音楽に合わせて踊るように動いていた(アニメーターたちはこれを「ミッキー・マウシング」と呼んだ)。1929年には、誰もがこんなふううに使える大量のパブリックドメイン音楽があったのだ。
『美しく青きドナウ』、『いいやつみつけた(Pop Goes the Weasel)』、『ヤンキードゥードゥル』、『桑の木の周りをまわろう(Here We Go Round the Mulberry Bush)』、『かわいいアウグスティン』、『Listen to the Mocking Bird』、『A-Hunting We Will Go』、『ディキシー』、『別れたあの娘』、蛇使いの歌として知られる曲、『ライ麦畑を通って(Coming Thru the Rye)』、『メリーさんのひつじ』、『オールド・ラング・サイン』、『アロハ・オエ』、『藁の中の七面鳥1訳注:日本では「オクラホマミキサー」と言われている曲』、『マイ・ボニー』、『カルメン』からの『ハバネラ』と『闘牛士の歌』、リストの『ハンガリー狂詩曲第2番』、『おやすみなさい(Goodnight, Ladies)』。
いずれも当時は新しめの作曲で、「The Barn Dance」、「The Opry House」、「The Jazz Fool 」などのミッキーの短編を見に子どもを映画館に連れて行った両親や祖父母の時代に作られ、人気を博した曲だった。そうした音楽を盗めたことが、ミッキー・マウスとディズニーの成功の鍵だったのだ。過去半世紀にわたってパブリックドメインを閉ざしたことで、どれだけ多くのミッキーやディズニーを失ってきたことか!
今年、我々は素晴らしい古き音楽を新たにパブリックドメインに加える。著作権期間の複雑さにより、1929年の作曲はパブリックドメインに入るが、録音物は1924年になる。1924年の傑出した録音には以下のものがある。
ジョージ・ガーシュインによる『ラプソディ・イン・ブルー』の演奏、ジェリー・ロール・モートンの『シュリーブポート・ストンプ』の演奏、そして公民権運動のアイコンであるコントラルトのマリアン・アンダーソンの初期の録音。アンダーソンは1939年にリンカーン記念堂で75,000人以上の人種統合された観客の前で行った演奏で有名だ。アンダーソンの1924年の録音はスピリチュアル『誰も知らない私の悩み』である。
作曲には『雨に唄えば』、『浮気はやめた』、『パリのアメリカ人』、『ボレロ』、『ブラック・アンド・ブルー』、『チューリップ畑をつまさきで』、『Happy Days Are Here Again』、『恋とは何でしょう』、『Am I Blue?』など、さらに多くの曲が含まれる。
芸術の分野では、サルバドール・ダリの『照らし出された快楽』、『欲望の適応』、『大自慰者』など、最初期のシュルレアリスムの傑作が加わる。ダリの同時代人たちはそれほど幸運ではない。1世紀を経て、マグリットの初期作品の歴史は非常に不明確で、著作権の有無を判断することは不可能だ。
しかし、制作年が明確な芸術作品も多く、今年パブリックドメインに迎えることができる。最も注目すべきは、ポパイとタンタンだ。最初のポパイとタンタンの漫画がパブリックドメインに入るとともに、それらのキャラクターもパブリックドメイン入りする。
作品に登場するフィクションのキャラクターが、登場する物語とは別に著作権を持つという考えは比較的新しく、奇妙で、じつに愚かなものだ。裁判所はバットモービルが著作権を持つキャラクターだと判断した(バットマンは2035年までパブリックドメインに入らない)。
キャラクターの著作権というのは、非常に不明確で、乱暴で、奇妙な考えだ。この愚かさが最も明確に表れた例が、シャーロック・ホームズである。そのカノンは長年にわたっている。ドイル家――レントシークな著作権トロールを――は、すべてのホームズの物語がパブリックドメインに入るまで(ちなみにそれは今年だ!)ホームズはパブリックドメインに入らないと主張した。
この主張は通らなかった。そこで彼らが繰り出してきた次の一手は、後の物語で見られるようになったホームズの性格に対する著作権を主張することだった。たとえば、ホームズは後の物語まで思いやりを示さなかったと主張し、その主張に基づいて、完全なクソ野郎ではないジェンダースワップされたシャーロックを描いたドラマ『エノーラ・ホームズの事件簿』の制作者を訴えたのだ。
エノーラの弁護士たちが準備書面で指摘したように、これは感情に対する著作権を主張するに等しい。「著作権法は、暖かさ、優しさ、共感、尊重といった一般的な概念の所有権を認めていない。それがパブリックドメインのキャラクターによって表現されたものであっても――そのキャラクターは当然、原告ではなくパブリックに属している」
昨年ミッキーがパブリックドメインに入った際、ジェンキンスはミッキーのキャラクターとデザインのどの側面がいつ生まれたのかについて、優れた深い考察を行った。
https://web.law.duke.edu/cspd/mickey
ジェンキンスは今年のタンタンとポパイのパブリックドメイン入りを機に、キャラクターの独占問題についてさらに掘り下げている。
著作権がキャラクターにも及ぶとはいえ、それはキャラクターの「著作権で保護できる」部分だけをカバーするに過ぎない。エノーラの弁護士たちが書いたように、一般的なキャラクター特性(年齢、感情の雰囲気など)は保護されない。また、「些細」または「微細」なものも保護されない――たとえば、漫画家がキャラクターの瞳や目の描き方を少し変更しても、それは些細な詳細であり、著作権で保護される要素ではない。
パブリックドメインのキャラクターを使用する上で最大の障害は著作権ではなく、商標だ。商標は著作権とは大きく異なる。根本的に、商標は競合他社による欺瞞から消費者を保護する権利だ。Cokeは商標を使ってPepsiが砂糖入り飲料をCokeの缶で販売するのを止めることができる――だがそれは、「Coke」という言葉やCokeのロゴを所有しているからではなく、Cokeを飲もうとしているユーザが、アメリカ帝国主義の黒い水の真の味ではないものを買わされるのを防ぐ権限を与えられているためだ。
企業は漫画のキャラクターに対する商標を常に主張し、食品、衣類、おもちゃなどにそれらの商標のライセンスを与えている(ポパイのキャンディーシガレットを覚えているだろうか?)。
実際、Hearst Holdingsは漫画、遊園地、広告、衣類など、多くの伝統的なカテゴリーでポパイの商標を主張している。彼らは現在、ポパイのNFT商標の申請まで進めている(わらい)。
これは、ポパイをそのような方法で使用できないということを意味するのだろうか? 否! ポパイの使用が非公式であり、Hearstとは関係がないことを目立つように記載し、混同の可能性を払拭しさえすればいい。最高裁判所の全会一致の判決(Dastar事件)がその権利を認めている。Rogers v Grimaldiの判例のおかげで、非公認のポパイ漫画のタイトルにもポパイを使用できる。
これはすべてタンタンにも当てはまる――これは大きな意味を持つ。タンタンは、ファンアーティストを残虐に脅かすことを喜ぶ悪名高い著作権のいじめっ子に管理されているからだ。タンタンは、同じく古い時代のキャラクターで、その所有者が卑劣なレントシーカーであるバック・ロジャースとともに、パブリックドメインに入る。
議会は1976年にパブリックドメインを生き埋めにし、1998年にその墓に砂利を山積みしたが、奇跡的に我々はパブリックドメインを掘り出すことができた。それは蘇生され、すくすくと育っている。
2024年には、パブリックドメインの『オズの魔法使い』を原作とした映画『ウィキッド ふたりの魔女』が公開され、ヒットした。また、トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』をハックの奴隷の相棒の視点からリメイクされた小説『James』が出版され、好評を博した。
こうでなくちゃいけなかった。太古の昔から芸術はこうやって作られてきたのだ。パブリックドメインのない40年間の実験は、これ以上続いていたら取り返しのつかないことになっていたタイミングで、ようやく終わりを告げた。
2025年のパブリックドメインの可能な限り完全なリスト(マルクス兄弟の『ココナッツ』、ディズニーの『骸骨の踊り』、デル・ルースの『ブロードウェイ黄金時代』を含む)はここで確認できる。
https://onlinebooks.library.upenn.edu/cce
Pluralistic: Happy Public Domain Day 2025 to all who celebrate (17 Dec 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: December 17, 2024
Translation: heatwave_p2p