立憲民主党所属の松平浩一衆議院議員、希望の党所属の城井崇衆議院議員が、政府がISPに海賊版サイトをブロッキングするよう「事実上の要請」を出した件について政府に質問している()。両質問とも12日に提出されたもので、毎日新聞の当初の報道を受けて「政府要請」という前提で質問がなされている。

いずれの回答を見ても、政府はあくまでも「民間事業者による自主的な」ブロッキングが実施されるよう、政府の認識を示し、環境を整備したにすぎず「要請」ではないと強弁し、「要請」ではないのだからと具体的な回答を拒んでいる。回答もテンプレ回答のみで、ブロッキングの法的根拠や制度上の評価、有効性の評価などについての質問には一切答えていない。

少なくとも政府回答から読み取れるのは、政府は「おきもち」を表明したに過ぎず、それに「忖度」してブロッキングを実施したISPが違法性を問われたところで、それはISPの自己責任であり、政府が検閲を要請したなどということにはならない、という理屈なのだろう。

衆院ウェブサイトがだいぶ見にくいので、以下、質問と回答を対応させたかたちで転載することにする。

松平浩一議員の質問主意書と政府回答

報道によると、政府は国内に拠点を置くインターネット接続業者(「プロバイダ等」という)に対し、ネット上で漫画や雑誌を無料で読めるようにしている海賊版サイトにつき、著作権侵害を理由として接続を遮断する措置(「ブロッキング」という)を実施するよう要請(「本件要請」という)する調整に入ったと報じられている。

一方で、海賊版サイトへのブロッキングをめぐっては、憲法で保障された「通信の秘密」「検閲の禁止」に反するという指摘が、かねてよりあがっている。また、電気通信事業法でも、プロバイダ等は「通信の秘密」を侵してはならない、と定められている。

以上を前提に、以下質問する。

質問

  • 本件要請を行う主体や手続き、法的根拠ついて明らかにされたい。
  • 本件要請はブロッキングの対象となる具体的サイトのURL等を特定する形で行うのか。仮に本件要請が、具体的サイトのURL等を特定した要請であり、またそれがプロバイダ等に対して強制性を帯びることがあれば、憲法によって禁止される検閲に該当する虞があると思料するが、政府の見解はどうか。
  • 本件要請に基づくブロッキングは、電気通信事業法に定める通信の秘密侵害罪(電気通信事業法第四条、第百七十九条)の構成要件に該当すると思料するが、政府の見解はどうか。
  • 本件要請に基づくブロッキングは、緊急避難(刑法第三十七条)として違法性が阻却されるための要件である現在の危難、補充性、法益権衡の要件を充たすものでないと思料するが、政府の見解はどうか。仮に充たすとの見解である場合、その根拠をご説明いただきたい。
  • 今後、著作権のみならず他の権利侵害(名誉毀損、プライバシー侵害等)にもブロッキングの要請の範囲を拡大していくことを視野に入れているか。
  • 本件要請は、通信の秘密や検閲の禁止を定めた憲法第二十一条を侵害する虞がある要請であり、国民の基本的権利にかかわる重要な問題であるため、民主的な手続きと立法府での慎重な議論を踏まえた検討が必要と考えるが、政府の見解はどうか。

政府回答

御指摘の「本件要請」及び「ブロッキングの要請」の意味するところが必ずしも明らかではなく、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、本年四月十三日の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で決定した「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」(以下「緊急対策」という。)において、「特に悪質な海賊版サイトのブロッキングに関する考え方」、「著作権侵害サイトブロッキング対象ドメインについての考え方」(以下「対象ドメインについての考え方」という。)、「国民レベルでの海賊版対策の著作権教育の重要性」等について整理し、また、いわゆる「ブロッキング」について「極めて重大な被害を拡大させている特に悪質な海賊版サイト以外の、違法・有害情報一般に関する閲覧防止措置として濫用されることは避けなければならない」と整理することにより、現下の特に悪質な海賊版サイトによる著作権者等の権利の深刻な侵害の更なる拡大を食い止めるため、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として、民間事業者による自主的な取組が実施され得るよう、その環境を整備したところである。

質問

  • 本件要請に基づきプロバイダ等がブロッキングを実施した場合、プロバイダ等に対して通信の秘密侵害罪の刑事告訴若しくは刑事訴追の可能性があり、また民事上の責任が生じる可能性があるが、当該責任はプロバイダ等が自ら負うという理解か。

政府回答

御指摘の「本件要請」の意味するところが必ずしも明らかではなく、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、緊急対策を踏まえ、「海賊版サイトのブロッキング」については、対象ドメインについての考え方に沿って、あくまで民間事業者による自主的な取組として適切に実施されることが必要となると考えている。

質問

  • 主要二十カ国・地域(G二〇)において、議会での立法又は裁判所の判断に基づかず、行政がプロバイダ等にブロッキングを要請又は命令している例があるか。仮にないとすれば、その理由についてどのように分析しているか。

政府回答

お尋ねについては、各国等の制度の詳細な調査に時間を要するため、お答えすることは困難である。

城井崇議員の質問主意書と政府回答

質問

  • 菅官房長官より「サイトブロッキングを含めて可能性を検討している」との発言があった。サイトブロッキングについて、現時点で政府が検討している具体的内容について明らかにされたい。
  • 憲法第二十一条は「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定めている。電気通信事業法第四条は「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と定め、同法第百七十九条は通信の秘密の侵害に対して罰則を科している。サイトブロッキングは、問題のあるサイトへ接続しようとした利用者だけでなく、全ての利用者の通信の秘密を知得し、窃用することで接続を遮断するものであり、通信の秘密の侵害に該当する恐れがあると考えられる。刑法第三十七条に定められる緊急避難によって、サイトブロッキングの違法性が阻却されるとの見解があるが、現在の危難、補充性、法益権衡などの要件を満たさない場合には違法性は阻却されないため、通信の秘密の侵害に該当する恐れがあると考えられる。現時点で、政府において検討されているサイトブロッキング要請の、法的な根拠について、政府の認識を明らかにされたい。
  • サイトブロッキングは、通信の秘密や通信の自由を侵害し、憲法第二十一条の定める「検閲は、これをしてはならない」に該当する恐れがある。法治国家原理から逸脱しないためにも、政府は、サイトブロッキング要請を行う場合には、そのための要件や手続きについて法令による慎重な制度を整備することが必要であると考えるが、政府の認識を明らかにされたい。
  • サイトブロッキングの対象は、どのような基準によって選定されるのか。また、緊急避難を理由に、政府の要請でサイトブロッキングの対象範囲を拡大し、遮断を求められる事態が起きかねないとの指摘がある。緊急避難を理由に、政府の要請で、サイトブロッキングの対象範囲を拡大し、遮断を求めることがあるのか。政府の認識を明らかにされたい。

政府回答

御指摘の「サイトブロッキング要請」及び「政府の要請」の意味するところが必ずしも明らかではなく、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、本年四月十三日の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で決定した「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」において、「特に悪質な海賊版サイトのブロッキングに関する考え方」、「著作権侵害サイトブロッキング対象ドメインについての考え方」、「国民レベルでの海賊版対策の著作権教育の重要性」等について整理し、また、いわゆる「ブロッキング」について「極めて重大な被害を拡大させている特に悪質な海賊版サイト以外の、違法・有害情報一般に関する閲覧防止措置として濫用されることは避けなければならない」と整理することにより、現下の特に悪質な海賊版サイトによる著作権者等の権利の深刻な侵害の更なる拡大を食い止めるため、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として、民間事業者による自主的な取組が実施され得るよう、その環境を整備したところである。

質問

  • 現在、児童ポルノに関するサイトブロッキングで多く用いられているDNSブロッキング方式は、利用者に知識があればサイトブロッキングを回避することができるとの指摘がある。そのため、DNSブロッキング方式によるサイトブロッキングを実施した場合の効果は十分ではないことが懸念される。電気通信事業者に生じる運営面の負担や、サイトブロッキングに関する訴訟提起や刑事告訴、刑事訴追の恐れなども踏まえ、サイトブロッキングにおけるDNSブロッキング方式の有効性について、政府の認識を明らかにされたい。

政府回答

いわゆる「ブロッキング」の方法を含め、その実施については、民間事業者において自主的に判断されるものと考えており、お尋ねの「サイトブロッキングにおけるDNSブロッキング方式の有効性」について、政府としてお答えする立場にない。

補足

立憲民主党所属の逢坂誠二衆議院議員も同様の質問趣意書を提出しているが、こちらは4月13日の政府方針の決定を受けてのものとなっている。現時点で政府回答は掲載されていないが、こちらも公開が確認でき次第、転載する。ただ、上記の回答を見る限り、責任のある回答は期待できないが。

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