以下の文章は、電子フロンティア財団の「Platform Liability Trends Around the Globe: From Safe Harbors to Increased Responsibility」という記事を翻訳したものである。
本稿は、世界各国の仲介事業者責任法制を調査した全4回シリーズの第1回である。その他の記事は以下からご覧いただきたい。
その他の記事は以下からご覧いただきたい。
世界中のインターネットユーザのほとんどは、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)や検索エンジン、ソーシャルメディア・プラットフォームなどのオンライン仲介事業者と日常的に関わっている。こうした企業は、情報へのアクセスを可能にし、世界中の人びとをつなぐ重要な役割を担い、経済成長のイノベーションの原動力にもなっている。
したがって、仲介事業者にオンライン市場やプラットフォームを管理させるための政策は、ユーザの社会的・経済的・政治的生活を大きく左右する。つまり、その政策は、表現の自由、結社の自由、プライバシーの権利など、ユーザの基本的人権に大きな影響を及ぼすのである。
現代社会における仲介事業者の役割がますます強力になるなか、その政策をめぐってさまざまな懸念が浮上している。その1つは、ユーザや第三者によって生成・共有されるコンテンツ・活動が引き起こす被害についてオンライン仲介事業者の法的責任をどう定義するか、である。
我々は、世界中の政府が強引な仲介事業者規制アプローチを採用しだしていることを懸念している。今日の政策立案者は、プラットフォームに違法コンテンツの検知・削除を求めるだけにとどまらず、適法ではあるが望ましくない、あるいは「有害な」コンテンツの削除まで要求するようになってきている。
近年、世界各国の政府が「有害」コンテンツ対策を提案しはじめている。だが、それらは危険なほど見当違いであり、必然的に適法かつ有益な表現の検閲を引き起こしかねない提案である。オンライン仲介事業者を規制する厳しい責任法は、プラットフォームにユーザの行動を積極的に監視させ、ユーザのコンテンツをフィルタリングによってチェックさせ、法的責任を問われないように議論を呼ぶもの、不快なもの、または違法となりうるコンテンツを削除したりフィルタリングするよう促すのだ。このような提案の事例については本シリーズの第3回で説明しよう。
広範囲かつ曖昧なモデレーションの義務、分析には不十分なほど短い対応期限、推測が外れた場合に直面する法的責任の重さゆえに、企業は必然的に過剰に検閲せざるを得なくなる。厳しい規制下でのプラットフォームのモデレーションは、ユーザに芸術表現・政治表現によってネガティブな結果がもたらされるかもしれないとの懸念を植え付け、自己検閲を引き起こすことにもつながる。さらに、法的保護が十分でなければ、サービス・プロバイダはユーザを黙らせようとする政府、企業、悪質業者の標的にされることにもなる。
今後数年間、現代インターネットを支えてきた中心的なルールを左右する年になるだろう。このような観点から、我々はこの4回シリーズ「プラットフォームの責任に関するグローバル・トレンド」を提供することで、世界的な仲介事業者責任規制というジャングルをナビゲートしたい。
第1回となる本稿では、背景となる情報を提供し、仲介事業者責任法へのアプローチにおける世界的な変化を探っていく。第2回では、仲介事業者責任に対するさまざまなアプローチを取り上げ、政策立案者が採用しうる規制の「ダイヤルとノブ」を探る。第3回では、世界各地で見られている新たな動きに注目する。そして最後となる第4回では、EFFの見解を掘り下げ、グローバルな仲介事業者責任政策の未来を考える上で、いくつかの提言を提示する。
仲介事業者責任法の歴史
まず、仲介事業者責任法の概要と、それが生み出された政治的背景、そしてそれを取り巻く今日の政治的言説の言説の変化について簡単に説明しよう。
一般に、仲介事業者責任法は、ユーザを始めとする第三者が作成・共有するコンテンツによって引き起こされる被害に対するオンラインサービス提供者の法的責任を定めた法律である。
仲介事業者責任法の多くは、ユーザが投稿したコンテンツに起因する法的責任から仲介事業者を保護するという中心的機能を有しているという点で共通する(この免責またはセーフハーバーの範囲については、本シリーズで後述するように、法域によって異なる)。こうした法律は、現代社会における基本的人権の行使において、オンラインサービスプロバイダが担う役割の重要性を認めている。
1990年代には、インターネットプラットフォームが、ユーザの言動によって引き起こされた被害に関連して提訴されることが多発したことから、特定の責任ルールの策定が急務となった。こうしたインターネット仲介事業者を訴訟ターゲットにするトレンドは、黎明期に見られたインターネット経済への投資リスクの増大、ユーザや企業の法的不確実性、国や地域による法体系の分断など、さまざまな問題を引き起こすことにもなった。
そうしたトレンドに対処するため、世界中の立法者がインターネット仲介事業者に対するセーフハーバーをはじめとする責任制限を導入した。セーフハーバー法は、仲介事業者を法的責任から保護するために、(1) 経済活動とイノベーションの促進、(2) インターネットユーザの言論の自由の保護、(3) 仲介事業者による違法コンテンツへの自主的取組と被害防止のための行動を促すことの3つの目標を掲げている。
論調の変化――免責から責任へ
現代のオンライン環境は初期の規制が制定された時代とは様変わりした。にも関わらず、上述した3つの目標は、いささかも古びてはいない。今日、一握りの企業がインターネット上でグローバルかつ圧倒的なプレイヤーとして振る舞い、それ自体がエコシステムとなっている。
「ビッグテック」による支配を解消するための処方箋は数多く存在する。EFFは長年、ビッグテックの過剰な市場支配力を抑制するための答えとして、相互運用性とデータポータビリティを提唱してきた。免責は「テック企業への贈り物」などではなく、むしろユーザがさまざまなサービスを利用し、インターネット上で言論やコンテンツを共有できるようにすることを保証するために必要なのだ。にも関わらず、免責は支配的プラットフォームに不当な優位性を与えているとの見方も一部にはある。
政治的な議論も大きく様変わりした。インターネットの仲介事業者、とりわけソーシャルメディア・ネットワークは、無数の議論が行われる空間であり、いまやソーシャルメディア自体が議論の的になることも珍しくない。近年では、2016年米国大統領選挙への外国からの干渉、ケンブリッジ・アナリティカ・スキャンダル、ミャンマー・ロヒンギャの民族浄化、2018年クライストチャーチのモスク銃撃事件、ブラジル・インド・米国などで見られた選挙の完全性を脅かす誤情報の拡散などの世界的大事件によって、ソーシャルメディア・プラットフォームのあり方に関する注目が高まっていった。
誤情報・ネットいじめ、オンライン・ヘイトスピーチといった繰り返される問題へのプラットフォームの対応が不十分だという認識が市民にも政治家にも広まった結果、オンラインの仲介事業者に監視の目が向けられるようになったのである。この「テックラッシュ」は、オンラインの仲介事業者に対する厳しい規制を求める声を生み出すことにもなった。
近年の議論では、民主主義社会のオンライン仲介事業者が担う公的役割の道徳的・倫理的議論に立脚したプラットフォームが負うべき義務に焦点が移ってきている。政治家たちは、免責がもたらす効用・福祉のアプローチには目もくれず、ますます責任を負わせなければならないと考えるようになった。多数の人びとが相互コミュニケーションのためにプラットフォームに依存し、またプラットフォームが極めて強力に見えるため、オンライン・プラットフォーム、とりわけソーシャルメディア・サービスは、公共の利益に責任を負うゲートキーパーとみなされるようになってきている。
現代の文化的・倫理的規範に対応するよう仲介事業者に求める期待は、プラットフォームがもっと「責任」を負うべきだという考えに基づいて、2つの関連した政策反応を引き起こしている。1つは、企業の社会的責任や仲介事業者の自己改善に頼るアプローチであり、もう1つは、プラットフォームに適切なガバナンス構造を構築させ、ユーザの不品行への対応を法的に義務づけるアプローチである。あるいは、プラットフォームが有害コンテンツ対策に有効な自主的行動をとり、人権と整合性のあるモデレーションの枠組みを採用するよう求める提案もある。さらに強行かつ危険な政策提案として、アップロードフィルタや事前的監視の義務化が検討されてもいる。
EFFはこれまで、この責任・免責をめぐる規範の変化に対応したガイダンスを提供するための取り組みを続けてきた。2015年、我々は国際的連帯の一員として、国際人権法などの国際的な枠組みに基づく基本的なセーフガードとベストプラクティスのフレームワークである「インターネットの責任に関するマニラ原則」の立ち上げに貢献した。続いて2018年、EFFとそのパートナーは「コンテンツモデレーションの透明性と説明責任に関するサンタクララ原則」を立ち上げ、仲介事業者により良いプラクティスを自主的に採用するよう呼びかけた。2021年には、異なるコミュニティ、市場におけるプラットフォームのデュープロセスと透明性の実践における本質的な不公平に対処すべく、サンタクララ原則の改訂版が策定された。この改定にあたり、サンタクララ原則連合は、世界の幅広いステークホルダーからの意見を求めるパブリックコメントを開始した。40ヶ国以上からフィードバックが寄せられ、2021年12月にサンタクララ原則の第2版が発表された。
仲介事業者規制をめぐる現在の政治情勢や市場環境の変化は、現在のセーフハーバー法制の基盤である基本的な理念を変えていってしまうかもしれない。EFFは、こうした変化が滑り坂効果(slippery slope)をもたらすおそれがあると考えている。より厳格な責任体制の結果として、インターネット仲介事業者のセーフハーバーが失われ、最終的に世界中のインターネットユーザの表現の自由やその他の権利を侵害するかたちで、仲介事業者の行動が再形成されてしまうことを我々は懸念している。。
これらのテーマは、全4回の「プラットフォームの責任に関するグローバル・トレンド」シリーズの中でより詳細に検討していく。プラットフォーム規制のトレンドについて最初の分析を実施した元EFFメルカトル・フェローのスヴェア・ウィンドヴェアと、本シリーズの執筆に協力してくれた元EFFインターンのサーシャ・マシューに感謝する。
Platform Liability Trends Around the Globe: From Safe Harbors to Increased Responsibility | Electronic Frontier Foundation
Author: Christoph Schmon and Harley Pedersen
/ EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: May 19, 2022
Translation: heatwave_p2p