以下の文章は、電子フロンティア財団の「Platform Liability Trends Around the Globe: Taxonomy and Tools of Intermediary Liability」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

本稿は、世界の仲介事業者責任法について調査した全4回シリーズの第2回である。その他の記事は以下のリンクからご覧いただきたい。

世界中の立法者たちが厳格なプラットフォーム規制を採用しはじめたことで、グローバルな仲介事業者責任法の網はますます広大かつ複雑になってきている。そこで本稿では、仲介事業者責任に関するさまざまなアプローチを解説する。また。ダフネ・ケラーの仲介事業者責任のツールボックスに沿って、仲介事業者責任法の典型的な構成要素と、立法者が規制の効果を調整するためのさまざまな「ダイヤルとノブ」についても紹介したい。

仲介事業者責任のスペクトル

(訳注:仲介事業者の法的な)責任それ自体は、救済措置の観点から、金銭的責任と非金銭的責任に大別される。金銭的責任は請求者に補償的損害賠償を与えるもので、非金銭的責任は仲介事業者がそのサービスの利用を通じて行われた不正行為に措置を講じるよう求める命令(通常、何らかの行為の禁止や抑制というかたちをとる)を可能にする。

金銭的救済は、仲介事業者の責任(厳格責任から、過失に基づく責任、知識に基づく責任、裁判所命令に従う責任、完全な免責までの範囲)に基づいて行われる。このスペクトルに沿ってさまざまな規制手法が出現している。規制当局が特定の問題に対処するために、試行錯誤で規制のダイヤルとノブを調整しているためだ。

多くの規制のフレームワークは明確ではなく、適用に裁量と柔軟性を認めているため、本稿で紹介するカテゴリは一般的なコンセプトとして理解していただきたい。

厳格責任制度の下では、オンライン仲介事業者は、仲介事業者側の過失や不正行為に関する知識の如何によらず、ユーザの不正行為の責任を負うことになる。厳格責任制度では、仲介事業者自身が不正行為を行ったわけでなくても責任を負わされるおそれがあるため、仲介事業者は過度に慎重になり、ユーザコンテンツ全体を監視し、違法と思われるコンテンツを「過剰に」削除することで、クレームから逃れようとする傾向がある。したがって、厳格責任制度は、仲介事業者に有害でないコンテンツであっても検閲するよう促し、オンラインの言論を著しく抑圧する結果を招く

過失に基づくアプローチは、仲介事業者が特定の「デューデリジェンス」義務や注意義務を果たさない場合に責任を課す。たとえば、仲介事業者は、ある種のコンテンツを特定の期限内に削除する義務、または、その(再)出現を防止する義務を負うことがある。一例を上げれば、英国のオンライン安全法案は、広範かつ主観的な被害の概念に基づく注意義務を課しており、その結果として、プラットフォームはユーザコンテンツの一般監視を事実上義務づけられるおそれがある。過失に基づく責任は、英国のモデルと同様に、個々のコンテンツに対する対処ではなく、コンテンツ・モデレーションに対して体系的なアプローチをとっている。

このような責任アプローチの下で要求される注意義務は、過失(通常人の行動によって規定される過失)から無謀(合理的行動からの明らかな逸脱)まで連続的に変化しうる。過失に基づく責任制度は、実質的に何らかのユーザ監視を必要とする可能性が極めて高く、システム的なコンテンツの過剰削除、望ましくはないが完全に適法なコンテンツの削除につながるおそれがある。

知識に基づくアプローチでは、仲介事業者が違法コンテンツの存在を認識していたり、違法行為に気づいている場合に、侵害コンテンツに対して責任を負わせる。一般に、知識に基づく責任システムは通知と削除(notice and takedown)のシステムを通じて運用されるため、全体的な一般監視を必要としない。通知と削除のシステムにはさまざまなタイプがあり、その設計もさまざまである。何をもって有効な通知とするか、あるいは何をもって仲介事業者側の知識を構成するかという問題も重要となるが、この問いに一貫した答えがあるわけではない。たとえば、(訳注:プラットフォームが侵害コンテンツの責任を負う状況について)違法性が「明白」でなければならない、つまり素人目に見ても明らかに違法でなければならないと定めている法域もある。EUの電子商取引指令は、知識に基づくシステムの顕著な例といえるだろう。仲介事業者が違法なコンテンツや行為を(訳注:個別に)認識していなければ、それに対処しなかったことについて責任を問われることはない。したがって、仲介事業者が実際に何を知っているかが重要なのであって、過失に基づくシステムのようにプロバイダが何を知り得たか、あるいは知るべきだったかが問われるわけではない。だが、欧州委員会のデジタルサービス法案では、従来のEUのアプローチからさらに踏み込み、適切に立証されたユーザからの通知は、その対象となるコンテンツに関する実際の知識を自動的に生じさせると規定する「建設的知識(constructive knowledge)」を確立した。つまり、プラットフォーム・プロバイダは、実際に認識していたかどうかに関わらず、通知によって反論の余地なく違法なコンテンツや行為について知っていたと推定されることになる。最終合意では、通知によって、勤勉なプロバイダが詳細な法的検証を行わずにコンテンツの違法性を特定しうるかを考慮しなくてはならないとされた。

EFFをはじめとするNGOが策定したマニラ原則は、仲介事業者の責任に関するルールの最低限のグローバルスタンダードとして、裁判所の命令の重要性を強調する。このスタンダードでは、裁判所によってコンテンツが違法であると完全かつ最終的に判断され、その削除を適正に命じたのでなければ、仲介事業者に責任を負わせることはできないとしている。問題のコンテンツが違法であるか否かの判断は、公正な司法当局に委ねられなければならないのである。したがって、仲介事業者は、ユーザから私的な通知を受領したという理由だけでコンテンツを削除しないことを自ら選択したとみなされ、免責の保護を剥ぎ取られてはならないし、具体的な是正措置を命じていない裁判所命令を知ることに責任を負わされるべきでもない。仲介事業者にコンテンツ制限を命じられるのは、独立した裁判所による命令に限定されねばならずで、仲介事業者に課される責任はいかなるものであれ、コンテンツ制限命令に適切に従わない仲介事業者の不当な行為に比例し、直接に関連するものでなければならない。

ユーザ生成コンテンツに対する免責は、依然としてかなり稀である。だが、こうした免責は、ユーザコンテンツの事前監視を事実上要求したり、そのように仕向けるインセンティブを設けるものではないため、表現の保護に資する。米国の(訳注:米通信品違法)230条は、連邦刑法、知財法、電子通信プライバシー法の違反については免責されないが、仲介事業者がユーザ・コンテンツに対する責任を一定程度免除されるという、免責に基づくアプローチの最も明確な例を示している。230条(47 U.S.C. § 230)は、オンラインの表現の自由とイノベーションを保護する最重要の法律の1つとなっている。プラットフォームの規模が大きくなればなるほど、公開前の事前監視は事実上で不可能あるが、230条はその負担を取り除くものであり、その結果として、議論や政治的言論も含むユーザ生成コンテンツをホスティングするサイトやサービスの存続が可能になっているのである。したがって、230条はユーザ自身が小規模なサイトやサービスを立ち上げなくてもアイデアの共有を可能にしているのである。

仲介事業者責任のツールボックス

通常、仲介事業者責任法は、危害の防止、言論・情報へのアクセスの保護、イノベーションと経済成長の促進という3つの目標のバランスをとることを目的に掲げてている。これらの目標を達成するために、立法者は仲介事業者責任法の主要な構成要素をさまざまな方法で組み立てている。一般に、その構成要素はセーフハーバー、通知と削除のシステム、デュープロセス義務、サービス利用規約の執行などで構成されている。さらに、ダフネ・ケラーが指摘するように、こうした法律の影響は、法律の範囲、知識の構成要素、通知と措置のプロセス、「良きサマリア人条項」など、さまざまな「規制のダイヤルとノブ」を調整することで管理できる。さらに近年、残念なことに、市民社会団体国際人権機関から人権への脅威が懸念されているにも関わらず、監視やフィルタリングなどを含むプラットフォームの義務を拡大しようとする政府が後を絶たない。

それでは、仲介事業者責任に関するルールを策定する前に、立法者が採用しうる主な手段を見ていこう。

セーフハーバーは、ユーザが投稿したコンテンツへの責任を免除するものである。セーフハーバーは一般に、限定的かつ条件つきで適用される。たとえば米国では、230条の免責は連邦刑事責任や知的財産権に関するクレームには適用されない。EUの知識に基づく責任アプローチは、条件つきセーフハーバーの一例である。プラットフォームが違法なコンテンツに気づいていながら、それを削除しなかった場合に、免責を失うことになる。

大半の仲介事業者責任法は、プラットフォームに侵害コンテンツや違法コンテンツの積極的な監視を明示的に求めることを控えている。プラットフォームに自動フィルタリング・システムの使用やオンラインでのユーザの発言・共有の取り締まりを求めないことは、ユーザの表現の自由に対する重要な保護措置と考えられている。だが多くの法案はフィルタリングシステムを導入するようインセンティブを与えており、批判を浴びている最近の立法措置では、特定のコンテンツの拡散を防ぐための体系的な対策を講じるよう要求したり、拡散した疑わしいコンテンツに積極的に対処することを求めるなど、憂慮すべきものも見受けられる。こうした規制の動きについては、本シリーズの第3回で紹介する。プラットフォームがその存在を認識した時点で違法コンテンツに対処しなければならない法域もあるが、表現の自由の保護に重きを置く法域では、コンテンツの削除に裁判所や政府の命令が必須とされている。

法律がユーザ生成コンテンツへの完全な免責を定めていない場合、仲介事業者はしばしば自主的に「通知と対処(notice and action)」の手続きを定めている。EUの電子商取引指令(および通知と削除の手続きまでを定めたデジタルミレニアム著作権法(DMCA)512条)では、サービスプロバイダは、ある種の責任からの保護と引き換えに、違法とされるコンテンツの存在を通知された時点で、そのコンテンツを削除することが期待される。こうした法的義務は、しばしばユーザの表現の自由を危険にさらしている。このような規制の下では、プラットフォームは特に慎重に振る舞う傾向が見られ、責任を回避するために完全に適法なコンテンツを削除することも少なくない。通知が妥当であるかを調査するよりも、コンテンツを削除してしまう方がはるかに簡単で、低コストだからだ。コンテンツの適法性の判断は、しばしば不明瞭で、高度は法的知識を必要とするため、プラットフォームには非常に重い負担がかけられることになる。

また、仲介事業者は独自の利用規約やコミュニティ・スタンダードを策定し、規約に違反したコンテンツにアクセスできなくするなどのモデレーションを実践している。これはプラットフォーム上に健全な市民環境を構築するために「良きサマリア人」的な努力とみなされる。また、オンラインサービスの市場競争が十分であれば、コンテンツ・モデレーションに対する多元的で多様なアプローチが可能となる。プラットフォームはユーザの好みを集約して環境をデザインすることが多い。これには適法ではあるが望ましくないコンテンツや企業が表明する道徳規範に沿わないコンテンツ(たとえばFacebookのヌード禁止)の削除なども含まれる。多くの国で言説が変化するなか、支配的なプラットフォームは、公共空間に影響力を及ぼす役割を担っていることが認識されつつある。その結果、インドなどの国では「デューデリジェンス義務」を通じてプラットフォームの利用規約をコントロールしようとしているし、またソーシャルメディア・プラットフォームがユーザの投稿を削除する手法と理由についての包括的な情報を収集する独立したイニシアチブが出現している。

最後に、通知と対処システムがユーザの人権に及ぼす影響は、デュープロセス規定によって軽減することもあれば、悪化することもある。手続き上のセーフガードと救済メカニズムがプラットフォームの通知と対処システムに組み込まれた場合、不当なコンテンツ削除からユーザを保護するのに役立つだろう。

立法者のための規制のダイヤルとノブ

仲介事業者責任法は上述したさまざまな要素から構成されているが、規制当局は法律の効果を調整する法的装置として、さまざまな「ダイヤルとノブ」を使用できる。

適用範囲

仲介事業者責任法は、その範囲に大きな違いがある。たとえば、アプリケーション層のサービスプロバイダ(ソーシャルメディア・プラットフォームなど)からインターネット接続プロバイダまで、その範囲を狭めたり、広げたりできる。

コンテンツへの介入

アルゴリズムによるレコメンドなど、コンテンツの提示にプラットフォームが介入した場合には、免責されなくなるのか? 米国では、プラットフォームがコンテンツのキュレーション、モデレーションを実施したとしても、免責は維持される。欧州連合ではこの点はあまり明確にはなっていない。介入しすぎれば、知識を有していたと判断され、プラットフォームが免責を失うおそれもある

知識

知識に基づく責任モデルでは、セーフハーバーは侵害コンテンツに関する仲介事業者の知識と結びついている。したがって、何をもって実際の知識とするかが、重要な規制手段となる。サービスプロバイダが違法コンテンツを知ったとみなされるのはどのような場合か。ユーザからの通知の後か、信頼できるソースからの通知の後か。それとも裁判所による差止命令の後か、 知識の定義が広いか狭いかによって、コンテンツの削除や責任の所在が大きく異なることになる。

通知と措置のルール

通知と措置の制度を示唆ないし義務づけている法域では、そのメカニズムの詳細が法律の条文で規定されているかを確認することが極めて重要である。コンテンツ削除の手続きが、狭く定義されているか、プラットフォームに委ねられているか。法律は、詳細なセーフガードと救済の選択肢を規定しているか。こうした問いへのアプローチが異なれば、仲介事業者ルールの適用も大きく異なり、それにともなってユーザの表現の自由への影響も大きく異なっていく。

次回は、世界各国の最新動向と提案されている規制について探っていく。本シリーズの別の記事は以下のリンクよりご覧いただきたい。

Author: Christoph Schmon and Heley Pedersen / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: May 25, 2022
Translation: heatwave_p2p
Header image: Mel Poole