以下の文章は、電子フロンティア財団の「Platform Liability Trends Around the Globe: Moving Forward」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation


本稿は、世界各国の仲介事業者責任法制を調査した全4回シリーズの最終回である。その他の記事は以下からご覧いただきたい。

このシリーズを通して示してきたように、ヘイトスピーチ、オンラインハラスメント、偽情報、テロコンテンツの増幅などの問題に注目が集まったことで、世界中の立法者が、オンライン仲介事業者の責任強化をはじめとする厳格なオンライン表現規制を提案するようになってきている。

EFFは、表現の自由の促進、政府や利害関係者のニーズのバランスの取れたイノベーションのための環境整備を長年にわたって提唱してきた。有害なコンテンツ・活動をホストし増幅させるプラットフォームという極めて現実的な問題への取り組みは、一方で保護すべきユーザの表現を削除するインセンティブをプラットフォームにもたらさないよう十分なセーフガードを設けることで表現の自由を促進するという絶妙なバランスが求められるのである。

今日、世界的に仲介事業者責任法の修正が進められているが、我々はそれぞれの提案を評価するにあたっていくつかの問いをガイドにしている。新たなプラットフォーム規制案は、3つの問い――仲介事業者の責任に関する規制が問題なのか? 提案されたソリューションは問題を解決するのか? 避けられない副作用を軽減できるのか?――にどう答えているかというアプローチである。

立法者がインターネット政策を正しい方向にシフトし、ユーザの表現の自由を実現する環境を構築するためにも、オンライン仲介事業者の免責が果たす重要性を確認することを期待している。そのための方法に関する提言の概要を以下に記す。

我々の提言

オンライン仲介事業者にユーザコンテンツの責任を負わせてはならない

仲介事業者はインターネット・アーキテクチャの重要な柱、表現の自由の基盤として、歴史上類を見ない規模でコンテンツの共有を可能にしている。第三者コンテンツの免責は、オンライン仲介事業者の成功において、極めて重要な役割を果たしている。プラットフォームはユーザが投稿・共有するアイデア・画像・ビデオ・言論に責任を負うべきではない――これは維持し続けねばならないインターネット規制の基本原則である。

規制当局は、オンライン仲介事業者が今後も包括的な免責の恩恵を受け、ユーザが投稿するコンテンツについて、その違法性に実質的に寄与するかたちで共同作成・変更に関与していない限り、責任を負わないことを確認しなければならない。いかなる追加的義務も、比例的でなければならず、表現の自由やイノベーションを阻害するものであってはならない。

強制的なコンテンツ制限は司法の判断を仰がねばならない

政府がオンラインプラットフォームに積極的な義務を課す場合、仲介事業者の責任ルールは法律に基づいて策定されねばならず、正確性・明確性・アクセス可能性が極めて重要になる。そうしたルールは、デュープロセスに従い、独立した司法にコンテンツの違法性の評価・制限の決定を委ねるという原則を尊重しなければならない。もっとも重要な点は、ユーザから直接通知を受けたからといって、仲介事業者がコンテンツを削除しなかったことに責任を負わせてはならないということである。違法コンテンツに関する知識がオンライン仲介事業者の責任に影響する法域では、十分な独立性、自律性、公平性のセーフガードをもって運営される裁判所または同等の機関からの命令を受けた場合にのみ、仲介事業者は違法性の実際の知識を得られるという原則に規制当局は従うべきである。

監視やフィルタリングを義務づけてはならない

ユーザがオンラインで共有するコンテンツをプラットフォームに監視させる義務は、ユーザの言動を萎縮させる。積極的に監視されていることを知れば、ユーザは行動を変え、自由なコミュニケーションを控えるようになる。さらに、ユーザのプライバシーの権利や私生活の権利も損なわれる。したがって、立法者はデジタルサービスプロバイダに投稿・送信・保存される違法コンテンツについて、プラットフォームやネットワークを積極的に監視する義務を課すべきではない。同様に、プラットフォームがユーザの違法行為を示す事実や状況を積極的に監視する一般義務も課すべきではない。第三者が投稿したコンテンツの適法性を評価する自動フィルタの使用や、違法コンテンツの(再)アップロードの防止は、フィルタがしばしば間違った判定をし、正当なコンテンツまで過剰削除する傾向があることを考えれば、絶対に義務化してはならない。また仲介事業者が違法コンテンツを検知できなかったことに責任を負わせるべきでもない。そのような責任を負わせれば、プラットフォームにユーザの発言をフィルタリング・監視・選別するインセンティブを与えてしまうだろう。

削除命令の範囲を制限する

最近の事例は、世界規模のコンテンツ削除命令の危険性を如実に表している。欧州司法裁判所は、Glawischnig-Piesczek v. Facebook事件で、加盟国裁判所がプラットフォームに中傷コンテンツをグローバルに削除できるだけでなく、同一ないし「同等」の資料の削除を命じられると判示した。問題のコンテンツが、ある国では違法でも別の国では明白に適法な場合もあることを考えれば、まったくもって不当な判断である。さらに、裁判所が類似の言葉を検知する「自動化技術」に言及したことで、適法な素材まで過剰ブロックしてしまう不正確なフィルタによる監視の扉を開いてしまった。

インターネット法制の改革は、インターネットがグローバルなものであること、グローバルな範囲でのテイクダウン命令が不当かつユーザの自由を侵害するものであることを認識する絶好の機会である。新たな規制は、裁判所の命令――とりわけ差止命令――が、ある国の法律で別の国の法律を上書きしてはならないことを確認しなければならない。削除命令は問題のコンテンツだけに限定され、かつ、地理的範囲における必要性と比例性の原則に従わなければならない。さもなくば、ある国の政府が、他の国の市民のオンラインでの言論、閲覧・共有するコンテンツに介入できるようになってしまう。そうなれば、より制限的で、分断されたグローバルなインターネットに向かう「底辺への競争」を引きこすことになるだろう。削除命令の範囲を制限するという重要な取り組みは、EUデジタルサービス法の提案でも見られている。この法律では、裁判所の命令はその目的を達成するための厳密な必要最低限を超えてはならず、基本権憲章と国際法の一般原則に沿ったものでなければならないと定められている。

表現ではなくプロセスを規制する

現代のプラットフォーム規制は、プラットフォームにユーザが共有するコンテンツの責任を負わせたり、サーバにアップロードされたすべてのコンテンツをスキャンするよう義務づけるのではなく、利用規約の変更やアルゴリズムによる意思決定など、プラットフォームのプロセスに関するスタンダードを設定することに焦点を当てなくてはならない。利用規約の変更のたびにユーザに通知・説明することなど、説明責任のあるプラットフォームのガバナンスは、強力なゲートキーパーたるプラットフォームとユーザとの間の情報の非対称性を低減する。ユーザは問題のあるコンテンツや問題のある削除の決定の双方についてプラットフォームに通知する方法を十分に理解できるようエンパワーされるべきであり、大規模プラットフォームでのコンテンツモデレーションの実施方法についても知らされなければならない。プライバシー優先設定のデフォルト化、透明性の向上、削除・凍結の決定に対するデュープロセスや有効な救済メカニズムといった手続き上のセーフガードは、オンラインでの基本的権利を保障する上で有用である。

正しい方向へ進むために

仲介事業者にユーザが共有するコンテンツへの責任を負わせる強引な規定を適用すれば、表現の自由の権利が阻害されることになると我々は考えている。もちろん、現行の規制を改革し、現在のオンライン・エコシステムの根本的な欠陥に対処するための法律を検討すべきではないということではない。

多くのユーザにとっての「オンライン」は、一握りの強力なプラットフォームに囲い込まれ、ウェブで意に反するトラッキングに晒され、情報アクセスや共有でさえオンライン空間のキュレーション・アルゴリズムによる意思決定システムの言いなりになることを意味している。立法者は、デジタル空間を独占してきた一握りの大規模プラットフォームに、表現を取り締まらせ、コンテンツ、知識、製品・サービスへのアクセスを裁定させるのではなく、ユーザが再びオンライン体験を自らコントロールできるようにし、それをこそ義務づけるべきである。

インターネット法制の修正は、立法者に現行のルールを検証し、インターネットが表現の自由のために開かれたプラットフォームであり続けることを確認する機会を提供してくれる。我々は、オンライン仲介事業者の責任を強化する方向にばかり進んでいることに落胆しているが、それと同時に、表現の自由とイノベーションを促す規制のフレームワークを提言する一層の取組みが必要とされているとの思いを新たにしている。


本シリーズの他の記事はこちらからご覧いただきたい。

Platform Liability Trends Around the Globe: Moving Forward | Electronic Frontier Foundation

Author: CHRISTOPH SCHMON AND HALEY PEDERSEN / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: June 8, 2022
Translation: heatwave_p2p
Header image: Muhammad Rizki