以下の文章は、「クライストチャーチ・コール」のウェブサイトおよび、5月15日に採択された「オンライン上のテロリズムと暴力的過激主義に対して行動するためのクライストチャーチ・コール」全文を翻訳したものである。
このクライストチャーチ・コールには、18の国と機関(オーストラリア、カナダ、欧州委員会、フランス、ドイツ、インドネシア、インド、アイルランド、イタリア、日本、ヨルダン、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、セネガル、スペイン、スウェーデン、英国)、8のオンライサービスプロバイダ(Amazon、Daily Motion、Facebook、Google、Microsoft、Qwant、Twitter、YouTube)が署名している。
2019年3月15日、ニュージーランド・クライストチャーチの2つのモスクに対するテロ攻撃が17分間に渡ってライブ中継されたとき、人々は恐怖におののいた。51人が死亡、50人が負傷し、ライブストリーミングは削除されるまでに約4000回にわたって視聴された。
このテロ攻撃により、オンライン上のテロおよび過激主義コンテンツがもたらす危害が再び明らかとなり、その脅威は進化し続けている。このテロ攻撃はライブストリーミングで配信され、拡散し、削除されたにもかかわらずウェブ上でアクセス可能になっている。
事件から2ヶ月後の2019年5月15日、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領の提唱により、各国元首や政府首脳、テクノロジー企業のリーダーたちがクライストチャーチ・コールの採択のために、パリで一堂に会した。
クライストチャーチ・コールは、政府やテクノロジー企業による、テロおよび過激主義オンラインコンテンツ排除の取り組みである。この呼びかけは、自由で開かれた安全なインターネットは社会に多大な利益をもたらすという信念に基づいている。表現の自由は尊重されなくてはならないが、しかしテロリストや暴力的過激主義者のコンテンツをオンラインで作成・共有する権利は誰も有してはいない。
クライストチャーチ・コールに集まった支持は第一歩に過ぎない。私たちは現在、他の国家、企業、組織の参加を求めている。
Christchurch Call | to eliminate terrorist and violent extremist content online
オンライン上のテロリズムと暴力的過激主義に対して行動するためのクライストチャーチ・コール
自由で開かれた安全なインターネットは、接続性を促進し、社会的包括性を高め、経済成長を加速させる強力なツールである。
しかし、インターネットはテロリストや暴力的過激主義者による悪用とは無関係ではない。これは、2019年3月15日、クライストチャーチのムスリム・コミュニティを標的としたテロ攻撃の悲劇によって浮き彫りにされた。
こうしたコンテンツのオンラインでの拡散は、被害者の人権、私たちの集団安全保障、そして世界中の人々に悪影響を及ぼしている。
この問題に対処するための重要な措置はすでに講じられている。とりわけ、EUインターネットフォーラムなどに主導される欧州委員会、G20およびG7(フランスがG7議長期間中にすすめているテロおよび暴力的過激主義を目的としたインターネットの使用に対抗するための取り組み)、テロリズムに反対する世界インターネット・フォーラム(GIFCT:Global Internet Forum to Counter Terrorism )、グローバル・テロ対策フォーラム(Global Counterterrorism Forum)、テロリズムに対抗するテクノロジー企業(Tech Against Terrorism)、ヨルダン・ハシミテ王国が確立したアカバ・プロセスがある。
クライストチャーチの事件は、テロおよぼ暴力的過激主義コンテンツをオンラインから排除するために、政府、市民社会、ソーシャルメディア企業などのオンラインサービスプロバイダなど、この問題に影響力を持つ幅広い関係者の行動と協力の緊急に求められていることを再び強調している。
この呼びかけは、テロおよび暴力的過激主義コンテンツのオンライン上での問題に対処し、クライストチャーチの事件中、事件後に見られたインターネットの悪用を防ぐことを意図した、政府とオンラインサービスプロバイダの集合的・自発的な約束を概説するものである。
この問題に関する全ての行動は、表現の自由をはじめとする人権および基本的自由を損なうことなく、自由で開かれた安全なインターネットの原則に即していなければならない。それはまた、インターネットがイノベーションと経済的発展を促進し、インクルーシブな社会を加速させながら、善の力としての機能を果たす役割を認識しなくてはならない。
この目的のため、我ら政府は以下のことを約束する
テロと暴力的過激主義の促進要因に対抗するため、我ら社会の強靭性と包括性を強化することにより、テロと暴力的過激主義のイデオロギーに抵抗できるようにする。これには、教育、歪められたテロ・暴力的過激主義のナラティブに惑わされないようにするためのメディアリテラシーの構築、不平等との戦いが含まれる。
適用可能な法律の効果的な執行を確保し、法の支配と表現の自由をはじめとする国際人権法に則したかたちで、テロおよび暴力的過激主義コンテンツの作成・拡散を防ぐ。
テロおよび暴力的過激主義コンテンツを増幅させないため、オンラインでテロ事件を描写する際には、倫理基準を適用するようメディア機関に促す。
テロ攻撃に関する報道が、テロおよび暴力的過激主義に関する責任ある報道を損なうことなく、テロおよび暴力的過激主義のコンテンツを増幅させないようにする業界スタンダード等の枠組みを支援する。
テロおよび暴力的過激主義コンテンツを拡散させるためのオンラインサービスの利用を抑止するため、以下のような協働等の適切な措置を検討する。
- 小規模なオンラインサービスプロバイダを対象とした啓発・能力開発
- 業界基準や自主的枠組みの整備
- 自由で開かれた安全なインターネットと国際人権法に則した規制または政策措置
この目的のため、我らオンラインサービスプロバイダは以下のことを約束する
ソーシャルメディアおよび同様のコンテンツ共有サービスへのテロおよび暴力的過激主義コンテンツのアップロードおよびその拡散を防止し、人権および基本的自由に則し、法執行および利用者の異議申し立ての権利を損なうことなく、即時かつ恒久的な削除を含め、透明性のある具体的な措置を講じる。この目的を達成するための協働対策には、技術開発、ハッシュおよびURLの共同データベースの拡張と利用、有効な通知と削除などが含まれうる。
以下の点についてコミュニティスタンダードならびに利用規約の透明性を高める。
- 共有されたテロおよび暴力的過激主義コンテンツの概要および公表
- テロおよび暴力的過激主義コンテンツ
人権および基本的自由を尊重した上で、以下の方法で、コミュニティスタンダードならびに利用規約を執行する。
- テロおよび過激主義コンテンツ(ただし特定されたものに限る)のコンテンツモデレーションの優先
- 必要に応じたアカウントの停止
- コンテンツ削除およびコンテンツアップロード拒否の決定に対する異議申し立てを希望するユーザに有効な苦情および不服申し立て手続きを提供
テロリストおよび暴力的過激主義コンテンツがライブストリーミングによって拡散する特定のリスクを軽減するために、リアルタイムレビューのためのコンテンツ識別をはじめとする即時的かつ効果的な措置を実施する。
テロリストおよび暴力的過激主義コンテンツの量と性質が検出・削除されていることを、測定可能かつ信頼ある手法を用いて定期的に透明性の高い公表を行う。
ユーザをテロリストおよび暴力的過激主義コンテンツに向かわせ、そのコンテンツを増幅させる可能性のあるアルゴリズムまたはその他のプロセスの運用を審査し、介入可能なポイントを見極め、それが発生しうるポイントに変更を加える。これには、これらコンテンツからリーザをリダイレクトするアルゴリズムその他のプロセスの使用や、信頼できる肯定的な代替選択肢ないしカウンター・ナラティブの促進などが含まれうる。また、不要な情報開示によってサービス提供者のプラクティスの有効性や企業秘密を損なうことなく、複数のステークホルダーの協議によって設計された、適切な報告メカニズムの構築も含まれうる。
業界横断的な取り組みを調整し、より強固なものとなるよう協力する。これには、GIFCTへの投資や拡張、知識や専門性の共有が含まれる。
この目的のため、我ら政府およびオンラインサービスプロバイダは、以下のことを共同して行うことを約束する
あらゆる形態の暴力的過激主義に対抗するため、市民社会と協働し、コミュニティ主導の取り組みを促進する。これには、積極的な代替手段の開発ならびに促進、カウンターメッセージの発信が含まれる。
アルゴリズムやその他プロセスの影響に関する信頼できる情報に基づき、ユーザをテロや暴力的過激主義コンテンツからリダイレクトするための効果的な介入手法を開発する。
テロおよび過激主義コンテンツのオンラインへのアップロードを予防・検出・即時削除のための技術的ソリューションの研究開発を加速し、学術機関、研究者、市民社会の専門知識を活用して、オープンなチャネルを通じてこれらソリューションを共有する。
オンライン上のテロおよび過激主義コンテンツをの理解、抑止、対策を講じるための研究および学術的取り組みを支援する。これには、オフライン・オンラインの双方に与える影響も含まれる。
テロおよび暴力的過激主義コンテンツを検出・削除に関連して、違法なオンライン活動を捜査・起訴するために、法の支配と人権保護に則した方法で、法執行機関と適切な協力関係を確立する。
テロリストおよび暴力的過激主義コンテンツの削除能力の構築にあたり、小規模プラットフォームを支援する。これには、技術的解決策や、GIFCT共有データベースなどのハッシュ等関連資料のデータベースの共有が含まれる。
テロおよび暴力的過激主義コンテンツのオンライン配信を阻止するためのベストプラクティスの開発と実施に際し、パートナー国と協力し、支援する。これには、関連するデータ保護およびプライバシー規則に則った運用上の調整および信頼できる情報の交換などが含まれる。
テロ事件発生後に、政府およびオンラインサービスプロバイダがテロおよび過激主義コンテンツの拡散に迅速かつ効果的、協調的方法で対応するためのプロセスを開発する。この目的のため、人権保護に則した方法で、共通の危機管理プロトコルと情報共有プロセスを開発する必要がありうる。
人権を尊重すること。政府は人権を保護すること。これには、事業活動によって直接または間接的に人権への悪影響に寄与することを避けること、およびそのような影響が生じた場合には対処することを含む。
この呼びかけにおける課題および約束に関する取り組みを支援するため、以下の点で市民社会の重要な役割を認識する。
- 自由で開かれた安全なインターネットおよび国際人権法の則した方法で、この呼びかけの約束を実施することについて専門的な助言を提供すること
- 政府やオンラインサービスプロバイダと協力し、透明性を高めるために取り組むこと
- 必要に応じ、企業の異議申し立てや苦情プロセスを通じたユーザ支援に取り組むこと
既存のフォーラムおよび関連組織、制度、メカニズム、プロセスにおいて、相互に支援し合い、機運を醸成し、呼びかけへの支援を拡大するために、協調を継続する意志を確認する。
この誓約が確実に履行されるよう、実践的で重複のないさまざまなイニシアチブを開発し、支援する。
政府、オンラインサービスプロバイダ、市民社会は、より広範な有害オンラインコンテンツに対処するため、さらなる協調行動を希求することを認める。そうした協調行動は、G7ビアリッツサミット、G20、アカバプロセス、5カ国閣僚会議、その他さまざまなフォーラムにおいても議論していく。