以下の記事は、BoingBoingの記事「Speech Police: vital, critical look at the drive to force Big Tech to control who may speak and what they may say」を翻訳したものである。
デイヴィッド・ケイは、2014年から言論・表現の自由の促進と保護に関する国連特別報告者を務めている。この5年間は、オンライン・オフライン双方における表現の自由の進化にとって非常に重要な時期であった。ケイは著書『言論警察:インターネット統制に向けた世界的戦い』の中で、政府やプラットフォーム、活動家が、清濁入り混じった動機からインターネット上の対話をコントロールしようとする、世界的な「表現」環境の現状を綴っている。
本書は、ハラスメントや暴力の扇動の問題への深い同情、利益的・利己的な合理化や政治的混乱を避けるためのオンライン表現のコントロールへの懐疑的態度、そして誰が何を発言してよいかの裁量をプラットフォームに委ねていることから生じる技術的・手続き的問題に対する感覚に貫かれている。
『言論警察』は、影の統治システムの出現を明らかにしている。市民社会と政治がオンラインに移行するなか、形骸化した反トラスト法によって肥大化するプラットフォームは、_数十億_もの人々が自分の意見を述べ、変化を起こすための動員力をコントロールしているのである。各国政府は、テロリストによる残虐行為への賞賛、陰謀論の拡散、ハラスメントやジェノサイドの扇動などの悪しき言説にプラットフォームが対処できていないと批判する一方で、まさにその無能なプラットフォームに、嬉々として我々の言論を取り締まる義務を負わせようとしている。
ケイは、収益至上主義のプラットフォームと、腐敗と悪事を露呈させまいとする政治家との共犯関係を丹念に紐解いていく。そして、ミャンマーでジェノサイドが行われ、虐殺の呼びかけが拡散しているという警告をFacebookが抑圧し、TwitterとYouTubeがシリアでの戦争犯罪の隠蔽に加担するという狂った状況が生み出されていることを説明する。プラットフォームは広告主を満足させ続けたいと考え、営業所を置くすべての国でさらに儲けようとする。たとえ、ひどい人権侵害が横行している国であっても。そのことが、人種差別主義者や性差別主義者によるハラスメントの抑止など、プラットフォームが抱える他のモデレーション問題のプライオリティを歪めているのである。
ケイは本書の最後に、この状況を改善するための提案をまとめている。控えめな提案ではあるが、プラットフォームのモデレーションポリシーとその実践への理解を深め、次になすべきことを議論するのに役立つだろう。
我々はいま、重要な岐路に立たされている。遅れてきたテックラッシュ(テクノロジー批判)は、テクノロジー大手に重い責任を負わせるという口実のもとに、テクノロジー大手により強大な力が与えようとしているのだ。これを正しく理解できるか否かによって、今後数十年が左右されることになるだろう。本書におけるケイの指摘は、人類史上最も重要な表現の自由議論における戦術やレトリック、利害を理解する上で極めて重要である。
Speech Police: The Global Struggle to Govern the Internet(David Kaye/Columbia Global Report)
Publication Date: June 10, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Bill Kerr / CC BY-SA 2.0