以下の文章は、電子フロンティア財団の「We Need To Save .ORG From Arbitrary Censorship By Halting the Private Equity Buy-Out」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation
ORGトップレベルドメインの投資会社への売却を認めてしまえば、ORGとそれに頼るすべての非営利団体は大きなリスクに晒されることになる。EFFは、250を超える著名非営利団体とともに、.ORGドメインを管理する(現時点では)非営利組織のPublic Interest Registryのエートス・キャピタルによる買収に反対している。ダイソン・エスターやティム・バーナーズ=リーらインターネットパイオニアやインターネットユーザからもこの秘密協定に反対の声が上がり、その勢いはますます高まっている。11億3500万ドル(約1200億円)とも言われる買収劇はどのような悪影響をもたらすのか。端的に言えば、エートス・キャピタルが商業的利益のために非営利団体(NGO)の声を検閲し、独占的立場を利用して非営利団体から高額の使用料を巻き上げることが可能になる。エートス・キャピタルには検閲を――もちろん値上げを――行う経済的インセンティブが十分にある。また、.ORGの管理に関する契約では、エートスの行動について十分な説明責任や制限が定められていない。

ドメイン・レジストリは検閲の権限を持つ

PIRをはじめとするドメイン・レジストリは、ドメイン名管理団体が定めたポリシーの下、インターネットのトップレベルドメインを管理しており、ICANNとの契約に基づいてドメイン名を凍結したり、他のインターネットユーザに転送する権限を有している。ドメイン名が凍結されると、そのドメイン名を使用するすべてのインターネットリソース(ウェブサイト、電子メールアドレス、アプリケーションなど)が影響を受けることになる。こうした権限を有することで、レジストリはソーシャルネットワークや検索エンジンなどの仲介事業者と同様に、インターネット上の言論に影響力を行使することができる。その権限は、ほかの強力な組織――たとえば圧政を敷く政府や利益――に売却・交換されることによって、彼らに新たな検閲の権限をもたらすことになる。

このインターネットのチョークポイントを利用した検閲は、すでに頻繁に行われている。その事例を以下に挙げる。

  • 数百のトップレベルドメインを管理する米レジストリ「ドーナツ・アンド・ラディックス」は、米国映画協会との間で、裁判所の命令に拠らず、大手映画スタジオからの著作権侵害の申立に基づいてドメイン凍結に関する秘密協定を結んでいる。
  • 検索エンジンのBingは、ファイアウォールの管理者やその他の仲介事業者とともに、オンライン薬局から処方薬を購入するための真実の情報を提供するウェブサイトへのアクセスを抑制した。これは米国の製薬会社と関係の深い業界団体からの要請を受けたものだった。業界団体は、ドメインレジストリとその管理機関であるICANNに協力を求めている。
  • トルコやアラブ首長国連邦などの政府は、仲介事業者に莫大な削除要請を定期的に送りつけているが、これはおそらく仲介事業者がその中に紛れ込ませている不当かつ違法な要請を拒否できるほど詳細に精査しないことを期待してのものと思われる。
  • サウジアラビアは、Medium、SnapchatNetflixなどの仲介事業者に対し、同国の政府の全体主義を批判するジャーナリズムを検閲させてきた。
  • ドメイン名業界団体のDNAは、ネット言論規制に関する幅広いプログラムを提案している。ここにはドメイン名の凍結も含まれており、さらにインターネットユーザに対する説明責任や正当な異議申立手続きも保証されていない。

エートス・キャピタルが.ORGの新たな管理者となれば、こうした検閲に関与する権限を得ることになるだろう。国内法を恣意的に適用することを含め、非営利団体の主張を制限できるようになるということだ。仲介事業者が言論を検閲する権限を手にすれば、米国の映画産業のような強力な業界団体や、彼らがビジネス展開を目論む権威主義的国家の政府に高く売りつけることもできるだろう。多くのNGOが政府や産業界に説明責任を負わせるために活動していることを考えれば、有力者たちはNGOを黙らせる権限を持った仲介事業者の協力を請うインセンティブを持つことにもなるだろう。もちろん、エートスが所有することになるPIRもそこに含まれる。

セーフガードの欠如

エートス・キャピタルによるPIRの買収は、この種の検閲に対するセーフガードを無効化してしまう。

第一に、.ORG TLDは独自の意味を持っている。確かにNGOは別のトップレベルドメインで新しいウェブサイトやプロジェクトを開始することもできるが、それでは.ORGドメインと同じメッセージを伝えるものとはならない。.ORGで終わるドメイン名は、インターネット上の非営利かつ公共志向の組織という重要な意味を持っている。.ORGの代用となり得た.NGOドメインと.ONGドメイン(いずれもPIRが管理)でさえ、ほとんど使われてはいない。

著名NGOはさらに苦境に立たされることになる。.ORGトップレベルドメインは34年前から存在しており、世界でも最重要なNGOの多くが数十年に渡って.ORGを使用してきた。そうしたNGOにとって、ドメイン名の変更は選択肢にはなりえない。たとえば、.ORGドメインから.INFOや.USドメインに変更してしまえば、電子メールが不通となり、検索エンジンのランクが落ち、組織のオンラインIDを変更するために多額の費用が発生することになる。さらにNGOはPIRのポリシー変更や価格設定に右往左往させられることになる。

第二に、非営利団体のトップレベルドメインは、それ自体が非営利団体に管理されるべきである。PIRの設立母体であるInternet Society(ISOC)は、世界規模でインターネットアクセスを推進し、インターネットの基本的な技術標準を監督している。ISOCは長きにわたってインターネットガバナンス組織のコミュニティとして機能してきた。ISOCが2002年にPIRを設立した際、ORGを管理する理由について非営利団体として担う役割、コミュニティにおける役割を強調した。2016年にPIRが独自の著作権執行システムの構築を提案できたのも、こうしたコミュニティとの結びつきがあればこそであった(この提案はコミュニティからの激しい反発を受けて断念している)。もしPIRが私的利益のために運営されるのであれば、必然的にインターネットガバナンスコミュニティの介入は難しくなるだろう。

第三に、ドメイン名システムのポリシーを定めるICANNは、.ORGを利用する非営利団体を保護する法的防壁を除去しようとしてきたことが挙げられる。ICANNは今年、.ORGドメイン名の登録価格の上限を撤廃し、PIRが自由に値上げできるようにした。さらにICANNはPIRに対し、「第三者の権利保護」規定の策定を明確に許可した。この規定は、コミュニティの声を無視し、説明責任を負わずして行われる検閲の正当化や法的根拠として頻繁に持ち出されているものだ。

エートスによるPIRの買収が、このようなセーフガードがないままに進められてしまえば、世界中の非営利団体は検閲と経済的搾取という看過し得ないリスクを抱えることになる。だが、エートスとISOCはコミュニティの懸念に耳を傾けることなく、可能な限り早期にこの買収を完了しようと躍起になっている。彼らが大規模な反対の声に応えた唯一の反応は、曖昧で拘束力のない“善行”を約束することだけだった。

この買収を止め、非営利インターネットユーザの権利を保証する手続きを開始しなくてならない。賛同してくれる方は、以下の請願に署名してほしい。

【SIGN THE PETITION TO DEFEND DOT ORGS】

We Need To Save .ORG From Arbitrary Censorship By Halting the Private Equity Buy-Out | Electronic Frontier Foundation

Author: Mitch Stoltz (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: December 16, 2019
Translation: heatwave_p2p