以下の文章は、電子フロンティア財団の「The Right to Anonymity is Vital to Free Expression: Now and Always」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

「人が生を受けたときに授かったのとは別の名前を使おうとする理由は無数に存在する。生命・生活への脅威を懸念して、あるいは政治的・経済的な報復を恐れてということもある。差別を避けるためにそうしたいと思うこともあれば、ある文化では発音や綴りを簡素化した名前を名乗ることもあるだろう」

この文章は、いまから9年前、私がEFFに参加した最初の年にブログ記事に書いたものだ。いまでもこの考えは変わらない。内部告発者、DV被害者、地域コミュニティから排除されているクィアやトランスの若者、人権活動家らにとって、セキュアな匿名性は極めて重要であり、命に関わるものですらある。

だが、オンラインにおける匿名の権利は、依然として危機にさらされている。先月、英国のテレビタレント、キャロライン・フラックの自死をきっかけに、ソーシャルメディアへの規制強化が呼びかけられ、複数の論者がプラットフォームにID登録を必須化するよう提案している。インドでもIT省から同様の提案が公表されるという(ただし、報告書ではこうした認証は任意のものであるようだ)。

こうした提案を支持する人たちは、「実名」を使えば利用者は礼儀正しく振る舞うようになる、と考えている。確かにFacebookは長らく「実際のアイデンティティ」を必須とするポリシーによって、利用者の安全が保たれているのだと主張してきた。だが、それは実証されているわけではなく、むしろCoral Projectの報告書では、匿名性が人を無作法にするという思い込みの誤謬が論破されているし、コメントプラットフォームのDisqusでは、最も親切さを見せるのは仮名を使っているときであることが示されている

だが、最も重要な点は、匿名と仮名が表現の自由と安全性にとって不可欠なツールである理由は無数に存在するということだ。たとえば最近我々が携わったケースとしては、エホバの証人コミュニティのDarkspilverがRedditに投稿したコメントがまさにその事例だ。ものみの塔聖書冊子協会は、彼らの広告を巡ってDarkspilverの著作権侵害を主張した。判事は、同組織には訴訟を起こす権利があると判断し、Darkspilverの身元開示を命じた。

Darkspilverは、家族やコミュニティから追い出された人びとがどうなったのかを見てきたため、自分自身がコミュニティから「排除」されることをひどく心配していた。EFFが連邦地裁に上訴したことで、Darkspilverの匿名性は現在も守られている。

現在、政府のCOVID-19対応によって、私たちのデジタルの権利が広範囲に渡って影響を受けている。それでもなお、匿名の権利は依然として重要だ。武漢では匿名の衛生専門家が重要な医療情報を報道機関と共有した。その一方で、重要な情報が抑圧されたり、政府批判者が逮捕されるという事態にもなっている。

混乱期においては、当局は匿名の告発者をスケープゴートにして、社会問題を彼らのせいにしてしまうこともある。しかし、政治的権力の乱用であれ、世界的パンデミックの危機であれ、しばしば匿名言論は問題の深刻さや重大さを知る術となる。匿名言論がなければ、権力者が発するウソばかりがまかり通ることになるだろう。

The Right to Anonymity is Vital to Free Expression: Now and Always | Electronic Frontier Foundation

Author: Jillian C. York (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: March 25, 2020
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Chris Yang