以下の文章は、電子フロンティア財団の「It’s Not Section 230 President Trump Hates, It’s the First Amendment」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

トランプ大統領はこのところ、第230条の撤廃規定を盛り込まないのであれば、国防権限法(NDAA)に「拒否権を発動する」と脅しを掛けている。彼が大統領として仕掛けるネット上の表現の自由への最後の攻撃になるかもしれないが、少なくとも最初の攻撃ではないのは確かだ。NDAAは議会が毎年通過させる「最優先」法案の1つである。トランプ大統領はオンラインの表現の自由を保護する最も重要な法律を殺すために、この法案をブザービーターとして利用しようとしているというのだから始末に負えない。議会は230条に反対するトランプ大統領の攻撃を断固拒絶しなくてはならない。

230条では、オンラインの違法な表現に責任を負うのは発言者だけであり、投稿されたウェブサイトや共有に利用されたアプリなどの第三者が責任を負うことはないとされている。230条にはいくつかの例外があり、とりわけ仲介者は連邦刑法を完全に免責されるわけではない。だが、その核を成しているのは、極めて常識的な考え方である。たとえばスタートアップがユーザの発言を理由に無数の訴訟を起こされるとなれば、成長し、大手テクノロジー企業と競争するために必要な投資を受けることはできないだろう。230条はインターネット企業だけの問題にとどまらない。WikipediaやInternet Archiveといった非営利団体や教育団体など、ユーザ生成コンテンツをホストするすべての仲介事業者はこの保護の下にあるのだ。

230条は、トランプ大統領を始めとする政治家が主張するような、今日の支配的なインターネット企業の特権ではない。我々全員を保護するものである。これまでにメールを転送した経験があるなら、230条はあなたを保護してもいるのだ。たとえ裁判所がそのメールを名誉毀損だと判断したとしても、230条はあなたが責任を負わずにすむことを保証しているのだから。

近年、230条に関する2つの神話が生み出され、この法律の議論に混乱をもたらしている。1つ目の神話は、230条は、オンラインサービスが「中立的なパブリック・フォーラム」であることを要求しているというもので、もしオンラインサービスがどのようなコンテンツを見せる/見せないかという判断に「偏向」を見せた場合、230条の免責を失うという(この神話は、昨今の見当違いな「プラットフォーム対パブリッシャー」のレトリックを下支えしてもいる)。もう1つの神話は、230条が撤廃されれば、オンラインプラットフォームは突如として「中立的な」フォーラムになり、特定ユーザの表現の削除も促進もしなくなるというものである。いずれの神話も、230条はユーザの表現のモデレーション方法について、誰かの編集的観点を反映させるためにプラットフォームの権利を保護しているわけではないという事実を無視している。憲法修正第1条は、プラットフォームの視点を反映させるためにユーザの表現をモデレーション・キュレーションする権利を保護しているのであり、同時に、ユーザの表現に対する責任からプラットフォームを保護しているのである。いずれかが保護されているわけではない。両方が保護されているのだ。

我々はこれまで幾度となく、プラットフォームのモデレーションは「中立」でなくてはならないとする議会提案を批判してきた。憲法修正第1条の下では、政府はサイトに表示したくない表現の表示・推奨や、削除したくない表現の削除を強制できないのである。

トランプ大統領が230条への攻撃をエスカレートさせている動機は想像に難くない。彼は当選以前から、自らに向けられた批判的な報道に裁判で報復することに意欲を燃やしていた。2016年初めには「名誉毀損法をぶっ放していく」との悪名高い発言で物議を醸したように、ジャーナリストへの法的攻撃を容易にしようとしてきたのだ。

トランプ大統領の230条への攻撃はお決まりのパターンに従っている。ホワイトハウスは今年初め、FCCに230条の免責を狭める規制を書くよう命じる大統領令を出した。だが、FCCに230条を解釈する法的権限はない(本日、議会はトランプ大統領が指名した新たなFCC委員を確認する事になっている。その人物こそ、この大統領令を起草した人物の一人である)。この大統領令は、郵便投票を不正だというトランプ大統領の根拠のない主張に、TwitterやFacebookがファクトチェックを開始した時期に出されたものだった。

だがそれまで、トランプ大統領が「国家安全保障」のために批判者を検閲しなければならない、というロジックを持ち出したことはなかった。その発言は感謝祭の日に飛び出したのだが、その日は奇しくも、彼が記者にブチギレたことをTwitterユーザが「赤ちゃんドナルド(#DiaperDon)」と揶揄し始めた日であった。それ以降、彼は頻繁に国家安全保障を230条に結びつけるようになった。権力者を批判する権利は、我ら国家の基盤たる権利の1つである。230条にどのような意見を持っているのであれ、トランプ大統領が間抜けなニックネームを安全保障上の脅威と考えていることに、我々は警戒しなくてはならない。さらに、230条を撤廃したところで、#DiaperDonツイートやソーシャルメディア上での保守派への攻撃とされるものに何ら手当するものではない。プラットフォームに明確な政治的バイアスがあったとしても、プラットフォームが自らのバイアスに沿ってユーザの表現をモデレーションする権利を覆す法律を議会は制定できないのである。

大統領が望むように230条が撤廃されたとしたら、何が起こるのであろうか? オンラインプラットフォームは一夜にしてより制限的になるだろう。オンラインでの投稿を許可する前に、プラットフォームはあなたの存在とあなたの表現がもたらす法的リスク程度を評価しなくてはならなくなるのだから。弱い立場にある人たちの声は、インターネットから消え去ることになるだろう。政治家が表現の自由を旗印に排除的なインターネットを推し進めようとするというのだから、驚くよりほかない。

我々のオンラインでの表現の自由は、国防権限法のような年次法案の承認の見返りに売り渡せるほど軽いものではない。議会は230条に反対するトランプ大統領の見当違いのキャンペーンにNOを突きつけなくてはならない。

It’s Not Section 230 President Trump Hates, It’s the First Amendment | Electronic Frontier Foundation
Author: Elliot Harmon (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: December 09, 2020
Translation: heatwave_p2p
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