以下の文章は、電子フロンティア財団の「Right or Left, You Should Be Worried About Big Tech Censorship」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

保守派“は”検閲されている

「右派の声が検閲されている」として、共和党主導のフロリダテキサス州議会が「ビッグテックの検閲を終わらせる」ための法案を提出した。彼らは大手テクノロジープラットフォームが、自らのモデレーション・ポリシーを明確にすることなく、適法な言論を阻害し、自らの過ちをすぐには認めず、プラットフォームの判断が間違いだと考える人々に意味のある異議申し立ての手続きを与えていないと訴えている。

彼らは正しい(They’re right)。

それは他の人も同じ

ソーシャルメディア大手に政治的発言を封じられているのは、何も保守派に限らない。パレスチナ人イスラエルの批判者、それからイスラエル人も。もちろん、クィアの人たちもそう。我々は、パンクミュージシャンから、ピーナッツファン歴史家戦争犯罪調査者性教育者からキリスト教団体に至るまで、適法な言論により検閲、ブロッキング、降格、凍結、停止させられた人々を追跡するプロジェクトを行ってきた。

山羊のロデオ

コンテンツ・モデレーションはどんな規模であれ難しいものだが、そうであっても大手プラットフォームの凡ミスの数々は目を覆いたくなるほどだ。2018年、政治的多様性やハラスメント、インクルージョンに関心を持つ専門家たちが集まり、「コンテンツ・モデレーションの透明性と説明責任に関するサンタクララ原則」を起草したが、最大手のプラットフォームは未だに暗中模索の状態が続いている。

とりわけ政治的言論に関しては、「過激主義」の排除にプラットフォームが責任を負うべきとの論調が強まる中、厳しい状況に置かれている。

フロリダ州とテキサス州のソーシャルメディア法は根本から間違っているし、明らかに違憲だ。だが、コンテンツ・モデレーションでヘマを繰り返すビッグテックの山羊のロデオにウンザリなのもよくわかる。

ならどうすればいい?

まずは、なぜプラットフォームの検閲が問題なのかを考えてみよう。理屈の上では、もしFacebookのモデレーション・ポリシーが気に入らないなら、Facebookをやめてライバルのサービスを使うか、自分で立ち上げればいい。だが、現実にはそんなに単純にはいかない。

第一に、インターネットの「アイデアの市場」はプラットフォームレベルで著しく偏っていて、単一の超巨大なサービス(Facebook)と一握りの巨大なサービス(YouTube、Twitter、Reddit、Tiktokなど)、そして勇敢に奮闘し、絶滅の危機に瀕しているオルタナ系のインディーウェブの一群で構成されている。

DIY?

どの大手プラットフォームにも相手にされないなら、自分で立ち上げてみてもいいだろう。自前のライバル・プラットフォームを立ち上げたいなら、クラウドサービス、アンチDDoS、ドメイン登録にDNS、決済処理、その他の必須インフラを揃えなければならない。残念ながら、これらの分野はいずれも寡占が進んでいて、一握りの企業がスタックの各層を支配している。その連結にはたくさんの弱点が潜んでいて日本語翻訳記事)、1つでも連結が切れれば、たちまちサービスは危機的状況に陥る。

たとえ自前でサービスを立ち上げられたとしても、問題は残っている。けしからんとみなされたアイデアを誰かと話したいと思っても、あなたが話したい相手はみんなビッグテックの檻の中に閉じ込められているのだ。経済学者はこれを「ネットワーク効果」と呼んでいる。サービスに参加するユーザが増えれば増えるほど、サービスの価値が高まるという効果だ。あなたがFacebookに参加するのは、あなたの友人がFacebookに参加しているからであり、あなたがFacebookに参加すると、あなたと話したい別の友人が参加するようになる。そうして、みんなはあなたと会話できるようになる。

自前でサービスを立ち上げれば、より繊細で歓迎的なモデレーション環境を手に入れることはできる。だがFacebookを去って新興の代替サービスに参加することが、すべての友人、顧客、コミュニティへのアクセスを放棄することを意味するのであれば、多くの人にとって無意味な行為にしかならない。自分が参加できるサービスの数が有限なのだから、なおさらである。

ネットワーク効果

ネットワーク効果のことばかりを考えていると、我々は行き着くところまで行き着いてしまったのだと感じられるかもしれない。インターネットは5つの巨大なウェブサイトが残る4つのウェブサイトのテキストのスクショで埋め尽くされる勝者総取りの世界になる運命にあるのだ、と。

だがネットワーク効果“だけ”ではない

だが、インターネットと表現の自由に関連して注目すべき経済学のアイデアは、ネットワーク効果だけではない。それと同じくらい重要なのが「スイッチングコスト」で、大手サービスから乗り換える際に支払わなければならないコストを指す。Facebookを退会したら、より良い世界にあなたを追いかけて来てくれない人とは繋がれないのだ。

スイッチングコストは大規模コミュニケーションシステムでは不可避なのか、といえばそうでもない。電子メールのプロバイダを変更しても友人と連絡を取り合うことができるし、携帯電話のキャリアを変更しても、電話番号は変わらないので友人に伝える必要もない。

ビッグテックのスイッチングコストの高さは、意図されたものだ。ソーシャルメディアは登録は簡単でも、退会は別の話。ゴキブリホイホイのようなもので、ユーザは入ることはできても出ていくことは許されないのである。

相互運用性とスイッチングコスト

相互運用性とは、既存のテクノロジーに接続できるように新しいテクノロジーを設計することである。相互運用性があるからこそ、どのブラウザでもあらゆるウェブサイトにアクセスできるし、LibreOfficeのようなフリー/オープンソフトウェア、Google Officeなどのクラウドソフトウェア、Apple iWorksのようなデスクトップソフトウェアでMicrosoft Officeファイルを読み込むことができるのだ。

相互運用性のある巨大ソーシャルメディアは、新たなサービスとの接続を可能にし、ゴキブリホイホイを破壊する。Facebookを退会したあとも、Facebookに残っている友人やコミュニティ、顧客と繋がり続けることができれば、やめるかどうかの判断はもっと簡単になる。Facebookのルールが気に入らなければ(気に入っている人なんていないだろうが)、どこか別の場所に行くことができる。友人にお別れの言葉を伝えなくても、その後も連絡を取り続けられるのだ。

ACCESS法

そのためには、現在提案されているACCESS法のような法律が必要になる。まだ完璧とは言えないが、ビッグテック・プラットフォームに対し、プライバシーを尊重し、第三者の同意を取得させるためにウォールド・ガーデンの開放を義務づける法案で、ビッグテックのモデレーション・ポリシーや、偏向的・高圧的な運用に不満を持つ人にとっては前進となる。

複数のテクノロジープラットフォームが、すでにその方向に進んでいる。Twitter社は「モデレーションのためのアプリストア」を構築し、そこに複数のサービスを接続して、それぞれが異なるモデレーションの選択肢を提供したいと考えているという。我々はそうなることを願っている! TwitterはFacebookの10分の1の規模であり、成長のための道筋を見つけなければならない。まさに格好のポジションにいるのだ

しかし、最大手のテクノロジー企業からはスイッチングコストを自主的に削減する気配は感じられない。ACCESS法は世界で最も重要な相互運用性に関する提案であり、すべてのインターネットユーザにとって画期的な変化をもたらすかもしれない。

230条を守り、インターネットを守る

残念なことに、ビッグテックのモデレーションを好まない人の多くは、ユーザの言論の自由を支える(通信品位法)230条の撤廃こそが解決策だと考えている。230条は、被害者は加害者を訴えられるし、言論をホストする組織は攻撃的、ハラスメントなどの好ましくないコンテンツを自由に削除できるというルールだ。

だからこそ、保守派のためのTwitterオルタナティブは、ユーザから訴えられることなく、大量のポルノミームを削除できるのである。また、オンラインフォーラムでは、職場でのハラスメント・サバイバーが、名誉毀損で訴えられる心配をせずに加害者を告発できるのである。

もし言論の場を提供することでユーザの発言に責任を負うことになれば、巨大なプラットフォームだけが運営を続けることができるようになる。その場合、「まずは消し、その後に質問する」型の自動削除システムに頼ることになる。

クンバヤ

昨今は右と左が意見の一致を見ることは少ないが、確実に政治的な分断を超えられるテーマが存在している。ネット上の言論に対する独占企業の的はずれな対応への不満だ。

ビッグテックの責任を明確にし、インターネットユーザが表現やモデレーションのポリシーをよりコントロールできるようにするための法律が、初めて提案されている。ACCESS法が約束するのは、大規模なプラットフォームのモデレーション・ポリシーが気に入らないのであれば、あるいは悪用者に寛容すぎると思うのであれば、議論に白熱し過ぎた人を追い出すのが早すぎると思うのであれば、そのプラットフォームを離れても、大切な人々とのつながりを保つことのできるインターネットである。

通信品位法230条を殺しても、ビッグテックの問題は解決しない(もし解決するなら、マーク・ザッカーバーグは230条改革に賛成していない)。もちろん、ACCESS法だけですべてが解決するわけでもない。だが、ビッグテックにユーザへの説明責任を果たす新たなサービスを提供させるという点で、ACCESS法は正しい方向への一歩を踏み出すのである。

Right or Left, You Should Be Worried About Big Tech Censorship | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: July 17, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Adrià Tormo