以下の文章は、電子フロンティア財団の「European Parliament’s Plans Of A Digital Services Act Threaten Internet Freedoms」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

EUデジタルサービス法は、機能している部分を維持し、壊れている部分を修正するチャンスである。EFFをはじめとする市民社会団体は、今日の最も差し迫った課題に対処する大胆なビジョンを策定するとともに、オンライン上の基本的人権を保護する新たなルールを提唱してきた。デジタルサービス法をめぐっては、欧州委員会の最初の提案こそいくつかの点で正しいものであったが、欧州議会がメイド・イン・ヨーロッパの新たなフィルターネットを導入するというアイデアを盛り込もうとしている。中には、アクティブなプラットフォームはユーザのコミュニケーションに責任を負うべきだと考える政治家や、違法コンテンツを迅速に削除するためにはアルゴリズムによるフィルタリングが有効だと考える政治家もいる。

市民権NGOの自由権協会(GFF:Gesellschaft für Freiheitsrechte)のコントロール©プロジェクト責任者で、前欧州議会議員のジュリア・レダ氏は2021年11月8日、「heise online」に掲載された意見記事CC BY 4.0)で、現在の提案を分析し、インターネットユーザにどんな問題をもたらすのかを説明している。この文章を以下に翻訳する(訳注:EFFの英語訳を参考にしながら、ドイツ語記事の機械翻訳と合わせて翻訳を行った)。


政策の編集:欧州議会が歪めるデジタルサービス法

(訳注:欧州の)ネット政治にはおなじみのパターンがある。はじめに欧州委員会がデジタル権を脅かすような提案をする。それから市民社会が抗議行動に出て、直接選挙で選出された欧州議会に最悪の事態を防ぐことを期待する。だが、EUのオンラインプラットフォーム規制で最も重要な立法プロジェクトであるデジタルサービス法の場合、(訳注:おなじみのパターンとは逆に)欧州委員会が拍子抜けするほど人権に配慮した草案を公表したあとに、欧州議会が最も危険なアイデアをねじ込もうとしている。

どうやら欧州委員会は、著作権指令第17条をめぐる失態から何も学んではいないようだ。この法律は、間違いを犯しやすいアップロードフィルターの普及を後押しし、エンターテイメント業界がボタンを押すだけでコンテンツを削除できるようにし、タブロイドメディアによるソーシャルメディア上の偽情報拡散を助長するディストピア的ルールを押し付けるものだ。

デジタルサービス法の採択が延期

今週月曜、域内市場・消費者保護委員会は、欧州委員会及び欧州理事会との交渉を開始するため、デジタルサービス法に関する見解を採択する予定だった。だがそれに代わって、昨日(11月8日)はFacebookの内部告発者、フランシス・ホーゲン氏の公聴会が開催された。投票が延期されたのは、プラットフォーム規制の原則について欧州議会議員の間で意見の相違があったためである。試行錯誤を重ねてきたインターネットサービスの有限責任からの完全な脱却を求める声も高まっており、インターネット上のコミュニケーションの自由が直接脅かされている。

デジタルサービス法は、すべてのプラットフォーム法の根幹をなすものとなる。著作権指令第17条とは異なり、この法律は特定の商業プラットフォームにおける著作権侵害の責任だけを問うものではない。Facebookから非営利の趣味のディスカッションフォーラムに至るまで、あらゆるホスティング事業者にユーザの違法行為に対する責任を課す規制となるよう意図されている。また、プラットフォームが通常の規約に基づいてコンテンツを削除している場合でも、デジタルサービス法は恣意的な判断に対するユーザの権利を強化するために、基本的なルールを定義することも目的とする。欧州委員会のバランスのとれた草案とは対照的に、欧州議会が基本的人権に踏み込んだ制限を受け入れるようになっていることに大いに驚かされる。多くの提案の中でも、以下の3つは著しく危険な提案である。

エンタメ業界が求める30分以内の削除

プラットフォームはこれまで、ユーザがコンテンツを違法アップロードしても、侵害を認識したあとに速やかに削除すれば(訳注:著作権侵害の)責任を負わないとされてきた。「速やかに」というのは、通知後に侵害が容易に判断できるかどうかなど、個々のケースによって異なる。ある発言が違法な侮辱にあたるかを何年もかけて裁判で審理するように、グレーゾーンのケースでは、どんな規模の企業であれ、可能な限りの短時間で削除すべきか否かを判断させるのは無理がある。こうした理由から、欧州の法律家は厳格な削除期限を設けることを断念してきた。

だが、それが変わることになる。欧州議会のデジタルサービス法担当報告者のクリステル・シャルデモーゼ議員(デンマーク)は、違法コンテンツが公の秩序を脅かす場合には24時間以内の削除をプラットフォームに要求している。ソーシャルネットワーク上にアップロードされるコンテンツがどのような場合に公の秩序を脅かすことになるのかは不明だが、プラットフォームは要請から24時間以内に通知されたコンテンツすべてを削除するよりほかなくなるだろう。

欧州議会の諮問機関である法務委員会は、すでにデジタルサービス法に関する見解を採択しているが、そこではさらに踏み込んで、とくにエンタメ業界にアップロードコンテンツを削除する自由裁量権を与えようとしている。スポーツやエンターテイメントイベントのライブストリームは30分以内に削除しなければならないことになっている。スポーツ協会は、著作権リフォームの際にも同様の特別な規制を要求していた。こうした短い削除期限の設定では、人間が削除要請の妥当性を確認することはほぼ不可能であり、自動フィルターによってのみ実現可能となる。

ネットワーク執行法より危険な提案

違法コンテンツの厳格な削除期限は、ドイツのネットワーク執行法(NetzDG)ですでによく知られている。だが、EUレベルで議論されている提案は、多くの点でより危険である。まず、通知されたコンテンツを24時間以内に削除するネットワーク執行法の義務は、明らかに違法なコンテンツの場合と、ごく一握りの大規模プラットフォームにのみ限定されている。だが、欧州議会の交渉担当者の提案には、そのような限定は含まれていない。

第二に、削除期限に違反した場合の影響が、NetzDGとデジタルサービス法で大きく異なる。NetzDGはプラットフォームが法律の要件に組織的に違反した場合に罰金を課すとしている。要するに、24時間の期限に1度間に合わなかったからといって、自動的に罰則が課されるわけではない。

一方、デジタルサービス法では、削除期限の遵守がプラットフォームを免責するための前提条件となる。つまり、通知を受けてから24時間以内にプラットフォームが削除しなかったコンテンツについては、プラットフォームの運営者自身の違法行為として責任を負うことになる。例えば著作権侵害であれば、プラットフォームは該当する1つ1つのコンテンツについて身も凍るほどの損害賠償請求を突きつけられることになるだろう。違法コンテンツの通知の中身を確認することなくすべて削除してしまうインセンティブは、NetzDGよりも遥かに大きくなる。

他にも、欧州議会の報告者は、プラットフォームがユーザの権利を侵害した場合(たとえば透明性義務違反など)に直接責任を負わせることで、プラットフォームの不手際を罰しようとしている。透明性が重要であることは確かだが、このアプローチには大きな危険が伴う。プラットフォームによる違反は常に生じる可能性があり、厳格な市場監視と高額な過料は適切な対応ではある。

だが、プラットフォームによるルール違反が即座に免責セーフハーバーを失うおそれがある場合には、プラットフォームが人工知能を用いてユーザの行動を可能な限り入念にコントロールしようとするインセンティブが生み出されてしまう。こうしたシステムはエラー率が高く、まったく問題のない無数の適法コンテンツまで削除してしまうことは、Facebook内部告発者のフランシス・ホーゲンの証言でも再び明らかにされている

法務委員会は第17条だけでは満足していない

法務委員会が想定しているのは、エンタメ業界の組織をいわゆる「トラステッド・フラッガー」に認定し、プラットフォーム上のコンテンツを独自の判断で削除できるようにし、影響を受けたコンテンツについて年に1度だけ説明すればよいようにすることである。この規制は、悪用への道をひらくことになるだろう。著作権リフォームでアップロードフィルタの導入が義務づけられていないプラットフォームであっても、「トラステッド・フラッガー」からの削除要請を自動的に実行することになる。その「トラステッド・フラッガー」は著作権侵害コンテンツを追跡するために、エラーを起こしやすいフィルタリングシステムに頼ることになるだろう。

その上、免責条項の再定義に関する法務委員会の見解は不合理ですらある。ホスティング事業者は、アップロードされたコンテンツに完全に中立である場合、すなわち検索機能やレコメンド・アルゴリズムを使用してコンテンツの表示に介入しない場合にのみ、免責の恩恵が受けられるとしている。こうした考えが優勢になれば、免責の対象は純粋なウェブホスティング事業者だけに限定されてしまう。著作権リフォームの際はインターネットコミュニティからの強い抗議を受けて、Wikipedia、GitHub、Dropboxなどが除外されたが、法務委員会の提案が通れば、すべてのプラットフォームがユーザの侵害行為に直接責任を負うことになってしまう。つまり、EU域内でのプラットフォーム運営を不可能にしてしまうのだ。

付随的著作権のための偽情報

さらに、著作権法におけるパトロン政治の典型例とも言える報道出版の付随的著作権(訳注:いわゆるリンク税)が、デジタルサービス法議論でも再び議論を方向づけている。法務委員会は、ソーシャルメディア上の報道コンテンツの特別扱いという報道関係者の要求を受け入れた。同委員会は、Facebookなどの大手プラットフォームが今後、報道機関のコンテンツをブロックできなくするよう要求している。たとえ、明らかな偽情報を含んでいたり、利用規約に違反していたりしても、である。

この規制の目的は明らかだ。法務委員会は表現の自由とメディアの多元性を守るためだと主張しているが、付随的著作権を行使するための新たな試みであることは明白だ。プラットフォームによる報道記事へのリンクは付随的著作権に基づいて支払いの対象となるが、同時にプラットフォームがデジタルサービス法によって報道記事をブロックすることが禁止されれば、プラットフォームは記事を表示して使用料を支払う以外の選択肢はなくなる。

報道出版社にとって、これはお金の話でしかない。だが報道出版社は付随的著作権を求めるあまり、偽情報が報道機関から発せられた場合に、プラットフォームが対抗できないようにしようとしている。こうした規制が危険であることは明らかだ。その危険性は、昨年露見したように、独裁体制のプロパガンダに(訳注:ニセの報道機関による)ニュース配信が利用されうるというだけにとどまらない。タブロイド紙を見れば、報道機関の記事というだけで、品質や真実性、さらには基本的な対人関係の行動規範の遵守を保証するものでないことは理解できるだろう。

欧州議会には、基本的人権の守護者としての期待に応えるための時間がまだ残されている。だが、デジタルサービス法の交渉に方向転換が見られなければ、この法律はオンラインプラットフォームの問題を解決するどころか、悪化させるものになるだろう。


出典:Edit Policy: Digital Services Act entgleist im Europaparlament, heise online

European Parliament’s Plans Of A Digital Services Act Threaten Internet Freedoms | Electronic Frontier Foundation

Author: Julia Reda (CC BY 4.0) / Christoph Schmon / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: November 10, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: EFF (Modified by heatwave_p2p)