以下の文章は、電子フロンティア財団の「Wartime Is a Bad Time To Mess With the Internet」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

我々EFFは、他の多くの人々と同じように、ロシアのウクライナ侵攻に恐怖を感じている。また我々は他の多くの人々と同じように、軍事戦略や国際外交の専門家ではない。だが我々は、インターネットと市民の自由については専門的な知識を有している。だからこそ、世界中の政府がインターネット企業に圧力をかけ、インターネット・インフラに干渉していることを深く憂慮している。政治的・軍事的対応の一環としてインターネットに手を加えることは、さまざまなかたちで逆効果になる可能性がある。

すでにソーシャルメディアには強い圧力がかけられている。ロシアはFacebookやGoogle、Netflixなどさまざまな企業に同国の国家支援コンテンツ(訳注:RTやスプートニク)を取り扱うよう要求する一方、欧州連合(EU)は、EU全域でロシアの国家支援コンテンツの放送・配信を禁止するという前例のない決定を下した。またウクライナは欧州委員会に対し、さらに踏み込んだ対応を求めている。

そして現在、ウクライナ政府はICANNに、ロシアのトップレベル・ドメインネーム「.ru」「.рф」「.su」をルートゾーンから排除するよう求めている。ロシアのウェブサイトやメールへのロシア国内外からのアクセスを困難にし、ロシアをインターネットから切り離すよう求めているのである。ウクライナはさらに、欧州・中東・中央アジアの一部を管轄する5つの地域レジストリの1つ、RIPEに接触し、ロシアへのIPアドレス割当を取り消すよう求めてもいる。

ICANNはボタン1つで一国をオフラインにすることはできないし、RIPEがアドレスを失効できるわけでもない。だが問題はそれだけではない。インターネットインフラの基本的なプロトコルを作り直すことは、長期に渡って危険な結果をもたらす可能性が高いのである。

その理由について、いくつか説明しよう。

情報共有の最も強力なツールを、人々が最も必要としているときに奪う

インターネットは偽情報の拡散に使われることもあるが、活動家、人権擁護者、ジャーナリスト、一般人といったあらゆる人々がリアルタイムに事実を記録・共有し、プロパガンダへの抵抗も可能する。実際、ロシアは国内通信を完全にコントロールできるように、数年がかりでインターネットからの「切断(unplug)」をテストしていると報じられている。ロシア政府、あるいはいかなる政府に対しても、インターネットプロバイダは人々を情報バブルの内側に閉じ込めることに手を貸してはならない。

危険な前例を作り出す

介入経路が確立されれば、国家や国家に支援された組織に、公共の対話(public dialogue)をコントロールするための新たな手段が提供することになる。表現を封殺するためのプロセスやツールが開発・拡張されれば、企業に対してそれを適用するよう求める要求が殺到するだろう。必然的に、そのツールは本来の設計意図にはない、もともと対象としていなかった表現に適用されるようになる。すでにプラットフォームレベルでは、国家や国家に支援された組織が反対意見を封じ込めるために、フラグ(通報)ツールを武器化しているのである

すべての人々のセキュリティとプライバシーを損なう

インターネットインフラを危険に晒せば、インターネットとそのユーザのセキュリティに影響が及ぶことになる。たとえば、IPアドレスの失効は、ISPがルーティングポリシーを記述するために用いるRPSL(Routing Policy Specification Language)や、インターネットのBGPルーティングインフラのセキュリティ向上に用いるRPKI(Resource Public Key Infrastructure)などが著しく害されることを意味する。これにより、ユーザは中間者攻撃に晒され、銀行決済などの日常的な活動が危険に晒され、隠れる場所を失うことでユーザのプライバシーが損ねられる。

ネットワークとその基盤たるポリシーの信頼を損ねる

ネットワークが自己組織化し、他のネットワークと相互運用するために最も重要なのは、信頼である。これによって、パンデミックや戦争に耐えうるレジリエントなグローバル通信インフラが保証されている。この信頼は、中立なポリシー、ルール、制度的メカニズムを開発するための、完全とは言えないまでも入念なマルチステークホルダー・プロセスを基盤としている。こうしたメカニズムが迂回されてしまえば、インターネットの基盤たる信頼を回復不能なまでに損なうことになる。

ICANNRIPEがウクライナ政府の要請を拒否したことに安堵するとともに、他のインフラ機関にも同様の対応を望みたい。危機的状況に陥ると、我々はしばしば、以前であれば考えられなかったような手段を取りたくなるものである。だが、そうした誘惑に打ち勝ち、こうした提案を完全に白紙に戻さなくてはならない。暗い時代あればこそ、人々が救いに到達し、愛する人を安心させ、自分自身や他の人々に情報を与え、プロパガンダや検閲の壁から逃れられるようにしなくてはならない。インターネットはそのための重要なツールなのである。それを台無しにしてはならない。

Wartime Is a Bad Time To Mess With the Internet | Electronic Frontier Foundation

Author: CORYNNE MCSHERRY AND KONSTANTINOS KOMAITIS / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: March 3, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Ricardo Viana