以下の文章は、Access Nowの「Internet shutdowns in 2021: the return of digital authoritarianism」という記事を翻訳したものである。
2021年、Access Nowと#KeepItOn連合は、34カ国で182件のインターネット遮断を記録した。2020年には29カ国、159件だったことと比較すると、この抑圧的なコントロール手法が劇的に復活していることが示されている。昨年のトレンドとトリガーの調査全容については、最新の報告書「デジタル権威主義の復活:2021年のインターネット遮断」をご覧いただきたい。
検閲、情報統制、外界からの隔離は、デジタル権威主義に陥った政府の常套手段である。ネット遮断は、わずかな労力で究極のコントロールを即時達成するための、実績あるオールインワンツールとみなされている。
ネット遮断は常に危険がつきまう。2021年はそれがいかに悪質であるかを浮き彫りにした。各国政府は、内乱、戦争、危機の最中にネット遮断を実施し、2022年に向けて不安定な前例を作り出した。昨年は、エチオピア、ミャンマー、インド当局が、反対意見を抑え込み、住民をコントロールするためにネット遮断に乗り出した。イスラエルによるガザ地区への空爆は、通信インフラを支えるタワーや、アルジャジーラやAP通信のニュースルームを破壊し、ロシアで激化した検閲は、今後起こることを示唆してもいた。
パンデミックによってネット遮断が世界的に減少するのではないかとの見立てもあったが、データを詳細に分析すると、2021年はパンデミック以前の権利侵害戦術に回帰したことがわかった。2020年から2021年にかけて、ネット遮断は23件増加した。
以下のグローバルスナップショットは、Access Nowの最新報告書「デジタル権威主義の復活:2021年のインターネット遮断」のデータをハイライトし、重要な事実や数字、実際の事例を紹介している。本報告書では、ネット遮断のデータを、新たなトレンドに関する追加調査や分析によって解説している。ネット遮断を他人事として無視するのは危険だ。ネット遮断は人権の尊重、健全な民主主義、有効なガバナンスを示すものでは決してない。この報告書が警告となることを我々は望んでいる。
トレンド
長期にわたるネット遮断:2021年に入っても、エチオピアにティグライ地方、インドのジャンムー・カシミール地方、パキスタンの連邦直轄部族地域(FATA)、ミャンマーのラカイン州では、数百万人の人びとが数年にわたるネット遮断のなかで生活を続けている。一部の政府がネット遮断を長期化させ、壊滅的な被害をさらに悪化させている。エチオピアのティグライ地方で2020年11月からネット遮断が実施され、現在までに18ヶ月間継続している。
抗議デモ中のモバイル遮断が増加:2021年には、バングラデシュ、ブルキナファソ、チャド、キューバ、エスワティニ、インド、インドネシア、イラン、イラク、ヨルダン、カザフスタン、ミャンマー、パキスタン、セネガル、南スーダン、スーダン、トルクメニスタン、ウガンダなど18カ国の政府が、抗議デモ中にモバイル・インターネットの遮断を実施した。国民の反対意見を封じるためのモバイル・アクセスの遮断は世界的に増加傾向にあり、2020年の15回に対し、2021年には少なくとも37回実施された。
コミュニケーション・プラットフォームの標的型ブロッキング:国民からの批判や反対意見を封じるために、22カ国の当局が特定のコミュニケーション・プラットフォームを遮断した。たとえばパキスタンでは、反政府デモが計画されたことで、Facebook、Twitter、TikTokなどの主要ソーシャルメディア・プラットフォームへのアクセスを遮断した。さらに別の国では、検閲を回避するために利用される仮想プライベートネットワーク(VPN)の利用の犯罪化やアクセス遮断などの措置がとられている。
進化する技術―スロットリング(帯域抑制)、ブロッキング(アクセス遮断)、ネット遮断の組み合わせ:2021年、#KeepItOn連合は、スロットリング(ネットワークを介したデータ・フローを人為的に制限すること)の事例を10件確認し、そのうち5件は別の遮断と同時または重複して実施された。ヨルダン、ロシア、ウガンダでは、コミュニケーション・プラットフォームの制限と併せてスロットリングが実施され、人権侵害の証拠となるビデオや画像の共有ができなくなった。アルジェリア、インド、イラン、イラク、ヨルダン、ミャンマー、ロシア、ウガンダの人びとが、スロットリングの被害を被った。政府はブロッキングの検出と回避を妨げるために新たな技術や戦術をテストし、採用するようになっている。
特定の場所・住民を対象とした遮断:過去5年間、各国政府や特定の地域・場所を限定した遮断を実施し、最近では特定個人に対するネット遮断さえ試みていることが確認されている。特定地域を対象として遮断は、政府が特定の人々の声を黙らせようとしている兆候であることが多く、すでに周縁化されたコミュニティをさらに脆弱にするおそれがある。
2021年の遮断のトリガー
昨年、当局は抗議活動、社会・政治不安、選挙、紛争の最中、しばしば権力維持の手段として、インターネットアクセスの遮断や速度低下、コミュニケーション・プラットフォームのブロッキング、その他オンラインコミュニケーションへの鑑賞を継続的に実施した。スーダンやミャンマーでは軍事クーデターによりインターネットが遮断され、アルジェリア、ヨルダン、スーダン、シリアでは学校の試験中にネット遮断が行われた。また、多くの国で試験の際にネット遮断を実施するようになってきている。
抗議活動、政治的混乱、クーデター:2021年には、ブルキナファソ、キューバ、チャド、エスワティニ(旧スワジランド)、イラン、ヨルダン、ミャンマー、ニジェール、パキスタン、スーダンなどで、当局が抗議活動の最中にネット接続を一時的に、あるいは完全に遮断した。なぜか? 政府は抗議活動そのものを妨害し、分断しようとしているのではなく、とくに権威主義政権や民主主義の弱い国において、治安部隊による抗議者への弾圧という人権侵害を隠蔽するためのツールとして、ネット遮断を用いているのである。
スポットライト:スーダンのクーデター
スーダン当局は2021年、5回にわたってネット遮断を実施した。10月25日、軍はクーデターにより暫定政府から権力を掌握し、首相や政府関係者を恣意的に拘束したため、インターネットを遮断させたのである。スーダン市民は軍を糾弾するために街頭に立ったが、ネット遮断と軍による暴力にさらされ、7人が死亡、約140人が負傷する事態となった。
戦争と紛争:世界各地で、紛争当事国は、とりわけ通信インフラを標的にするなど、紛争や戦争のさなかに不可欠な市民サービスへの攻撃を強化している。紛争時のネット遮断は、紛争地域の内外を問わず、人命を危険にさらし、救命情報へのアクセスを奪う。アゼルバイジャン、シリア、イエメンにおける過去5年間のネット遮断に関するSTOPプロジェクトを通じて収集されたデータから、あるパターンが見えてきた。紛争のさなかには、インターネット・インフラが軍事ターゲットにされるようになってきている。
2021年には、イスラエル軍が空爆したガザ地区や軍が支配権を掌握したミャンマーの紛争地域で、ネット遮断が実施されたことが記録された。エチオピアのティグライ地方は、内戦、人道に対する罪、民族浄化が続いており、2020年から暗闇に包まれている。
スポットライト:ミャンマー軍によるデジタル・クーデター
2021年2月1日、軍が権力を掌握すると、ミャンマー全土でネット遮断が複数回報告された。それ以来、軍部は定期的に全国の複数の通信チャネルを遮断し、ニュースや情報の拡散をコントロールし、野党勢力や市民社会メンバーの拘束を隠蔽している。5月、6月には、政権がサービスやウェブサイトをホワイトリスト化し、脅威とみなしたチャネルやプラットフォームへのアクセスを遮断していることが報告された。2021年後半にかけて、軍が攻略を試みている地域全体で、標的型のネット遮断が展開された。現在もなお、大規模なインターネットの混乱、検閲、標的型ネット遮断は、同国の通信システムを支配し、国民を孤立と恐怖の状態に置いている。
選挙:選挙中のネット遮断は、民主主義に災難をもたらす。2021年、#KeepItOn連合はチャド、コンゴ共和国、イラン、ニジェール、ウガンダ、ザンビアの6カ国7件の選挙に関連したネット遮断を記録した。7カ国19件の選挙関連ネット遮断を記録した2020年より低下した。
試験:学校の試験中のネット遮断は、特に中等・北アフリカ地域において、依然として一般的に行われている。2021年には、アルジェリア、ヨルダン、スーダン、シリアで試験に関連したネット遮断が記録されている。エチオピア、インド、イラク、モーリタニアなどの国でも、試験中の不正を防ぐために、過去数年間にネット遮断が実施されている。
過去5年間のネット遮断:2016年から2021年までのデータを#KeepItOn連合が共同で収集・分析したところ、世界的な新型コロナパンデミックが発生した2020年は例外として、世界的にネット遮断が大幅に減少した記録も、ネット遮断を実施する国の数が減少したこともないことが明らかになった。
チャレンジと機会
2021年はネット遮断が横行した悲惨な1年となったが、世界中の人びとが団結し、創造的なアドボカシー、ハイレベルなフォーラム、法的介入によって反撃を開始した。
国際的なアクション:G7参加国は、「自国民の情報、知識、データへのアクセスや普及を意図的に妨害する国家による行動」を非難する声明を発表し、クレマン・ブール特別報告者が第47回人権理事会に「インターネット遮断の終焉:その道筋」を提出した。
法廷での挑戦:過去数年の流れを引き継ぎ、2021年にはナイジェリア、スーダン、ザンビアでの法廷闘争が開始された。アフリカでの当局によるネット遮断が増加するつれ、法廷で人権侵害と戦い、判例を確立し、判例法の構築を目指す意欲と機会も増え、世界中の市民社会活動家、人権擁護者らが粘り強い努力のすえに勝利をつかんでいる。
市民社会と危険に晒された人びとの回避・抵抗の手段:Access Nowと#KeepItOn連合は、当局が検閲やオンライン制限に対する斬新なアプローチを開発する中、それに対抗する創造的かつ積極的な手段を講じ、市民社会の担い手に抵抗のためのツールを提供した。2021年、我々は協働して、民主主義の弱体化・人権侵害をもたらすネット遮断を予測・ナビゲート・記録するためのリソースをデザインした。
- 2021年選挙ウォッチ:ネット遮断が行われうる選挙を特定し、インターネットの混乱に関連するリアルタイムの最新情報を提供するとともに、#KeepItOnを支援するための行動を推奨した。
- #KeepItOn インターネット遮断と選挙ハンドブック:選挙監視員、大使館、活動家、ジャーナリスト向けのハンドブック。
- WITNESSのEyes on Internet Shutdowns:活動家、人権擁護者、市民の目撃者、ジャーナリスト、記録者がネット遮断時の人権侵害を記録するための事前準備を支援する「人権のためのドキュメント」。
2021年は、政府当局、武力紛争に関与する勢力、軍事政府が支配のためのツールとしてネット遮断を悪用するのを防ぐという継続的な課題を反映した1年だった。だが我々の成功は、グループとして、これらの課題を克服できるという期待をもたらしている。
今後どうなるのか? #KeepItOnの戦い
このグローバルスナップショットは、#KeepItOn連合(世界中のネット遮断を終わらせるための105カ国の282以上の組織が参加するグローバルネットワーク)が収集したネット遮断のデータを示している。世界的にネット遮断が増加傾向にはあるが、今後の見通しとしては、#KeepItOn連合の成果からインスピレーションを得ている。世界的なステークホルダー間の調整と強力の強化、アフリカでの裁判、遮断の監視、回避、ドキュメント化のリソースと能力の拡大――今後数年間、こうした進展を維持するために、我々な抵抗力を強化し、多くの被害をもたらしているネット遮断を防ぐための圧力をかけ続けなければならない。我々は、#KeepItOnの戦いへのあなたの参加を強く求めている。
Report: Who shut down the internet in 2021?
Author: Marianne Díaz Hernández, Felicia Anthonio, Sage Cheng and Alexia Skok / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: April 28, 2022
Translation: heatwave_p2p