以下の文章は、Access Nowの「Taxonomy of a shutdown: 8 ways governments restrict access to the internet, and how to #KeepItOn」という記事を翻訳したものである。

Access Now

世界中の数十億の人々の生活がネットワーク干渉の影響を受けている。さまざまな手法で実施されるインターネット遮断は、報道の自由や救命情報へのアクセスの遮断、民主的な選挙の妨害、クーデターの助長、さらには戦争犯罪やジェノサイドの隠蔽など、壊滅的な影響を及ぼしている。

だが、その加害者(一般には政府)がどのような技術を用いて遮断を実施しているのかについてはあまり知られてはいない。だが、その知識はインターネット遮断に対抗する上できわめて重要だ。本ペーパー「インターネット遮断の類型:ネットワーク干渉の背後にある技術」は、インターネット遮断の8類型を精査し、技術者やデジタル・ヘルプデスクによるネットワーク遮断の理解、備え、回避、記録を支援することを企図したものである。

技術的実装が重要な理由

政府や悪党にインターネットを遮断されると、市民社会は協力して何が起こっているのかを把握し、被害を受けた人たちが再接続できるように支援し、遮断を記録し、アクセスを回復するようネットワーク、アプリ、サービス、それぞれに働きかけている。市民社会のアクターには、遮断を検知する企業や非営利団体、遮断の特性を明らかにし回避を支援する技術者、遮断を記録するデジタルライツ団体、抗議の声を上げるアドボカシー団体が含まれる。

遮断の技術的実装に関する知識と、それぞれの実装が採用される理由を理解すれば、遮断による混乱を最小限に抑えるとともに、支援体制を整えられる。また、遮断の原因を突き止めれば、裁判所国連などの国際機関で責任追求する上で必要になる証拠の収集も可能になるだろう。

インターネット遮断の類型

インターネット遮断は、政府やその他のアクターが採用できる技術や、その目的によってさまざまな手法が用いられる。本稿では、その実装方法に基づいて、8つの遮断方法に分類した。

ペーパーでは8つの類型ごとに、技術者が遮断に備え、対応するための情報を提供している。ここには、特定の国・地域のインターネット遮断を予測したり、あるいは混乱が誰によって引き起こされたかを特定するための情報が含まれる。また、Access Nowのデジタルセキュリティ・ヘルプラインが支援と軽減のためのリソースとなりうるかも示している。

このペーパーの発表と同時に、インターネット遮断の精緻な定義も提案し、#KeepItOn連合のメンバーの協力のもと、6月6日~10日にかけてRightsConでワークショップを開催する。

遮断がどのように実施されたかを把握できれば、それ以外のさまざまなことを明らかにできる。遮断の背後にいる人物・組織を突き止められるだけでなく、どのような動機・意図で引き起こされたのか、今後もそのキルスイッチが押され続ける可能性がどの程度あるのかが見えてくるだろう。

インターネット遮断という「集団処罰」への国際的な圧力が高まるに連れ、検閲や悪事の隠蔽のためにオンライン情報を操作しようとする政府は、説明責任から逃れるために標的型遮断、スロットリング、アプリブロッキングといった一層巧妙な工作へとシフトしていくかもしれない。こうした工作の特徴を多くの技術者に学んでもらうことで、政府が自分たちの行動を曖昧にしたり正当化できなくなるようにしたい。

本ペーパーを推奨される読者

現状では、インターネット遮断に有効に対抗するためのスキル、知識、技術を持つ人はほとんどいない。だが、それではいけない。ネットワーク干渉へのレジリエンスを高めるためには、容易に導入できる技術的ソリューションを通信インフラにデフォルトで組み込む必要がある。そのためには、複数の業界、政府の政策、市民社会のプロジェクトにまたがる協調的取り組みが必要だ。これは、できるかできないかではなく、意思の問題である。このペーパーは、レジリエンスのためのイノベーションに必要な、技術的干渉の前提理解を持った人々を増やすための第一歩である。そのため、デジタルヘルプデスクの実務家だけでなく、とくに次のような人々に読んでもらいたい。

  • ネットワーク測定ツールの開発者:インターネット遮断を完全に把握するためのテストを設計する。
  • 標準化に取り組む技術者:遮断へのレジリエンスを新たな通信・ネットワーク標準に統合する。
  • 民生用通信機器の設計者:自社製品の遮断へのレジリエンスを高めたり、遮断を軽減するための新製品を設計する。
  • 遮断を詳細に記録するための包括的データスキーマの開発にかかわる情報を提供する#KeepItOn連合を支援する技術者
  • テック企業のシステムエンジニア:既存プラットフォームのコネクションマップや製品配信監視システムを活用した遮断検知を視野に入れる。
  • VPNベンダー、回避アプリの開発者:これまで以上に遮断に対応できるように製品を改良する。
  • 通信エンジニア:通信システムの設計に遮断へのレジリエンスを持たせる。
  • #KeepItOn連合のメンバー:遮断をコミュニティレベルで記録するための明確かつ簡潔な方法論の設計に役立てる。
  • 学術研究者:遮断に対する理解を助け、遮断の人的影響を測定するための研究に活用する。
  • CSIRTのインシデントハンドラー:遮断を経験した組織や個人を支援するための、技術的な問題領域に関する基本的理解を提供する。
  • テクノロジー問題を報道するジャーナリスト:ニュースメディアでの遮断の報道がより詳細で正確なものになるよう、技術的理解を向上させる。

インターネットが遮断された、遮断されそうなときはご連絡を

インターネット遮断を軽減する方法は、遮断の類型と状況によって異なる。我々は、シャットダウンを分類した上で、一般的な提案を行っている。ただし、すでにインターネットが遮断されている場合や、または近い将来に遮断が予定され、緊急の技術支援が必要な場合は、CiviCERTヘルプデスクやAccess Nowのデジタルセキュリティ・ヘルプラインに連絡してほしい。

なお本ペーパーは、中程度の技術的専門知識を前提としたものとなる。技術者やデジタルヘルプデスクの実務担当者などの知識を深めることを目的としている。インターネット遮断に関する一般的な情報はこちらから。

Internet shutdown types and taxonomy: tech behind network interference

Author: Gustaf Björksten, Donna Wentworth, Sage Cheng and Zach Rosson / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: June 2, 2022
Translation: heatwave_p2p