以下の文章は、電子フロンティア財団の「It’s Time For A Federal Anti-SLAPP Law To Protect Online Speakers」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

我が国の公正で独立した裁判所は、深刻な紛争を解決するために存在している。だが残念なことに、民事訴訟で正当な主張を解決するのではなく、その手続きを悪用して他者の言論を封じようとする者がいる。こうした検閲的訴訟は、市民参加を妨害する戦略的訴訟(SLAPP)と呼ばれ、過去数十年にわたって増加傾向にある。

スラップ訴訟の原告は、訴訟費用の高額さを悪用して、自分たちに不利な発言をする批判家に嫌がらせをし、恫喝し、黙らせたいのである。スラップ訴訟を起こせるほどの財力のある原告は、そもそも裁判で勝つ必要すらない。被告に金銭的な負担を強い、裁判によってストレスをかけ時間を奪うことで、言論の自由を封じるのである。

幸いなことに、本日議会に提出された法案「2022年SLAPP保護法(SLAPP Protection Act of 2022)」(訳注:“SLAPPからの保護法”の方が適当かもしれない)は、連邦裁判所でのスラップ訴訟の抑止を目的としている。

誰かを黙らせるための恫喝訴訟を阻止するためには、強力なスラップ規制法が必要だ。社会的関心事について発言したことで訴訟を起こされたとしても、適切なスラップ規制法があれば、裁判官による迅速な審査が行われ、スラップ訴訟であると認められれば訴訟は却下され、訴訟被害者は裁判費用を回収することができる。

近年、スラップ規制法を新たに制定したり、既存の法律を拡張することで対応する州が増えている。こうした州法の保護は州裁判所での訴訟では有効だが、連邦裁判所に訴えられた人々を保護するものではない。

現在、連邦裁判所でのスラップ訴訟を阻止する上で、真の前進をもたらす法案が提出された。2022年SLAPP保護法は、社会的関心事について議論するほぼすべての発言者を強力に保護するものとなる。さらに、連邦裁判所における大半のスラップ訴訟被害者が、スラップ訴訟の原告から弁護士費用を回収できるようにする手続きも定めている(7年以上前に提出された最後のスラップ規制法案を支持する我々のブログ記事書簡はこちら)。

「裕福で強力な企業体が、市民を無益かつ高額な訴訟に引きずり込み、彼らに立ち向かう勇気ある者に経済的・個人的破滅をもたらしている」と、法案提出者のジェイミー・ラスキン下院議員(民主党・メリーランド州)は、昨日の公聴会で法案を公表した際に述べている。

スラップ訴訟の現状

連邦裁判所では、活動家やネット上の批判者を標的にしたスラップ訴訟がますます増加している。最近の事例をいくつか紹介したい。

石炭灰処理企業が環境保護活動家を提訴

2016年、アラバマ州ユニオンタウン(黒人系住民の多い貧しい町、一人あたりの所得中央値は約8000ドル)の活動家が、ユニオンタウンの住居用埋立地に有害な石炭灰を廃棄したジョージア州の企業から3000万ドルの損害賠償を求める訴訟を起こされた。活動家たちはウェブサイトやFacebookで、埋立地が「日常生活に影響を与えている」「外を歩けないし、息もできない」などと発言したとして提訴されたのである。ACLUが活動家グループの弁護に乗り出し、原告は和解に応じた。

シヴァ・アヤドゥライがテックブログを提訴

2016年、テクノロジーブログのTechdirtが、シヴァ・アヤドゥライの「電子メールを発明した」という主張に反論する記事を掲載すると、Techdirt創設者のマイク・マズニックは連邦裁判所で1500万ドルの名誉毀損訴訟を起こされた。マズニックは法廷で反論し、この記事は現在もオンラインのままだが、訴訟費用は彼のビジネスに大きな打撃を与えた。

伐採企業がグリーンピースを提訴

2016年、環境NPOのグリーンピースは、複数の個人活動家らとともに、レゾリュート・フォレスト・プロダクツから提訴された。レゾリュートは、グリーンピースが同社の伐採は「気候に悪影響を及ぼすニュース」だと主張したブログ記事等の記述に対し、訴訟を起こしたのである(裁判は4年に渡って続いたが、カリフォルニア州の強力なスラップ規制法が適用されると判事が判断したため、レゾリュートはグリーンピースに100万ドル近い費用の支払いを命じられた)。

パイプライン企業が環境活動家を提訴

2017年、グリーンピース、レインフォレスト・アクション、シエラクラブなどの環境保護団体が、ダコタ・アクセス・パイプライン・プロジェクトに反対したことで、エナジー・トランスファー・パートナー社に提訴された。エナジー・トランスファー社は、活動家らのツイート等のやり取りが「詐欺的スキーム」に相当し、組織犯罪を取り締まるRICO法に基づいて提訴可能であると主張した

下院議員がツイッターの批判者を提訴

2019年、匿名のツイッターアカウントが、中部カリフォルニア選出のデビン・ヌネズ下院議員(当時)に提訴された。ヌネズは、政治家としての彼の行動を批判した2人のTwitterユーザー、@DevinNunesMomと@DevinCowの正体を暴き、罰してやろうと訴訟を起こしたのである。ヌネズはバージニア州ヘンリコ郡の州裁判所に本件を提訴している。ここは訴訟とはまったく無関係な場所だが、バージニア州はスラップ規制法を制定していないため、多くの原告が同州でスラップ訴訟を起こしている。

同下院議員、自分を報道したメディアを提訴

その後数年にわたり、ヌネズは自分について批判的な記事を掲載した多数のジャーナリストやCNN、ワシントン・ポスト、地元紙のフレズノビー、NBCを州裁判所、連邦裁判所に提訴した。

スラップ訴訟からの迅速な救済

SLAPP保護法は、EFFが定めたスラップ規制法の基準を満たしている。言論の自由を奪うことを目的とした連邦訴訟に見舞われた被告にとって、この法律は強力なツールになるだろう。この法案が可決されれば、社会的関心事について発言したことで訴えられた被告は、特別な棄却申し立てを提出でき、90日以内にその可否が判断されることになる。裁判所が発言者の申し立てを認めれば請求は棄却され、多くの場合、申し立てに要した費用の請求が認められる。

この法案では、州のスラップ規制法の保護も無効化されることはない。つまり、州法がこの法案と同等あるいはそれ以上に強力な保護を与えている場合、スラップ訴訟の被害者は強力な州法に基づいて権利を主張できるのである。

EFFは30年以上にわたってオンラインの発言者の権利を擁護してきた。強力な連邦スラップ規制法は、誰もが変革のために発言でき、組織化できるインターネットというビジョンの実現に不可欠だ。とりわけ権力やリソースを有する人々を批判する場合には。スラップ規制法はすべての人の権利を強化するものとなる。議会が直ちにSLAPP保護法を可決するよう求める。

It’s Time For A Federal Anti-SLAPP Law To Protect Online Speakers | Electronic Frontier Foundation

Author: Joe Mullin / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: September 15, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Svenn Sivertssen (CC BY-NC-SA 2.0) / geralt