以下の文章は、電子フロンティア財団の「The State of Online Free Expression Worldwide: 2022 in Review」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

今年は世界の表現の自由にとって、波乱の1年だった。インターネットの遮断、表現の弾圧、秘密の協定から、匿名性・エンドツーエンド暗号化の制限に至るまで、世界各地でデジタルライツが脅かされている。欧州連合では画期的な規制がもたらされたものの、他の地域、とりわけ権威主義的な国家による規制の取り組みがグローバルなインターネットの分断という脅威をもたらしている。

EFFは、オンラインの表現の自由を求めるグローバルな戦いに深く関わっている。2022年には、DSA人権アライアンスと協力し、欧州議員に欧州の法律が世界に与える影響を考慮するよう働きかけた。また、新たに結成されたアラブ・デジタルライツ・アライアンスに参加し、MENA(中東・北アフリカ)地域のグループや国際的パートナーとともに、市民のオンライン空間の保護を求める運動を展開している。我々は長年にわたり、IFEXネットワークの一員としても活動を続けている。また、国際フォーラムへの参加を(慎重に)再開し、バルカン半島を拠点とするPOINT会議FIFAfrica、レバノンのBread and Net、OSCEなどに参加した。

今年は国際的なパートナーと共に、Protect the Stackを立ち上げた。これは、インフラ・プロバイダが言論警察とならないようにすることを目的とし、世界中の55以上の組織が支援するイニシアチブだ。また、「Tracking Global Online Censorship」を立ち上げ、コンテンツモデレーションが表現の自由に与える影響をグローバルに監視してもいる。

こうした共同的取り組みに加え、とりわけ懸念される地域もあった。今後1年間、我々が注意を向け続けなければならない5つの脅威をお伝えしたい。

1. ガーナの反LGBTQ法

ガーナは表現の自由を重視する立憲民主主義国であり、同地域のテック産業のハブともなっている。そのことが、ガーナ議会により提出されたこの法案を、より一層恐ろしいものとしている。ガーナの法律はすでに同性間の性行為を犯罪としているが、この法案はさらに踏み込み、LGBTQI+や、「男性・女性という二元的なカテゴリに反する性的指向・性自認」を公言した者に、5年以下の禁錮刑を科す脅迫的なものであった。この法案は、LGBTQI+との連帯を表明することすら犯罪化している。

我々は、ガーナの首都アクラに事務所を開設していたTwitterとMeta(後にTwitterの事務所は閉鎖された)に同法案への反対を呼びかけ、さらに法案に反対するガーナのLGBTQI+および人権コミュニティへの支援を世界のアライに呼びかけた。今後も事態の推移を注視していく。

2. イランによるデモ参加者・テクノロジストへの弾圧

今年9月、イラン道徳警察によるジーナ(マフサ)アミニの死が、大規模な抗議への発展した。数万人の逮捕者、著名な反政府デモ参加者の処刑など残忍な弾圧が行われているにも関わらず、2ヶ月経った今も抗議活動は沈静化していない。

政府軍に最初に標的にされた人々の中には、テクノロジストやデジタルライツ活動家が複数名含まれていた。10月、我々はAccess NowやArticle 19、Front Line Defendersらと共に、イランに対しデジタルライツコミュニティへの弾圧を止め、テクノロジーの専門家のエリアン・イクバールやブロガーでテクノロジストのアミール・イマッド(ジャディ)ミルミラニらを釈放するよう求める声明を発表した

イクバールは11月初旬に、ミルミラニは12月中旬に釈放されたが、イラン市民は依然としてオンラインの表現の自由への深刻な脅威に直面している。我々は国際パートナーらとともに、この状況に注意喚起するための活動を継続していく。

3. 表現の自由を損なうトルコの最新の試み

ソーシャルメディア規制をいち早く導入したトルコは、2022年に偽情報の抑制を目的とした法律を制定し、さらに制限を強めている。2020年の変異型NetzDG模倣法を踏襲し、トルコ政府は現在、「恐怖やパニックの扇動」、「治安」、「公共秩序」、「社会一般の福祉を脅かす」意図で「偽情報」を公表した者に3年の禁固刑を科す極めて曖昧な法律によって、偽情報を検閲するのだという。

この法律はトルコ内外から非難を浴び、我々も同様に批判した。この規制が来年のトルコ国内の言論に及ぼす影響を注視していく。

4. サウジアラビアによるオンラインの権利への脅威

サウジアラビアは、オンラインでもオフラインでも表現の自由を認めてはいない。だが、ジャーナリストのジャマル・カショギの残忍な殺害からわずか数年後、スマートシティ「NEOM」などの開発で国際評価を高めようとする同国が、あからさまな表現の自由の制限に乗り出すに至り、我々はこの湾岸国に細心の注意を払うことになった。

2022年、サウジアラビアは2人のTwitterユーザー(うち1人は米国市民)に驚くべき実刑判決を課した。もう一人のサルマ・アルシェハブは英国リーズ大学の学生で、サウジアラビアへの帰国後に逮捕され、1年以上の拘束を経て、34年の禁固刑と34年の渡航禁止を言い渡された。彼女の「罪」とは? 良心の囚人や女性の人権擁護者を支援するコンテンツを共有したことだった。彼女の判決は、爆弾の供与や航空機のハイジャックなど、同国の反テロ法で定められている最高刑を4年も上回った。

10月、我々は10以上の国際機関とともに、英国政府に彼女の釈放を要請するよう求めるなど、彼女の事件を監視し続けている。また、両事件やサウジアラビア政府による他の多くの権利侵害を考慮し、Googleに同国でのデータセンター開設計画を断念するよう要請している。そして今、サウジアラビアはTwitterの最大の投資者となっている。我々がシリコンバレーと人権侵害国とのベンチャーを注視べき理由がさらに増えたことになる。

5. エジプトのアラ・アブド・エル・ファタへの残忍な弾圧

我々は、2022年が、技術者・活動家・作家であるアラ・アブド・エル・ファタが解放され、家族と再会できる年になると信じていた。EFFの友人であるアラのケースは、長年にわたり、私たちの国際的なアドボカシー活動の礎となってきた。今年、国際的な反対にもかかわらずエジプトが主催したCOP27サミットが近づくと、アラはこれまで続けてきたハンガーストライキをさらに強硬に行うことを決意し、命を危険にさらしながらも、彼が置かれている状況に目を向けさせようとした。結局、アラを始めとするエジプトの政治犯の釈放を求めるCOP27の抗議行動は、気候変動交渉にも影を落とすことになった

アラは2022年のEFFアワードの3人の受賞者のうちの1人であり、彼の功績を称えることを我々は誇らしく思う。だが同時に、この受賞は悲しみを伴うものでもあった。英国政府、多数の米国議会議員、そして国際社会からの要求にもかかわらず、アラは依然として獄中にいる。

だが、彼自身の言葉を借りれば、我々はまだ負けてはいない。11月中旬にハンガーストライキを終え、その直後にようやく家族との面会が許された。アラの家族、友人、そして世界中の仲間たちが、彼の自由を求めて闘い続けている。キャンペーン(外部リンク)では、英国と米国の有権者に国会議員連邦議員への陳情を求めている。2023年がアラの自由を取り戻す年になることを祈りたい。我々は彼が自由を再び手にするまで戦い続けていく。

本稿は、「Year in Review」シリーズの一部である。2022年のデジタルライツの戦いに関する他の記事もご覧いただきたい。

The State of Online Free Expression Worldwide: 2022 in Review | Electronic Frontier Foundation

Author: Jillian C. York / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 27, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Kyle Glenn