以下の文章は、電子フロンティア財団の「Government Hasn’t Justified a TikTok Ban」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

言論と自由と結社の自由には、コミュニケーション技術を選択する権利も含まれる。何を言うか、どこで言うか、誰に言うかを政治家に指図させてはならない。

多くの人が世界中の人々と情報交換するために選択した技術であるTikTokに対し、米国で規制を求める声が高まっていることを我々は懸念している。そうした踏み込んだ行動に出る前に、政府は少なくとも現実の問題とその必要最低限(narrow tailerd: 厳密に調整された)の解決策を具体的な証拠に基づいて提示しなければならない。今のところ、政府はそれをやっていない。

ソーシャルメディアプラットフォームをふくめ、ほぼすべてのオンラインビジネスが膨大な個人データを収集している。TikTokが拠点を置く中国の監視と検閲の慣行を考えれば、Tiktokに特別な懸念を抱いてしまうのもわからなくはない。だが、この問題の最善の解決策は、特定の企業や国を排除することではない。真に必要とされているのは、包括的な消費者データ・プライバシー法の制定だ。TikTokを含むすべての企業が収集する膨大な個人データの蓄積を減らすことで、中国をはじめ、あらゆる政府がデータを買ったり盗んだりする機会を減らすことができる。

多数の人が選択するTikTok

TikTokはショート動画をホストするソーシャルメディア・プラットフォームで、中国に本社を置く社がByteDance社が所有している。米国では月間1億人、世界では10億人のユーザーを抱えている。Pewによると、米国のティーンエイジャーの67%がTiktokを利用し、米国の成人の10%がTiktokで定期的にニュースを得ている。TikTokが競合サービスを押しのけて多数のユーザに選ばれている理由は、そのユニークなコンテンツ・レコメンドシステムにある。それを気に入っているユーザとって、他に替えのきかないソーシャルメディア・プラットフォームなのだ。

TikTokの動画は「人間の思考と同じくらい多様な」トピックを扱っている。政治風刺家が政治家を嘲笑い、選挙立候補者は有権者とつなり、アクティビストは社会正義を推し進め、そして多くのユーザーがダンスビデオなどのエンターテイメントを作成し、楽しんでいる。

TikTok禁止の何が問題か

もし政府がTikTokを禁止すれば、無数のユーザーの言論と結社の自由が損なわれることになる。同様に、ユーザの動画を広めるというTiktokの利益を損ねることにもなる。これは、書店に他人の書いた本を販売する権利があり、新聞に他人の意見を掲載する権利があるのと代わるところはない。

憲法修正第1条に基づく異議申し立てでは、裁判所はTikTokの禁止措置に対して少なくとも「中間精査」を適用し、政府の意図や禁止措置の内容によっては「厳格精査」を適用する可能性がある。いずれにせよ、政府は、禁止措置が国家安全保障やその他の懸念に「厳密に調整された(narrowly tailored)」ことを証明しなければならない。少なくとも、政府は「言及された害が単なる思いつきではなく、現実のものであることを証明しなければならない」のである。また、禁止措置と政府の目標との間に「密接な関連(close fit)」があり、「必要以上に実質的に言論に負担をかけない」ことも示さなければならない。今のところ、政府はこの高いハードルをクリアできることを示す具体的な情報を公には示していない。

TikTokを禁止する場合、米国内外の自由な情報の流れを保護する連邦法、バーマン修正条項もクリアしなければならない。1977年、議会は国際緊急経済権限法(IEEPA)を制定し、大統領による外国との貿易制限の権限を制限した。1988年と1994年、議会はIEEPAを改正し、大統領の権限をさらに制限した。重要なポイントは、大統領は「価値あるものの移転を伴わないあらゆる…個人的なコミュニケーション」と「あらゆる情報または情報資料」の出入(import or export)を「直接的または間接的に規制または禁止」することはできないという点である。TikTokの禁止は、情報の越境を間接的に禁止する措置となる。バーマン議員は次のように説明している。

私たちが特定国の政府を支持しないという事実が、その政府の下で苦しむ人々との対話を阻害するものであってはならない […] 私たちは、他者が切望する自由の体現において、最も強く、最も影響力を持っているのである

TikTokの禁止は、さらなる危害をもたらすことになるだろう。例えば、すでにTikTokを利用しているユーザーが脆弱性を修正するアップデートをできなくなれば、情報セキュリティが損なわれることになる。またTikitokの禁止は、一握りの巨大企業が寡占するソーシャルメディア市場のシェアをさらに固定化することにもなるだろう。その1つであるMetaは、コンサルティング会社を雇い、TikTokへの国民的反感を焚きつけるキャンペーンを全国的に展開している。2020年、中国との国境紛争をきっかけにインドがTikTokを禁止した際には、多くのインド人ユーザーがInstagram ReelsやYouTube Shortsに移行した。最後に、このような禁止措置は、国外の検閲を批判する道徳的権威を損なうことにもなる。

2020年のTikTok禁止令

2020年、トランプ前大統領は、TikTokと、同様に中国産コミュニケーションプラットフォームのWeChatを禁止する大統領に署名した。EFFは、これらの禁止措置への異議申し立てを支持する法廷助言書を2通(12)提出し、批判するブログ記事を3本(123)を公開した。

連邦判事は、原告の修正第1条の主張が成功する可能性があるとして、WeChatの禁止措置に対する仮差止を認めた。裁判所は、政府が提示した証拠は 「ほとんどなく」、禁止令は 「必要以上に実質的に言論に負担をかけるものである」と判断したのである。

2021年、バイデン大統領はこれらの禁止令を取り消した

DATA法

今年、マコール下院議員(共和党・テキサス州)が、「DATA法」(H.R. 1153)を提出し、下院委員会はこれを承認した

同法案は、行政長官に「中国の影響下にある」外国人、またはその国の司法権、直接・関節支配、所有権を持つ外国人に対し、特定の個人データを「譲渡する可能性がある」人物との「あらゆる取引」を米国人が行うことを禁止するよう求めている。法案はさらに、「中国の影響下にある」接続ソフトウェアアプリケーションを運営し、中国の監視や検閲を「促進ないし助長する可能性がある」外国人による財産取引の禁止を求めてもいる。Tiktokがいずれかの基準を満たした場合、大統領は制裁を加えなければならない。

政府は厳密に調整したことを示す具体的な情報を開示してはおらず、この禁止措置が憲法修正第1条の審査に耐えうるかは疑問である。さらに、ACLUが反対意見書で説明するように、主要な用語に曖昧さが目立ち、この点でも違憲審査をクリアできるかは疑わしい。

法案はバーマン修正条項を弱体化し、その結果として、個人データの出入にそのセーフガードが適用されなくなる。だが、Tiktokに限らず、多くのコミュニケーション技術は個人データを越境移転している。そして、ユーザのプライバシーを脅かしているのは中国だけではない。今回のパニックは特定の国に拠点を置く1つのアプリによって引き起こされたものだが、バーマン修正条項の弱体化は、もっと幅広い影響をもたらすことになるだろう。

RESTRICT法

また今年、ワーナー上院議員(民主党・バージニア州)とチューン上院議員(共和党・サウスダコタ州)が、他の10名の上院議員とともに連邦「RESTRICT法」を提出した。これはホワイトハウスにも支持されている。法案は、「情報通信技術」に関連して、国家安全保障等に「過度の、あるいは受け入れがたいリスク」を生じさせる「外国の敵対者」との「取引」や「所有」を禁止する権限を行政府に与えている。

両法案の違いは主に2つあり、強調すべきポイントでもある。第一に、DATA方が行政措置を要求するのに対し、RESTRICT法は審査プロセスを経て認可される。第二に、DATA法が中国のみに適用されるのに対し、RESTRICT法は6つの「敵対国」(中国、キューバ、イラン、北朝鮮、ロシア、ベネズエラ)に適用され、他国にも拡張可能である。

RESTRICT法は、Tiktok禁止のお膳立てともなる法律だ。だが、政府は厳密に調整されたことを示す具体的な情報を開示していない。さらに悪いことに、法案の3つの条項が透明性を損ねている。第一に、行政府は禁止を説明することが「実行可能」かつ「国家安全保障および法執行上の利益と一致」しない場合、公に説明する必要がないとしている。第二に、禁止に異議申し立てする訴訟は、証拠開示の範囲と量に制約を受けることになる。第三に、議会は「敵対国」の指定または指定解除を覆すことはできるが、それ以外の権限を持たない。

ByteDance社へのTiktok売却の強要

バイデン政権は、ByteDance社にTiktokの売却を要請し、さもなくば米国内で禁止措置が取られることを伝えているという。だが、本質的な疑問は解決されていない。政府は、Tikitokの禁止が厳密に調整された措置であることを証明できるのか? それができないのであれば、政府は違法な検閲の脅迫によって、企業に財産を売却するよう強制することはできない。

ここでの文脈は、ByteDance社のTiktokの所有権に関する対米外国投資委員会(CFIUS)の審査である。CFIUSは、外国企業による米国企業の買収を個別に審査し、国家安全保障の名の下に阻止できる連邦機関である。ByteDance社は2017年にTikTok(当時はMusical.ly)を買収し、CFIUSは2019年にこの買収について調査を開始した。

これに対し、TikTokは「プロジェクト・テキサス」というプランを約束した。CFIUSの監督システムに15億ドルを費やし、TikTokからByteDance社や中国当局へのデータフローを遮断するというものである。TikTokの禁止が厳密に調整されたものであるかどうかは、プロジェクト・テキサスが通信プラットフォームの禁止という非常措置によらずに政府の懸念に対応できるか次第なのである。

政府所有Wi-FiからのTikTokの排除

一部の公立大学では、Wi-FiシステムからTikTokを排除している

非常に残念でならない。学生はTikTokを使って、世界中のオーディエンスから情報を集めたり、自分自身を表現している。教授たちは、メディアや文化に関する授業でTikTokを教材として使っている。大学内のニュースメディアも、TikTokの記事を書いたり、その記事をTikitokで発信している。その制限は憲法修正第1条に抵触しかねない。

TikTokユーザーはデバイスのデータ通信をWi-Fiからモバイルに切り替えることができるので、Wi-Fiからの排除したところでTiktokへのアクセスを妨げることはできない。このことは、禁止措置が憲法修正第1条の精査に耐える根拠をさらに失わせている。さらに、知識を伝達する上で、事実に基づいて決定することの重要性を教えなければならないはずの大学が、学生に間違った教訓を与えていることにもなってしまっている。

政府所有デバイスからのTikTok排除

米国の半数以上の州が、政府職員に支給される政府所有のデバイスからTikTokを排除し、複数の州の法案でも同様のことが求められている。

政府職員は一般市民よりも諜報リスクが高く、それゆえ政府所有のデバイスにTikTokをインストールすることへの懸念が高まっているのだろう。また、政府は民間企業に比べて自国の資産や職場を管理する強い権限を持っている。だが、特定の技術や国だけをターゲットにした情報セキュリティ政策は、政府の職員やプログラムを保護する最良の方法ではない。

真の解決策:消費者データ・プライバシー法

TikTokに限らず、すべてのソーシャルメディアプラットフォームには、データプライバシーに関する真っ当な懸念が存在する。これらのプラットフォームはいずれも、我々の個人データを収集し、収益化し、他のオンラインビジネスにも同じようにするよう促している。その結果、我々に関する詳細な情報が、購入、データ窃盗、政府の召喚状によって広くアクセス可能になってしまっている。

それこそが、EFFが包括的な消費者データプライバシー法を支持する理由だ(123456789)。

ここで位置情報ブローカーについて考えてみよう。携帯アプリはユーザが知らないうちに、あるいは純粋な同意なしに、我々の物理的な移動の詳細な記録を収集している。アプリ開発者はそれをデータブローカーに売り、データブローカーはそれをお金を払ってくれる人に売る。そうして反ゲイ団体がゲイの神父を特定するためにデータを買い、選挙否定論者が不正投票を証明するといってデータを買っているのだ。そしてあるブローカーは生殖医療機関の訪問者のデータまで販売しているのである。

中国がこうしたデータをほしいと思えば、どうにしてそのデータを購入するルートを見つけ出すことができるだろう。TikTokの運営を禁止しても、中国が米国市民の位置情報を取得することを止めることはできない。より良い方法は、国内のすべての企業の個人データ収集を制限することだ。そうすれば、敵対国が入手する可能性のあるデータの供給量を減らすことができるのだから。

Government Hasn’t Justified a TikTok Ban | Electronic Frontier Foundation

Author: Adam Schwartz and David Greene / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: March 16, 2023
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: EFF (Modified)