以下の文章は、電子フロンティア財団「EFF and Partners to EU Commissioner: Prioritize User Rights, Avoid Politicized Enforcement of DSA Rules」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

EFFとAccess Now、Article 19は、EU域内市場担当委員のティエリー・ブルトンに書簡を送り、デジタルサービス法(DSA)における「システミックリスク」の解釈を明確にし、表現の自由や情報の自由といった基本的権利の保護に高い基準を設けるよう求めた。これは、ブルトンが Xに宛てた書簡に対する反応である。ブルトンの書簡は、英国での極右暴動や、米国大統領候補ドナルド・トランプと Xのイーロン・マスクCEOとの対談(書簡投稿の数時間後に予定され、実際に配信された)に触れ、DSAの遵守を確保するよう Xに促していた。

この解釈の明確化が必要な理由は明白だ。さもなければ、ブルトンの書簡はEUの権限を大きく逸脱したものと受け取られかねない。そして、システミックリスクに基づくアプローチが、世界中で都合の悪い言論を検閲する汎用ツールに変質してしまう恐れがある。トランプ氏とマスク氏の X上での対談に具体的に言及したことで、ブルトンの書簡はDSAの根幹を揺るがしている。皮肉にも、その根幹とは表現の自由や情報の自由を含む基本的権利の保護であり、ブルトン自身の書簡でも言及されていたものだ。

DSAをグローバルな検閲ツールにしてはならない

この書簡は、DSAの批判者たちが最も恐れていたシナリオを裏付けてしまっている。つまり、EUの規制当局がDSAを、EU域内の社会的リスクへの対処ではなく、世界規模の検閲ツールとして利用するのではないかという懸念だ。

DSAは超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)に対し、「EU域内でのサービスの機能と利用」から生じるシステミックリスクの評価を義務付けている。さらにVLOPは、「特定されたシステミックリスクに見合った」「合理的、比例的、かつ効果的な緩和措置」の導入も求められている。このシステミックリスクの強調には、少なくとも部分的には、DSAが合法ではあるが懸念される個々のオンライン発言の拡散に対処するために持ち出されるのではないかという不安を和らげる狙いがあった。これは、自由でオープンなインターネットの維持に尽力する市民社会団体が懸命に働きかけて盛り込んだ制限の一つだ。

ブルトンの書簡には、懸念すべき記述がある。「選挙に関連する討論やインタビュー」がEUにもたらし得る「潜在的なリスク」を現在監視しているというのだ。しかし、トランプ氏とマスク氏の対談を含め、こうした選挙候補者との討論やインタビューは明らかに公共の関心事であり、法の下で最高レベルの保護を受けるべき類の情報だ。特定のイベントに懸念があるにせよ、ニュースバリューがあり、タイムリーで、公共の議論に関わる情報が広がることそれ自体は、システミックリスクにはなり得ない。

オンラインで選挙の情報を求める人々には、VLOPを通じてもそれを閲覧する権利が保障されている。このようなコンテンツの拡散について、DSA違反をほのめかして脅すようなことがあってはならない。そのようなイベントに関連するリスクは、慎重に分析されるべきだ。しかし、ブルトンの書簡は、こうした公開情報が実際にEUの精査対象だという。さらに、VLOPが包括的な監視や偏ったコンテンツ制限を導入することなく、将来の発言イベントにどのような予防措置を講じるべきかはまったく不明なままだ。

加えて、ブルトンの書簡では、「違法」なコンテンツと「有害」なコンテンツの区別がされていない。あたかも欧州委員会が、合法的な発言を個別に制限することを支持しているかのような印象すら覚える。欧州委員会自身は「有害なコンテンツは違法なコンテンツと同じように扱うべきではない」と明言していたはずだ。ブルトンの書簡に添えられたツイートでは、「潜在的に有害なコンテンツの増幅のリスク」に言及していて、これらの用語をあえて混同させているようにすら思える。重要なのは、これがEU、英国、米国、その他の法体系における言論の保護の差異というの問題だけではないということだ。この「違法」と「有害」の区別、そして合法だが有害な言論への保護は、世界的に確立された表現の自由の原則である。

最後に、我々が懸念するのは欧州委員会が地理的な権限を越えようとしていることだ。EU域外で起こるイベントが、EU域内の人々へのリスクや社会的害悪とどう結びつくのか。また、それらのリスクに対処するためにVLOPがどのような行動を取るべきだと欧州委員会は考えているのか。それがまったく示されていない。書簡自体が、現在評価中であり、このイベントがもたらす害は可能性の段階に過ぎないことを認めている。長きにわたり、EFFとDSA人権アライアンスのパートナーたちは、DSAのグローバルな影響も考慮した人権中心のDSA執行の必要性を訴えてきた。欧州委員会が執行の優先順位を決める時が来ている。

全文はこちらから。

EFF and Partners to EU Commissioner: Prioritize User Rights, Avoid Politicized Enforcement of DSA Rules | Electronic Frontier Foundation

Author: Christoph Schmon and David Greene / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: August 19, 2024
Translation: heatwave_p2p

以下は、EFFとAccess Now、Article 19がブルトン委員宛に送った書簡の翻訳である。

Electronic Frontier Foundation

Access Now、ARTICLE 19、電子フロンティア財団(EFF)による共同声明

ブルトン委員

私たちは、先日あなたがXに宛てた書簡について、いくつかの懸念をお伝えします。あなたの書簡は、英国での極右暴動や、米国大統領候補ドナルド・トランプ氏とXオーナーのイーロン・マスク氏との対談(あなたの書簡がXに投稿された数時間後にライブ配信された)に関連して、懸念を表明していました。

確かに、XはDSAに基づき、自社の運営から生じるシステミックリスクを評価し、適切に緩和する義務があります。EU委員会が、全ての超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)にDSAの遵守を求める努力を、私たちは評価しています。

しかし、あなたの書簡はいくつかの問題を提起しており、私たちはその問題を検討し、明確にしていただきたいと考えています。

まず、規制上の警告書簡が、内容の慎重な検討よりも政治的な勢いに押されて発せられたという報道に懸念を抱いています。以前も指摘したように、EU委員会はDSAの執行を、法律の文言に忠実なDSA執行チームと足並みを揃えて行うべきです。これに反する行動は、DSAの執行が政治化され、政治的に緊迫した時期やメディアの注目度が高い時期に、オンラインプラットフォームへの圧力ツールとして使われるのではないかという懸念を引き起こします。

次に、DSAは全てのEU加盟国で法的拘束力を持ち、EU域内の個人にサービスを提供する全ての仲介プロバイダーに適用される点を強調したいと思います。つまり、XのようなVLOPは、EUユーザにコンテンツを配信する際、DSAのデューデリジェンス義務を遵守しなければなりません。これには、自社のサービスの設計や機能から生じるEU内でのシステミックリスクの評価と、基本的権利を尊重した上での適切な措置が含まれます。

EU域外の出来事がEU内の人々に重大な悪影響を及ぼす可能性は確かにあります。しかし、あなたの書簡には、英国での出来事がEU内でのシステミックリスクの閾値に達したのかどうか、またその理由が明記されていません。さらに、なぜ米国の大統領候補とのインタビュー配信がEUで「効果的な緩和措置」を必要とするのか、その説明もありません。これらの点について、私たちは懸念を抱いています。

英国での人種差別的・イスラム排斥的な暴力や、憎悪を助長し暴力を扇動するコンテンツの拡散に対する懸念は、私たちも深く共有しています。しかし、EU委員会には、EU域外の出来事がEU域内の人々へのリスクや社会的害悪とどう結びつくのか、また、これらのリスクに対してVLOPがどのような行動を取るべきだと考えているのか、より透明性のある説明を求めたいと思います。DSAのグローバルな影響も考慮に入れ、人権を中心に据えたDSAの執行が必要不可欠であることを、改めて強調いたします。

特に懸念しているのは、米国大統領選の有力候補者とのライブインタビューが、特別な緩和措置を要するDSA上のシステミックリスクになるとあなたが評価している点です。特定の配信イベントに焦点を当てることは、基本的人権の観点から問題があります。表現の自由と情報の自由はDSAの核心的原則であり、あなた自身もそれを書簡で認めています。たとえこのイベントに懸念があるとしても、ニュースバリューが高く、タイムリーで、公共の議論に関わる情報の普及は、それ自体がシステミックリスクとは言えません。むしろ、ユーザにはそうしたコンテンツを受け取る権利があると私たちは考えています。こうしたイベントに関連するリスクは、公の議論への実際の、あるいは予見可能な悪影響も含めて、慎重に分析されるべきです。さらに、VLOPが包括的な監視や過剰なコンテンツ制限に頼ることなく、将来の発言イベントにどう対処すべきなのか、その具体的な方法も全く明確ではありません。

EU委員会には、VLOPに「有害なコンテンツ」との闘いを広く命じるのではなく、VLOPが自社のシステムとプロセスから生じるシステミックリスクを適切に評価しているかどうかに焦点を当てることを提案します。有害なコンテンツは違法なコンテンツと同じように扱うべきではないというEU委員会自身のDSA解釈に沿わない執行行動を、私たちは懸念しています。実際、DSAが課しているのは違法なコンテンツの削除やその促進に関する措置だけです。したがって、システミックリスクの評価や緩和に関する規定において、コンテンツ固有の制限を一般に要求することは控えるべきだと考えます。

これらの理由から、EU委員会にはDSAにおけるシステミックリスクの解釈をより明確にすることを強く求めます。とりわけ、VLOPや超大規模オンライン検索エンジン(VLOSE)が、自社のシステムやプロセスが公の議論にリスクをもたらすかどうかを評価する際に従うべき、必要な証拠や基準の詳細さを明示してください。DSA第34条(1)で予定されている今後のガイドラインで、リスク評価のこれらの重要な要素に対処することを求めます。

最後に、私たちはEU委員会に対し、政治的感情ではなく証拠に基づいて執行作業を主導すること、そして、表現の自由や情報の自由を含む基本的権利の保護に高い基準を設けることを要望します。

Access Now
ARTICLE 19
電子フロンティア財団(EFF)

Joint Statement by Access Now, Article 19 and EFF regarding Breton letter | Electronic Frontier Foundation