以下の文章は、Access Nowの「Access Now condemns the suspension of X in Brazil」という記事を翻訳したものである。

Access Now

2024年8月30日、ブラジル最高裁のアレシャンドレ・デ・モラエス判事は、数ヶ月に及ぶ法的な対立の末にXの利用停止を命じた。ことの発端は4月、裁判所が複数のXアカウントについて、虚偽情報の拡散や民主主義への攻撃を理由に凍結を命じたことだった。X社がこれに応じなかったことから、裁判所は罰金を科し、同国の法定代理人の投獄も辞さない構えを見せた。X社は罰金の支払いを拒否して、ブラジル国内オフィスの閉鎖を選択し、最終的に、ブラジル国内で同プラットフォーム全体がブロッキングされるに至った。9月2日には、第一法廷の判事たちが全会一致でモラエス判事の判断を支持した。なお、裁判の詳細は非公開とされており、全容の把握にはさらなる情報が必要だ。

Access Nowは、ブラジルにおけるXの遮断に反対の立場を表明する。同時に、プラットフォームの不遵守に対する対抗措置として、サービス全体を遮断する傾向が強まっていることに懸念している。このような極端な措置は、市民の基本的人権を侵害し、とりわけ社会的弱者に深刻な影響を及ぼす。プラットフォームに適切に責任を負わせ、人権への悪影響を軽減するという本来の目的に照らせば、均衡を欠いた対応だと言わざるを得ない。

ブラジルでのX(旧Twitter)遮断は、まさにこの傾向を象徴している。約2200万人のユーザが、プラットフォームと司法判断の板挟みになっている。Xはブラジルの政治や情報共有において重要な役割を果たしてきただけに、その影響は計り知れない。プラットフォームを遮断したところで、虚偽情報やヘイトスピーチなどの問題の根本的な解決にはつながらない。むしろ、情報アクセスの制限は、表現の自由を脅かす結果をもたらす。特に10月に地方選挙を控えるブラジルにとって、民主主義のプロセスに大きな影響を与えることになるだろう。

国際人権法の観点からも、オンラインプラットフォームの遮断は最後の手段とされており、厳格な手続きを踏むべきだとされている。具体的には、影響を受ける当事者への事前通知や、過度な影響を避けるための影響評価の実施が求められる。さらに、遮断命令は独立した公平な司法機関によって発せられなければならず、その法的根拠は明確で予測可能であるべきだとされている。

ただし、今回のケースが複雑な様相を呈していることも事実だ。民主主義の根づいたラテンアメリカの国、ブラジルにおいて、Xの所有者が司法当局の要請を無視し、適切な異議申し立ての手続きを踏まずに、ブラジルの司法制度(および地域の人権制度)を完全に無視する選択をしたことが、事態をここまで悪化させた一因となっている。

さらに問題を複雑にしているのが、VPN(仮想プライベートネットワーク)の利用に関する混乱した情報だ。最高裁が、VPNを使ってXにアクセスする個人や企業に9000ドルの罰金を科す方針を示したことは、プライバシーや情報アクセスの権利を脅かす動きとして懸念される。当初、GoogleやAppleに対してVPNアプリの削除を要請する命令も出されたが、これは撤回された。しかし、VPN利用者への罰金という脅しが残っていることは、個人の自由に対する重大な侵害だと言わざるを得ない。

Access Nowは、この状況が危険な前例となることを懸念している。ブラジルの司法当局とX社、双方の対応が、法的な問題を政治化させ、結果的にユーザが犠牲を強いられる形となっている。Xの遮断という裁判所の決定は、米州人権基準や欧州人権裁判所(ECHR)、さらには国際的な規範に照らしても、過剰な措置だと言える。一方、X社が裁判所の判断に対し、法的な手続きを踏んで異議を唱えなかったことが問題をさらにこじらせ、単なる力の争いに変質させてしまった。特に注目すべきは、Xがインドやトルコなど他国の当局からの要請に対しては選択的に応じている点だ。つまり、X社の対応は、表現の自由などの権利の尊重や保護に関して一貫性を欠き、同社の姿勢が人権重視というよりも場当たり的であることを示している。

Access Nowは、Xへのブロッキングの即時撤回を求める。司法当局とプラットフォーム、双方が説明責任を負わねばならない。同時に、公的機関は人権を保護し、プラットフォーム遮断のような極端な措置は控えるべきだ。このような措置は、民主主義と個人の権利を損なうだけである。

結局のところ、こうした措置はプラットフォームではなく、一般の人々を罰するものでしかない。ブラジルの司法、政府、民間セクターには、表現の自由、情報アクセス、経済的機会といった基本的権利を守るため、協力して取り組むことが求められる。プラットフォームの遮断は、ユーザに過度の負担を強いる一方で、根本的な問題の解決にはつながらない、いわば鈍器のような手段だ。今回のブラジルの事態は、同国の民主主義にとって危険な前例となるだけでなく、世界規模でインターネット遮断やプラットフォーム遮断が増加傾向にある中、他国への警鐘としても受け止められるべきだろう。

Access Now condemns the suspension of X in Brazil – Access Now

Author: Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: September 12, 2024
Translation: heatwave_p2p