以下の文章は、EDRiの「pen letter: The dangers of age verification proposals to fundamental rights online」という記事および掲載されているオープンレターを翻訳したものである。
9月16日、EDRiおよび、プライバシー、暗号化、児童保護、セックスワーカーの権利、消費者の権利に携わる63の団体、研究者、専門家が共同声明を発表した。この声明は欧州委員会に対し、意味のある児童保護策を優先するよう求め、同時に、現在提案されている年齢確認案の妥当性、比例性、そして基本的人権への悪影響について深刻な懸念を表明するものである。
子どもや若者は、オンラインサービスを利用する上で最も脆弱な立場にある。彼らには年齢に見合った、安全性の高いオンライン環境を享受する権利がある。しかし、EU全域でソーシャルメディアに年齢確認ツールの導入を義務付けようとする政策立案者の動きが活発化する中、市民社会からは基本的人権への影響を危惧する声が日増しに大きくなっている。
現行の年齢確認システムは、子どもの保護に効果がないばかりか、むしろプライバシーを侵害し、偽りの安全感すら生み出している。オンラインの安全対策としてこれらに依存することは、子ども、大人双方の権利を危険にさらすことになる。
私たちは欧州委員会に対し、子どもの安全を最優先しつつ、プライバシーも確実に守る、より包括的なアプローチの採用を求める。
EDRiと63の団体、研究者、専門家による公開書簡に目を通してほしい。プライバシー、暗号化、児童保護、セックスワーカーの権利、消費者の権利の専門家たちが署名したこの文書は、なぜ年齢確認が解決策にならないのか、そしてどうすればより安全で包括的なデジタル空間を築けるのかを明らかにしている。
オンラインの基本的権利を脅かす年齢確認提案の危険性に関する共同声明
フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長
子どもや若者は、オンラインサービスを利用する上で最も脆弱な立場にあります。そのため、彼らには年齢に適した、福祉を尊重し、基本的権利を守りながら安全な体験を促進するオンライン環境が必要不可欠です。
フランスやデンマークをはじめとする欧州各国では、ソーシャルメディアの利用に年齢制限を設け、オンラインでの年齢確認ツールの導入を義務付けるEU全体のルール制定を求める声が政策立案者から上がっています。一方、スペインやドイツなどでは、独自の年齢確認アプローチの試験的導入に向けた取り組みが進められています。
子どもたちをオンライン上で守ることは、正当かつ重要な課題です。しかし、既存のオンライン年齢確認ツールがこの目標を達成できるという証拠は乏しいのが現状です。むしろ、年齢確認ツールが全ユーザの基本的権利を侵害し、構造的差別を悪化させ、誤った安全感を生み出している実態が明らかになっています。オンライン上の子どもたちのニーズに対処するという複雑な課題に対し、年齢確認を万能薬として追求することは、子どもと大人双方の基本的権利を損なうリスクがあります。しかも、それによって安全性や福祉が向上するわけでもありません。
私たち署名団体および専門家は、プライバシー、暗号化、児童保護の分野に携わる者として、欧州委員会に対し、効果的な児童保護策を優先するよう呼びかけます。同時に、現在提案されている年齢確認手法の妥当性、均衡性、そして基本的権利全般への悪影響について、深刻な懸念を表明します。
年齢確認方法とその落とし穴
オンラインでユーザの年齢を確認し、特定のサービスへのアクセスを制限したり、年齢に応じてユーザ体験を変更したりすることを目的とした全ての年齢確認方法には、大きな課題とリスクが伴います。
自己申告型モデル(ユーザが自身の年齢を申告する方式)は、ユーザの基本的権利への干渉は比較的少ないものの、簡単に回避できるため、有効性が低下する可能性があります。一方、文書に基づく年齢確認アプローチは、中央の管理者が身分証明書やその他の公的書類を通じてユーザの年齢を確認することを前提としています。この方法は、こうした書類を持たない人々を一律に排除してしまうため、既に周縁化されているグループの表現の自由や情報の権利といった基本的権利を侵害し、デジタルデバイドを深刻化させてしまいます。さらに、年齢推定アプローチ(ユーザの履歴などの信号を予測分析と組み合わせてユーザの年齢を推定する方法)は、生体情報や閲覧履歴といった最もセンシティブな個人データを日常的に露呈させ、しかも誤りが生じやすいという問題があります。
年齢確認がもたらす排除と差別の影響
文書に基づく年齢確認アプローチは、国際的なオンラインプラットフォームの文脈では機能しません。VPNなどを使った回避を防ぐには、国際標準化された年齢確認方法と対応する身分証明書が必要となりますが、それが実現しないのであれば、このアプローチは欧州のユーザをウェブ全体から隔離するリスクを負うことになります。生体認証に基づく年齢確認アプローチは、偏見に基づいており、性別、人種、障害などに基づく差別を助長し、例えば、女性やダウン症の人々の年齢を系統的に低く見積もる傾向にあります。いずれの場合も、ユーザはセンシティブな個人データを民間のプラットフォームや第三者に引き渡さなければならず、データの安全性と完全性に未知の影響を及ぼすおそれがあります。
児童保護に不適切なツールとしての年齢確認
フランスのデータ保護機関CNILは、既存の年齢確認アプローチを評価し、回避可能で、人々のプライバシーを過度に侵害するものだと結論付けています。
ソーシャルメディアの利用に厳格な年齢制限を設け、それを技術的に強制することは、子どもや若者の成長を妨げる可能性があります。セクシャル・ヘルス、LGBTQ+の問題、あるいは民間企業が「不適切」と判断するその他のトピックに関する情報など、彼らが恩恵を受けるはずのリソースから排除してしまうリスクがあるからです。さらに、このようなアプローチは、子どもや若者がデジタルライフを通じて直面し続けるさまざまなリスクに対する回復力を構築するために必要なデジタルスキルの習得を妨げてしまいます。
最後に、年齢確認は誤った安全感を招きます。年齢確認のための技術的アプローチは全て、回避される可能性があると想定しなければなりません。特に、大人が子ども専用のオンライン空間に入ることを防ぐべきシナリオでは、年齢確認を実装することで、悪意のある大人が安全なはずの制限された空間に無制限にアクセスできてしまう可能性があります。
私たちは欧州委員会に対し、不適切で権利を侵害する年齢確認案の追求を続けるのではなく、児童保護に関するより包括的なアプローチを推進するよう強く求めます。年齢確認を、子ども、若者、大人の安全を確保するための単なる技術的解決策としてではなく、段階的に構築できる複合的な解決策や、より侵襲性の低い措置のスペクトルとして捉えることを提案します。年齢の自己申告などの方法は、安全性とプライバシーを重視した設計、コンテンツのラベリング、子ども向けバージョンのサービスなど、他の措置と組み合わせることができます。文書や推定を用いた技術的な年齢確認ツール以外の、侵襲性の低いツールを他の措置と組み合わせることで、より包括的で均衡の取れたアプローチが実現します。
欧州委員会には、特にDSAおよびeIDAS規則の実施に際し、子どものオンライン上の安全が私たち全ての基本的権利に沿ったものとなるよう保証することを求めます。子どものオンライン上の安全は、年齢確認システムのような一時的な解決策だけでなく、構造的な介入を必要とする、より広範な社会的問題の中に位置付けられるべきだということを認識しなければなりません。
署名
非政府組織および市民社会団体
- :DFRI – The Digital Freedom and Rights Association (Sweden)
- 5:th of July Foundation (Sweden)
- Access Now (International, Global)
- Alternatif Bilisim (Turkey and Europe)
- ANSOL – Associação Nacional para o Software Livre (Portugal)
- Article 19 (International, Global)
- Asociación The Commoners (Spain)
- Asociația pentru Tehnologie și Internet (Romania)
- Aspiration (International, Belgium)
- Bangladesh NGOs Network for Radio and Communication (Bangladesh)
- Bits of Freedom (The Netherlands)
- Chaos Computer Club (Germany)
- Civil Liberties Union for Europe (Pan-European)
- Comitato per i Diritti Civili delle Prostitute APS (Italy)
- comun.al, Digital Resilience Lab (International, Mexico)
- D3 – Defesa dos Direitos Digitais (Portugal)
- D64 – Center for Digital Progress e.V. (Pan-European, Germany)
- Danes je nov dan, Inštitut za druga vprašanja (Slovenia)
- Defend Democracy (Pan-European, The Netherlands)
- Defend Digital Me (Pan-European)
- Digital Rights Ireland (Ireland)
- Digital Woman Uganda (Uganda)
- Digitale Gesellschaft Switzerland (Switzerland)
- Digitas Institute (Slovenia)
- Electronic Frontier Foundation (Global, US)
- ESWA – European Sex Workers Rights Alliance (Pan-European)
- EDRi- European Digital Rights (Pan-European)
- European Youth Forum (Pan-European)
- Fight for the Future (International, USA)
- Heinrich-Böll-Stiftung (International, Germany)
- Homo Digitalis (Greece)
- INSPIRIT Creatives NGO (International, Pan-European)
- ISOC Portugal (Portugal)
- IT-Pol Denmark (Denmark)
- IuRe – Iuridicum Remedium (Czech Republic)
- Lobby4kids – Kinderlobby (Austria)
- Metamorphosis Foundation (Western Balkans)
- Norwegian Consumer Council (Norway)
- Panoptykon Foundation (Pan-European, Poland)
- Politiscope (Pan-European, Croatia)
- Privacy & Access Council of Canada (Canada)
- Privacy First (The Netherlands)
- Red Umbrella (Sweden)
- Sekswerkexpertise | Platform Positieverbetering Sekswerkers (The Netherlands)
- Share Foundation (Serbia)
- Sindicato OTRAS (Spain)
- SUPERRR Lab (Germany)
- SW Digital Resilience Advisor (The Netherlands)
- SWEN – Sex Workers Empowerment Network / ΔΕΣ -Δίκτυο Ενδυνάμωσης Σεξεργαζομένων (Greece)
- Wikimedia Europe (Europe, Global)
- Wikimedia Deutschland e. V. (Germany)
- Vrijschrift.org (The Netherlands)
専門家個人、学者、弁護士、活動家
- Amber Mallery (Spain)
- Dr. Athena Michalakea, Birkbeck, University of London, School of Law. Attorney at the Appellate Court, Athens Bar Association (Pan-European, Greece)
- Elizabeth Mc Guinness, M.A., M.Sc. (Pan-European, UK)
- Hanne Stegeman, PhD (Pan-European, UK)
- Ines Anttila, Msc (Sweden)
- Jacqy Sw (The Netherlands)
- Jeremy Harmer, LL.M., Ph.D. (International, UK)
- Dr Laura Connelly (UK)
- M.Wijers LL.M PhD (The Netherlands)
- Rébecca Franco (Europe, US)
- Sandra SW (The Netherlands)
- Yigit Aydinalp (Pan-European)
Author: EDRi (CC BY-SA 4.0)
Publication Date: September 16, 2024
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Chad Stembridge