以下の文章は、電子フロンティア財団の「Five Things to Know about the Supreme Court Case on Texas’ Age Verification Law, Free Speech Coalition v Paxton」という記事を翻訳したものである。
最高裁判所は水曜日、州がオンライン上のアダルトコンテンツへのアクセスに年齢確認を要求することが、成人の憲法修正第1条の権利を侵害しうるかを決定する審理を行う。
Free Speech Coalition v. Paxton事件は、すべてのインターネットユーザのプライバシー、匿名性、言論の自由に広範な影響を及ぼしうる。本件において、最高裁はテキサス州法HB1181の合憲性を判断する。HB1811は、自社をアダルトコンテンツサイトとは考えていないような多くのウェブサイトにも年齢確認の実装を義務づけている。
原告はFree Speech Coalition(アダルト産業の非営利・超党派の業界団体)で、被告はテキサス州を代表するケン・パクストン州司法長官である。しかし本件は、アダルトコンテンツやアダルト産業の問題にとどまらない。近年、州および連邦の立法者たちは、ウェブサイトにユーザの身元確認を義務づけるような、不適切で違憲、かつ危険な検閲法案に魅了されている――ときにソーシャルメディアも対象となる。最高裁がテキサス州側に立てば、インターネットユーザの憲法修正第1条の権利が侵害され、私たちをさらにインセキュアな状態に追い込む州法の氾濫を招くことになるだろう。以下に、今回の審理における重要なポイントと、なぜ最高裁が本件で適切な判断を下す必要があるのかを解説する。
1. アダルトコンテンツは保護された言論であり、州がそのアクセスに年齢確認を要求することは憲法修正第1条に違反する。
米国法の下では、アダルトコンテンツは保護された言論である。憲法と判例の歴史のなかで、保護された言論へのアクセス制限には非常に高いハードルが設定されている。保護された言論へのアクセスに侵襲的な年齢確認を要求することは、単純にそのハードルを乗り越えられないのである。その理由を以下に説明する。
アダルトコンテンツの未成年者への販売を禁止し、実店舗での政府発行IDやその他の年齢証明による年齢確認を求める法律は存在しているが、対面での年齢確認は、オンライン規制と比べて負担は極めて軽微だ。インターネットの規模を考えれば、オンラインコンテンツに影響を与える規制は、17歳以下と見られる人々だけでなく、明らかに成人である無数の人々を巻き込むことになる。
第一に、HB 1181の下では、テキサス州に「未成年者に有害な性的素材」が「3分の1」以上を占めると判断されたウェブサイトは、すべての訪問者から年齢確認のための個人情報を収集することが義務づけられる。これは、アダルトコンテンツ以外の残りの3分の2の素材にアクセスさせる場合でも、年齢確認が必須となる。
第二に、オンラインでの年齢確認方法は様々あるが、テキサス州法は一般に、特定の性的素材だけでなくウェブサイト全体へのアクセスに対して、成人に個人情報のオンライン提出を強制する。州法はウェブサイトに特定の年齢確認方法を定めてはいないが、この個人情報のオンライン提出が現在、最も一般的なオンライン年齢確認方法とされている。しかし、1500万人の米国成人市民は運転免許証を持っておらず、200万人以上が写真つきIDを保有していない。オンライン取引データに基づく他の年齢確認方法も、たとえば住宅ローンを組んでいない人たちには利用できない。
顔画像やカメラ映像に基づく「年齢推定」のような精度の低い方法は、それ自体にプライバシーの懸念がある。これらの方法では、多くの人々――たとえば17歳以上25歳未満の人々――が申告する年齢であるかを正確に判断することができない。これらのテクノロジーはHB 1181の要件を満たす可能性も低い。
第三に、年齢確認が可能な人々にとっても、この法律は匿名でのインターネット閲覧を損い、合法的なコンテンツへのアクセスと発言を妨げる。裁判所は一貫して、匿名性は憲法修正第1条によって保護される言論の自由の一側面であるという判断を崩してはいない。
最後に、法律の遵守には、レジ係にIDを一瞬見せるのとは違って、ユーザの個人情報の保持が必要になる。その結果、ユーザは匿名性、プライバシー、セキュリティに起因する様々なリスクに晒されることになる。
2. HB1181は、テキサス州のすべての成人に保護されたコンテンツを閲覧するための年齢確認を要求し、プライバシーとデータセキュリティの悪夢をもたらす。
年齢確認のために情報を提示したとして、そのデータが、本当に削除されたのか、ウェブサイトの目的外に使用されるのではないか、さらに共有・販売されたりするのではないか、という疑問を抱くかもしれない。だが、それを確実にしる方法は存在しない。つまり、年齢確認システムは監視システムなのである。ユーザは、訪問するウェブサイトやその第三者認証サービス(プライバシー基準すらない、聞いたこともない企業が運営しているかもしれない)の言い分を信頼しなければならない。ほとんどユーザはコンテンツへのアクセスを諦めるだろうが(上記のポイントを参照)、一方で危険を覚悟で受け入れる人々もいるだろう。
ウェブサイトの従業員がデータを悪用したり、ハッカーに盗まれるリスクは現実のものである。データ侵害は米国のほぼすべての人々に影響を及ぼしている。昨年には、年齢確認企業のAU10TIが情報漏洩していたことが発覚した。さらに多くのウェブサイトが年齢確認を義務づけられるようになれば、この問題が劇的に拡大することになるだろう。ウェブサイトが収集する情報が増えるほど、マーケティング企業やバッドアクター、あるいは召喚状を提出した誰かの手に渡る可能性は高まる。
年齢確認を通じて開示される個人データは極めてセンシティブであり、パスワードとは異なり、簡単には(あるいは永久に)変更できない。この法律は、センシティブなウェブサイトに適用されることでセキュリティリスクを増大させる。ウェブサイトやバッドアクターが、個人データをウェブサイトや、ユーザが閲覧する特定のアダルトコンテンツと紐づけられるからだ。多くのユーザが合理的な判断によって、そもそもサイトを閲覧しないようになるという、危険な体制を確立することになる。比較的センシティブでない情報でさえデータ漏洩が日常的に起きている状況を考えると、HB1811はデータプライバシーにおけるカオスを生み出すことになるだろう。
3. 本件判決は、他州の類似法や、今後のオンライン年齢確認を要求する法律に大きな影響を与える。
米国の3分の1以上の州が、テキサス州のHB1181に類似した法律を導入または制定している。この判決は、それらの法律と、全国の成人がオンラインで保護された言論に安全かつ匿名でアクセスする自由に重大な影響を与えるおそれがある。本件で裁判所が設定する判例は、すでに制定された法律と未来の法律の双方に適用されるためだ。本件で間違った判決が下されれば、オンラインポルノグラフィーに対する連邦規模の年齢確認要件を推し進めたい連邦議員たちは最高裁のお墨付きを得たと考えるだろう。
また、リスクにさらされているのはアダルトコンテンツだけではない。最高裁の判決がテキサス州による憲法修正第1条違反を容認すれば、子どもオンライン安全法(Kids Online Safety Act)などの連邦法・州法(ソーシャルメディアへのアクセス前に年齢確認を強制するもの)との戦いもさらに困難になるだろう。
4. 最高裁は以前にも同様の法律を正当に違憲としている。
1997年、最高裁はReno v. American Civil Liberties Union事件において、7対2の判決で連邦オンライン年齢確認法を違憲とした。この言論の自由に関する画期的事件において、裁判所は通信品位法(CDA)の多くの要素が憲法修正第1条に違反すると判断した。その中には、未成年者が閲覧可能な場合に「わいせつな」または「明らかに不快な」オンライン発言を行うことを犯罪とする条項が含まれていた。HB1181と同様に、CDAも結果として、多くのウェブサイトが年齢確認を実装せざるを得なくなり、あるいは閉鎖を強いられることで、多くのユーザが憲法で保護された言論を閲覧できなくなっていただろう。
CDAとの戦いは、オンラインの自由のための最初の大きな結集点の一つであり、EFFも原告および共同弁護人として参加した。法律が最初に可決された時、何千ものウェブサイトが抗議の意を示して背景を黒に変更した。EFFは「ブルーリボン」キャンペーンを開始し、世界中の何百万ものウェブサイトがオンラインの言論の自由を支持して参加した。今日でも、ウェブのあちこちにブルーリボンを見つけることができる。
それ以来、最高裁と多くの連邦裁判所は、オンラインでの身元確認の義務づけ――その方法や形式にかかわらず――は、アダルトコンテンツへの対面でのアクセス制限よりも、憲法修正第1条の権利に大きな負担をかけることを正しく認識してきた。裁判所が一貫して同様の年齢確認法を違憲と判断してきたため、判例は明確である。
5. 安全かつプライバシーを保護する年齢確認テクノロジーは存在しない。
最高裁が1997年のReno事件で指摘した同じ憲法上の問題は、解決するどころか悪化の一途を辿っている。裁判所も「義務的なデジタル認証のリスクは、30年近く前と同様に大きいか、あるいはそれ以上に大きい」と判断してきた。考えてみてほしい――どのような方法で年齢確認を行うにせよ、正確に行うためには、相手が誰であるかを知り、その情報を何らかの形で保持するか、あるいは何度も再確認する必要がある。さまざまな年齢確認方法が存在してはいるが、それらは「より安全」と「より危険」の狭間、あるいは「より正確」と「より不正確」というの狭間のどこかに位置するわけではない。むしろ、それぞれがそれぞれに危険なスペクトルのどこかに位置するのである。各年齢確認方法の危険性についての詳細は、SAFE for Kids Actの実施に関するニューヨーク州司法長官への我々のコメントを参照してほしい。
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最高裁は、オンライン上の憲法修正第1条の権利を支持し、この違憲な州法を無効にすべきである。
テキサス州の年齢確認法は、インターネットユーザから匿名性を奪い、プライバシーとセキュリティのリスクに晒し、一部の成人を憲法修正第1条で保護された性的コンテンツへのアクセスから完全に遮断する。このような年齢確認法は、米国のすべての成人世帯に影響を及ぼす。我々は、裁判所がこの違憲な法律を無効とし、重要なオンライン上の言論の自由の権利を再び確認することを期待している。
本件に関する詳細情報については、最高裁に提出した我々の法廷助言書を参照されたい。年齢確認の問題点に関する一枚もののまとめはこちらを参照。年齢確認に関する最近の州法についての情報はFighting Online ID Mandates: 2024 In Reviewを参照。年齢確認法が世界中でどのように展開されているかについては、Global Age Verification Measures: 2024 in Reviewを参照されたい。
Five Things to Know about the Supreme Court Case on Texas’ Age Verification Law, Free Speech Coalition v Paxton | Electronic Frontier Foundation
Author: Jason Kelley / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: January 13, 2025
Translation: heatwave_p2p