コリイ・ドクトロウの「There’s no such thing as “age verification”」という記事を翻訳した。

Pluralistic

「対象の永続性」とは、目の前から見えなくなっても、そのものがまだ存在していると理解できる能力のことだ。たいていの幼児は2歳までにこの感覚をしっかり身につける。ところがテクノポリティクスの世界では、いい大人の議員たちですらこの能力を持ち合わせていない。「いないいないばあ」で負けるレベルだ。

幾度となく、政治家たちは警告されてきた。お前らのお気に入りの政策は、a)甚大な巻き添え被害を生み出すものでありながら、b)規制しようとしている当の連中にはあっさり回避される程度のものでしかなく、その結果として生じるいたちごっこの末にますます過剰な措置が連鎖的に繰り出されることになる、と。そうして、ハエを捕まるためにクモを飲み込んでおきながら、そのクモを捕まえるために今度は鳥を飲み込まなければならないのはお前たち自身のせいだと指摘されると、彼らは困惑し、傷ついた顔をしてみせるのである。

https://pluralistic.net/2025/01/13/wanting-it-badly/#is-not-enough

愚かなテクノポリシーがもたらす、予見可能で、かつ実際に予見されていた帰結は、我々の周囲にあふれている。しかし、対象の永続性を完全に欠いた政治の永遠のいまの中では、前回バカなやらかしが何が引き起こしたかを覚えていることすら許されない。まさに同じ愚行を、しかも前回よりひどい形で繰り返そうとする。まさにそのときにこそ、記憶は封殺される。

https://pluralistic.net/2024/10/07/foreseeable-outcomes/#calea

テクノポリティクスの本質は、ブルース・シュナイアーの「セキュリティ三段論法[security syllogism]」に集約される。「何かしなければ!よし!何かした」というやつだ。その際、その「何か」が問題を解決する必要も、その「何か」が次に何を引き起こすかを予測する必要もない。とにかく「何か」がなされさえすれば、問題は解決されたことになり、政治家は手柄を主張できる。

こうして実に奇妙な合意された幻覚(コンセンサス・ハルシネーション)が生まれる。誰もが政策が定めた現実と実際の現実が一致しているかのように振る舞うようになるのだ。「ストリーミング」を例に取ろう。ストリーミングなどというものは存在しない。「ストリーム」とは、単に「『名前を付けて保存…』ボタンのないアプリケーションに送信されるダウンロード」にすぎない。

https://pluralistic.net/2025/09/01/fulu/#i-am-altering-the-deal

ひとたびストリームなるものの存在を法的に定めてしまえば、その「ストリーミング」プログラムに「名前を付けて保存…」ボタンが追加されることがないよう天地をひっくり返してでも阻止せねばならなくなる。コードの検証を違法にする法律を作らなければならない。コードの改変も違法にしなければならない。コードの欠陥を報告することも、欠陥に関する情報をまとめることも、改造に関する情報をまとめることも、欠陥や改造をまとめたリストへのリンクを張ることも違法にしなければならなくなる。ハエを飲み込み、クモを飲み込み、鳥を飲み込み、猫を、犬を、そして馬をまるごと飲み込まなければならなくなる。
https://memex.craphound.com/2012/01/10/lockdown-the-coming-war-on-general-purpose-computing/

そして不朽の名作として君臨するのが、「機能する暗号技術の禁止」だ。機能する暗号を禁止するには、フリー/オープンソースソフトウェアを違法化しなければならない。自国に持ち込まれるあらゆるデバイスを検閲しなければならない。機能する暗号技術を提供しうるすべてのサイトを遮断するグレートファイアウォールを構築しなければならない。その結果、ペースメーカーやアンチロックブレーキ、原子力発電所のソフトウェアを確実にアップデートすることが不可能になり、おまけになりすまし犯罪者、外国勢力、企業スパイが政府、企業、ご家庭を荒らし放題になる――それでもなおうまくいかないのだ!

https://memex.craphound.com/2018/09/04/oh-for-fucks-sake-not-this-fucking-bullshit-again-cryptography-edition/

政治家階級を虜にするコンセンサス・ハルシネーションの最新版が、「年齢確認」だ。「年齢確認」などというものは存在しない。インターネットユーザの「年齢を確認」することなどできない――できるのは、インターネット全体を流れるすべてのバイトを、確実に身元が特定された個人に紐づけようと試みることだけである。

https://pluralistic.net/2025/08/14/bellovin/#wont-someone-think-of-the-cryptographers

その代償は途方もない。将来の独裁者、なりすまし犯罪者、そして子供を性的に搾取しようとする者すべてへの贈り物となる。このような試みは、ハッキング、漏洩、ずさんな管理によって、連中の手にデータが渡るよう約束されているのだから。

そう、破滅を約束された試みだ。子供が相手であろうと、「年齢確認」はVPNの使い方を覚えさせることと同義だ。この点は「年齢確認」が提唱されたまさにその瞬間から完全に自明だったにもかかわらず、政策立案者たちは、それを指摘する人々の大合唱が聞こえないフリをし続けた。この問題を目の前に突きつけられると、彼らは憤慨してみせた。「何かしなければならないのがわからないのか? 私が何かしようとするのを邪魔するとは何事だ?」

そして今、このうすらとぼけた連中は一人残らずVPNの禁止を提案しだした。ユタ州から。

https://www.eff.org/deeplinks/2026/04/utahs-new-law-regulating-vpns-goes-effect-next-week

英国まで。

https://www.theregister.com/security/2026/05/18/mozilla-warns-uk-breaking-vpns-will-not-magically-fix-britains-age-check-mess/5241770

こうなることは警告されていた。我々はハエを飲み込むなと言ったのだ。今は何杯ものバケツいっぱいのクモを飲み込むなと言っている。来年にはきっと、この馬の群れさえ飲み込めば万事うまくいくのだと言い出すに違いない。

(Image: Fir0002/Flagstaffotos, https://www.gnu.org/licenses/fdl-1.3.html, modified)

Pluralistic: There’s no such thing as “age verification” (19 May 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: May 19, 2026
Translation: heatwave_p2p