以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Zuckerberg’s increasingly bizarre war on whistleblowers」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

10年以上前、インターネットでつながった若きベラルーシの反体制活動家たちは、アレクサンドル・ルカシェンコ――しばしば「最後のソビエト独裁者」と呼ばれる男――が率いる腐敗した権威主義政権に対し、危険でシュールな戦いを仕掛けた。

ルカシェンコの秘密警察――いまだにKGBと呼ばれている――は、民主化を求める活動家を日常的に恐怖に陥れ、拉致し、あらゆる形態の抗議を禁じている。こうした容赦ない弾圧を背景に、活動家たちは気まぐれな「フラッシュモブ」を仕掛け、ルカシェンコ政権が無害きわまりない行為さえ過剰に取り締まる体制であることを可視化しようとした。

そうしたフラッシュモブの1つが、アイスクリームの集いだった。活動家たちは公共の広場に集まり、アイスクリームのコーンを食べた。ルカシェンコの手先どもは彼らを殴りつけ、引きずっていった。

https://web.archive.org/web/20070609164305/http://pics.livejournal.com/litota_/gallery/0000bcch

抗議者たちは、アイスクリームを食べたことを理由に逮捕してみろとルカシェンコを挑発すれば、どちらに転んでも勝てる状況を作り出せると考えていた。ルカシェンコがアイスクリームを食べるのを違法にすべきだと考えるような下衆だと露呈するか、あるいは反体制派の声を抑え込むこともできない腰抜けだと露呈するか、そのいずれかになるからだ。

ルカシェンコは餌に食いついた。食いつき続けた。何度も何度も。それに続く数年間、抗議者たちは、微笑んだこと、拍手したこと、ただ黙って立っていたという理由で逮捕されることになる。

https://www.indexoncensorship.org/2011/07/belarus-protesters-rally-on-the-web/

世界はルカシェンコが愚か者[buffoon]であることを知った。そしてベラルーシの人々は、この愚か者が、最も無害な行為に最も残虐な罰を下すことをためらわないという自らの見方が正しかったと確信した。

https://sci-hub.st/10.1080/25739638.2021.1928880

打たれ弱く、被害妄想的で、途方もなく腐敗した、敵を黙らせるためなら手段を選ばない愚か者といえば、そうだ、マーク・ザッカーバーグだ。たしかに、このところの見出しはどれも、ザックがFacebookをスポーツ賭博サイトへと変えようとしているという話ばかり。

https://www.businessinsider.com/metas-zuckerberg-enters-the-prediction-market-arena-polymarket-2026-6

だが英国では、ザッカーバーグの内部告発者との戦いが、次第にアイスクリーム級の不条理へと滑り落ちている。もちろん、ここでの内部告発者とは国際的なベストセラーとなった回顧録『Careless People』の著者、サラ・ウィン=ウィリアムズだ。本書は、彼女がFacebookの国際関係チームの責任者として過ごした年月に目撃した犯罪行為を克明に描いている。

https://pluralistic.net/2025/04/23/zuckerstreisand/#zdgaf邦訳

Careless People』は、ミャンマーでのジェノサイドを承知のうえで助長したことを含め、Facebookの組織ぐるみのおぞましい不正の暴露で満ちている。だがそれだけではなく、Facebook経営陣、とりわけシェリル・サンドバーグ、ジョエル・カプラン、そしてマーク・ザッカーバーグの深刻な個人的欠陥をめぐる逸話にもあふれている。

この3名は、途方もない下衆で、残酷で、卑小で、捕食的な人物として描かれている。サンドバーグは、貧しい人々の臓器購入を夢想する性的虐待者として立ち現れる。カプランは間抜けで、難民キャンプに有料のインターネット接続を提供するという彼の計画が、難民は金なんか持っていないと知った途端に瓦解する(彼はまた、ウィン=ウィリアムズが瀕死の昏睡状態にあった期間に「返事がなかった」として彼女の勤務評価を減点している)。だが何より最悪なのはザッカーバーグだ。その罪状は、「カタンの開拓者たち」でのイカサマから、50年に及ぶ内戦のあとのコロンビア和平プロセスを危険にさらしたことにまで及ぶ(正午前にベッドから出られないため)。ザックはさらに、中国でFacebookのサービス提供許可を得るための工作(ただし失敗)の一環として、Facebookのすべてに中国政府がアクセスできる権限と、気に入らないコンテンツを検閲する権限を提示していたことも明かされている。

ひどい製品を提供するおぞましい会社で、最悪の人間たちに率いられている。ウィン=ウィリアムズの雇用条件は、沈黙を義務づける契約への署名を彼女に強いていた(守秘義務)。会社の悪口を言うことを禁じ(誹謗禁止)、Metaとのあらゆるやり取りにおいて司法制度へのアクセスを奪うものだった(拘束的仲裁)。

これら3つの条項――内部告発者になりかねない人間を黙らせるためにMetaが日常的に用いているもの――を束ねることで、Metaはウィン=ウィリアムズの本が出版されたのち、自社の仲裁人に、彼女に自著の宣伝はおろか本について語ることさえ二度としないよう命じさせることができた。裁いたのは実際の裁判官ではない。契約上の紛争を裁くためにMetaから報酬を受け取る弁護士だ。

その仲裁人は、ウィン=ウィリアムズが浴びせた批判1つにつき5万ドルをMetaに賠償するよう裁定し、合計はあっという間に1,100万ドルを超えた。これは、ウィン=ウィリアムズと彼女の夫(フィナンシャル・タイムズの記者)の資産と生涯所得見込みをはるかに上回る。この請求書が本当に支払期日を迎えるようなことになれば、2人は一文無しになるだろう。

ここで興味深い問いが浮かぶ。Metaはこれ以上何を彼女に対してできるというのか? たしかに彼女の純資産の何倍にもなる民事上の損害賠償をすでに勝ち取った。一方彼女は、その合意を無視したところでもはや何の不都合もない。「自由とは、失うものが何もないことの言い換えだ」というわけである。

とはいえ、ウィン=ウィリアムズは仲裁人の定めた規則を几帳面に守り、自著、その内容、そしてFacebook/Metaでの経験について、頑なに沈黙を貫いてきた。昨年、私の著書『Enshittification』の刊行記念で彼女と同じステージに立ったとき、彼女はMetaの話題が出るたびに口を閉ざし、無表情になった。そしてそのあと、本にサインをすることも、本を売ることもしなかった。

https://www.barbican.org.uk/whats-on/2025/event/cory-doctorow-with-sarah-wynn-williams-chris-morris

彼女がブリティッシュ・ブック・アワードを受賞したとき、彼女は受賞の言葉を述べなかったし、頭上のスクリーンに映る本の表紙にはぼかしがかけられていた(彼女は、共同受賞者である故ヴァージニア・ジュフリーの代理として受賞スピーチを行った。ジュフリーはジェフリー・エプスタインに虐待され、アンドルー王子を性的暴行で告発した人物である)。

https://www.theguardian.com/books/2026/may/11/sarah-wynn-williams-and-virginia-giuffre-jointly-win-freedom-to-publish-prize-at-british-book-awards

にもかかわらず、彼女が――自分の本とは別の話題について――ヘイ・フェスティバル[訳注:英国ウェールズ・ポーイスのヘイ・オン・ワイで開催される世界最大規模の文学祭]のステージでティム・ウーやキャロル・キャドウォラダーらと登壇することになると、Metaはフェスティバルとウィン=ウィリアムズに法的な脅しを送りつけ、彼女が公の場で何であれ話せば、仲裁人の命令に違反することになると主張した。そのため、ウィン=ウィリアムズは1時間のあいだステージ上で完全な沈黙と無表情を保ち、一言も発することなく、その傍らでウーとキャドウォラダーが議論を続けた。彼女が登壇した日、『Careless People』はフェスティバルの書店から撤去された。

https://www.theguardian.com/technology/2026/may/31/meta-legal-action-forces-facebook-whistleblower-to-stay-silent-at-hay-festival

話はそれで終わらない。Metaは、ステージ上で沈黙し身じろぎもしなかった彼女の登壇が、その「合意」のさらなる違反にあたると通告し、彼女からさらに多くの損害賠償を求めるつもりだと言いだした。この反アイスクリーム的な脅迫行為がウィン=ウィリアムズを一線を越えさせ、いまや彼女は自身の契約の無効を求めて提訴した。

https://www.theguardian.com/technology/2026/jun/25/whistleblower-sarah-wynn-williams-sues-meta-attempts-to-silence-her-careless-people

彼女の弁護士たちは訴訟に関する書類を公開しており、そのなかには、Metaの要求に応じるために彼女がどれほどの労を払ってきたか、そしてMetaがいかに絶対的に頑迷で恣意的な脅威を突きつけてきたかを説明した、ウィン=ウィリアムズによる285ページに及ぶ供述書も含まれている。

https://katzbanks.com/sarah-wynn-williams-meta-lawsuit-documents

なぜMetaは、この1人の著名な内部告発者を破滅させることにこれほど固執するのか。ストライサンド効果のことはさすがに知っているだろう。こうした脅しをエスカレートさせる付けることが、むしろウィン=ウィリアムズの本(すでにニューヨーク・タイムズのベストセラー第1位)を読者に引きつけ続ける最大の宣伝となる。

おそらくMetaは、多くの人が『Careless People』を手にするきっかけを作ってしまっていることを、完全に自覚しているのだろう(あなたも読むべきだ。本当に素晴らしい本だ)。

https://us.macmillan.com/books/9781250391230/carelesspeople

それでも彼らは、それが支払う価値のある代償だと判断したのだと思う。なぜなら――

a)ウィン=ウィリアムズが会社を去って以降、彼らはさらにひどいことをやってきているし、

b)AIへの巨額の賭けが不発に終わったせいで、何千人もの従業員を解雇し、深刻なキャッシュクランチに陥っているし、

c)サラ・ウィン=ウィリアムズを破滅させることで、会社が犯したさらに重大な罪について、何千人もの恨みを抱えた元従業員たちを恐怖に陥れ、沈黙させることができるからだ。

まあ、これはあくまで私の推測ではあるが。

https://www.businessinsider.com/meta-layoffs-managers-software-engineers-ai-spending-2026-6

ルカシェンコは、アイスクリームを食べたことを理由に子供達を逮捕すれば、国外で物笑いの種になると分かっていた。ザッカーバーグは、ステージ上で棒立ちのまま沈黙していたウィン=ウィリアムズを脅し続ければ、自分が史上最もギロチンが似合う億万長者に見えると分かっている。だがルカシェンコもザッカーバーグも、ケツの穴の小さいいじめっこだと思われることを厭わない。その振る舞いが、自らが抑圧する人々を、権威に楯突く気すら起きないほど怯えさせられるのであれば。

Pluralistic: Zuckerberg’s increasingly bizarre war on whistleblowers (27 Jun 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: June 27, 2026
Translation: heatwave_p2p