以下の文章は、電子フロンティア財団の「Open Innovation in Medical Technology Will Save Lives」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

世界最高峰のエンジニア・プログラムの専門家たちが、医療テクノロジーの知識を共有し、救命治療を広く利用可能にするよう求めている。重要な点は、特許や著作権などの法的制限が、その知識を最も必要としている人たちの障害にならないようにすることだ。

危機的状況下で救命テクノロジーを提供するオープンライセンス

COVID-19ウィルスの治療において人工呼吸器が利用できるか否かが制限要因となっていることが明らかになると、研究者たちは一般的なもので3万ドルもするプロプライエタリな機器に代わるものが必要だと考えるようになってきた。このイノベーションの最前線にいるのがMITライス大学の専門家たちだ。このことは、オープンイノベーションが個人の趣味の領域にとどまらず、世界トップの工学・医学の頭脳が集結する領域であることを証明している。

エンジニアリング・チームが取り組んでいるのは、完全な人工呼吸器が手に入らない場合に、病院にある既存の医療機器を緊急の代用品として使用するための方法である(他にも、スタンフォード大学などが廉価な人工呼吸器ユニットの開発に着手しているが、製造開始には1年以上かかるという)。

この危機によって現状の欠陥が浮き彫りになると、責任あるイノベーターは前進への道、救命への道を切り開く。MITプロジェクトのリソースページを読むと、このプロジェクトが抱える複雑さと危うさがよく分かる。デバイスは安全性と有効性の双方を備えていなければならず、別の治療手段への移行をためらわせるような誤った有効性の感覚を与えてはならず、医師が患者の状態をモニターできるように特定のデータを測定・提示しなければならない。チームはその設計を公開するだけでなく、臨床医が求める要件や機器のテスト結果も公開している。すでにこの短期間のうちに、機器を豚で使用した際のデータを公開している。

こうしたコラボレーションはいずれも、クリエイティブ・コモンズやフリーソフトウェア・ライセンスなどのオープンなソフトウェア・ライセンスを採用しており、ソースの共有や改変が容易に行えるようになっている。だがオープンな取り組みであるからと言って、品質が犠牲になることはない。むしろ科学者たちは、オープンなコラボレーションこそが問題を理解し、革新的なソリューションを生み出す最善の方法であることを知っている。著作権や特許に基づく拒否権をもって、病気と戦う方法や救命機器の製造方法に関する知識の共有を妨げるべきではない。現場での医療機器の調整に関する決定は、その特許を申請した弁護士ではなく、工学・医学の専門家が行うべきなのだ。

一部企業は知財権の不行使を約束

COVID-19とはなんの関係もない古い特許や著作権が、今日行われているCOVID-19研究の障害となることがある。我々は先日、COVID-19検査を提供する企業を訴えたパテントトロール「Labrador Diagnostics」についてお伝えした。Labradorの特許ポートフォリオは2018年に解散した血液検査詐欺企業「Theranos」に由来するものであった。Labradorが実際の製品を製造しておらず、さらに特許の基礎となるTheranosのテクノロジー自体が疑わしいものであるにもかかわらず、この特許は救命の取り組みを妨害している。政府は特許濫用者がCOVID-19との戦いを妨げないように制限を加えなくてはならない。この数週間、カナダ、チリ、エクアドル、ドイツ、イスラエルの政治家は、強制ライセンスによってCOVID-19の研究を特許の濫用から守るための措置を講じている。

いくつかの企業は、自社の知的財産権がCOVID-19との戦いを阻害しないために、自らの役割を果たしている。「オープンCOVID宣言〈Open COVID Pledge〉」は、知的財産権者がCOVID-19と戦う企業や組織に対して特許や著作権を主張しないというシンプルな誓約である。この誓約書に最初に署名したのは、テック大手のIntelとUnified Patentsの2社であった。もちろん、このオープンCOVID宣言は永続的なオープンライセンスよりも狭い範囲の誓約ではあるが、署名した企業がパンデミックとの戦いを邪魔しないことを保証するものではある。

この数週間、特許ロビイストたちは、現行法ではCOVID-19に対抗するための特許保護が十分ではないと訴え、ベン・サッセ上院議員の医薬品・医療機器の特許期間を10年延長する法案を支持している。特許保護を強化しなければウィルスとの戦いをリードする医療専門家が創造性を発揮できないとの主張は実に馬鹿げている。さらにこの提案は、米国の医学研究(安価な人工呼吸器の研究を含む)のかなりの部分に、すでに国民がお金を支払っているという現実を無視している。こうしたテクノロジーを特許や著作権の制限に縛られることなく広く共有することこそ、国民の最良の利益となる。

サッセ上院議員の法案のような提案は、イノベーションは独占企業が提供する経済的インセンティブに依存するという誤った前提が根底にある。オープンイノベーションは、独占に基づく市場が最良の研究判断を導くという考えを否定している。もちろん、研究はリソースと熟練した科学者を必要とする。だが、研究が生み出す洞察やイノベーションの独占は、人々の生活を改善し、さらには命を救うための研究を促す唯一・最善の方法では決してないのだ。

Open Innovation in Medical Technology Will Save Lives | Electronic Frontier Foundation

Author: Kit Walsh, Sophia Cope and Elliot Harmon (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: April 15, 2020
Translation: heatwave_p2p
Materials of Header Image: David Pisnoy / mcmurryjulie