以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Spotify steals from artists, a Spotify exclusive」という記事を翻訳したものである。

レベッカ・ギブリンとの共著『チョークポイント資本主義』は、クリエイティブ業界の労働者はビッグテックかビッグコンテンツのいずれかの側に立たなければならないという間違った二元論を打破することを目指している。その意味では、Spotifyほど、このアプローチの絶望を象徴する企業はない。

Spotifyのストリーミングからクリエイターが得られる雀の涙ほどの金額について耳にしたことがあるかもしれない。その場合、クリエイターに正当な対価を支払おうとしないテック業界のせいでクリエイターが苦しめられているという構図で伝えられる。一方、Spotifyはレコードレーベルに巨額の使用料を支払っているが、それがクリエイターの懐に入る前にレーベルに横取りされているのだという反論を耳にしたこともあるかもしれない。

果たして、Spotifyが買い叩いているのか、それともビッグ3のレコード会社が強欲なのか。だが、Spotifyが買い叩いていて、かつ、ビッグ3が貪欲だとしたら? Spotifyとレーベルが結託して「才能あるクリエイター」から搾取しているのだとしたら? この2つの独占主義者はいずれもアーティストにとって望ましい存在ではなく、我々がどれほど彼らを愛したとしても、彼らはその愛を返してくれることはないのではないのか?

これが『チョークポイント資本主義』第5章のテーマである。この章では、Spotifyとビッグ3が結託し、クリエイティブ労働者から株主へと価値が移転している現状を詳細に綴っている。SpotifyのIPOを前に、Spotifyの株式を取得したレーベルは、クリエイターへの還元を抑制し、レーベル側に数十億ドルの利益をもたらすためにSpotifyと共謀し、数十億ドルものロイヤルティを「支払先不明」、つまり特定のアーティストに支払われないようにしていた。Spotifyとレーベルが作り上げた支払いシステムは、ストリーミング回数に応じて報酬が支払われるものですらなく、Spotifyがビッグ3に保証した「最恵国待遇」によってインディーレーベルが不当に扱われていることについても記している。

救いようのない物語として、SpotifyがIPOした際、アーティストのロイヤルティレートを半減させるために用いられた詐欺的な会計処理の手口についても記した。この物語にはヒーローとして、テイラー・スウィフトも登場する。彼女は自らの交渉力を最大限に発揮して、ユニバーサル・ミュージックに所属するすべてのアーティストにより良い契約条件をもたらした。だが、テイラー・スウィフトだけでは、我々を救うことはできなかった(彼女のファンの中には、異なる考えを持つ人もいるだろうが!)。彼女の連帯では、構造的な解決にはつながらないのである。たとえば、まぁ、Spotifyがジョー・ローガンを1億ドルで引き抜いたように。(訳注:日本語関連記事

ローガンの目の飛び出るような契約は、日々のクリエイターの暮らしとはまったく無関係である。朝にカーニバルの的あてゲームで巨大テディベアを当てて、それを1日中見せびらかすように持ち歩き、カモを引っ掛けようとする――ローガンはそういう存在なのである。

我々は本書の中で、すべてのクリエイティブワーカーがより良い契約を交わすための戦略を議論した。本書の半分くらいは、地元、州、国の法律・規則、ビジネスチャンス、テクノロジーなどの閉塞した状況を打破するための方法について、詳細かつ即時実行可能な提案に充てている。

この本が9月27日に出版されれば、5章と、それに続く6章(「Spotifyはなぜプレイリストに頼りたがるのか」)を全編ご覧いただける(ネタバレ:どこでも同じなアルバムと違って、Spotifyだけのプレイリストはリスナーを囲い込めるし、アーティストに恩を売れるから)。

もちろん、オーディオブックもある。ただし、Amazonの独占オーディオブックストア、Audibleでは購入いただけない。Audibleで聴けるのは第13章「透明性の権利」、つまり、Audibleがいかにしてクリエイターを搾取し、リスナーを囲い込んでいるかを説明した「Audible独占」のパートだけである。

https://pluralistic.net/2022/09/07/audible-exclusive/#audiblegate

ただし、Spotifyユーザであれば、本日から第5章のオーディオ版を聞くことができる。これは「Spotify独占」なので、「Audible独占」と同様に、Spotifyで聞けるのはオーディオブックのこのパートだけである(Spotifyがアーティストに超ド級のボッタクリをふっかけていることを説明している)。

(ぜひ聴いてみてくれ! ステファン・ルドニッキの素晴らしいナレーションだぞ!)

Spotifyの章で説明されているように、チョークポイント資本主義におけるチョークポイントの回避は、本当に、本当に難しい。だからこそ、我々はオーディオブック自主制作のためのクラウドファンディングを開始することにした。まだ数日あるので、ぜひご支援いただきたい。すでに数百冊のハードカバー、数千冊の電子書籍やオーディオブックの予約、数百冊の図書館への寄贈をしてくれた支援者たちの仲間入りしてくれると嬉しい(訳注:キャンペーンは9月16日に終了し、2920人が110,842ドルを支援した)。

それから来週の金曜には、トロントのType Books Junctionでイベントを開催。それを皮切りに、ニューヨーク、ロス、サンフランシスコなどでもツアー周りする予定だ。

https://authorsinterest.org/tour/

Pluralistic: 12 Sep 2022 Spotify is a ripoff, a Spotify exclusive – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 12, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: GuerrillaBuzz Crypto PR