以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Twitch does a chokepoint capitalism」という記事を翻訳したものである。
AmazonがTwitchを買収した際、新たなコングロマリットの誕生によって一層効率的になり、ストリーマーと視聴者、すべての人に利益がもたらされるだろうと聞かされた。こうしたストーリーは反競争的な合併が起こるたびに語られているが、いつだって嘘っぱちである。
AmazonによるTwitch買収がもたらすとされていた最大の効率性となにか? 帯域コストの削減だ。ストリーミングサービスを運営する上で最大のコストは帯域である。そして、Amazon Web Serviceはクラウドコンピューティング界で比類なき巨人だ。Amazonはすでに大規模なインフラを買収・構築しており、たとえ所有していないスタックであっても、優遇措置を要求できるほどの巨人である。
理屈の上では、帯域が安いければ安いほど、Twitchの収益を生み出すクリエイティブ労働者に多額の報酬を支払える。だが、現実にそれは起こり得ない。先日、Twitchは最高レベルの収益分配率を一方的に取り消す理由を説明するブログ記事を公開した。その中で同社ダン・クランシー社長は、この変更は帯域コストに起因するものだと説明した。
大半のストリーマーは、Twitchに稼いだお金の半分(50%)を取られている。かなりの額だが、クランシーは「あなたの成長を可能にする製品と人材への継続的な投資」を理由にこれを正当化している。そして、Amazonによる2014年のTwitch買収後に視聴者一人あたりの収益を増加させた新機能について説明する。
一方、Twitchの最も価値あるストリーマー、つまり最も積極的に口説いたストリーマーに対しては、70/30(労働者が70%、Amazonが30%)という収益分配率が提示されていた。クランシーはその契約を一方的にキャンセルしたのだ。
クランシーは、同社のお気に入りのストリーマーが大多数のストリーマーよりも好条件なのは不公平だと言う。たしかに良い指摘だ。だが彼は、その不公平を解消するにしても、なぜすべてのストリーマーに70/30の分配をできないのかを説明してはいない。
結局のところ、Twitchのコストほぼ固定されていて、新たにマネタイズ機能を追加したところで、Twitchストリーマーが100万人だろうと、たった2人だろうと大して変わらない。つまり、新たなマネタイズ機能はすべてのストリーマーをブーストする。
一方、Twitchの主な変動コスト、つまりサービス上のストリーマーの数に応じて変化するコストは帯域である。だからこそ、クランシーが一方的なレート引き下げの理由に帯域コストを上げたのだろう。だが、腑に落ちない点がある。サム・ビデルが書いているように、「AmazonはAmazon(訳注:AWS)を介したビジネスを運営するためにAmazon(訳注:Twitch)に多額の請求をしているから、ストリーマーからさらに搾り取るしかない」のである。
https://twitter.com/samfbiddle/status/1572667269284777984
ただ、もっと簡単な説明がある。Amazonが従事者を搾取しているのは、それができるからに他ならない。ストリーミング業界は寡占が進み、いまやAmazonは最大手のプレイヤーだ。Amazonは視聴者がストリーミングを視聴するための目的地になっているため、その視聴者にリーチしたいストリーマーは、Amazonが課すどのような条件にも服従しなければならない。Twitchのローンチ当時にクリエイターが行使できた交渉力は、Amazonの市場シェア拡大に伴い消滅してしまった。だからこそ、Amazonはこれまでの契約を破棄し、クリエイターに新たな(訳注:不利な)契約を押し付けているのである。
少数の買い手が売り手を圧迫するような経済状態を「#monopsony」(モノプソニー)と言う。経済学の知見では、モノプソニーはとりわけ危険だという。モノプソニーは、独占企業(集中化した売り手)が顧客から譲歩を引き出すよりもはるかに容易に、供給者から譲歩を引き出せるからである。市場の10%を占めることができれば、モノプソニストとして供給者を圧迫できるようになる。
Amazonはこの点について、かなりあけすけに語っている。投資家向けのプレゼンテーションでは「フライホイール」と説明されているが、要するに、廉売で顧客を獲得し、その顧客をPrimeで囲い込み、囲い込んだ顧客にアクセスするために同社プラットフォームの使用を強いられている事業者から価格譲歩を引き出す、という理屈だ。
https://twitter.com/rgibli/status/1561761732108107777
このフライホイールは、カリフォルニア州の対Amazon反トラスト訴訟の焦点になっている。ロブ・ボンタ州司法長官は、同社が販売者に多額の手数料を課しているために販売者は価格を上げざるを得ず、さらにAmazonの「最恵国待遇」契約により、こうした価格上昇がすべての小売業者に波及していると主張する。
https://pluralistic.net/2022/09/15/prime-suspect/#consumer-welfare
40年にわたり、アーティストに渡る利益の割合がどんどん減少していったにもかからわず、エンターテイメント業界はますます肥大化し、ますます多くの利益を得るようになった。議会はこれを解決するために、クリエイターにより長い保護期間を与え、より容易に権利行使できるようにし、著作権侵害を厳罰化するなど、著作権を強化してきたが、問題は改善するどころか悪化の一途を辿っている。
クリエイターの収入を抑制する最大の要因は、著作権侵害などではなくモノプソニーなのである。四大出版社、三大映画スタジオ、三大音楽レーベル、一大書籍取次、一大映画館チェーンを筆頭に、クリエイターとアーティストの間には無数のチョークポイントが存在する。そして巨大企業はクリエイターに対し、彼らに与えられた著作権を、その著作権が生み出す収益の大部分とともに譲り渡すよう要求しているのである。
これがレベッカ・ギブリンと私が9月27日にビーコン・プレスから出版する新刊『チョークポイント資本主義:いかにしてビッグテックとビッグコンテンツはククリエイティブ労働市場を支配してきたのか、そしてそれに抗うには』の論旨だ。
http://www.beacon.org/Chokepoint-Capitalism-P1856.aspx
本書は2つのパートから成る。前半では、広告テクノロジーからSpotify、DRMによる囲い込み、ハリウッドの脚本家全員が一日のうちにエージェントを解雇し、2年間の過酷なストライキに突入することになった極めて不当な「パッケージ・フィー」に至るまで、テック/エンターテイメントの大企業がクリエイターたちを丸め込むために駆使する詐欺的会計処理と密室で交わされる契約条件を解き明かしていく。
https://www.wga.org/the-guild/about-us/history/wga-agency-campaign-timeline
後半では、こうした反競争的なフライホイールに歯止めを掛け、クリエイティブ労働者の冷蔵庫を食料で満たすための詳細かつ即時的な技術的提案を行う。たとえば、クリエイティブ契約が多数取り交わされているカリフォルニア州、ワシントン州、ニューヨーク州の3州で、不正会計に関するNDAを無効化するといった提案だ。
https://doctorow.medium.com/structural-adjustment-fded18104bbe
本書の半分は構造的な変化に費やされている。なぜなら、市場の集中は構造的な問題だからだ。Twitchで見られたように、たとえあなたがはじめのうちは70/30の分配を要求できるスーパースターだったとしても、その企業が市場シェアを拡大していくと、あなたの利益を損ねるような契約を突きつけられるようになり、あなたは当初のプレミアムを失うことになる。
本書の執筆時の最大のハイライトは、編集者がこの本をボツにしようとした瞬間だ。「とてもいい本だと思うけど、解決策はどれも構造改革ばかりで、ファンやクリエイターが自分たちでできることが全然ないのに失望した」と彼は言った。そして我々はこう思った。「ほとんど理解できてるじゃないか!」
あなたがリサイクルをしたところで気候変動という非常事態は解決しない。あるいは、独占が嫌だと思っていても、それしか選択肢がない以上、そこから買うしかない。同じように、労働力の買い手市場から逃れたくても、個人で交渉するなどはできないのだ。このことははるか昔に労働運動が学んだ教訓であったはずだが、40年に渡る新自由主義の洗脳によって、我々は“個人の集合”以上の意味を持つ“運動としての行動”を想像できずにいる。
だが、その教訓をしっかりと胸に刻んでいる者たちがいる。我々の、そしてすべての労働力の買い手たちだ。プライベート・エクイティ・ファンドが企業を買収し、負債を負わせ、彼らに巨額の「管理報酬」が支払われるたびに、最初の犠牲になるのはその企業で働く労働者たちだ。
そして労働者が搾取されると、次に新しいオーナーは顧客に対してその独占力を行使し始める。まさに、Amazonが投資家の資金を元手に廉売し、顧客を囲い込み、供給者に高い手数料を課して値上げを余儀なくさせたように。
『チョークポイント資本主義』の最終章では、クリエイティブ労働者の窮状が業界横断的な病であることを説明している。どんな業界であろうと、労働力の買い手が集中するとすべての労働者が苦しめられることになる。とはいえ、クリエイティブ労働者はとりわけ影響を受けやすい。創作活動は、人の内なる抑えきれない衝動によって駆動する。だからこそ、企業はどんなに横暴な契約であっても売り手は見つかるとタカを括っているのである(「嫌なの?ならショービズ辞めたら?」)。
だが、そのような職業は他にもたくさんある。医療に代表される「介護業界」の労働者は、経営者から冷や飯を食わされようと患者のためにせっせと働く。プライベート・エクイティが病院の買収・合併に熱心な理由はそこにある。彼らは医療従事者の給料を下げても、ほとんどは出勤してくることを知っているのだ。
レベッカと私は今、この本を携えてツアーに出ている。今週金曜はニューヨークで午後7時から、NYU Engelberg CenterとNilay Patelの主催で、この本を紹介する。
https://www.eventbrite.com/e/chokepoint-capitalism-funtime-book-party-tickets-411552222777
日曜日の午後には、Joseph Mennとサンフランシスコ公共図書館がKoret Auditoriumで私たちを迎えてくる。
https://sfpl.org/events/2022/09/25/author-rebecca-giblin-and-cory-doctorow
9月27日には、Beverly Hills Public Libraryで、ハリウッド脚本家のストライキを主導したDavid A GoodmanがBook Soupとの共同イベントで私たちをホストしてくれることになっている。
https://www.booksoup.com/event/cory-doctorow-rebecca-giblin
また、10月12日にはマイアミのCoral GablesにあるBooks and Booksで。
イベントに参加できない方で、サイン入りの本を予約したい方は、フォリオブックスまで。
https://www.foliosf.com/chokepointcapitalism
Pluralistic: 22 Sep 2022 Twitch’s Chokepoint Capitalism – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 22, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Frankie Cordoba