以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Google’s chatbot panic」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

真に驚くべきことは、検索の未来が関連資料へのリンクではないとMicrosoftが判断したことではない。検索の未来が虚言癖のあるチャットボットが吐き出した華美なパラグラフにあると判断したことだ。さらに注目すべきは、Googleもそれに同調していることである。

Bingに何十億ドルと費やしてきたのに、見向きもされてこなかった。その意味では、バカをやらかしたほうが成功の可能性はあるのかもしれない。だが、世界の検索シェアの90%以上を占める独占企業のGoogleが、なぜMicrosoftと同じ崖から飛び降りなきゃならないのか。

この件に関して、ダン・ホンのMastodonスレッドが実におもしろかった。彼はBingとGoogleのチャットボット化したフロントエンドを(訳注:『鏡の国のアリス』の)トゥィードルディー(Tweedledee)とトゥィードルダム(Tweedledum)になぞらえている。

https://mamot.fr/@danhon@dan.mastohon.com/109832788458972865

「アリスは家の前に2人の不思議なキャラクターを見つけました。どちらも検索エンジンのようです」

「『ぼくはGoogl-E』と、広告べっとりのほうが言いました」

「『そしてぼくはBingle-Dum』ともう一人。そっちのほうはちいちゃくて、お客さんも少なければ、おしゃべりもできなかったものだから、口を尖らせていました」

「『私、知ってる』とアリス。『私になぞなぞを出すんでしょう? もしかして、1人が真実を、もう1人が嘘をつく、とか』」

「『いいや、違うね』とBingle-Dum」

「『2人とも嘘をつくのさ』とGoogl-E」

さあさあ、どんどん面白くなっていく。

「『だめじゃない、2人して嘘つくなんて』」

「『しかも説得力のある嘘だよ』とBingle-Dum」

「『そう、ありがとう。なら、あなたたちのどちらかを信用するには、どうすればいいの?』」

「Googl-EとBingle-Dumは向き合って、肩をすくめました」

AIの生み出す膨大なデタラメ、確率オウムの壊れたおしゃべりでウェブが埋め尽くされつつある時代にあって、チャットボット検索というアイデアはあまりに恐ろしい。

https://dl.acm.org/doi/10.1145/3442188.3445922

Goolgeの戦略は、チャットボットによってインターネットにワードサラダを増やすことにあるのではなく、スマパーや胡散臭いSEO業者がいけしゃあしゃあに語る戯言を排除する(最低限、ファクトチェックする)方法を編み出すことにこそあるはずだ。

にもかかわらず、Googleはチャットボットに全力を傾けている。CEOの号令一下、googleverseのありとあらゆる場所にチャットボットを組み込むよう総力を挙げて取り組んでいるのだ。Googleは一体なぜ、過剰な期待のテッペンから我先に飛び降りるためにMicrosoftに競争を挑んでいるのだろう?

https://en.wikipedia.org/wiki/Gartner_hype_cycle

私は先日、The Atlanticに「いかにしてGoogleはネタ切れに陥ったか」という、Googleの汗まみれの焦燥感、同社が創業以来悩まされ続けてきた不安コンプレックスについて、競争理論に基づいて説明した記事を書いた。

https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2023/02/google-ai-chatbots-microsoft-bing-chatgpt/673052/

話の筋はこうだ――Googleの創業者たちは、検索をより良いものにする素晴らしいアイデアを持っていた。資本市場から多額の資金が投入され、Goolgeは有能で聡明でクリエイティブな人材を採用した。だが、そのアイデアを活かすことのできない企業文化を作り上げてしまった。

Googleが自ら作り上げたプロダクトは――Hotmailのクローンを除いて――ことごとく死んでいった。良いプロダクトもあったし、どうしようもないものもあった。が、それは問題ではない。ウィリー・ウォンカのチョコレート工場のような奇妙奇天烈すら育んできたはずのGoogleは、まったく「イノベーション」を起こすことができなかったのである。

Googleの成功したプロダクトは、検索とGmail以外、すべて買収したものだ。モバイル、広告技術、ビデオ、サーバーマネジメント、ドキュメント、カレンダー、地図などありとあらゆるサービスを買収してきた。Googleは「モノを作る」会社であろうと必死に願ってきたが、実際には、「モノを買う」会社でしかなかった。もちろん、プロダクトの運用や拡張には長けているが、それは独占企業であるために必要な要素だった。

https://www.eff.org/deeplinks/2020/06/technical-excellence-and-scale

自称「クリエイティブの天才」の真の才能は、他人の金で他人のプロダクトを買収して自分の手柄にすることだった――という認知的不協和が、狂気じみた行動へと駆り立てているのである(Twitterユーザならよくご存知だろう)。

Googleは長らくこの病理に苦しめられてきた。2000年代なかば、GoogleはYahooを追って中国市場に参入し、検索結果の検閲、国家的監視への協力を開始した。当時、Goodgeに愚かで自滅的なことをさせたいなら、Yahooをそそのかして先にやらせればいい、と揶揄されたものだ。

ずいぶんと昔の話ではある。当時、Yahooは自暴自棄に陥っていた。有望企業の買収墓場と化し、買収されたプロダクトの多くが公共インターネット上に放置され、血を流し続けていた。Yahooの上級職たちは、メディチ家の骨肉の争いさながらに足の引っ張り合いを競っていた。中国への進出は、Googleの圧倒的な検索性能に屈服した末の自暴自棄の行動でしかなかった。だからこそ、GoogleがYahooのバカげた戦略を踏襲したのには困惑させられた。

当時は本当にワケがわからなかった。時が経ち、Googleがライバルのサービスを猿真似のようにコピーするようになると、その自信喪失の病理が露わになっていった。人気の「ソーシャル」プロダクトに何度も失敗し、Facebookが広告市場で台頭してくると、Googleは全面的な対抗策に打って出た。Google Plusの統合を全部門の「重要業績評価指標」にし、あらゆるGoogleプロダクトが不幸な「ソーシャル」機能の泥沼と化した――つまり、数十億人のユーザが利用するプロダクトが突如として無意味な「ソーシャル」ボタンで埋め尽くされることになってしまったのだ。

G+の大失敗は本当に信じがたかった。G+には素晴らしい機能や統合があったし、忠実なユーザも育てた。だが、それをスポイルしてしまったのは、Googleを「ソーシャルファースト」企業にするという頓珍漢なトップダウンの執着だった。G+の内部崩壊によって、G+の有用な部分は、その愚かな部分とともに消え去っていった。

G+の悲劇を経験した人なら、GoogleのBard(検索チャットボットのフロントエンド)への方向転換は既視感を覚えるかもしれない。まさに「英雄として死ぬか、生きながらえて悪に染まるか」の瞬間だ。Microsoft――反トラスト法違反のトラウマで、ゆりかごのGoogleを絞め殺すことができなかった独占企業――は、プロダクト創造企業から買収・運営企業へと転身し、Googleの背後にピタリとつけている。

昨年、Goolgeはプライベートエクイティの「物言う投資家」を喜ばせるために12000人の人員を解雇したばかりだ。その同じ年に700億ドルの自社株買いを宣言したが、その額は12000人のGoogle従業員の27年間雇えるだけの金額だ。今やGoogleは広告テクノロジーを副業とする金融企業となった。成長の唯一の可能性が、資本市場にアクセスして反競争的な買収をすることを必要とするのであれば、たとえ、他のすべての株主の議決権を創業者が凌駕する「二重株式」構造を有していようとも、お金の神様を怒らせるわけにはいかないのである。

https://abc.xyz/investor/founders-letters/2004-ipo-letter/

ChatGPTとその模倣プロダクトはテックブームのまさに典型で、昨シーズンのWeb3と暗号通貨相場操縦の後継者と言ったところだ。チャットボットに対する明快かつ刺激的な批評は、SF作家テッド・チャンのこの言葉に集約される。「ChatBotはWebのぼやけたJPEGだ」。

https://www.newyorker.com/tech/annals-of-technology/chatgpt-is-a-blurry-jpeg-of-the-web

ChatGPTと人間の作家のアウトプットの重要な違いをチャンは指摘する。人間の作家の構想は粗雑な表現のオリジナルのアイデアだが、ChatGPTに期待できるのは雄弁に表現されたオリジナリティのないアイデアでしかない。ChatGPTは、Googleの検索結果を押し上げるべく低賃金で働く人たちが大量に生み出すSEOコピーサラダの支援ツールとしては大いに役立つことになるのだろう。

チャンのエッセイでは、ChatGPT4はGPT-3へのあらゆる批判を黙らせるほどに優れているとの誇大広告バブルを喝破したジョナサン・サドウスキーのThis Machine Kills ポッドキャストにも触れている。

https://soundcloud.com/thismachinekillspod/232-400-hundred-years-of-capitalism-led-directly-to-microsoft-viva-sales

OpenAIのエンジニアが次期バージョンにChatGPT3の出力を学習させないようにすべく多大な努力を払っていることをサドウスキーは指摘する。もし大規模言語モデルが人間の作ったテキストと同等の資料を生成できるのなら、なぜChatGPT3の出力をベースにChatGPT4を作れないのか、という矛盾だ。

サドウスキーは「ハプスブルグAI」という絶妙な表現でこの問題を説明している。近親交配の末に王家が断絶してしまったように、前のモデルの排気を新しいモデルに吸わせ続ければ、ただでさえ荒れ狂うナンセンス・スパイラルは一層悪化し、最終的には自分のケツの穴から消えてしまうことになるのだ。

(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: Google’s chatbot panic (16 Feb 2023) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 16, 2023
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Cory Doctorow (modified)