以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Tiktok’s enshittification」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

プラットフォームはこのように滅びていく。まず、ユーザにとって良き存在になる。次に、ビジネス顧客にとって良き存在になるために、ユーザを虐げる。最後に、ビジネス顧客を虐げて、すべての価値を自分たちに向ける。そうして死んでいく。

私はこれを「メタクソ化(enshittification)」と呼んでいる。プラットフォームが容易に価値の配分方法を変更できることと、プラットフォームが買い手と売り手の間に陣取ってそれぞれを人質にし、両者の間を通過する価値のシェアをますます大きくする「両面市場」の性質によって生じる必然的な帰結である。

産声を上げたばかりのプラットフォームはユーザを必要とする。それゆえ、はじめはユーザにとって価値のある存在であろうとする。Amazonを思い出してほしい。Amazonは長らく赤字経営だった。資本市場へのアクセスを利用して、あなたが買うものすべてに補助金を出していたからだ。商品を原価割れで販売し、配送も原価度外視だった。さらに、以前のAmazonはクリーンで便利な検索機能も備えていた。ユーザが特定の商品を検索したら、その商品を検索結果の最上位に表示させることに全力を尽くした。

Amazonのユーザがとんでもない厚遇で迎えられていた時代があったのである。多くのユーザがAmazonを利用し、その結果たくさんの実店舗型小売業者が立ち行かなくなると、Amazon以外の店で買うという選択肢が失われていった。次にAmazonは電子書籍やオーディオブックを販売し始めた。それを購入するということは、DRMによってAmazonのプラットフォームに永久にロックインされることを意味した。つまり、Amazonで1ドルのメディアを購入すれば、Amazonとそのアプリから離脱する際にその1ドルを失うことになるのだ。さらにAmazonはプライムを売り込み、1年分の送料を前払いさせた。プライム会員はAmazonでばかり買い物するようになり、その90%は他の店舗で検索することはない。

こうして多くのビジネス顧客を誘引していった。つまり、マーケットプレイスの出品者たちは、Amazonが当初から約束していた「なんでも屋」にAmazonを変えてくれたのだ。サードパーティの出品者たちが次々と参入してきたことで、Amazonは補助金の使い道をサプライヤーに向けるようになった。KindleやAudibleのクリエイターたちも厚遇で迎えられた。Amazonはビジネス顧客の手数料を低く抑え、マーケットプレイスの出品者たちは膨大な消費者にリーチできるようになった。

こうした戦略の結果、買い物客はAmazon以外での商品探しが次第に難しくなり、Amazonでしか検索しなくなった。一方、販売者たちはAmazonで販売しなければならなくなった。

そうしてAmazonはビジネス顧客から余剰を収穫し、Amazonの株主に当てるようになった。今日、マーケットプレイスの出品者は、販売価格の45%以上をジャンク料としてAmazonに支払わされている。Amazonの310億ドル規模の「広告」プログラムは、出品者同士を対立させ、検索結果の上位に表示されるチャンスを競わせるペイオラ(訳注:賄賂)スキームなのだ。

Amazonで検索しても、検索ワードに最も適した商品が最上位に表示されることはない。そこに表示されるのは、検索結果の最上位に表示されるために最も高い額を支払った商品である。その手数料(訳注:広告料)は、あなたが購入する商品の代金に上乗せされる。Amazonから「最恵国待遇」を義務づけられた出品者は、他のストアでAmazonより安く販売することができないので、Amazonはすべての小売事業者の価格を押し上げてもいるのである。

Amazonで「猫用ベッド」を検索すると、最初の画面いっぱいに「広告」が表示される。その中には、Amazonが自社プラットフォームの出品者からパクった自社ブランド商品の広告も含まれているのだが、これが元々の出品者を廃業に追い込んでいる(外部の販売者は上位表示のために45%のジャンク料を支払わなければならないが、Amazonは自社製品の上位表示にこうした料金を請求しない)。「猫用ベッド」の検索結果の最初の5画面のうち、だいたい半分は広告である。

https://pluralistic.net/2022/11/28/enshittification/#relentless-payola

余剰は最初のうちはユーザに向けられ、ユーザの囲い込みに成功するとサプライヤーに向けられ、サプライヤーの囲い込みに成功すると株主に向けられる。そうして、プラットフォームは役に立たないクソの山になる。モバイルアプリストアからSteam、FacebookからTwitterに至るまで、これがメタクソ化のライフサイクルである。

キャット・ヴァレンテがクリスマス前のエッセイで記したように、Prodigyをはじめとするプラットフォームは、ソーシャルなつながりを求める場から、「おしゃべりをやめて、モノを買う」ことを期待される場に一夜にして豹変してしまうのだ。

https://catvalente.substack.com/p/stop-talking-to-each-other-and-start

こうした余剰をめぐるペテンは、Facebookでも起こったことだ。当初、Facebookはあなたが好きな人、気になる人の投稿を表示してくれる良きプラットフォームだった。だがひと度、あなたの大切な人たちがFacebookを利用するようになると、事実上、そこから離脱できなくなってしまう。たとえわかりあえているはずの友達とでも、どの映画を見るか、どこに夕食を食べに行くかは、半分くらいはうまくまとまらない。それはさておき。

Facebookはその後、フォローしていないアカウントの投稿をフィードにプッシュするようになった。最初はメディア企業の投稿をユーザのフィードに埋め込み、新聞や雑誌、ブログへのアクセスを促した。

パブリッシャがFacebookにトラフィックを依存するようになると、Facebookはトラフィックを減少させるようになった。メディアがFacebookに投稿する記事要約とリンクから自社サイトへのトラフィックを絞り、メディアにFacebookの箱庭の内側に全文フィードを供給するよう誘導したのだ。

こうしてパブリッシャはますますFacebookに依存していくことになる。読者はパブリッシャのウェブサイトにアクセスしなくなり、Facebook内でその情報を取得するようになった。パブリッシャは読者を人質に取られ、読者同士も互いに人質に取られてしまった。Facebookはパブリッシャが投稿した記事を読者に見せることをやめ、パブリッシャがお金を支払って「ブースト」しない限り、記事が読者に届かないようにアルゴリズムを調整した。つまり、読者が明示的に特定のパブリッシャの投稿を見たいと表明していても、パブリッシャが金を支払わない限り、その読者には届かないようにしたのだ。

Facebookのフィードにはますます多くの広告が溢れかえっていった。読者が繋がりを求めたアカウントからの賄賂(payola)も、読者の注目を独占したい無関係なアカウントからの賄賂も同じように扱い出したのだ。これは広告主に大いに利益をもたらした。Facebookはあなたの同意なしに収集された個人データに基づいて、ターゲティング広告を安価に売り出したのである。

その結果、広告主もFacebookに依存するようになった。ビジネスがターゲティング広告頼みになってしまったのだ。そうしてFacebookは広告価格を引き上げ、広告詐欺を厭わなくなり、Googleと共謀して『ジェダイ・ブルー』と呼ばれる違法なプログラムを通じて広告市場を不正に操作するに至った。

https://en.wikipedia.org/wiki/Jedi_Blue

今日のFacebookは、ユーザにとっても、メディア企業にとっても、広告主にとっても、末期的なメタクソ化を果たした。この企業は、Facebookユーザの間で動画が人気だという間違った主張をもとに「ビデオへの転向(pivot to video)」を呼びかけ、Facebookに依存していたパブリッシャの大部分に壊滅的な打撃を与えた。メディア企業は(訳注:Facebookにそそのかされて)ビデオ配信に数十億ドルを投じたが、ユーザからは見向きもされず、多くの企業が倒産に追い込まれた。

https://slate.com/technology/2018/10/facebook-online-video-pivot-metrics-false.html

にも関わらず、Facebookは新たな提案をしている。「Meta」と名付けられたソレは、足もセックスもない、厳重に監視されたローポリの子供向け番組のキャラクターとして余生を過ごすことを我々に要求する。

Metaは、メタバース向けアプリを制作する企業に、かつてFacebookがパブリッシャにしでかした酷い目には合わせないと約束している。その甘言に騙される企業がどれくらい現れるかはわからない。かつてマーク・ザッカーバーグは、ハーバード大学の仲間たちが個人情報を新興ウェブサイト「TheFacebook」に送信していることに驚いたと友人に語っていた。

理由はわかんないけど

彼らは「僕を信頼している」

バカなのかな

https://doctorow.medium.com/metaverse-means-pivot-to-video-adbe09319038

このメタクソ化のパターンを理解すれば、プラットフォームの謎の多くは自ずと解決する。SEO市場やオンラインクリエイターのエネルギッシュな世界は、アルゴリズムの罠線を見つけ出すために、プラットフォームのクレムリノロジーに多大な時間とエネルギーを浪費させられている。その罠こそが、お金と時間とエネルギーを投じて生み出したクリエイティブの運命を左右するのだから。

https://pluralistic.net/2022/04/11/coercion-v-cooperation/#the-machine-is-listening

ルール違反のたびに給料から罰金が天引きされるが、そのルールが何であるかを教えろと言うと、「教えてしまえばルール違反の抜け穴を見つけられてしまうかもしれないし、そうなると私の給料が減らされる」と言う上司のもとで働きたいとは思わないだろう。だがプラットフォームにかかわるということは、そういうことなのである。コンテンツモデレーションは、隠ぺいによるセキュリティ(security through obscurity)がベストプラクティスとされる唯一の領域なのだ。

https://doctorow.medium.com/como-is-infosec-307f87004563

Tracking Exposedなどの組織が、ボランティアの人間軍とヘッドレスブラウザのロボット軍を動員して、アルゴリズムによる恣意的な機械的判断の背景にある論理を解き明かすことで、ユーザへのレコメンドを調整できるようにしたり、クリエイターがシャドーバンによる損失を避けられるようにしなければならないほど、状況は深刻なのである。

https://www.eff.org/deeplinks/2022/05/tracking-exposed-demanding-gods-explain-themselves

だが、根本的なロジックが存在しない場合はどうだろうか? もっと言えば、プラットフォームのプライオリティによってロジックが変化するとしたら? カーニバルに遊びに行くと、ピーチバスケット(訳注:ボール投げゲーム、日本で言えば「屋台の千本引きクジ」が近い)の景品の大きなテディベアを抱えて、一日中歩き回っている気の毒なカモを見かける。

ピーチバスケットはイカサマである。店主は密かにスイッチを押して、ボールをバスケットからはじき出せる。店主が客をあえて勝たせようとしない限り、誰も大きなテディベアをゲットできないようになっている。ではなぜ店主はたまに大きなテディベアをゲットさせるのか。そのカモが一日中テディベアを見せびらかしてくれることで、他のカモが5ドルを背負ってボールを投げにきてくれるからだ。

https://boingboing.net/2006/08/27/rigged-carny-game.html

店主が気の毒なカモにテディベアをくれてやったのと同じように、プラットフォームは人気パフォーマーに余剰を配分する。パフォーマーを「ビッグストア」詐欺の説得材料として振る舞わせ、他のカモたちを引き付けてプラットフォームのためにコンテンツを作らせ、パフォーマーとそのオーディエンスをプラットフォームに縛り付けるためだ。

さて、ここでようやくTiktokの話になる。Tiktokはさまざまな側面を持っている。たとえば「スマートフォン世代のティンエイジャーの無料のAdobe Premiere」とか。

https://www.garbageday.email/p/the-fragments-of-media-you-consume

だが、Tiktokが早々に成功を収めたのは、その優れたレコメンド・システムのおかげだった。Tiktokははじめから、ユーザへのレコメンドがとても上手だったのだ。

https://www.npr.org/transcripts/1093882880

YouTubeやInstagramなどの競合が必死にユーザを囲い込む中、Tiktokはユーザが望むであろうコンテンツを誠実にレコメンドし、誰もが想像だにしなかったほどの規模でオーディエンスを獲得した。そうしてオーディエンスを獲得し、その利益を確固たるものとしたTikotokの次の一手は、YouTubeやInstagramに頑なに固執するメディア企業やクリエイターを誘い出すことだった。

昨日のForbesのエミリー・ベイカー=ホワイトの記事は、Tiktok親会社のByteDance社内でどのようなことが行われてきたのかを明らかにしている。複数の内部関係者の証言から、Tiktok社員が特定アカウントの動画を数百万のオーディエンスのフィードにプッシュする「加熱ツール(heating tool)」の存在を暴いたのだ。

https://www.forbes.com/sites/emilybaker-white/2023/01/20/tiktoks-secret-heating-button-can-make-anyone-go-viral/

これらの動画は、TiktokユーザのForYouフィードに表示される。だが、Tiktokはこのフィードについて「アプリ内での行動に基づいてあなたの興味を予測するアルゴリズムにランク付けされた」動画が表示されるとのミスリードな説明をしている。実際、For YouはTiktokがあなたの体験を豊かにするかもしれないと考えた動画が表示されることがあるというだけで、それ以外は、クリエイターに「Tiktokこそがオーディエンスを獲得するのに最適な場」だと思わせるためにプッシュされた動画であふれているのだ。

「関係者によると、Tiktokはインフルエンサーやブランドを口説くために、しばしば加熱ツールで動画の再生回数を水増ししてパートナーシップを結ばせてきたという。つまり、Tiktokがビジネス関係を結びたい一部のインフルエンサーやブランドには加熱ツールが潜在的な利益をもたらす一方、そうでないインフルエンサーやブランドは犠牲になっている」。

そう、Tiktokは大きなテディベアを配っているのだ。

とはいえ、Tiktokは大きなテディベアをタダで配るビジネスをしているわけではない。準資本主義的な中国経済に起源を持っているとは言え、Tiktokは人間を厄介な腸内細菌として扱う、ペーパークリップマキシマイザーの人工コロニー生命体に過ぎないのである。Tiktokは捕らえようとする相手が罠にかかるまで無料のアテンションを提供し続け、一度罠にかかればそのアテンションを剥奪し、マネタイズを開始するのだろう。

「マネタイズ」という言葉は、「アテンション・エコノミー」というものが存在しないことを暗に認める残念な言い回しである。アテンションは交換できないし、価値の貯蔵にもならない。勘定単位(unit of account)として使うこともできない。アテンションは、いわば暗号通貨のようなものだ。トークンはそもそも無価値であって、誰かを騙してトークンと「フィアット」通貨を交換させられる程度の価値しかない。トークンで「マネタイズ」しようとすれば、つまるところ、偽金をホンモノのお金と交換しなければならないのである。

暗号通貨のマネタイズ戦略は欺瞞に基づくものだった。取引所や「プロジェクト」は、巨大なテディベアを大量に配り、ユダの山羊の狂信者の軍勢を作り上げた。狂信者たちに知り合いを引き込ませ、ピーチバスケットに金を出させようとしたのだ。

だが、騙すことで得られる「流動性の供給」には限界がある。結局、カモが足りなくなるのだ。多くの人にボール投げを試してもらうには、説得ではなく強制するしかない。米国企業が尊厳ある老後を保障する確定給付型年金を廃止し、市場原理に基づく401(K)年金に切り替えたことを思い出してほしい。イカサマのカジノに貯金を突っ込むことを強いられるのだから、カモ以外の何者でもあるまい。

https://pluralistic.net/2020/07/25/derechos-humanos/#are-there-no-poorhouses

暗号通貨の初期の流動性はランサムウェアから生まれた。犯罪者にデータを盗まれ、絶望し、パニックに陥った企業や個人のプールが存在したことで、暗号通貨の流動性のベースラインが形成されていった。データを取り戻すためには、ホンモノのお金を偽の暗号通貨と交換するしかなかったのだから。

暗号通貨強要の第二幕はWeb3だった。ウェブをひと続きの料金所に変え、ホンモノのお金と偽の暗号通貨を交換することでしか通過できないようにしようとした。インターネットは、雇用、教育、家庭生活、福祉、政治、公民、そしてロマンスに至るまで、完全な参加のために「あったらいい」のではなく、「なくてはならない」ものだったはずだ。クリプト料金所であらゆるものから身代金をせしめるホドラー(HODLer:長期保有者)たちは、トークンをホンモノのお金に交換することを望んだのである。

https://locusmag.com/2022/09/cory-doctorow-moneylike/

Tiktokにとって、疑い深いパフォーマーやメディア企業を真の信者に変える方法こそが、無料のテディベアを配ること――つまり動画を加熱してやることだった。そうして他のプラットフォームでオーディエンスと出会う努力を放棄させ、すべてのチップをTiktokのテーブルに置かせようとするのだ(Tiktokのフォーマットが独特で、Tiktok用の動画をライバルプラットフォームに流用しにくいことも、その一助となっている)。

パフォーマーやメディア企業を取り込むことができたら、次のフェーズに移行する。Tiktokは、彼らのことを知らない、彼らの動画を見たいと頼んだわけでもない人たちにプッシュする「加熱」をやめるのだ。ここで、Tiktokは繊細なダンスを披露する。というのも、ユーザのフィードに表示できる動画には限りがあるからだ。そして、Tiktokには巨大なテディベアを送りたいパフォーマーが無数にいるのである。

Tiktokは、アルゴリズムによって参照させないことで、パフォーマーの「無料」のアテンションを奪うだけでなく、彼らのビデオを購読するユーザに配信しないことで積極的に罰を与えようとする。つまり、Tiktokはあなたが見たいと言ったビデオを見せるたびに、あなたに見てもらいたいビデオを見せる機会を失う。あなたのアテンションは、パフォーマーに与えられる巨大なテディベアなのだ。

これと時を同じくして、Twitterも急激にメタクソ化していった。Twitterの「マネタイズ」戦略の変更により、あなたをフォローするユーザたちの大多数が、あなたの投稿を見かけなくなった。私のTwitterアカウントには50万ほどのフォロワーがいるが、以前であれば私のスレッドはだいたい数十万から数百万の読者を獲得していた。だが最近では、せいぜい数百か数千といったところだ。

Twitterは、身代金を支払わなければ私の投稿を見たいという人に見せてやらないという姿勢をあからさまにしている。そういうわけで、Twitter Blueに8ドルを支払うことになってしまった。これはインターネット史上最長の戦争の1つである「エンド・ツー・エンド」をめぐる最新の戦いである。

https://pluralistic.net/2022/12/10/e2e/#the-censors-pen邦訳

はじめにベルヘッズとネットヘッズがいた。ベルヘッズは大手通信事業者の側に立ち、ネットワークの価値はすべて通信事業者に帰属するのが当然だと考えた。誰かが新機能――たとてば発信者番号通知――を発明しても、それはキャリアが月額使用料を請求できるかたちでのみ導入されるべきだ、というわけだ。これがベル式の「Software-As-a-Service」だ。

対してネットヘッズは、価値はネットワークのエッジに置かれるべきだと考えた。ユーザがメールの開封前に「送信元(From:)」を見たいなら月額2.99ドルを支払え、といってコンピュサーブ版の発信者場号通知で「マネタイズ」することも理論的にはできたはずだ。だが、彼らはそうしなかった。

ネットヘッズは、提供が豊富で、競争が盛んで、(相互運用性のお陰で)競合間の移行が容易かつ低コストな、多様なネットワークを構築したいと考えた。ネットヘッズのなかには、ネットがいずれ世界に溶け込むものである以上、レントシーキングな地主が支配する世界には住みたくないと考える者もいた。あるいは、イノベーションの源泉としての市場競争を心から信じる者もいた。そして、その両方を信じる者もいたのだ。いずれにせよ、彼らはネットワークを掌握され、策略や強要によるマネタイズが横行するリスクを察知し、それを阻止しようとしたのだ。

そこで考え出されたのが「エンド・ツー・エンドの原則」だった。ネットワークは送り手のメッセージを可能な限り早く、確実に届くよう設計されねばならないという考え方である。つまり、ネットワーク事業者はユーザが受信したいデータを送れば儲かるかどうかとは無関係に、ユーザが受信したいデータを提供することが義務づけられる。

現在、このエンド・ツー・エンドの原則はサービスレベルでは死語になりつつある。右派の役に立つバカ(useful idiot)たちは、Twitterのずさんな運営のリスクを「ウォークなシャドーバン(woke shadowbanning)」だと信じ込まされている。つまり、Twitterのディープステートがあなたの意見を好まないために、あなたの発言がそれを聞きたい人に届かなくなるのだ、というわけだ。もちろん、本当のリスクはそうではない。Twitterがユーザのフィードを囲い込み、そこなかで生じる特権に身代金を要求して大儲けできるから、あなたの発言がそれを聞きたいと意思表示した人に届かない――それこそが本当のリスクだ。

冒頭で述べたように、メタクソ化はプラットフォーム資本主義の抗しがたい重力なのである。メタクソ化のダイヤルを11に上げるのは、赤子の手をひねるに等しい。Twitterは熟練したスタッフの大多数を解雇して、国外追放を恐れて沈みゆくTwitter船に足かせで繋がれ、絶望し、士気を失ったH1B労働者の骸骨クルーしか残っていなくても、それでもダイヤルを回し続けられるのだ。

Twitterが相互運用可能なクライアントを禁止し、APIを改悪し、Mastodonのハンドルをプロフィールに記載したユーザを定期的に凍結して恐怖を与えることで、Twitterからの離脱はますます難しくなる。その結果、ユーザに離脱されるリスクを犯すことなく、ユーザを虐げられるメタクソ化に拍車がかかることになる。

Twitterが「プロトコル」になるとは考えにくい。Blueskyなどのプロジェクトが、このプラットフォームに採用されることはまずないだろう。キンタマ¹を賭けてやってもいい。Blueskyを実装すれば、Twitterユーザのフィードがメタクソ化の影響を受けにくくなり、ソーシャルなつながりを捨てることなくサービスを離脱できるようになるのだから、Twitterの「マネタイズ」戦略の大半が死ぬことになる。

¹ 私のではない。

メタクソ化戦略の成功の鍵は、絶妙なさじ加減である。どれほどユーザを囲い込んでも、やりすぎればいずれ限界点に達し、離脱されたり、路線変更を余儀なくされる。『屋根の上のバイオリン弾き』のアナテフカの村人たちは、コサックの激しい襲撃やポグロムに何年も耐えていたが、それも耐えきれなくなり、クラクフ、ニューヨーク、シカゴに逃げざるを得なくなったのだ。

https://doctorow.medium.com/how-to-leave-dying-social-media-platforms-9fc550fe5abf

メタクソ化した腐れ企業にバランス感覚は期待できない。プロダクトマネージャー、経営陣、そして物言う株主たちは、持続可能性を犠牲にしてでも短期的なリターンを優先し、我先に種籾を頬張ろうと競い合っている。インターネットが「それぞれが他の4つのウェブサイトのスクリーンショットで埋め尽くされた5つの巨大なウェブサイト」状態になったがゆえに、メタクソ化はこれほど長く続いているのである。
https://twitter.com/tveastman/status/1069674780826071040

たとえばマーク・ザッカーバーグは、FacebookユーザがInstagramに大量流出していることに気づき、Instagramを買収した。ザックは曰く「競争するより買収したほうがいい」。

これは、Amazon Smileの盛衰の背景にあった力学でもある。Amazon SmileはAmazonでの購入時にAmazonが選択した慈善団体に少額の資金を提供するプログラムだった。だがその条件は、Amazon自身の検索ツールを使用して商品が検索されることだった。これはAmazonのユーザにAmazonの検索ツールを利用する動機づけを与える。そしてAmazonの検索ツールは、金を払った販売者の商品や、Amazonブランドのパクリ商品が我先にと表示される。一方、Googleの検索ツールを使われると、ユーザが探している商品に直接アクセスされてしまうし、何よりGoogleに金(訳注:広告料)を支払わなければならない。

https://www.reddit.com/r/technology/comments/10ft5iv/comment/j4znb8y/

Amazon Smileの終焉は、Googleが自社で構築した唯一の成功プロダクトであるGoogle検索のメタクソ化と時を同じくしている。Googleの成功したプロダクトの大半、ビデオやドキュメント、クラウド、広告、モバイルなどはいずれも他社から購入したものである。それ以外は、Googleビデオのような失敗作、クローン(GmailはHotmailクローンである)、あるいはChromeのように他社プロダクトを転用したものだ。

Google検索は、創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが1998年に発表した画期的な論文「Anatomy of a Large-Scale Hypertextual Web Search Engine」で示した原則を基盤としている。彼らはこう言っていた。「広告資金に頼る検索エンジンは、本質的に広告主寄りになり、消費者のニーズからは遠ざかることになる」。

http://ilpubs.stanford.edu:8090/361/

だが、「メタクソ化」をよく理解していたはずのGoogleでさえ、その魅力に抗うことはできなかった。今日のGoogle検索は、自社プロダクトの自己参照的なリンクや、本来であれば下位に表示されて然るべきプロダクトの広告、寄生的なSEOジャンクで溢れかえり、ますます役に立たない肥溜めと化している。

メタクソ化は死をもたらす。1万2000人の従業員を解雇したばかりのGoogleは、「AI」チャットボットの台頭に「パニック」に陥り、AIドリブンな検索ツール――つまりユーザが頼んだものを表示するのではなく、AIが考えるあなたが見るべきものを表示するツール――によって総力攻勢をしかけようとしている。

https://www.theverge.com/2023/1/20/23563851/google-search-ai-chatbot-demo-chatgpt

さて、こうしたツールが良きレコメンデーションを生み出すことは想像に難くない。まさに、Tiktokのメタクソ化以前のアルゴリズムがそうだったように。だが、プロダクトマネージャー、経営陣、株主には、ユーザがあと一歩で離脱するがなんとか留まらせられるギリギリのラインまでメタクソ化させようとする強力なインセンティブが働いている以上、Googleがメタクソ化しないチャットボットの検索フロントエンドを設計できるとは考えにくい。

だが、この「本当に嫌になるが出ていくほどではない」という均衡は実に脆い。ビッグテックの反競争的な「堀と城壁」を乗り越えたTiktokのような新興の競合、プライバシースキャンダル、労働者の反抗など、さまざまな外生ショックによって、この均衡は簡単に崩れ去ってしまう。

https://pluralistic.net/2023/01/08/watch-the-surpluses/#exogenous-shocks

プラットフォームは「メタクソ化」して死に至る。もちろん、それでいいのだ。我々は、永遠のインターネットの支配者など必要とはしていない。新しいアイデア、新しい働き方は大歓迎だ。政治家や立法者が重視すべきは、死にかけたプラットフォームのアンチ・エイジングでも延命でもない。エンド・ツー・エンドなどの権利を確立し、ゾンビプラットフォームがどれだけ共食いを繰り広げようと、意欲的な話し手と意欲的な利き手が相互に繋がり続けられるようにすることだ。

https://doctorow.medium.com/end-to-end-d6046dca366f

そして、立法者は離脱の自由に焦点を当てなくてはならない。つまり、沈みゆくプラットフォームから離脱しても、残してきたコミュニティとのつながりが維持され、購入したメディアやアプリを楽しめ、作成したデータを保持し続けられるようにする権利が必要とされている。

https://www.eff.org/interoperablefacebook

技術的自己決定はテックビジネスと相反するものだ、というネットヘッズは正しかった。たしかに彼らは、我々の自由、つまり話し、離脱し、つながる自由を奪うことで、大儲けしているのだから。

長年、Tiktokの批判者であっても、どれほど監視的で、薄気味悪くても、ユーザが見たいと思うものを推測することにかけては認めざるを得なかった。だが、そのTiktokでさえ、ユーザが見たいものではなく、ユーザに見せたいもの見せるという誘惑には勝てなかったのである。そうしてメタクソ化が始まり、それが止まることはおそらくないのだろう。

Tiktokはもはや手遅れだ。メタクソ化に感染してしまった以上、あとは燃え尽き、灰燼に帰すのを待つだけである。

Pluralistic: Tiktok’s enshittification (21 Jan 2023) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: January 21, 2023
Translation: heatwave_p2p