以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Too big to care」という記事を翻訳したものである。
Google検索を初めて使ったときのことを覚えているだろうか。まるで魔法にかかったようだった。Altavistaや Yahooの検索品質が徐々に劣化していく中にあって、Googleは文字通り卒倒ものだった。インターネットへの最高の入り口だったのだ。
今日、Googleは検索市場の90%のシェアを占めている。彼らはその地位を力ずくで手に入れた。Googleは数百億ドルを賄賂に費やして、あらゆるデバイス、あらゆるサービス、あらゆるウェブサイトの検索ボックスの裏側にあるデフォルト検索エンジンの地位を確実にしている。
https://pluralistic.net/2023/10/03/not-feeling-lucky/#fundamental-laws-of-economics
偶然ではないが、Google検索は着実に劣化の一途を辿っている。いまや検索結果は、botshit(ボットの生み出すクソ)、スパム、詐欺、ナンセンスの肥溜めだ。ググれば簡単に見つかるからとブックマークしなかった重要なリソースが、もはや検索結果の最初の10ページにすら表示されなくなった。
https://pluralistic.net/2024/02/21/im-feeling-unlucky/#not-up-to-the-task
高額な賄賂を支払ってなお、Googleはまだべらぼうに儲けている。その潤沢な資金のおかげで、800億ドルもの自社株買いもできた。しかしそのわずか数ヶ月後、Googleは1万2000人の熟練技術者を解雇した。ようは、Googleは品質にお金を使う必要はないと言っているのだ。誰もがGoogle検索を使わざるを得なくなったのだから。他の検索エンジンを試してなおGoogle検索が選ばれるためにプロダクトの改善・改良を続けるよりも、世界中のあらゆる検索ボックスのデフォルト検索エンジンの座を買収する方が安上がりなのだ。
これはメタクソ化(enshittification)である。Googleは価値をエンドユーザ(検索者)やビジネス顧客(広告主、出版社、小売)から自社へとシフトさせた。
https://pluralistic.net/2024/03/05/the-map-is-not-the-territory/#apor-locksmith
ここからがポイントだ。実はこの世界には、初めてGoogle検索を試したときと同様の感覚を味わえる、素晴らしい検索エンジンが存在する。
先月、新作『べズル』のブックツアーでツーソンを訪れた際、パトリックとテレサ・ニールセン・ヘイデン夫妻宅に泊まった。彼らとは10代の頃からの付き合いだ(パトリックは私の編集者でもある)。
私たちは昔と同じように、ラップトップを膝に乗せてリビングルームに座っていた。そこでパトリックが、新しい検索エンジンのKagiを試したかと尋ねてきた。
テレサが口を挟み、その高度な検索機能や、ウェブ上の特定のリソースを見つけ出す(訳注:または除外する)「レンズ」機能を絶賛した。
Kagiなんて聞いたこともなかったが、ニールセン・ヘイデン夫妻は私の知る中で最も優秀なリサーチャーだ。仕事でも趣味でも。その彼らが満足しているなら……。
私も試してみた。魔法だった。
いや、マジで。Googleではもう見つからなくなったものは? 全部検索結果の最上位に出てくる。Googleで検索したらスパムがページ単位で出てくるような検索ワードなら? クッソキレイな検索結果じゃないか。Kagiは何度でも、適切な検索結果を吐き出した。
ちょっと触っただけでも感動モノだった。さらにKagiのレンズや高度な機能を使うと、検索体験は「魔法」から「魔術」のレベルに上がった。
問題は、Kagiの検索にお金がかかることだ。100回以上検索するには月額10ドルかかる(カップルプランは14ドル、最大6アカウントで子供向け機能もあるファミリープランは20ドル)。
https://kagi.com/settings?p=billing_plan&plan=family
すぐにファミリープランに加入した。1ヶ月使ってみた。Google検索は基本的に使わなくなった。
Kagiは作業効率を大幅に上げてくれた。私はKagiのことを、独自のクローラーとデータセンターを持った、資金力のあるスタートアップだと思っていた。しかし今朝、「404 Media」で、Kagiを試したジェイソン・コーブラーの記事を読むと、どうもそうではないらしい。
https://www.404media.co/friendship-ended-with-google-now-kagi-is-my-best-friend
コーブラーの記事には、私が見逃していた重要な詳細が含まれていた。
Kagiで検索すると、Google、Yandex、Mojeek、Braveなどの従来の検索インデックスや、Wikimedia Commons、Flickrなどの少数の専門検索エンジンに「匿名化されたAPIコール」が行われる。Kagiはこれを独自のウェブインデックスとニュースインデックス(ニュース検索用)と組み合わせて、表示される検索結果ページを構築する。つまり基本的には、Google検索結果と他のインデックスからの検索結果とミックスしているのだ。
ようするに、Kagiは高度にカスタマイズされ、匿名化されたGoogleのフロントエンドなのだ。
これが意味するところは、まさに卒倒ものだ。Google検索のメタクソ化は、Google自身の選択であったのだ。広告だらけで、Altavistaよりひどく、スパムにまみれた検索結果は、バグではなく「機能」だった。GoogleはKagiとは異なり、良きプロダクトを提供するよりもクソのほうが儲かるからそうしているのだ。
競合の検索エンジンを試させないようにするために、Googleが毎年Twitterをまるまる買収できるほどの金額を費しているのも不思議ではない。つまるところ、彼らは計算の結果、最も収益性の高い行動指針が、自社の主力製品をメタクソ化し、AppleやSamsungのような「競合」に賄賂を贈ることだと分かったのだ。あなたが他の検索エンジンを試して、四半世紀前にAsk JeevesやYahooを使っていたすべてのユーザをGoogleに引き寄せたあの魔法の瞬間を二度と体験しないようにするために。
私の好きなテレビコメディに、リリー・トムリンがAT&Tの電話オペレーター、アーネスティーンを演じたものがある。トムリンは(訳注:AT&Tの独占電話サービス)ベルシステムを宣伝するのだが、自社の素晴らしさをアピール(訳注:しつつ、不手際を顧客のせいに)するたびに「私たちは気にしません。気にする必要もないのです。だって、私たちは電話の会社ですから」とオチをつける。
https://snltranscripts.jt.org/76/76aphonecompany.phtml
(訳注:このスケッチが放送された当時、AT&Tは北米の電話サービスを独占していた。スケッチでは、アーネスティーンは、オペレーターに繋がらなかったり、電話が突然故障したり、かけてもいない電話の料金が請求されることが頻繁にあることを「認識しています」と言いいつつ、「私たちは気にしません!」と言い放つ。上記リンクのオチは、「電話サービスに文句がおありなら、紙コップ2つに紐をつけてお話されてはいかがでしょう? 私たちは気にしません。気にする必要はありません。だって、私たちは電話の会社ですから」と独占企業の傲慢さと顧客軽視を風刺している)
テレビコメディといえば、今週、FTC(連邦取引委員会)委員長のリナ・カーンがジョン・スチュワートの「The Daily Show」に出演した。素晴らしかった。
https://www.youtube.com/watch?v=oaDTiWaYfcM
カーンの出演に関する報道は、スチュワートがApple TVで番組を担当していた際、同社がリナ・カーンへのインタビューを禁止したことを暴露したこともあって(おそらく彼女がテック企業の独占に敵対しているためだろう)、そのことばかりが取り上げられている。
https://www.thebignewsletter.com/p/apple-got-caught-censoring-its-own
しかし私にとって、最大のハイライトは、カーンが独占テック企業を「大きすぎて気にしない(too big to care)」と表現したときだった。
なんてフレーズだ!
サブプライム危機以来、「大きすぎて潰せない(too big to fail)」「大きすぎて罰せない(too big to jail)」企業のことは誰もが知るようになった。だが、「大きすぎて気にしない」だって? そうだ、まさにその感覚だ。
それこそがメタクソ化したGoogleを使うときの感覚だ。それこそが優れた検索エンジンであるKagiが、株主ではなくユーザのために調整されたGoogleだと分かったときの感覚だ。
Googleはかつては気にしていた。競合や規制当局が気がかりだから気にしていた。社員たちが気にさせたから気にしていた。
https://www.vox.com/future-perfect/2019/4/4/18295933/google-cancels-ai-ethics-board
Googleはもはや気にしない。気にする必要がない。だって検索の会社なんだから。
Pluralistic: Too big to care (04 Apr 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: April 04, 2024
Translation: heatwave_p2p