以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Bluesky and enshittification」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

Blueskyには魅力を感じている。モデレーションやランキングでも、彼らは本当に素晴らしい技術的な取り組みを行っているし、実際に使っている友人たちも楽しそうだ。

でも、私はBlueskyを使っていないし、近いうちに始めるつもりもない。2023年にも書いたように、もう二度と、築き上げたオーディエンスとの関係を運営者の一存で断ち切られかねないプラットフォームに時間を費やすつもりはない。

https://pluralistic.net/2023/08/06/fool-me-twice-we-dont-get-fooled-again/

大切な人々や頼りにしている人々を人質に取れるプラットフォーム、つまり追放と断絶という現実味のある脅しをかけられるプラットフォームは、ユーザを失うことなく、あらゆる方法で虐待できる。言い換えれば、好き放題にサービスをメタクソ化できるのだ。

https://pluralistic.net/2024/08/17/hack-the-planet/#how-about-a-nice-game-of-chess

Blueskyの CEO であるジェイ・グラバーは、決してBlueskyをメタクソ化しないという誠実な意思を示しているのは理解しているし、彼女の誠実さを疑ってもいない。

https://www.wired.com/story/bluesky-ceo-jay-graber-wont-enshittify-ads

ただ、こういう事情がある。私が軽率にもロックインを許してしまい、今では仕事的にも個人的にも政治的にもスイッチングコストが高すぎて身動きが取れなくなっているプラットフォームは、どれもこれも「絶対に理念は曲げない」と誓った人々が立ち上げたものなのだ。CMS やソーシャルメディア、パブリッシングプラットフォームを立ち上げた古参のブロガー仲間たち、私は彼らのことをよく知っている。友人だと思っていたし(今でもその大半を友人だと思っている)、本当にユーザのことを気にかけていると信じられるほど、親しかった。

彼らは確かに ユーザのことを考えていた。ただ、それだけではなかった。彼らが追い詰められたとき、2つの悪のうち、サービスの質を落とすというより小さな悪を選んだのだ。

例えば投資家から「プライバシーや完全性、品質について、ほんの少しだけ妥協してくれ。嫌ならサービスを停止する」と迫られたとき、本当に 原則を守り通せるだろうか。妥協による影響を受けないユーザが大多数で、会社が閉鎖されれば彼らのコミュニティとオンラインでの生活が破壊されてしまうだろう。あなたを信頼して働いてきた従業員たちは、あなたがちっぽけな妥協を拒んだばかりに生活が破綻しかねない。プラグインやアドオン、サービスを開発してあなたの製品をより良いものにしてくれた「エコシステム」のパートナーたちはどうなる?彼らの従業員やその家族の生活は?

「これを受け入れれば、また別の日に戦える。サービスが存続してこそ、ユーザにとってより良いものにできるんだ」と自分に言い聞かせるかもしれない。もちろん、誰でもそう考えるだろう。

私は頼りにし、時間と労力を注ぎ、信頼を寄せてきたほぼすべてのサービスが、この道を辿るのを目の当たりにしてきた。よく知っていて尊敬もしていた人々が運営するサービスですら、例外ではなかった。

メタクソ化は、結果に対する責任の欠如から生まれる。欲望に駆られるにせよ、倫理観のない連中から圧力をかけられるにせよ、妥協のコストが高ければ高いほど、妥協しにくくなる。

つまり、メタクソ化に抵抗するには、自分自身に スイッチングコストを課す必要がある。

ここでフェデレーションの出番だ。Mastodon(および他の Activitypub ベースのサービス)では、サーバを簡単に移動でき、フォローしている人もフォロワーも新しいサーバについてくる。サーバの運営者が容認できない問題を抱えていたなら、別のサーバに移ればいい。5分もあれば移行は完了し、新しいサーバで再開できる。

https://pluralistic.net/2023/03/04/pick-all-three/#agonism

ユーザが気軽に退出できるシステムでは、所有者が高いスイッチングコストを負い、ユーザは負わない。ブロック機能を削除したり、ユーザ全員をAIトレーニングに組み込んだりするような悪手を打てば、大量のユーザを失うことになる。これはサービスを離脱するコストを上回るほど、サービスの劣化を重く見るユーザだけの話ではない。退出が自由 なら、ユーザへの仕打ちは即座に壊滅的な痛手となって返ってくる。

これは悪しき妥協を正当化しないよう自制を促すだけでなく、投資家や影響力を持つ人々があなたにユーザを害する行動を強要することも防ぐ。この悪魔たちが、誘惑と脅しをささやきながらあなたの肩に乗っかってくるのは、状況を悪化させても投資は台なしにならないと考えているからだ。彼らは残酷なのではなく、貪欲なだけである。利益が出ると思えるからメタクソ化するよう求めてくるのだ。サービスをメタクソ化すれば全ユーザが逃げ出し、何も残らないことを理解すれば、サービスを台なしにするような要求はまずしてこないだろう。

もちろん、度を越した貪欲で、それでも強要してきた場合でも、ユーザには逃げ道がある。あなたのサービスは破壊され、破産することになるだろう。それはあなたにとって辛いことだが、それを背負うのはあなたはたった一人だ。その痛みは、腐敗したサービスから逃げ出せた何百万人もの人々の安堵に比べれば、はるかに小さい。

行動経済学には、この力学を表す言葉がある。「ユリシーズ協定[Ulysses Pact]」だ。古代のハッカー、ユリシーズにちなんで名付けられた。彼はセイレーンの海域を航行する際、通常のプロトコルを無視した。普通の船乗りたちは耳に蝋を詰めてセイレーンの歌に抗ったが、ユリシーズは違った。自分をマストに縛り付けたのだ。こうすることで、セイレーンの歌は聞こえても、海に飛び込んでセイレーンに溺れさせられることはなかった。

将来の自分の弱さから身を守るため、強い意志を持っているときに予防策を講じること。それがユリシーズ協定だ。ダイエットを始めるときには、まずはオレオを捨てよ、である。

合理化や圧力に対して完全な耐性を持つ人間など存在しない。私も例外ではない。誘惑に決して負けないと信じ込む人は、自分自身にとっても、自分を頼りにする人々にとっても危険な存在だ。誘惑や強制には絶対に屈しないという思い込みは、詐欺に絶対引っかからないという思い込みと同じで、むしろ狙われやすくするだけである。

Blueskyには技術的に賞賛すべきフェデレーション機能が数多くある。CEO とはあまり面識がないが、良い印象しか持っていない。取締役の一人、マイク・マズニックは、デジタルライツをめぐる戦いで最も古い友人であり同志の一人だ。すべてに同意するわけではないが、彼のことは心の底から信頼している。必要なら家の鍵を預けたっていいし、大きな手術の前にコンピュータのパスワードを教えることも厭わない。

だが、最高の取締役会でも間違いを犯すことがある。ほんの数年前、我々は ISOC の取締役会(そこにも親愛なる古い友人や同志がいた)が、口髭をひねる邪悪な億万長者の経営する怪しいヘッジファンドに、すべての .ORG ドメインの管理権を売却するのを阻止するため、ピケを張らねばならなかった。

https://www.eff.org/deeplinks/2020/12/how-we-saved-org-2020-review

Blueskyには、私の信頼に絶対かつ唯一必要なフェデレーション機能が欠如している。Blueskyを離れて別のホストに移り、そこでコミュニティを形成した人々との会話を続けられる機能だ。確かにBlueskyとそのユーザにサービスを提供する独立したサーバは数多くある。しかし、Blueskyサーバは一つしかない。互いに対等な複数のサーバによるフェデレーションは、私が知る限り、常にBlueskyのロードマップにあった。だが、彼らはまだそれを実現していない(まだ だ)。

これはBlueskyが数百万ユーザを抱える小規模なブートストラップ型スタートアップだった時から懸念されていた。現在では1,300万ユーザを超え、大規模な外部資本も受け入れている。

https://fediversereport.com/on-bluesky-and-enshittification/

VCがBlueskyの財布の紐を握った今、メタクソ化は避けられないと多くの人が指摘している(特にVCが「Blockchain Capital」という名前なら、なおさらだ。この時点で「Grifty Scam Caveat Emptor Capital(ペテン詐欺買い手注意資本)」と呼んでも差し支えなかろう)。しかし、私はこの指摘にはまったく同意できない。メタクソ化の原因は外部資本ではなく、影響力 にこそある。

ユーザの生活を破壊するよう強制できると理解するVCは、常にその誘惑に駆られる。一方で、そうすればサービスが空っぽになり、結果的に無価値になることをVCが理解しているなら、そんな真似はまずしない(仮にしたとしても、少なくともユーザには逃げ道がある)。

私のパブリッシングプロセスはとてつもなく手間がかかり、新しいサービスの追加は、将来的に膨大な労力を要する。

https://pluralistic.net/2021/01/13/two-decades/#hfbd

それでも、閉じ込められる心配がないと分かれば、私は喜んでBlueskyを始め、毎日の面倒な作業も引き受けるだろう。

なぜBlueskyが離脱の自由を保証するフェデレーションシステムを追加していないのか、その理由は分からない。これまで作ってきた他のシステムを優先する、正当な技術的理由があるのかもしれない。だが正直なところ、それは重要ではない。Blueskyが罠になり得る 限り、私は誘惑に負けない。「スイッチングコストなしには離脱できないサービスには参加しない」というルール。それは私の ユリシーズ協定であり、これまで何度も遭遇してきた危険から私を守ってくれているのだ。

Pluralistic:Bluesky and enshittification (02 Nov 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: November 2, 2024
Translation: heatwave_p2p