以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Canada sues Google」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

「米国ではない」ことにこだわる国でありながら、カナダはどういうわけか米国の政策をマネしたがる。特にひどい政策、それもとてつもなくひどいデジタル政策を。

カナダの肩を持つならば、この手のひどい米国の政策は米国通商代表部(USTR)の優先事項であり、米国がエンパイアステートビルからの集団自決を決意したならば、カナダの政治家たちもCNタワーから我々を突き落とすよう、USTRは圧力をかけてくるのだ。そしてカナダの永遠の恥として、USTRはカナダ国民を売り渡すことをいとわない追従者を簡単に見つけられる。

迂回防止法(訳注:いわゆるアクセスコントロール回避禁止規制)を例にとろう。1998年、ビル・クリントンはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に署名した。この著作権法の厄介な条項であるセクション1201は、どんな目的であれリバースエンジニアリングを禁止している。DMCA 1201の下では、著作物に対する「アクセス制御」は神聖不可侵とされ、これらアクセス制御を回避する手助けをすることは5年以下の禁錮および/または50万ドル以下の罰金の重罪となる。

この懸念は今日でもかなり難解な話だが、1998年当時は極めて警戒心の強い一握りの専門家たちを除いて、ほとんど理解できなかった。この法案への賛成投票を思いとどまるよう必死に訴えて回った。しかし2012年、ハーパー政権下の保守党閣僚トニー・クレメントとジェームズ・ムーアが、米国発の愚策をカナダの法律に丸写しする法案を提出した時には、迂回防止法の問題点は誰の目にも明らかだった。

米国の迂回防止法のもとでは、製品に「アクセス制御」を追加した企業は、その製品へのあらゆる改変を一瞬にして重罪に仕立て上げることができる。例を挙げよう。インクカートリッジに再充填すること自体は違法ではないが、カートリッジに満タンだと認識させて動作させるようにアクセス制御を回避することは違法となる。カナダのソフトウェア開発者がカナダのiPhoneユーザにアプリを販売する際、Appleに30%を支払わないこと自体は違法ではないが、App Store以外からアプリを実行できるようにiPhoneを改造することは違法となる。カナダの整備士がカナダ人の車を修理すること自体は違法ではないが、サードパーティの整備士が車両のエラーコードを解読できないようにするアクセス制御を回避することは違法になるのだ。

我々はこうした問題をクレメントとムーアに伝えたが、文字通り、彼らは無視した。2010年に彼らが提案へのパブリックコメントを求めた際、我々は6,138件のコメントを提出してなぜこれが間違ったアイデアなのかを説明した。一方で、支持を表明したのはわずか53団体だった。ムーアは公然と、これらの反対意見が「子供じみた」「過激派」から寄せられたものだとして耳を傾ける必要はないと一蹴したのだ。

https://www.cbc.ca/news/science/copyright-debate-turns-ugly-1.898216

それから10年以上、我々はクレメントとムーアによるメイド・イン・アメリカの法律に縛られ続けている。カナダが米国の良いアイデア(修理する権利に関する法律など)を取り入れたり、素晴らしい独自のアイデア(相互運用性に関する法律など)を打ち出しても、カナダ国民はクレメントとムーアが国に残した毒まんじゅうのせいで、訴追のリスクなしにはこれらの新しい権利を行使できないのだ。

https://pluralistic.net/2024/11/15/radical-extremists/#sex-pest

「米国ではない」という政治的アイデンティティなど、所詮は薄っぺらなものだ。米国の良いアイデア(修理する権利など)を真似ることに問題はない。実際、テック規制に関して言えば、米国は最近、競争法違反でテック企業大手を訴追するなど、目覚ましい成果を上げている。カナダは今年、競争法を大幅に改正したことで、米国のテック企業大手に立ち向かう準備は整っている。

そして、まさにそれが今、現実のものとなっているのだ!カナダ競争局はGoogleをアドテク独占で提訴した。これはプライバシーに関するチェルノブイリ級の惨事というだけでなく、広告主パブリッシャの双方を欺く大規模な詐欺的事業でもある。

https://www.reuters.com/technology/canadas-antitrust-watchdog-sues-google-alleging-anti-competitive-conduct-2024-11-28

アドテク業界は1ドルにつき約51セントを中抜きしている(デジタル以前の広告の世界では、広告代理店の手数料は15%程度だった)。2023年に導入したリンク税などより、Googleのアドテク詐欺を叩きつぶす方がはるかに賢明な報道支援策といえる。

https://www.eff.org/deeplinks/2023/05/save-news-we-must-ban-surveillance-advertising邦訳

結局のところ、テックが報道から盗んでいるのはコンテンツではない(ニュースを見つけやすくし、それを議論する場を提供することはむしろ有益だ)――テックは報道のカネを盗んでいるのだ。アドテクは巨大な詐欺であり、アプリ税も同様だ。カナダの新聞社はアプリでの購読更新のたびにGoogleとAppleのマフィアファミリーに30%上納しなければならない。カナダの法律でテックによる報道機関からの搾取を止めさせることは、テックに報道機関との利益分配を強制するよりもずっと賢明な政策だ。テックが報道機関と利益を分配するためには、テックが利益を上げる必要があり、つまり利益分配を受ける報道機関は、テックの最も略奪的で搾取的な行為から恩恵を受けることになる。その結果、番犬としての役割を果たすどころか、応援団に成り下がってしまうリスクを抱え続けることになる。

テックの力を粉砕することは、テックが盗んだ略奪品を新聞社と山分けさせるよりも賢明な政策だ。一つには、政府が何をもって正当な報道機関とみなすかを決定する立場から手を引けることにある。あなたがトルドー首相がその判断を下すことに賛成だとしても(私は反対だが)、ポワリエーヴル首相が大置換(Great Replacement )理論を振りまき、陰謀論にとりつかれた極右のタブロイド紙に補助金を与えると決定するとしたら、どう感じるだろうか?

Googleに立ち向かうことは確実な勝利への道である。特に、米国司法省がまさに同じ訴訟を起こしたばかりなので、カナダの競争法執行者は米国の同僚から良いものをコピーできる――つまり、司法省が法廷に提出した証拠、機密メモ、成功した主張を丸ほどコピーできるのだ。

https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-sues-google-monopolizing-digital-advertising-technologies

実際、これはすでに勝利の方程式となっている!ビッグテックはどの法域であろうと同じ犯罪を犯しているため、トラストバスターたちは互いの訴訟をコピーしあうことで追及をより鋭いものにしている。英国のデジタル市場ユニットは、Appleのアプリ市場独占に関する大規模で詳細な市場調査を発表し、EUはそれを道しるべとして成功裏に訴訟を起こした。その後、日本と韓国の競争法執行者たちはEUの訴訟から証拠と主張を再利用して、それぞれに追及を続けている。

https://pluralistic.net/2024/04/10/an-injury-to-one/#is-an-injury-to-all

カナダが司法省のアドテク訴訟をコピーするのは天才的な一手だ――これこそカナダが必要としている南の国からの輸入品である。もちろん、トランプ政権がこれ以上コピーする価値のあるものを生み出す可能性は低い。むしろ、トランプは1月20日からカナダ製品に25%の関税を課すと宣言している。

カナダの輸出セクターには悪いニュースだが、裏を返せばカナダはもはや米国通商代表部の顔色をうかがわなくてもいいということでもある。クレメントとムーアのC-11法の廃止を、議会の最優先事項とすべきだ。関税の有無にかかわらず、カナダのテック起業家たちはソフトウェアベースの修理診断ツール、iPhoneのジェイルブレイクツール、トラクターや医療機器用の代替ファームウェア、ゲーム機や携帯電話、タブレット用の代替アプリストアを容易に輸出できる。米国の支払いを受け付けられる限り、米国の顧客にも販売可能だ。これは、例えばビッグファーマの搾取から逃れようとする米国人に安価な医薬品を売るよりもはるかに大きなビジネスチャンスといえるだろう。

さらに、これがポリエーブ率いる保守党の政策にならない理由もない。結局のところ、彼らは「私有財産の尊重」を掲げる政党のはずだ。コンピュータ、スマートフォン、自動車、トラクター、プリンター、医療インプラント、スマートスピーカー、その他マイクロチップを搭載したあらゆるものの所有者が、自分の望むように動作させることを決められる――これ以上に私有財産を尊重する姿勢があるだろうか? カナダの著作権者――ゲームスタジオやアプリ企業など――が自分の著作物をカナダの購入者に販売する際、データと支払いをシリコンバレー経由で往復させて30%も削られて戻ってくるよう強制されることなく販売できる――これ以上に著作権を尊重することがあるだろうか?

カナダの政治家たちは、米国市場への無関税アクセスという約束と引き換えに、USMCA(別名NAFTA2)のような条約によって、カナダの一般市民とカナダの産業に過酷で高額な義務を課してきた。そのアクセスが失われた今、なぜ私たちは進んで自らの足かせを続けなければならないのだろうか?

カナダの政治家たちは、USMCA(別名NAFTA2)のような条約の下で、米国市場への無関税アクセスという約束と引き換えに、カナダの一般市民とカナダ産業に面倒で高額な義務を課してきた。そのアクセスが失われた今、なぜ我々は自らを縛り続けなければならないのだろう?

Pluralistic: Canada sues Google (03 Dec 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: December 3, 2024
Translation: heatwave_p2p