以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「America’s richest Medicare fraudsters are untouchable」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

「著名人なら、何をしたって許されるんだ[When you’re famous, they let you do it]1訳注:https://www.bbc.com/news/election-us-2016-37595321」――この言葉は、あなたの生活を蝕む腐敗を端的に表している。力を持つ者は法の裁きから逃れ、被害者の痛みなど顧みられることはない。

「ポピュリズム」という言葉には、怒り、絶望、制度への不信、そしてその制度を破壊したいという欲求など、さまざまな意味が込められている。真のポピュリズムは、こうした正当な感情を原動力に、すべての人が公正に扱われ、互いを思いやる社会への変革を目指すものだ。一方、「右派ポピュリズム」を名乗る勢力は、これらの感情につけ込み、被害者同士の分断を図る。互いに敵対させることで、エリートたちがやりたい放題を続けられるからだ。

世界各地で勢力を伸ばす極右政党は、それぞれに違いはあるものの、ある共通点がある。制度への不信感に訴えかけ、「政府はエリートに乗っ取られ、国民を犠牲にしてエリートに奉仕している」という主張を掲げていることだ。これは真実であるがゆえに説得力を持つ。極右政党自体がそうしたエリートたちの手先だという事実は、本来的には彼らの信頼性を損なうはずだが、多くの「進歩主義」政党が制度の現状維持を擁護する立場を取ったため、反動主義者たちの主張が通りやすい土壌が生みだされることになった。

https://www.politico.com/blogs/2016-dem-primary-live-updates-and-results/2016/02/hillary-clinton-donald-trump-slogan-219908

自分の部下を虐げることで出世してきた人物が率いる「政府効率化省」に、なぜ有権者は期待を寄せるのか。確かに自分の首を絞めているようにも見えるが、彼らには理由がある。自分たちを食い物にする企業を政府機関が守り続けてきた、苦い経験を持っているからだ。

Propublicaのピーター・エルキンドは、米国最大の在宅呼吸器ケア業者、Lincareについて、驚くべき記事を書いている。この常習的な詐欺師であり略奪者は、何の制裁も受けることなく、公的資金から巨額の富を吸い出している。

https://www.propublica.org/article/lincare-medicare-lawsuit-settlements-oxygen-equipment

Lincareは何度もMedicare詐欺で有罪判決を受けてきた。今世紀に入ってからだけでも4回の保護観察処分を受け、再び違反すれば連邦政府との取引を永久に禁止されるという「死刑条項」が付されていた。しかしいずれのケースでも、Lincareは新たな詐欺を働き、それでも死刑条項が適用されることはなかった。

なぜか。Lincareは「大きすぎて潰せない」存在だからだ。米国の医療システムは、世界一の高コストと最低水準のサービスで知られる奇妙な民営化システムだが、Medicareのような公的医療でさえ民間企業に依存している。人間の生存に不可欠な酸素供給を独占するLincareがMedicareから締め出されれば、文字通り無数の米国人が窒息してしまう。

Lincareはそれを熟知している。大きすぎて潰せない企業は、大きすぎて刑務所にも入れられない。つまり、大きすぎて気にする必要もない。彼らは不処罰の象徴的存在であり、何度有罪判決を受けても、今なお違法行為を重ねている。GWブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンと、歴代政権の下で詐欺の有罪判決を受けてなお、今日も営業を続けている。

その手口を紹介しよう。エルキンドは、アスベストに汚染されたモンタナ州リビーの町を例に挙げる。この町では、1963年から1990年まで操業していた露天掘り鉱山の影響で、人口2,857人のうち2,000人以上が呼吸器疾患に苦しんでいる。死に瀕した高齢者たちは、呼吸を繋ぐためにMedicareとMedicare Advantageの酸素濃縮器に頼らざるを得ない。つまり、Lincareに命を握られている。

彼らはLincareお得意の詐欺の餌食となる。毎月、酸素濃縮器のレンタル料をMedicare(および20%の自己負担を強いられる患者)に請求し、機器の価格を何倍も上回る金額を巻き上げる。これは明らかな違法行為だ。連邦規則では36ヶ月後には患者が酸素濃縮器を購入したとみなされ、それ以上の請求は禁止されている。しかしLincareは平然と無視する。請求書は送り続けられ、長生きした患者は799ドルの機器に16,000ドルも支払わされる。

地域のカスタマーサービス担当者、ブランドン・ハウゲンがこの問題に気づき、フロリダ州クリアウォーター(サイエントロジーとソノシートの故郷)の本社に問い合わせたが、とりつくしまもなかった。幹部にこの違法性を認めさせようと何度も試みた末、彼は同僚で幼なじみのベン・モントゴメリーとともに退職を決意する。二人には、Lincareの給料で養う14人の子どもがいた。それでも次の仕事の当てもないまま退職し、内部告発に踏み切った。最終的にLincareは2,900万ドルで和解し、うち570万ドルが内部告発者とその弁護士に支払われた。しかしLincareにとって、これは事業コストの一部に過ぎず、詐欺は今も続いている。

Lincareの詐欺はMedicareだけにとどまらない。歩合制の営業部隊を使って、顧客――その多くが病気で貧しい高齢者――を繰り返し騙し続けている。患者に自動請求を強要し、医学的に疑わしい機器や、無用な「患者モニタリング」サービスを高額で追加する。睡眠時無呼吸症候群の患者には、医学的な必要性を偽って呼吸器を売りつける。

営業担当者は違法に、Lincare機器の部品や消耗品を患者に勝手に送りつけては請求を繰り返した。注文前の電話確認という法的要件をかいくぐるため、患者に電話をかけて保留にし、切られるまで待つという手まで使っている。

営業担当者を動かすのは、欲望と恐怖だ。ノルマを達成すれば月額8,000ドルものボーナスが得られる。しかし過酷なノルマを達成できなければ即座に解雇される(ある営業担当者が医学的に不必要な人工呼吸器を勧めたのも、そのためだ)。

また、Lincareには不要な機器の引き取り要請を無視する習慣がある。患者の敷地内に機器がある限り請求できるからだ。あるオハイオ州のマネージャーは部下にこう指示している。「私がGOサインを出すまでは、絶対に引き取り/解約してはならない。死亡した場合でも同様だ」。幹部たちは引き取りを放棄した地域マネージャーを称賛する全社メールを送り、2022年2月の「達成度ランキング」では、ほとんどの地域で150件以上の期限切れ引き取りを抱えていることを誇らしげに報告している。

Lincareは米国社会の構造的腐敗を象徴している。大きすぎて罰せず、強すぎて規制できない。2006年に成立した酸素濃縮器の支払い抑制法も、業界のロビイストにあっさり骨抜きにされた。現在、議会ではSOAR(Supplemental Oxygen Access Reform)法の審議が進められている。これによってLincareは毎年数億ドル以上を公的資金から得られるようになり、料金の引き上げや競争入札の排除も可能になる。この法案は、医療システムから締め出されてきた患者に酸素を供給することを目指す患者擁護団体にも支持されているが、皮肉にもそれによって、Lincareの腐敗はさらに手がつけられなくなる。

トランプ政権は間違いなく、米国の「最悪の企業」の一部を取り締まるだろう。「米国は腐敗している」と訴えて当選した唯一の候補者を選んだ、怒れる有権者たちの期待に応えるために。だがトランプ自身は、支持者への影響など関係なく、自分への忠誠度や妨害の有無によって標的を選ぶことを明言している。

https://pluralistic.net/2024/11/12/the-enemy-of-your-enemy/#is-your-enemy邦訳記事

違法なキックバックで何度となく摘発されてきたLincareのような企業は、このゲームの攻略法をよく心得ている。

(Image: p.Gordon, CC BY 2.0, modified)

Pluralistic: America’s richest Medicare fraudsters are untouchable (13 Nov 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: November 13, 2024

カテゴリー: Monopoly