以下の文章は、電子フロンティア財団の「Starve the Beast: Monopoly Power and Political Corruption」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

ゾンビの明細書

2017年、連邦通信委員会のアジット・パイ委員長(ドナルド・トランプが任命した元ベライゾンの弁護士)は、同委員会が苦労の末に勝ち取った2015年のネットワーク中立性規制解体する意向を発表した。2015年の規制は、搾取的なISPからの常識的な保護を求めてFCCにパブリックコメントを提出した、あなたのような数百万の人々のおかげで成し得たものだった。

パイの発表の後、その数百万の人々と、その友人たちがFCCのコメントポータルに殺到し、FCCのサーバを落とした(FCCはハッキングされたとウソの言い訳した)。専門家や国民から寄せられたコメントは、2015年のネット中立性の戦いで得られたコンセンサスを圧倒的に裏づけるものだった。アメリカ人はネット中立性を愛し、規制当局がそれを実現することを待望しているのだ、と。

だが、FCCの採決までにおかしなことが起こった。数千の、その後に何百万のほぼ同じ内容のコメントがFCCに殺到し、そのすべてがネット中立性に反対していたのだ。こうしたコメントは、明らかに架空の人物から送られたものもあれば、なりすまし(現職の上院議員になりすましたものもあった)や、無数の死者からのものもあった。そのうち100万件は、Pornhubの従業員が送ったものとされているFCCが受理したコメントの82%はフェイクで、偽のコメントの大多数がネット中立性に反対していた。

こうした大量のフェイクコメントを送るには、多額の費用がかかる。電気通信業界は、政治的プロセスを汚染するために数百万ドルを支払った。不正行為のツケは一企業が支払ったのではなく、業界団体が負担したのだ。

どうしてそんなことになってしまったのか。

1つの大きな幸せ家族

通信業界は高度に寡占化が進んだ産業で、企業は相互の競争を拒んでいる。その代わり、企業は国内をいくつかの独占テリトリーに分割している。消費者は2つかそれ以下(訳注:つまり1つ)のISPから選択しなければならない

競争が働かないということは、ISPはより多額の料金を請求し、より低品質なサービスを提供し、その差額をポッケにしまい込めるということだ。それ故、米国のISP市場は莫大な利益を上げている。企業が市場を独占すれば、価値は顧客や労働者から経営者や株主に移転する。だからこそ経営者は独占を愛し、株主は独占企業への投資を愛するのだ

利益は政策に転換できる。余剰資金があればあるだけ、ロビー活動に振り分けられる。利益率の高い企業は、利益率の低い企業によりも、自分たちに有利な法律や規制を成立させやすい。もちろん、利益率の低い企業だって、足繁く議員や規制当局を行脚してるのだから、一般市民よりは融通を利かせやすい。

だが、ある業界が政治的に優位に立てるのは、莫大な利益だけが背景にあるわけじゃない。業界が数百の中小規模の企業で構成されている場合、そうした企業は利益率が低いだけでなく、(価格の引き下げ、賃金の引き下げ、製品・サービスの向上で相互に競争しているために)協力し合うことが難しい。

業界の利害関係者が数百から数千になればどうなるか。集まって共通のロビイングの方針を決めるにも、まずはでかいコンベンションセンターをおさえるところから始まる。1000人のライバル企業の経営者同士が集まるのだから、どんな弁当を出すかですら一苦労だし、ましてやどんな法律を要求するかなんてまとまるわけもない。

業界の支配者が片手で足りるくらいまで減れば、1つのテーブルで事足りる。実際、彼らはそうしている

競争は敗者のためのもの

数千万の偽の反ネット中立性コメントがFCCに殺到したのは、このような理由からだ。高度に寡占化したISPセクターは、互いに競争するのではなく、手を取り合う道を選んだ。

その結果、彼らは国から金をむしり取り、大金をせしめることができた。その金の一部はロビー活動のために確保される。このセクターを支配するのは一握りの企業だけなので、ロビー活動の方針も簡単に決まる。

しかも、彼らが説得すべき相手は、こんなイカサマキャンペーンに資金を提供する独占企業(訳注:ベライゾン)の元幹部だ。当然、パイは彼らの言い分に心から共感してくれた

独占は、政策戦争のための大量の弾薬を企業にもたらす。独占は、その大量の弾薬の標的を決める企業の数を減らしもする。

始まりと行く末

2000年代、テクノロジー業界は窮地に立たされていた。GoogleがワシントンDCに置いていたロビイストはたったの2人。一部の大企業(Microsoft、Yahoo、Netscape)を除けば、ウェブの大部分は数百の中小企業の手中にあり、その多くが9.11以降の経済不況にあえいでいた。

一方、エンターテイメント業界は高度に寡占化していて、非常に統制が取れていた。実にバカバカしいテクノロジー関連法規制の波がテック業界を襲い、非営利団体による迅速で巧みな法廷闘争と、インスピレーションに満ちた草の根運動だけが、こうした突飛な提案を押し留めていた。

2000年代初頭のテクノロジー業界は、エンターテイメント業界よりもはるかに高い評価額を誇り、ダイナミックで、多様性に富んでいた。だが、どこからともなく現れた新興企業がわずか数年で台頭し巨大企業を駆逐した揺るぎないと思われていた巨大企業の支配力も、またたく間に終わりを迎えたのだ。

しかし、エンターテイメント業界は集中していた。音楽は6つのメジャーレーベルが独占(現在はM&Aにより3つになった)。テレビ、映画、出版も同様に一握りの企業が独占していた(こちらも同様に、M&Aにより企業数は減少を続けている)。これら大手レーベル、映画スタジオ、放送局を、同じ企業が所有していることも珍しくない。その傾向は今世紀に入ってからさらに加速している。

こうした独占産業は、自らに有利な政策をとらせるために必要な2つの特性、つまり、過剰な独占的利益と縮小化された独占的協力関係を持ち合わせていたのである。大量の弾薬を抱え、共通の標的を定めて、それに向かってブッ放していたのだ。

今日、ビッグテックはビッグコンテンツと同じように集中化している。ロビイストの軍勢を従え、政治家や規制当局に自分たちの意思を押し付けている業界が集中すればするほど、利益を上げれば上げるほど、ロビイストを増やせば増やすほど、自分たちの思い通りになる

巨人たちの衝突

独占が独占を生む。ビッグテックが台頭する以前のテクノロジー業界は、独占的なISP業界と独占的なエンターテイメント業界の間で悪循環に陥っていた。それが現在では、ビッグテック、ビッグコンテンツ、ビッグテレコムがそれぞれ、我々のデジタルライフを支配する権利を主張し、どの巨人を応援するのかと我々に選択を迫ってくる。

だが我々は巨人の側には与さない。我々はユーザの味方であり、公益の味方である。大企業が顧客やユーザの側に立つのであれば、我々もそれを支持しよう。だが、我々は、わずかなパンくずのためにどの巨大企業に支配されるかを選ぶ権利を求めているのではない。

だからこそ、我々は競争政策や反トラスト法を注視しているのである。決して競争のための競争を崇拝しているわけではない。我々が競争を望むのは、競争的な産業は、企業利益を法律に反映させるのが難しくなるからだ。法律は公共の利益と人々の意思を反映するものであり、株主以外の誰にも責任を負わない独占企業の集中化した富を反映すべきではない。

電源のオン/オフは試されましたか?

テクノロジー業界への反トラスト法の適用に反対する人たちであっても、テクノロジー業界が不健全に集中していることは同意するだろう。だが、そうした反対者たちは、テック業界のわかりやすい不正な慣行を指摘する傾向がある。つまり、著作権クレームを悪用して相互運用性を阻害したりプライバシーを口実にライバルを締め出したりネット中立性を売り渡したり検閲を容認したり、といったことである。

そうした分析には全面的に賛同したい。こうした慣行は競争に最悪の結果をもたらす。だがいずれも、競争が不在なことで可能になっていることでもある。いずれの取り組みも、独占的な利益によって賄われ、独占企業のコンセンサスによって支えられているのだから。

もちろん、独占企業が自社の利益を守る一方で、公共の利益を守ることもある。APIの著作権をめぐるGoogleとOracleの裁判では、2つの超巨大企業が数十億ドルを投じて自らの利益を追求した。Oracleは著作権法を変えて、Googleから数十億ドルを奪おうとし、一方Googleはその数十億ドルを守ろうとした。Googleはその数十億ドルを守るために、正しいことを主張した。APIは機能的であるがゆえに著作権が認められず、また相互運用性を阻害することは公共の利益に反すると主張したのだ。

Googleの独占力が削がれたら、つまりGoogleに競争的な広告環境での経営を余儀なくされて利益を失ってしまったら、次の公共の利益に対する攻撃に対抗できなくなるかもしれない。だがこれは、Googleの力を強めねばならないという議論ではなく、Oracleの力を弱めなくてはならないという議論でなくてはならない。

なぜなら、多くの場合、GoogleとOracleはテクノロジー・ジャイアントとして、同じ側にいるのだから。

FCCが新たな体制となった今、我々は再びネット中立性をめぐって戦うことになるだろう。今度はネット中立性を回復するための戦いだ。2017年に見られたようないかがわしい戦術を目にすることにもなるだろう。Googleは我々の側に立ってくれるかもしれないが(結局、ネット中立性はテクノロジー業界の利益につながる)、その一方で、独占的な通信会社と契約を結ぶかもしれない。

大手通信会社による公共の利益の破壊を阻止するためには、Googleをさらに大きくして(再び)寝返らないことを祈るのではなく、ビッグテレコムをバスタブに収まるくらいに小さくしなくてはならないのだ。

利益は力である。集中は力である。集中は利益を生む。利益はFTCを無視してでも企業を合併に向かわせ、ますます集中化していく。洗う、すすぐ、繰り返し(訳注:何度も何度も繰り返されていく)。

独占のシステムは猛獣のようなものだ。金を力に変え、その力を金に変え、その金を力に変えるサイクルなのだ。我々はこのサイクルを断ち切らなければならない。

獣を飢えさせなければならないのだ。

Starve the Beast: Monopoly Power and Political Corruption | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: August 01, 2021
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Dries Augustyns