以下の文章は、Fight for the Futureの「ABOLISH THE APP STORE」というキャンペーンページを翻訳したものである。

世界中に10億ものiPhoneユーザが存在している。だが、彼らは自分の携帯電話にインストールするアプリを選ぶことはできない。

2008年、AppleはiPhoneユーザが使用できるソフトウェアをApp Storeで承認・配布されたものに限定するという前代未聞の決定を下した。これにより、Appleはソフトウェア業界全体に絶大な影響力を持つに至った。Appleがソフトウェアの流通を一元的に管理することで、政府が反体制派を検閲したり、弱者を差別的に扱うためのチョークポイントが生まれた。また、中小企業や人権を犠牲にして、ビッグテック企業にさらなる力を与えてもいる

我々は、App Storeの独占を廃止し、誰もが自分のデバイスに自ら望むものをインストールできるよう議会に要求する署名活動に是非参加していただきたい(訳注:署名欄は省略)。

いまこそiPhone解放の時

2021年時点で、iOSを搭載したアクティブなiPhoneは10億台に達すると言われている。これほどの規模で普及した汎用コンピューティングシステムは、GoogleのAndroidMicrosoftのWindowsだけだ。中でもiOSは、開発者がユーザに直接ソフトウェアを提供できないようにしているという特徴がある。開発者は、Appleの承認を得た上で、AppleのApp Storeでのみソフトウェアを配布することを強制されている。

ソフトウェア流通を一元化することは、Apple製品を使用していない人も含め、すべてのインターネットユーザの自由と人権を損ねる。また、他の独占的なビジネス手法と同様に、低所得者、有色人種などの弱い立場に立たされている人々に不均衡な損害をもたらす。

検閲マシンのApp Store

Appleは長きに渡り、権威主義政府と協力してApp Storeから特定のアプリケーションを排除してきた。驚くには値しない。Appleは営利企業であり、ある国で事業を行うためには、どれほど不当であっても現地法に従わなければならないのだから。

問題は、いったんApp Storeからアプリが削除されると、そのアプリをインストールするための代替手段がないことである。これでは、権力を維持するためのアプリは作れても、それに抵抗するためのアプリは作れないということになってしまう。ウェブ(やオープンウェブで配布されるソフトウェア)を効果的に検閲するには、各国は大規模なインフラプロジェクトを進めなければならない。しかしAppleがその役割を果たしているため、iPhoneアプリを検閲するために国がすべきことは、Appleにメールを送ることだけだ。

開発者はウェブアプリを開発することでApp Storeの検閲を回避してきた。しかし、政府がインターネットへのアクセスをブロッキングし、Appleがその国のApp StoreからVPNアプリを削除すると、そのウェブアプリにもアクセスできなくなってしまう。

Appleの配信モデルは、あらゆる地域の検閲者や独裁者への贈り物である。

ビッグテックびいきのApp Store

ウェブでは、リンクや埋め込みが簡単にできるため、1つのウェブサイトから別のウェブサイトへと自由に移動でき、インターネットやニーズの変化に応じて創造的なソリューションを楽しむことができる。YouTubeが人気になったのは、MySpaceやブログに動画を埋め込めたからでもある。ImgurはReddit似画像を埋め込むための手段として成長した。WikipediaやStack Overflowなどのコミュニティは、Goolgeからの検索トラフィックのおかげで成長した。

しかしアプリは多くの制限が課せられ、インターネットのオーガニックな自由運動のすべてを奪い、有料広告に置き換えてしまう。TikTokやTinderのようなアプリが人気を獲得したのは、AppleやGoogle、Facebookなどの巨人企業に多額の広告費を費やしているためである。これにより、資金力のある企業やFacebookのような既存のプレイヤーが圧倒的に有利になる。

App Storeの空虚なセキュリティ審査

Appleは、ユーザの安全を守るためにすべてのアプリを審査する必要があると言う。だが、App Storeには詐欺アプリ偽アプリが氾濫している。アプリの数が多すぎて、確実に審査することができていないのだ。App Storeのレビュアーは通常、1日に50〜100のアプリを評価しているが、1つのアプリにつき1分もかけていないことも珍しくない基本的なコードの自動テストを考慮しても、実現不可能なペースだ。

iOSはセキュアなオペレーティングシステムだが、そのセキュリティはハードウェアとソフトウェアの設計に長い時間をかけて取り組んできた成果であり、60秒でアプリを審査してきたからではない。

AppleはMacOSにソフトウェアを直接インストールすることを許可しているが、このことがデスクトップOSのセキュリティを損なうと主張したことは一度もない。

Appleが、App Storeの独占を終わらせると「あなたの知るiPhoneが破壊されてしまう」とか「iPhoneが蚤の市になってしまう」と訴えるのは、App Storeの独占によって得られる利益と権力を守るために、恐怖や不確実性、疑念を撒き散らすためである。

App Storeのガイドラインが市場を規定する

iPhoneは2021年時点で世界のモバイル市場の約27%のシェアに過ぎず、72%のAndroidが大きくリードしている。にもかかわらず、App StoreはGoogle Playの約2倍の収益を上げている。このため、開発者はまずはiPhoneに注力し、多くの場合、iOS用に独占的に開発を行うという極力なインセンティブが働くことになる。

米国を始めとする影響力と収益性の高い複数の国では、iPhoneがAndroidよりも人気がある。しかし、iPhoneが最も普及していない地域でも、開発者はiPhoneをサポートすることに大きなインセンティブがかけられている。友人や同僚と交流するアプリ(たとえばグループメッセージやSNS)は、わずか1人か2人のiPhoneユーザが使えないだけで、役に立たないとみなされてしまうためだ。

iPhoneでも使えるようにするためには、App Storeに登録するしかない。App Storeに参加するためには、AppleのApp Storeガイドラインに従わなくてはならない。これでは、Appleが市場全体のルールを決定することになってしまう。

イノベーションに見えない不可逆な損害を与えているApp Store

インターネットは人と人をつなぎ、人間の知識や想像力を誰もが利用できるようにするためのものであるはずだ。Appleをはじめとする巨大テクノロジー企業は、イノベーションを起こすための許可を必要としない世界で、とてつもない成功を収めた。

しかし、AppleのApp Storeの制限は、自分たちの社会の基盤となるエコシステムそのものを破壊する。新世代のイノベーターたちは、支配的なデジタルプラットフォームを通じて、創造的な挑戦や探求、共有の自由は与えられていない。こうした自由を認めないAppleの制限によって、さまざまなイノベーションの芽が摘まれることになってしまうだろう。

Appleによるイノベーションの妨害は取り返しのつかないことを引き起こす。いま、App Storeの問題に取り組まなければ、阻害されているクリエイターやアイデアが世に出ることはないかもしれない。モバイルというプラットフォームはビッグテックの独占によって締め付けられている。バーチャル・リアリティなどの他のイノベーションも同様の運命をたどることになるかもしれない。

Abolish the App Store

Translation: heatwave_p2p