以下の文章は、電子フロンティア財団の「Letter to Iran, Regarding the Regulatory System for Cyberspace Services Bill」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

本日、EFFはArticle 19および50以上の団体とともに、イランのインターネットユーザーのプライバシー、セキュリティ、表現の自由に深刻な影響を及ぼす法案を撤回するよう、イラン政府に要請する。我々の書簡の文面は以下の通りである。


イラン:権威主義的的なインターネット規制法案に対する人権団体からの警告

我々、以下に署名する人権および市民社会組織は、イラン議会が権威主義的的な「サイバースペースサービス規制システム法案」(旧称「ユーザ保護法案」、以下「本法案」)を大筋で承認する動きを見せていることに警鐘を鳴らす。本法案が成立すれば、表現の自由やプライバシーの権利など、イラン市民のさまざまな人権が侵害されることになる。我々はイラン当局に対し、本法案を直ちに白紙撤回するよう要請する。さらに我々は、イラン当局と対話する国々および国際社会に対し、イラン議会が緊急に本法案を撤回するよう促すなど、イランにおける人権の促進と保護が優先されるよう要請する。

国連人権理事会の加盟国はまもなく、イランに関する特別報告者の委任更新に関する投票を行うことになっているが、イラン議会は本法案の可決により、イラン市民の権利をさらに抑圧しようとしている。もし施行されれば、イラン国内での通信遮断が拡大し、さらには完全に遮断されるという重大なリスクを伴い、深刻な人権侵害を隠蔽するために利用される可能性が高い。

イラン議会最高評議会が2022年2月22日の議会特別委員会による承認の試みを無効化したことは歓迎するものの、わずか18名の議会議員の投票に基づいて本法案が承認されたことは極めて憂慮される。本法案の成立の危機は迫りつつある。2021年7月、議会はイラン憲法85条に基づいて本法案の成立を認める議決を行った。これは、国会内の24名からなる小委員会(可決には18名の多数決が必要)が、一般的な議会手続きを省略して、3~5年の試行期間中に本法案を承認できることを意味する。この異例の85条手続きと、2月22日の承認の動きは、国内外の反発にもかかわらず、当局がこの強権的な法案を断固として推進する姿勢を崩していないことを物語っている。本法案の施行が、イラン市民全体の権利を制限しようとする小委員会の気まぐれに委ねられていることを、我々は今もなお懸念している。

憂慮すべきインターネット規制をもたらす法案

署名する市民社会グループは、本法案の可決により、イランにおける国際的インターネット帯域の利用可能性がさらに低下し、プライバシーの権利が侵害され、安全かつオープンなインターネットへのアクセスが奪われることを強く懸念している。とりわけ憂慮すべきは、イランのインターネットインフラとインターネットゲートウェイを同国軍隊と治安当局の管理下に置くという法案の規定である。現在の修正案では、イランをインターネットに接続する国際ゲートウェイを「セキュア・ゲートウェイ・タスクフォース」なる機関が管理することになっている。このタスクフォースは、本法案に基づいて新たに創設され、最高指導者の直接の監督下にある国家サイバースペースセンター(NCC)の権限下に置かれることになる。セキュア・ゲートウェイ・タスクフォースは、軍参謀本部、イスラム革命防衛隊諜報機関(IRGC Intelligence Organization)、情報省(訳注:Ministry of Intelligence)、情報通信技術省(ICT)、受動的防衛機構、警察、検事総長ら代表者によって構成されることになっている。

深刻な人権侵害を繰り返しながら一切責任を負うことのない組織にインターネットや通信アクセスの管理を委ねれば、イランにおける表現の自由に萎縮効果をもたらすことになろう。人権団体によって記録されているように、革命防衛隊や情報省をはじめとするイランの治安部隊は、2017年、2018年、2019年11月に発生した全国規模の抗議運動を鎮圧するために、殺傷力の高い武器の違法な使用、多数の恣意的拘束、強制失踪、拷問等の虐待といった人権侵害や国際法上の重大な犯罪を犯している。憂慮すべきことに、本法案が成立すれば、インターネット遮断とオンライン検閲がいっそう容易になり、透明性も低下する。インターネット遮断は情報にアクセスする権利や表現の自由といった人権侵害を構成するのみならず、他の重大な人権侵害の遂行と隠蔽を促すツールとして機能することにも留意すべきである。実際、多数の死傷者を出した2019年11月の全国的な抗議運動の弾圧は、1週間にわたるほぼ全面的なインターネット遮断の暗闇の中で行われた。

国外ソーシャルメディア、インターネットサービスの遮断

現在の法案では、イラン国内にサービスを提供するすべてのテクノロジー企業は、国内に代表者を置き、イラン・イスラム共和国の監視・検閲への協力、納税が義務づけられている。また、イラン国内のユーザが保有する「ビッグデータや重要情報」をイラン国内に保管することが義務づけられ、そうしない場合には処罰される可能性がある。遵守しない企業のサービスはアクセスを制限され、最終的にはCCDOC(Committee Charged with Determining Offensive Content:オフェンシブコンテンツ判定委員会)がイランでの事業活動に全面禁止を決定することになる。企業が上述の要件を遵守すれば、イランのすべてのインターネットユーザに深刻な影響が及ぼされる。したがって本法案は、プラットフォーム事業の撤退か、プライバシーや表現の自由を侵害する規制に従うかの二者択一を迫るものである。このような要件は、イラン国内のインターネットインフラである国家情報ネットワーク(NIN)をさらに強固にすることを意図している。これにより、イラン国内の情報と通信は当局の監視・検閲下に置かれ、最終的にはグローバルなインターネットから切り離されるおそれがある。国外のサービスが法律を遵守し、(少なくともデータの保存に協力して)国内ネットワークに部分的に統合されるか、そうしなかった場合には、イラン国内のユーザはNINのなかから代替サービスを探さなくてはならなくなる。またこの法案には、要件に従わない事業者への新たな刑事的措置も導入されている。プロキシや仮想プライベートネットワーク(VPN)サービスの開発、複製、配布は、法案第20条により禁錮刑に処される。また第21条では、外国サービスがイラン国内のユーザデータに無許可でアクセスすることを許したインターネットサービスプロバイダは、最高で10年の禁固刑に処すと定められている。

本法案に対する国内外の反発

本法案の推進の動きが見られて以降、ユーザネットユーザや、ユーザを代表する企業やギルド、人権擁護者、デジタルライツ活動家、国際人権団体、国連の専門家らから重大な懸念が表明されている。2021年10月、4人の国連特別報告者がイラン当局に通知(communication: OL IRN 29/2021)を送付し、本法案と議会内手続きにおける透明性の欠如に懸念を表明するとともに、本法案の撤回を求めた。法案そのものと、適正手続を無視して立法を進める議会の決定に対する批判の声を上げているのは、市民社会の活動家たちだけではない。2022年2月23日の時点で、150人のイラン議会議員が、法案を特別委員会ではなく、一般会期で審議・採択するよう最高評議会に要請する書簡に署名している。

イラン・イスラム共和国と二国間および多国間交渉・対話を行う国々、国際社会のメンバー、そして人権理事会加盟国は、イランに人権義務を遵守するよう圧力をかけなくてはならない。緊急に行動を起こさなければ、イランの人々は孤立と人権侵害のさらなる深刻なリスクに見舞われることになるだろう。

署名

  1. Abdorrahman Boroumand Center for Human Rights in Iran
  2. Access Now
  3. Advocacy Initiative for Development (AID)
  4. All Human Rights for All in Iran
  5. Amnesty International
  6. Arc Association for the Defence of Human Rights of Azerbaijanis of Iran – ArcDH
  7. Article18
  8. ARTICLE19
  9. Association for the human rights of the Azerbaijani people in Iran (AHRAZ)
  10. Azerbaijan Internet Watch
  11. Center for Democracy & Technology
  12. Center for Human Rights in Iran (CHRI)
  13. Commission on Global Feminisms and Queer Politics, International Union of Anthropological and Ethnological Sciences (IUAES)
  14. Committee to Protect Journalists (CPJ)
  15. Democracy for the Arab World Now (DAWN)
  16. Electronic Frontier Foundation (EFF)
  17. Freedom Forum
  18. Front Line Defenders
  19. Global Voices
  20. Human Rights Activists (in Iran) (HRA)
  21. Human Rights Consulting Group, Kazakhstan
  22. Human Rights Watch
  23. Ideas Beyond Borders
  24. IFEX
  25. Impact Iran
  26. Internet Protection Society, Russia
  27. INSM Network
  28. Iran Human Rights
  29. Iran Human Rights Documentation Center
  30. Justice for Iran
  31. Kijiji Yeetu
  32. Kurdistan Human Rights Association -Geneva (KMMK-G)
  33. Kurdistan Human Rights Network (KHRN)
  34. Kurdpa Human Rights Organization
  35. Lawyers’ Rights Watch Canada
  36. Media Foundation for West Africa (MFWA)
  37. Miaan Group
  38. Mnemonic
  39. Open Net
  40. OutRight Action International
  41. PEN America
  42. Queer Kadeh
  43. Ranking Digital Rights
  44. RosKomSvoboda
  45. Sassoufit collective
  46. Siamak Pourzand Foundation (SPF)
  47. SMEX
  48. SOAP
  49. Spectrum
  50. Wikimédia France
  51. WITNESS (witness.org)
  52. Ubunteam
  53. United for Iran
  54. Xnet
  55. 6Rang (Iranian Lesbian and Transgender network)
Letter to Iran, Regarding the Regulatory System for Cyberspace Services Bill | Electronic Frontier Foundation

Author: Shirin Mori / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: March 16, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Alena Vavrdova