以下の文章は、Access Nowに掲載された米政府への書簡「Letter to U.S. government: Do not disrupt internet access in Russia or Belarus」をしたものである。この書簡には、Access NowやEFF、Human Rights Watch、ウィキメディア財団をはじめ54の人権団体、デジタルライツ団体などが署名している。
2022年3月10日
親愛なるバイデン大統領
この書簡の署名者は、ロシアによるウクライナ侵攻を嘆き、ロシア軍による重大な国際法違反行為を最も強い言葉で非難し、強力かつ適時的な措置で対抗するバイデン政権および他国政府の取り組みを称賛するものです。しかし、私たちは、ロシア市民のインターネットアクセスを妨害しようとする声が高まっていることに懸念を表明いたします。そのようなことになってしまえば、戦争反対の声をあげる ために組織化したり、ロシアでの出来事を率直かつ誠実に報告したり、ウクライナや国外で起こっていることに関する情報にアクセスしようとする個人を害することになると懸念しています。また、そのような措置は、ロシア政府によるさらなる弾圧を不必要に助長する恐れもあります。
米国をはじめとする各国政府が、新たな制裁措置によってロシアのインターネットアクセスの遮断を検討していると言われています。また、インターネット、通信、クラウドサービスプロバイダなどの情報通信技術ベンターに対し、ロシア国内ユーザからのアクセスを自主的に制限ないし遮断するよう、内外からの圧力が高まっています。さらに、ウクライナからもそのような要請が繰り返されています(CANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)、国際電気通信連合等への要請など)。
私たちは、ロシア連邦におけるインターネットアクセスを制限するような措置を検討するすべての関係者が、そのような措置がもたらす完全な影響と生じうる意図せぬ結果を慎重に検討し、適法性、正当性、必要性、比例性という国際人権原則に則った、限定的で、オープンで、戦略的な方法によって行動することを強く求めます。私たちはまた、財務省外国資産管理局(OFAC)に対し、インターネットを介した個人の通信に必要なサービス、ソフトウェア、ハードウェアの提供を許可する一般ライセンスを発行し、このライセンスに関する周知徹底を図ることで、ロシアにおける自由な情報の流れを保護するための迅速な行動を要請します。
3月4日金曜日、ロシアのインターネット・バックボーン・サービス最大手のCogent社が、ロシアの大義なきウクライナ侵攻と米国政府の制裁を理由に、ロシア国内の顧客へのサービスを停止しました。3月8日には、第2位の大手インターネット通信事業者のLumen社もロシアから撤退しました。米国に拠点を置く主要なソフトウェア、インターネット・プラットフォームは、ロシアへの販売禁止、サービス停止にあたり、米国による制裁への対応を理由の1つに挙げています。こうしたテクノロジー企業によるロシアへの販売停止や関係断絶の動きは、米国政府や欧州連合などがロシアの個人・団体に課した制裁に従おうとしたことが一因と思われ、ロシアでのインターネット通信に対するさらなる厳しい制限を予感させる行動であると懸念されます。
現時点では、米国政府がロシアにおいて最も基本的なインターネット・アプリケーション、サービス、ソフトウェアの合法的な提供を明示的に許可しているかは不明です。しかし、過去にイラン、キューバ、シリアなどで見られた米国の制裁プログラムでは、情報技術が独立系メディア、個人間の交流、人権侵害の記録などに重要な機会を提供するという認識に基づき、個人のコミュニケーション、ソフトウェアサービス、ソフトウェア、ハードウェアの有償提供を許可しています。OFACと米国政府はこのような措置により、デジタルプラットフォームと現代のコミュニケーションテクノロジーへのアクセスが制裁の影響を受けないよう保証することは、公共の利益を逸脱するものではなく、また今後もそうあり続けるべきという先例を示したのです。
こうした個人のコミュニケーションに関する一般許可は、市民社会団体や議会からも幅広い支持を集めており、制裁プログラムの全体的な目的と矛盾するものではありません。インターネットへのアクセスは、表現の自由、情報アクセス、自由な結社の保護に不可欠であり、人権の一部であるとの認識が広がっています。ジャーナリズムと独立系メディアが、紛争地域内の出来事を記録する上でも、国家情報統制をかい潜る術を人々に伝える上でも、セキュアで信頼できる情報技術へのアクセスは不可欠です。ロシア市民のインターネットアクセスを過剰に制限してしまえば、追い詰められている民主化運動家や反戦活動家をさらに孤立させ、ロシア内外のNGO、人権団体、ジャーナリスト、弁護士らが、現状とその権利について市民に重要な情報を提供できなくなってしまいます。こうした措置は、クレムリンが「主権インターネット」の名の下に実現しようとしていること、すなわりロシア政府が国内の情報空間を完全かつ全面的なコントロール下に置くことを不用意に加速させることにもなります。
さらに、国外のテクノロジーや通信プラットフォームへのアクセスを制限してしまえば、この地域をさらに孤立させ、ユーザはロシア企業が提供する代替サービスに頼らざるを得なくなるでしょう。そうしたサービスはロシア当局に高度に管理されており、踏み込んだ監視や検閲によって政府から独立した情報チャネルを積極的に抑圧してきました。またこのような措置は、ハッキングや監視に脆弱な可能性の高い未承認ないし海賊版のソフトウェアやサービスにユーザを向かわせる恐れもあります。
ロシアも同様に、ロシア国内で事業を行うプラットフォームやプロバイダを遮断・制限したり、乗っ取るための取り組みを強化しています。ロシアはすでにFaceookやTwitter、そして10以上の独立系メディアを禁止し、Wikimedia財団をはじめとする複数の国外機関に検閲を要請する通知を送り、従わなければ遮断すると脅しています。このような権威主義的な行動に対抗し、ロシア政府の違法行為を否定するための制裁その他の措置が、意図せずプーチンの情報統制を強化する逆効果をもたらさないように、あらゆる手段を講じなくてはなりません。
以上の理由から、ロシア連邦およびその同盟国の行動に制裁を加えようとするバイデン政権はじめ各国政府は、以下のステップを踏むべきであると考えます。
- ロシア国内の個人が重要なサービスから遮断されるのを待つのではなく、プロバイダがコンプライアンス戦略を検討している現時点において、インターネット上の個人の通信に関連するサービス、ソフトウェア、ハードウェアの提供を直ちに許可すること。
- 制裁が及ぼしうる影響を理解するために、市民社会団体やテクノロジー企業と協議すること。
- 制裁が人権および人道イニシアチブの保護の観点からどのように実施されるべきかについて明確なガイドラインを提供するなど、国際人権原則に沿ったスマートかつ的を絞った方法で実施されることを確認すること。
- 制裁の正当性と影響についての透明性を確保し、制裁の策定過程を明らかにするとともに、利害関係者が現在・将来のターゲットと措置に関するエビデンスを提供できるようにすること。
- 市民社会との緊密な協議のもと、制裁を定期的に見直し、必要に応じて修正することを約束すること。
- 制裁解除の可能性、および制裁の見直しにつながる具体的な要件について、明確なガイドラインを定めること。
- この紛争におけるベラルーシの役割の進展に伴い、同国への制裁の可能性についても同様のアプローチをとること。
こうした重要な点ついて、考慮していただきありがとうございます。私たちはこのような取り組みについて、今後も適宜、議論・支援の用意があります。
署名:
Access Now
ARTICLE 19
Azerbaijan Internet Watch
Beam Reports
Center for Democracy & Technology
Committee to Protect Journalists
Dangerous Speech Project/Christchurch Call Advisory Network
Digital Democracy
Digital Impact and Governance Initiative (DIGI) @ New America
Digital Medusa
Digital Rights Kashmir
Electronic Frontier Foundation (EFF)
Free Belarus Coalition
Freedom House
Free Press Unlimited
Friends of Angola
Global Forum for Media Development (GFMD)
Global Network Initiative
GreatFire.Org
Guardian Project
Guernica 37 Group
Harvard Law School Cyberlaw Clinic at the Berkman Klein Center
Human Rights First
Human Rights Foundation
Human Rights Watch
Index on Censorship
International Senior Lawyers Project (ISLP)
Internet Society
Internet Without Borders
Kijiji Yeetu
Manushya Foundation
Mass Media Defence Centre
Media Diversity Institute – Armenia
Media Foundation for West Africa (MFWA)
Miaan Group
Net Freedoms Project
Paradigm Initiative (PIN)
PEN America
Project Expedite Justice
Ranking Digital Rights
Reporters Without Borders
RFK Human Rights
RosKomSvoboda
Taraaz
Teplitsa. Technologies for Social Good
The Tor Project
Ubunteam
US Ukrainian Activists
Wikimedia Foundation
Women of Uganda Network (WOUGNET)
World Wide Web Foundation
Xnet – Spain
Letter to U.S. government: Do not disrupt internet access in Russia or Belarus – Access Now
Publication Date: March 18, 2022
Translation: heatwave_p2p