以下の文章は、電子フロンティア財団の「Recognizing World Press Freedom Day During COVID-19」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

世界がパンデミックに見舞われている現在、コロナウィルスの拡散と各国政府の対応を伝える報道が重要性を増している。だが危機のときこそ、私たちが最も大切にしている自由権が試されることになる。いまや世界中の政府がジャーナリズムを取り締まり、重要な情報の自由な流通を阻害している。まさに今が試練のときなのだ。

現在、新型コロナウィルスには未知の部分が多く、それゆえ世界中の政府がウィルスに関する見解とその対応をコントロールしている。アルジェリアアゼルバイジャン中国ハンガリーインドネシアイランパレスチナロシア南アフリカタイなどの国々では、個人やジャーナリストがコロナウィルスに関する虚偽の情報や誤解を招くような情報を共有することを禁止している。

だが、「虚偽情報」を犯罪化することは、法執行を支配する権力者にどの情報が「真実」で「正しい」のかを定義する権限を与えることに他ならない。そのような法律は、公式見解に沿わない情報を共有した者を検閲、勾留、逮捕、起訴する権限を政府に与えるのだ。

それはすでに起こっている。カンボジアでは、コロナウィルスに関する「虚偽の情報」を広めたとして、少なくとも17人が警察に逮捕された。そのうち4人が野党議員で、現在も拘束されたままだ。また、学校で広がっているウィルス拡散の噂についてソーシャルメディアで不安を語った10代の少女が逮捕されてもいる。

トルコでは、トルコ政府のパンデミック対応を非難したり、コロナウィルスが国内で広がっているという「根拠のない」(だが、中立の報告書ではそのように指摘されている)投稿をソーシャルメディアにしたとして当局が市民を拘束している。

インド統治下のカシミール警察は、ジャーナリストを拘束し、起訴すると脅している。拘束されたジャーナリストらは、コロナウィルスに関する情報や、政府による検閲、カシミールでの衝突をソーシャルメディアに投稿していた。

米国の自治領で、50州と同じく憲法で表現の自由が保護されているはずのプエルトリコでさえ、一定の条件下では政府のパンデミック対応に関連したある種の「虚偽の情報」の拡散を禁止するという、明らかに憲法に違反する法律を制定している。

だが、世界中の人びとの命と生活を脅かす、未だ解明されていない新たなウィルスとの闘いが続く現在、情報の自由な流通を確保することはこれまで以上に重要性を帯びている。もし武漢の李文亮医師が初期段階で警鐘を鳴らそうとしたときに、中国が李医師を間違った噂を広めたと非難し口止めしなかったなら、新型コロナウィルスをめぐる経過はどのようなものになっていただろうか。

各国政府は、危機の進展に関する報道を促すのではなく、中国式のアプローチ、つまり検閲を採用している。尋問、勾留、逮捕の脅威は、ジャーナリスト、政治活動家、個人が自らの経験を共有したり、当局の活動を調査したり、政府見解に異議を唱えることを制限する。

もちろん、政府は世界的パンデミックと闘う上で重要な役割を果たしているし、重要な情報を提供してもいる。だが、だからといって政府が自らを真実と虚偽の唯一の裁定者とし、政府見解を調査したり、当局の説明に疑問を呈したり、研究、観察、経験を共有する個人の権利を剥奪して良いということにはならない。

結局のところ、「虚偽ニュース」禁止法の前提となる識別可能で客観的な「真実」が常に存在するという考え方は、往々にしておぼろげなものだ。急速に事態が進展するこの危機においては、たとえ強い善意を持った当事者でさえもウィルスに対する認識が急速に変化していく。わずか2ヶ月前まで、米国政府は「マスクに効果はない」と言って着用しないように指示していた。だが今日では、それとは真逆の指示を出している(米国以外の複数の国でも同じ経過をたどっている)。

さらに米国最高裁は、たとえ故意に虚偽の発言をしたとしても、その発言が証明可能な重大な被害をもたらさない限り犯罪化できないことを明確にしている。言論が真実か偽りかを取り締まる権限を政府に与えてしまえば、政府に対する自由な言論に大きな制約がかけられることになる。「我らの憲法の伝統は、オセアニアの真実省が必要だという考えに反する立場を取る」のだ。

国際人権法(すなわち、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第19条)は、国家安全保障、公衆衛生、治安、道徳の保護の目的で――法律によって規定され、必要とみなされた場合に――表現の自由の一定の制限を認めている。だが、2017年の特別マンデートの共同宣言では、フェイクニュースの一般的禁止に明確に反対している。

「虚偽ニュース」や「客観的ではない情報」など、あいまいで不明瞭な考えに基づく情報流通の一般禁止は、表現の自由の制限に関する国際基準と相容れないものであり […] 無効とされるべきものである。

また言論及び表現の自由の権利の促進・保護に関する特別報告者のデイヴィッド・ケイは、 COVID-19と表現の自由に関する報告書のなかで、誤情報〈misinformation〉と虚偽情報〈disinformation〉がパンデミックにもたらす悪影響を認めるとともに、「虚偽情報」という言葉の多義性を指摘しつつ、真実でないこと〈untruth〉に対抗することの重要性を再び強調した。だが、ケイ特別報告者は、虚偽情報を処罰することを目的とした法律に警鐘を鳴らし、注意を呼びかけている。

虚偽情報対策によって、ジャーナリストやメディア関係者の仕事が妨げられたり、インターネット上のコンテンツが不当に遮断されることがあってはならない。[…] 虚偽情報のあいまいな禁止は、公共領域、政治領域におけるコンテンツの真偽を判定する権限を政府当局に与えるものとなっている。

私たちは、世界報道の自由デーを、そして政府に説明責任を迫る報道の功績を称えるとともに、ジャーナリスト、活動家、市民が共有した情報によって逮捕・投獄されることを恐れることなく発言できる権利を守っていかなければならない。

Recognizing World Press Freedom Day During COVID-19 | Electronic Frontier Foundation

Author: Naomi Gilens and Jillian C. York (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: May 04, 2020
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Marcus P.