以下の文章は、電子フロンティア財団の「New Texas Abortion Law Likely to Unleash a Torrent of Lawsuits Against Online Education, Advocacy and Other Speech」という記事を翻訳したものである。2021年9月1日の最高裁のテキサス州中絶禁止法(テキサス・ハートビート法)の容認その施行を受けて、その翌日に公開された記事である。

Electronic Frontier Foundation


テキサス州の新たな中絶規制法
SB8は、女性の生殖や医療に関する権利を大幅に制限するだけにとどまらず、オンラインでの言論にも壊滅的な影響を及ぼすだろう。

この法律は、中絶に関するオンライン・アドボカシー、教育、その他の言論によって誰かの怒りを買った人を罰し、黙らせることができるよう、賞金稼ぎたちに裁判所を利用できるようにしている。この法律が、テキサス州の中絶の権利とアクセスに関する情報を公開するオンラインの発言者に対する大量の訴訟を引き起こすことは疑いなく、その訴訟の是非や言論に与えられる修正第一条の保護などはほとんど考慮されることはないだろう。基礎的な教育リソースを提供し、情報を提供し、クリニックの場所を教え、移動手段や付き添いを手配し、リプロダクティブ・ライツを支援するための募金活動を行い、あるいは、単に女性に(訳注:中絶を含む)あらゆる選択肢を考えるように勧める個人や組織が、ただ単に発言しただけで訴えられるかもしれないというリスクを負わねばならなくなったのである。その結果、女性に生殖の選択肢について真実の情報を与えようとする人々を黙らせるために、つまり言論を萎縮させるために、訴訟の矛先が向けられることになる。

SB8は、「テキサス・ハートビート法」とも呼ばれ、「人工妊娠中絶の実施または誘導を援助または教唆する行為に故意に関与した者」に訴訟を起こすことを民間人に奨励している。当該人物が「中絶の実施または誘導が法律に違反することを知っていた、または知るべきであったか」は考慮されず、この法律が新たに定めた幅広い“違法な中絶”の定義が適用される。単に助けるつもりであっても、あるいはその援助によって実際に違法な中絶が行われたかとは無関係に、訴訟のリスクを負うことになるのだ。

また、中絶を行った医師が適法に施術してくれたと信じていた場合には抗弁もできるが、実際には極めて困難である。「合理的な調査」を行い、その結果、医師が法律に従っていたことを「合理的に信じた」ことを証明しなければならない。つまり、単にインターネットに何かを投稿する前にすべきことが山ほどあるということであり、当然、そのために弁護士を雇わねばならないということでもある。

SB8は「賞金稼ぎ法(bounty law)」であり、民間人による提訴を認めるだけでなく、訴訟を起こさせるために多額の金銭的インセンティブを与えている。訴訟を起こして勝訴すれば、その言論が「幇助」した中絶1件につき少なくとも1万ドル、さらにその訴訟費用と弁護士費用まで保証されているのである。同時に、SB8は、賞金稼ぎが敗訴したとしても、多くの場合、被告の訴訟費用を支払わずに済むようにしている。つまり、濫訴を抑制するために重要な経済的阻害要因があらかじめ取り除かれているのだ。

また、訴訟は「幇助」とされる行為から最長6年にわたって提訴できる。さらに、この法律は遡及責任まで認めている。つまり、たとえ「幇助」行為がその時点では適法であったとしても、後の判決によってルールが変更されれば、責任を問われるおそれがあるのだ。この2つが相まって、中絶に関する啓蒙を行ったり、ネット上で中絶の議論をしたりすることが、時限爆弾になってしまうのである。

この法律の法的構造と広大な適用範囲を考えれば、反チョイス(反中絶容認)トロール――つまり、リプロダクティブ・ライツを支持する多数の発言者を訴え、金をせしめようとする弁護士や賞金稼ぎたちが動き出すことは避けられないだろう。

残念なことに、誰かに犯罪を促したり、その方法を指南する言論が、憲法修正第1条で保護されない「幇助」に該当するかどうかは定かではない。この問題に関連する判例では、憲法修正第1条(言論の自由)に基づく弁護は事実に基づく分析が必要であり、これは極めて困難かつ高額になる可能性が高い。

その結果として、典型的な萎縮効果が生じる。SB8が奨励する“勝つ見込みのない(meritless)”訴訟でさえも弁護士を立てて争わなければならないとすれば、ほとんどの発言者は「そもそも発言しない」ようにするだろう。また、発言に対して訴訟を起こすぞと単に脅しをかけられただけでも、発言の削除を選ぶようにもなるだろう。裁判に負ければ多額の罰金が科せられ、たとえ勝つ見込みがあっても事実審理を争う負担を負うのであれば、多くの人は口をつぐむほうを選ばざるを得なくなる。

この法律には、「アメリカ合衆国憲法修正第14条の解釈によって州に適用されるアメリカ合衆国憲法修正第1条が保護する言論に責任を課すと解釈してはならない」という、意味のない条文が含まれている。聞こえの良い文言だが、実際に何かの保護を与えるものではない。テキサス州議会が許可するまでもなく、どんな場合でも憲法修正第1条の保護について提起しうるのである。この条項は執行に制限をかけるためのものではなく、むしろ法律そのものに対する異議申し立て――つまり憲法修正第1条に基づく違憲訴訟からこの法律を守るために盛り込まれたものといえる。言い換えれば、たとえ法律が違憲であったとしても(実際に違憲であるが)、違憲訴訟を起こした原告はそれぞれの修正第1条にの問題を提起しなくてはならず、さらに法外な負担(金銭的にもそれ以外の面でも)を負わされるように、この法律の起草者たちは仕向けているのである。

言論の自由の防波堤である合衆国法典第47編第230条(「第230条」)は、少なくとも多くの発言者が利用するオンライン仲介業者に一定の保護を与えている。230条は、ユーザの言論に起因する州法上の責任からオンライン仲介業者を免責し、オンラインプラットフォームなどのサービスが、ユーザの言論をホスティングしたことで訴訟を起こされないように保護しているのである。つまり、たとえば(訳注:中絶医療を提供するクリニックの)診療時間をネット上に公開したとして訴訟が起こされたとしても、それを投稿したユーザは裁判で争わなければならないが、その情報を共有するために利用されたプラットフォームに訴訟を起こすことはできない。このような保護がなければ、ほとんどのプラットフォームは訴訟をおそれて中絶に関する議論を事前に削除するようになるだろう。その結果、訴訟を起こされても構わないという覚悟を持った中絶擁護者であっても、弱腰のプラットフォームがその発言を検閲するようになり、発言自体ができなくなる。そうならないために230条は存在する。プラットフォームが法的責任から自社を守るために検閲に手を染めるリスクを軽減するとともに、ユーザが何を発言し、どのようなリスクを負うかを自分自身で決定できるようにしているのである。

だが、230条があったとしても、テキサス州の中絶禁止法はユーザに強力かつ危険な萎縮効果をもたらす。この法律は、中絶の権利を擁護し、基礎的な教育を提供し、生殖に関する自己決定を検討する人々に助言するための修正第1条の権利を含む、さまざまな基本的権利に対する攻撃である。我々は、この法律が引き起こす訴訟と、それに伴う萎縮効果を注視していく。もし、そのような検閲を経験された場合は、info@eff.orgまで連絡してほしい。

New Texas Abortion Law Likely to Unleash a Torrent of Lawsuits Against Online Education, Advocacy and Other Speech | Electronic Frontier Foundation

Author: David Greene, Cindy Cohn, Corynne McSherry, and Sophia Cope / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: September 2, 2021
Translation: heatwave_p2p
Materials of Header image: Gayatri Malhotra / DeepMind